いつだって会いにいく










「時に五関くんは!」
「は?」
「今日がなんの日か知ってますか!」

突撃今日の五関くん!とばかりに河合は唐突にすっ飛んできて、隣にボフッと腰掛けるとわざわざ下から覗き込むようにそんなことを訊いてきた。
けれどそんなのは慣れたものなのか、五関は特に気にした様子もなくソファーに座ったまま携帯ゲームの画面に視線を戻して平然と言う。

「ああ、七夕だろ?」
「あっうそ知ってた!」
「七夕くらい知ってるけど」
「だって五関くんそういうの興味なさそうだから」
「興味のあるなしに関係なく知ってはいる」

河合の言う通り興味なんて特にないが、今日が何日かということを意識すれば自然と誰だってそういえば、と感じるくらいはするだろう。
ただ、じゃあ七夕だからといって何か特別に感じることがあるかといえばそんなことはないわけだが。
けれどそう言えば、わざわざそんなことを訊いてきたこのベタ大好きなバカは好きそうな行事だな、と五関はゲームに集中した意識の外でぼんやり思った。

「今日はさー天気いいから!会えるといいねー」
「織姫と彦星か」
「そう。だって一年に一度だよ?それで雨で会えないとかいったらめっちゃショックじゃん」
「そうだね」
「まー俺なら雨でも絶対会いに行くけど!むしろなにがなんでも会いに行ってやる!ってなるじゃん。燃えるじゃん!」
「一気に話が神話レベルから個人レベルだな」
「あっ呆れてる?」
「いやどうでもいい」
「うわー関心なさげー」
「お前ならやるだろうけど」
「うん。だって織姫と彦星は神様だからいいけど、俺は時間限られてるし」

ちょうどゲームがキリのいいところまで行ったから、五関はなんとなく隣を見た。
恐らくキリのいいところでなかったとしても同じだっただろうけれど。
河合はソファーの上で膝を抱えた体勢でどこかぼんやりしている。

「うん、俺はあと何回会えるかわかんないし。会える時に絶対会っとかないと!」
「なにそれ」
「だから、雨だからーなんて言ってらんないよねー」

あは、なんて笑って軽い調子で言うけれど。
五関にはその言葉を流すことなんてできなかった。

その言葉は確かに現実を考えてみれば、そうだと頷けるものかもしれない。
けれどそれを河合が言うことに問題がある。
いつだって、いつまでだって、ずっと一緒にいたい、と。
いつもほとんどの理性が失われているあのシーツの上で、そんなことをうわごとのように漏らすくせに。
それなのに、そんなことを言うのか。

五関は永遠なんて信じてはいない。
けれどそれでも思ってしまうのだ。
河合には、信じていて欲しいと。
遠くないかもしれない、遠いかもしれない、どちらにしろどこかの未来でいずれ来ると諦めたような、そんな言葉を吐いて欲しくないと。

「まぁ・・・俺も行くかな」
「なに?」
「雨でもさ」
「あ、五関くんも雨でも行っちゃう派?」
「行っちゃう派」
「やだなー五関くんが言うとなんかかっこいいなー」
「だからお前は待ってろよ」
「は?なにそれ?」
「行き違いになったら困るし」
「あ、そういうこと。ていうか五関くんこそ話個人レベルにしてるじゃん!」
「河合のくせにどうでもいいとこ気付かなくていいよ」
「なにそれ失礼だよ」
「今更」
「失礼なのが今更なんだ・・・」
「俺のこと待ってられない?」
「や、待つよ!待つ待つ!・・・ていうかー、それじゃ五関くんが彦星だね!」
「寒いな。しかもお前が織姫ってのが相当笑えるけど」
「ほんとにねー!」

あはは!と無駄に大きな声で笑っては、河合は腰掛けた五関の膝の上になんだかご機嫌でごろんと身体ごと載っかってくる。
咄嗟に手にしていた携帯ゲームを胸の辺りまで上げて、五関はその唐突なアタックによるゲーム機へのダメージを回避した。
呆れたように見下ろせばなんだか妙に眩しそうな、まるで太陽を見上げるように目を細めた笑顔とかち合う。

「あー五関くんやっぱ好きだなー」
「はいはい、どうも」
「チューしたーい」
「ゲーム終わったらな」
「はーい」

膝の上でごろごろと転がる河合をチラリと視線だけで見下ろして、五関は気付かれないように笑った。










END






七夕五河。
一応書いたのは当日なんですけど、アップが当日じゃなきゃ意味がないよっていう(笑)。
明るく楽天家で何も考えてないように見えて、その実現実をわかってて意外と心の奥底にどこか諦めがあるような感じの河合郁人を常に夢見ています(嫌な夢)。
現実をわかっているからこそ、逆に夢みたいなことを望んでみたりするという。
でもそんなあの子を五関さんはどうしようもないと思いつつ愛しく思ってもいて、せめてあの子がそれでも望むものをできるだけ叶えてあげようとしてるといい・・・!
(2006.7.12)






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