触れたら火傷しそうな程の










仕事終わり、欠伸を噛み殺しながら荷物をまとめていた中丸の前に現れた上田は、当然のような顔でのたまった。

「中丸、銭湯行くよ」
「は?なんで?」

中丸は噛み殺した欠伸のせいで若干涙目になりつつ、目を瞬かせる。

「どうせ時間あるだろ?」
「や、あるにはあるけど・・・なんで銭湯?」
「裸の付き合いってやつ?」
「はい?・・・上田さん、どうしたの?大丈夫?」

そんな、『裸の付き合い』なんて単語までかっこつけて言わなくても、お前。
中丸は口から出かかった言葉をなんとなく飲み込みつつ、目の前の、綺麗と言えば綺麗だがやたらと鋭利な印象のある顔をまじまじと見る。
けれど基本的に口が悪く短気な上田は、中丸のそんな様子に若干苛立ったように目を眇める。

「何がだよ。文句あんの?」
「ていうかさ、展開が唐突すぎるっつーの」
「こないだも急に行ったじゃん」
「こないだ?・・・ああ、温泉ね」
「今日は銭湯」
「・・・や、いいけど、いいんだけどさ。理由がわかんねーんだけど」
「だから裸の付き合いだっつってんじゃん」
「お前そんなキャラじゃないじゃん」
「キャラとか関係あんのかよ」
「ていうかお前そういうの一番嫌がるじゃん、て思って」

別に上田が思っている程には嫌がっているわけではない。
むしろ行くこと自体は別にいいし、更に言うなら口で言う程に理由が気になっているわけでもない。
ただそれでも訊いてしまうのは相手が上田だからだろうか。
・・・なんて思うのも所詮は薄ぼんやり程度で、答えてくれなければもうそれはそれでいいかな、とも思い始めていた中丸だったのだが。

「お前さーマジむかつくから」

言葉程、その響きは不機嫌そうなわけでもない。
けれど言われた台詞はやはりどう考えても友好的なものには到底聞こえなくて。
これから銭湯に行こう、裸の付き合いをしよう、と仮にもそんなことを言っている人間の発言ではないだろう。

「は?なんで?いきなり堂々のむかつき発言?」
「むかつくんだよお前」
「うそ。あれ、なに?そんじゃ裸の付き合いとか言いつつ俺銭湯行ったらシメられたりすんの?もしかして」
「あ?シメて欲しいわけ?」
「んなわけねーだろ!ていうかお前が言うから」

一体こいつは何がしたいんだ。
中丸はさすがに顔を顰め首を傾げる。
別に銭湯に行くくらい別にいい。
裸の付き合いとやらをするのも別にいい。
だけどとりあえず、言いたいことをそんなところに潜ませて、言わなくても解れ、みたいなそんな無言の言葉を突きつけないで欲しい。
自分にそんなものを求めないで欲しい。

中丸が手持ちぶさた気味に鞄の紐を指でいじり始めているのを見て、上田はいったん目を伏せると深く溜息をついた。
どうしようもない、という感情がありありと表れているようなその仕草。
それに中丸はまた釈然としないものを感じずにはいられない。

だってそんな、それじゃまるで俺が悪いみたいじゃん。
・・・あれ、俺が悪いの?

上田は軽く腕を組んで目の前の中丸をその大きく鋭い瞳でじっと見据える。

「この前の温泉、お前言いふらしまくっただろ」
「えっ、・・・あー、そうー・・・だっけ?」

それは何もとぼけているわけでもなく、正直あまり記憶にない。
確かに何かの流れでその話題になったのであれば、言ったのかも知れないが。

「バカ西とか聖とかに散々言われた。上田と裸の付き合いしたって、あいつ超自慢してたぜー、って」
「あ〜・・・そっか。そうかー。言ったかもなぁ・・・」
「お前、マジ最悪」

吐き捨てるように言うのがどうにも気まずい。
もしもそれで怒ったのなら宥めるくらいいくらでもするけれど、そんなに怒るようなことだっただろうか。
中丸は眉を下げると小さく考えるように唸ってから、おずおずと口を開いた。

「えっと、うーん・・・ごめん、な?」
「・・・」

けれどそれには無言の一睨み。
・・・うわあ、マジ機嫌悪ぃよ。こんなんでこれから銭湯とかマジかよ。
中丸は正直この状況の打開がかなり困難な気になりつつはあったが、自分の行動でそうなったと言うならば、やはり謝るべきだろうと思って更に身振り手振りで宥めようと試みる。

「あのー、その、調子乗って言いふらしたのは悪かったって!つい話の流れでほら!」
「・・・流れ、ね」
「上田はそういうの嫌いだもんな?ほんっと悪かった!」

両手を合わせて若干大袈裟な調子で言ってみせる。
何も仲間を不機嫌にさせたいわけではないし、できれば友好的な関係を保っていたいし、それが上田ならやはり尚更だとも思うのだ。
だから理由はどうあれ、謝って済むならそうする。

「お前って、結構ひどい奴だよな」
「え・・・?」

けれど上田の口から漏れたのは、不機嫌気というよりか・・・もはや気落ちしたようにすら感じられる言葉だった。
先程と違って妙に落ち着いて響くそれだからこそ、逆にそこに秘められた強いものが感じられる気もして、中丸は内心ドキリとした。
そして中丸が何か感じ取ったことに気付いたのか、上田もまたその視線を更に強めて中丸を見据える。

「ほんとはそんなこと全然思ってないくせに」
「なに、が?」
「お前さー、他の奴には平気でそういう軽口叩くけど、ほんとは全然そんなこと思ってないだろ?」
「いや、そんなこと、ないって・・・」
「だってお前あの時だってさっさと帰りたがってたじゃん」
「そんなことないって!それは言い過ぎだろお前っ」
「・・・俺が引き留めなきゃ、あの後帰ってただろ?」

中丸は上田竜也という人間が好きだ。
こう見えて静かな熱さがあって、かっこつけだからそうは見せたがらないけれど本当は真面目で、そのくせ無邪気なところもある。
外見から女っぽい印象は持たれるけれど、そんなものは蹴倒す程に本当は男らしい。
そんな自分にはない様々なものを純粋にいいなと思うから。
でもそんな、中丸が半ば羨むそれらは時として鋭すぎて痛くもある。
咄嗟に言葉が出てこない。

「・・・・・・いや、」
「つまりはさ、その場だけ話が面白く盛り上がればそれでいいんだろ?ほんとは俺とのことなんてどうでもいいんだろ?」
「上田、それは、ちがうって・・・」
「違うって、言えんの?俺の目見て、言えんのかよ、中丸」
「・・・っ」

目の前にその顔が迫る。
自分より少し下にあるその顔が強くきつく気持ちを伝えてくる。
中丸は身体のどこかが痛んだ気がして、けれどどこが痛いのかよく判らなくて、だから今手で押さえるべき場所も判らなくて。
ただ手をぎゅっと握りしめると視線を落として呟いた。

「・・・そんなの、どう言えって、言うんだよ」
「別に普通に言えばいいじゃん」
「お前なー・・・」
「なにビビってんの?」
「ビビるビビらないの問題じゃないし」

そんで、いい加減顔が近いよ上田。
中丸は思わず顔を片手で覆ってどうしたものかと考える。
なんと言って宥めようか・・・ではなくて。
なんと言えば判って貰えるのかと考える。

判って貰う必要なんてない、とも。
心のどこかではやはり思うのだけれども。
それでもできるなら判って欲しいとも、確かに思う。
それはきっと、その瞳に自分を映して欲しいからだとも、本当は判っている。

「お前が何を守ってんのか、よくわかんないんだけどさ」

上田は仕方なさそうにもう一度溜息をつくと、中丸が自分の顔を覆った手を掴む。
見た目に似合わぬ強い力で無理矢理それを引き剥がす。
そこに顕れた顔は、予想外にじっと上田を見つめていた。
恐らくそこに滲み出ているのは、いつも中丸が「愛想」という名の他愛もない可愛げのある表情でコーティングしているものの裏側にある、もの。

けれど上田はそれを見て笑った。
それはなんだか妙に幼げな笑顔。
中丸は虚を突かれたように途端に目を瞬かせる。

「俺の前でなんか守ったり隠したり、そんなこと金輪際できないようにしてやるから、覚悟しとけばいいよ」

そう言って当然のように触れた唇に抗う間もなかった。
抗う気もなかった。
それは流されたのか、面倒だと思ったのか、それとも自分も望んだことだったのか。

中丸はさっきどこかが痛んだのと同じように、どこかが熱くなった気がして、けれどやはりそれがどこかは判らなくて。
ただ頭の奥では冷静にそんなことを考えていた。

「・・・そんで、銭湯、行くの?」
「やならいいけど」
「や、いいよ。行く」

頷いたら、もう一度唇が触れた。
やっぱりまた痛んで、熱くなった。

そして、そこで中丸はようやく気付いた。
自分の右手が無意識に左胸に当てられていたことを。










END






なんだか妙なタイミングで今更カツン小説をちゃんと書いてみました。ゆっち熱が!
いやでもやはりカツン難しいよ・・・キャラが濃いようで意外と掴みづらいよ・・・。
そして去年と比べて私の中のゆっちの印象が結構変わったというか。
あの子可愛いんだけど中身は意外と可愛くないかもしれない、という(笑)。
見た感じの仕草とか動作とか言動とかは可愛いんだけど、思考というか・・・思考の流れというか、妙に理屈っぽくて変なとこで可愛げがないというか。
そんなん妄想始めたらむしろそれ超萌えじゃ・・・!?となりました(おめでとうございます)。
あんな愛想良くてマスコットキャラ的ポジションなのに中身は一番ドライで大人だったりしたら萌えるよゆっちー!!という夢が抑えきれませんでした。
カツンの最年長は伊達じゃない。あの個性強すぎるメンバーから一目置かれてんのは伊達じゃない!
というわけでゆっち受けはあんま可愛くならなそうな気配・・・(あーあ)。
とりあえず上中がきてます。本命は上中のような気がしてきた!田中も好きだけど!
上田さんはあれで結構熱いものを内に秘めた男前だと思うのね。そしてゆっち大好きだよねと。
や、ゆっちだって上田大好きなんだけどさー!
肝心なとこでちゃんとそういう感情的なものを理解してないゆっち。
理屈で全て考えてしまっているゆっち。
しかしほんと今更カツンなのか自分。
(2006.7.30)






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