君をこの手に入れる方法
楽屋のソファーに身体を預けて一つ小さく欠伸をしたら、途端に瞼を重く感じた。
緩く目を瞬かせていると、向こうには赤西くんと聖と、あと中丸くんのはしゃぐような声が聞こえる。
そこには微かにカメの笑い声も混じってる。
きっと上田くんはまた一人我関せずと言った顔で音楽でも聞いてるんだろう。
だいたい俺らの楽屋はいつもこんな感じ。
たまには俺も赤西くんたちに混じったりもするけど。
今日はちょっと眠いからこのまま少し寝かせて貰おう。
背もたれに頭を載せて目を閉じるとすぐさま眠れそうな感じがした。
まぁ、時間になったら誰かしら起こしてくれるだろうし。
・・・ああでもなんだか少し寒いな。
何かかけるものでもあればいいのに。
でも今更起きて探すのもめんどくさい。
そのまま暫くもぞもぞと小さく身動いでいたら何か暖かいものがそうっと肩から被せられた。
思わずぼんやりと目を開けると、驚いたような瞳とかち合う。
元から妙に幼い印象のある顔立ちをしているんだけど、ぽかんと口を開けたその顔はいつにも増して幼く見えた。
ゆるりと目を擦ってそちらをぼんやり見る。
「あれ・・・」
「あー、あー、ごめん、・・・起こした?」
「ううん・・・」
「なんか寒そうかなーって思って、さ」
何故だか妙にばつ悪そうに、落ち着かない様子で身振り手振りを交えて。
まるでいたずらが見つかった子供みたいな彼。
何も謝ることなんてないのに。
それを宥めるように笑ってみせた。
「うん、ありがとう。ほんとにちょっと寒いなーって思ってたから」
「あ、そっか。そっか。やーそんならよかった!」
素直に礼を言えば、あははと少し大袈裟に笑いながら頷いてみせた。
かけてくれたものは彼が今日着てきた黒のジャケット。
ついさっきまで楽しそうに話していたはずなのに、当然のように眠たげな俺に気付いて。
そして当然のようにその匂いのする暖かな上着をかけてくれる。
生憎と俺の身体の大きさだと少しばかり裾が足りなくて、かからなかった部分は相変わらずちょっと寒いけど。
していることは年相応かそれ以上で、みんなのお兄さんそのもの。
みんな基本的に我が強くて素直じゃない奴ばかりだから、普段はからかったりすることが多いけれど。
本当は、こんな風に優しくて思いやりがあって、一緒にいてどこか安らぐような彼が大好きなんだよ。
・・・まぁ、やっぱり素直じゃないからね、そんなことを表に出そうとする奴はなかなかいないんだけど。
でも彼は自分をそうは思ってない。
そう思いたくないのかもしれない。
だから敢えてそういう風には見られないようにしたがる。
「いい加減さー、赤西と聖がマジうるせーの。ね、うるさいっしょ?あいつら」
「あー、うん、赤西くんはなんかその時によってすごいよね。最近はバイタリティある感じ」
「もーあいつにこれ以上バイタリティとかいらないから。ほんと鬱陶しいから。少しは落ち着けってハナシ」
そうやってうんざりしたように言いながら俺の隣に座る。
見ればそれに気付いたのか、赤西くんと聖がこちらに向かってふざけた調子で何か喚き立てている。
それをさも鬱陶しげに手で追い払うような仕草を見せつつ、中丸くんはさりげなく俺の方にぴたりと寄った。
「もーいいよその話は!そのネタおしまい!・・・てなわけで、いい加減嫌んなって聖に押しつけてきたわけ」
だからちょっとここに避難させてよ、なんて。
人懐こい笑顔を向けてきた。
ぴたりと寄った身体は暖かい。
彼のかけてくれた上着と、彼自身のその温もりとで、随分と暖かくなった。
「・・・いいの?ここで」
首を傾げて覗き込んでみた。
・・・でもほんとは知ってるよ。
子供っぽく見えて実は大人な君が、本当は子供のように誰かに甘えたいと思うことも、あるってこと。
まだ言わないけどね。
こちらは特に見ず、ソファーの背もたれに身体を預けて髪を所在なさ気にいじる指先に、妙に視線が惹きつけられる。
「んー、これなら寒くないっしょ?」
「中丸くんて意外と体温高いよね」
「あーじゃあ心が冷たいのかもなぁ。あ、それは手だっけ?まぁ似たようなもんか・・・」
「そうかも」
「・・・おーいそこは否定しとけよ田口くーんっ」
「いいよ、暖かいから」
小さく手を引いて、もっとくっついて。
身体をこちらに凭れかからせるようにしたら、驚いたような瞳と視線がかち合う。
その瞳はやはり妙に幼げだ。
目の造り自体は切れ長なのに何故かそう見えてしまうのは、それが彼だからなんだろう。
「もうちょっと寝ても大丈夫かな?」
「んー・・・たぶん、平気じゃね」
「ここにいてくれる?」
「え、俺?」
「うん」
「あー・・・と、まぁ、いいけど・・・」
「ありがと。中丸くんも一緒に寝ようね」
「・・・俺も?」
「うん。だってあったかいもん」
「いいけど、さ・・・変なやつだなぁ」
「変じゃないよ別に」
「いや、ていうか、・・・子供みたいな奴だなー」
「えー、でも中丸くんよりは大人だよ」
「あ、出たよ。田口最近ちょっと俺にきつくね?すげー傷つく」
「そういう意味じゃないよー」
でも今の君が求めるものがこういうものだって、俺は知ってるから。
大丈夫だよ。
俺は間違えない。
それはもしかしたらズルイと言われるかもしれないけど・・・そんなことを言ってたら、君はこの手に入らないから。
「じゃ、おやすみー」
「あーはいはい。時間が来たら容赦なく起こすかんな?」
「はーい」
そうしてそのまま目を閉じてる。
それから少しすると、ゆっくりと肩にかかる小さな重みを感じた。
暖かくも愛しい重み。
それを実感して、続く安らかな寝息を感じ取って、小さく笑む。
ああどうせならこのまま本当に一緒に眠って。
君が夢の中にまで出てきてくれればいい。
そうしたら思う存分、もういいよって言うくらい。
思い切り甘やかしてあげるのにな。
他の誰にもできない、俺にしかできない方法で。
END
(2006.8.13)
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