ベイビードロップ
「お前もう絶交」
久々に会うなり据わった目でそう言い放たれた。
千賀は一瞬何を言われたのか判らず大きな目をきょとんとさせてから、ワンテンポ遅れて更に大きく見開いた。
「え・・・ええっ!?」
「マジ絶交」
「ぜ、絶交って、にか・・・」
『絶交』
その言葉の意味は千賀とて判る。
判るけれども、何故いきなりそんなことを言われなければならないのかさっぱり判らなくて、口をパクパクと開けたり閉じたりさせながら目の前の不機嫌そうな顔を凝視する。
自分はタッキー&翼のコンサート、そして二階堂はNEWSの復帰コンサートで、お互い会うのはそれなりに久々だというのに一体何があったというのか。
切れ長のつり上がった目がいつも以上にきつい色を帯びているのに、千賀はひたすらに狼狽える。
「なんでいきなり、そんな・・・・・・え、なに?なんで・・・?」
「そっちこそなんでだよ。ひどくねぇ?」
「ひどいって・・・」
不機嫌な上にどこか拗ねた様子すら垣間見えるその表情に、千賀は自分が何かしただろうかと必死に思考を巡らせて考える。
しかし何かするも何も、会ってすらいなかったのだから、その酷いことをする暇すらなかったと思うのだけれども。
「もーマジお前最悪だよ。さ・い・あ・く!」
そう言って薄い唇を尖らせて眉をつり上げる様。
ふいっと顔を逸らした瞬間、サラリと黒髪が舞うのが見える。
会ってない内にまた伸びたようだ。
色もまた更に深い黒になった気がする。
目元に少しかかるくらいのそれが艶めいていて綺麗だなと思った。
「二階堂、ちょっと髪伸びたね・・・。きれー」
「ああ・・・うん、切ろうかとも思ったんだけどさ、伸ばした方がいいって言われて・・・」
「うん。その方が綺麗だし格好いい」
「そ、そう?そっか・・・・・・ってちげーよ!お前違うだろ!」
「えっ?あれ?」
「ばかやろー!俺は怒ってんの!お前な、わかってんの!?」
「あっ、あー、あー、うん、ごめん、ごめんっ・・・!」
千賀にふにゃりと笑顔で言われて一瞬照れたような顔を見せたのも束の間、二階堂はハッとして再び眉をつり上げると千賀を睨み付けるように喚く。
そう言われて反射的に頷き、再び千賀は考え始めた。
小さくうなり声を上げながらその原因を探る。
「ううううん〜〜・・・・・・えー、と・・・なんで怒ってんの?」
「結局わかんないのかよ・・・」
「うん・・・ていうか、言ってもらわなきゃわかるわけないじゃん・・・」
「わかれよ!お前、俺が頼んだソフトなのに・・・」
「え?ソフト・・・?」
「俺が頼んだあのソフト!お前、ごっちにあげちゃったんだろっ!」
「あ・・・」
言われてようやく思い至る。
タッキー&翼のコンサート遠征中、二階堂のために買い置きしておいた例の人気ソフトを、千賀は五関にねだられてあげてしまったのだ。
勿論代金は貰ったけれども。
そもそもは筋金入りのゲーマーとして名高い五関がまだ買っていないというのを聞いて、隣にいた千賀がうっかり「うちにもう一つありますよ」と言ってしまったことが発端だった。
それは今言われたように元々二階堂のために買っておいたものではあったけれども、買ったゲーム屋には確か幸いにもまだ在庫は十分あると聞いていたし、帰ったらすぐまたもう一個買えばいいと思っていた。
「いや、だって、五関くんには色々お世話になってるし・・・」
そう、同じグループでもないのに、五関にはよくご飯を奢ってもらったり、遊びに連れていってもらったりと色々可愛がってもらっているのだ。
だからせめて少しでもその恩返しができれば、と千賀としてはその程度のつもりだったのだけれども。
二階堂はそれに眉根をギュッと寄せてつまらなそうに低く呟く。
「・・・ふぅん。俺よりごっちなんだ」
「ち、違うって!なんでそうなんの!」
「だってそうじゃん。俺楽しみにしてたのに。お前がメールで買っといたからって連絡くれて、めちゃくちゃ楽しみにしてたのに」
不機嫌そうな声音。
それ以上になんだか落ち込んだような声音。
まさかそんな風に言われるとは思わなかった。
というよりか、帰ってきて速攻でそれが伝わっているのはどういうことなのか。
そんなことを思いながらも、千賀は目の前の二階堂の伏し目がちになった切れ長の瞳をじっと見つめていた。
なんだかちょっと見ていない内にまた顔立ちがシャープになったような気がする。
背も伸びたかもしれない。
今日着ているぴったりとした黒のハイネックのせいで、全体的に細身の身体が更に強調されているような気がする。
それは今のサラサラした黒髪ときつい顔立ちとも相まって鋭い美しさを感じた。
ただ七分袖から伸びた腕を見ると、少し細すぎるような気もする。
「・・・二階堂、また痩せた?」
「え・・・や、そうかな?体重はあんま変わってないと思うけどな・・・」
「じゃあ背が伸びたからかな」
「あ、うん。そうそう、背伸びたんだよ!でもさー、みやっちも玉森もまた伸びやがってさー。
特に玉森とかなんであんなニョキニョキ・・・・・・って、だから、違うだろ・・・」
またしてもいつの間にか話が逸れている。
二階堂は今度は溜息をついた。
うっかり乗ってしまう自分も自分だとは思うが、どうして自分がこんなにも腹を立てているというのに、こいつは平然と話を違う方に持って行けるのだろう、ともはや不思議にすら思う。
もしかして自分の怒りなどどうでもいいのだろうかと思うとまたしても腹が立ってくる。
更に眉をつり上げて口を開いたところで、けれどその顔を見て、思わず言い損ねてしまった。
千賀が自分をじっと見てなんとも言えず嬉しそうな、無邪気な笑顔を浮かべていたからだ。
「なん、・・・なんだよ、なに笑ってんの、お前きもちわる・・・」
「あー、うん、ごめん〜・・・」
「なに。・・・もう、お前むかつくなぁ。俺むかついてんのにさぁ」
「うん・・・ソフト、ごめんね?」
「それを先に言えよな!」
「うん・・・なんか、久々だったから、会ったら飛んじゃったんだよ」
「飛んじゃったって・・・」
「顔見たら、やっぱ二階堂と踊りたいなって、思って」
少し困ったように眉を下げながら笑う。
また話が飛んでるし、お前。
今ダンスの話とか一言もしてなかっただろ。
二階堂はそんなことを思ったけれど、口にはできなかった。
それは自分だって思っていたことだからだ。
いつだって隣で一緒に踊ってきた、その相方がいないことが、この短い間でさえ一体どれだけ寂しかったか。
それを思い知ったのは何も千賀だけではないのだ。
「・・・ったく!お前、そんなんでタキツコンちゃんとやれてんの?どうせA.B.C.のみんなに迷惑かけてんだろー」
「え、そんなことないよ。お前失礼だなー・・・。そりゃ面倒は見てもらってるけど、頑張ってるって!」
「でも、衣装が合わなかったんだって?」
「へ?」
「いっこ、JJが普段着てる衣装がさ、前留まんなかったんだってー?」
「え、だ、誰に訊いたのそれっ」
「ふーみーとー」
「もーーー河合くん言わないでって言ったのにーー!!」
「ちなみに、お前が俺のソフトごっちにあげちゃったって教えてくれたのも、郁人」
「もーーー!!」
「郁人もさ、俺だけ仲間はずれにされたーって言ってたもん」
「でもそれは別に俺のせいじゃないのに〜・・・」
眉を下げて軽く肩を落とす千賀の様子を見て、二階堂はこれでもかと楽しげに目を細めて笑うと、その細い腕を相手の肩にギュッと回して顔を寄せた。
途端、存外しっかりした相手の肩が大袈裟に反応したのが判る。
それにクスクスと笑いながらその肩に顔を埋めてみせる。
「・・・ああ、確かにちょっとまた肉ついたんじゃね?」
「・・・もう、いいじゃん、ていうかお前こそもうちょっと肉つけなよ。細すぎだよ」
「あー、俺らお互い分け合えればいいのに」
「確かに・・・」
さっきの不機嫌気な様子はどこへ行ったのか、二階堂は笑いながら自分にくっついてくる。
千賀は軽く首を傾げながらその顔を覗き込むようにして呟いた。
「・・・にか、機嫌、なおったの?」
寄せられていた顔が上がり、黒髪がサラリと頬に当たる感触。
うっすらと細められて笑うきつい目。
「これから買いにいくの、つきあってくれる?」
顔つきは確かによりシャープになったけれど、それでも邪気のないその子供みたいな笑顔。
千賀はそれを見て、ああ、と今更にまた思考をずらして思い出す。
まだ、ただいまって、言ってなかった。
END
例のごっち連載を元にした千ニカ。
超大人気ないごっちはもちろんのこと、ニカちゃんのためのソフトあげるなよ健永!っていうとこから生まれました(笑)。
ニカちゃんかわいそうだよ絶対拗ねるよアレ!ということでね。
いやでも千ニカってほんと二人して可愛くていいよね・・・なんつー癒される子供カップルなんだ・・・。
どっちも素直でいいよな〜。ニカちゃんも小生意気だけど素直だと思うし。健永は天然だし。
ただうちの千ニカの健永って、二階堂に対しては基本常に妄想モードだからちょっとおかしいです(…)。
だから意外と意思疎通できてない千ニカ。
すぐに二階堂妄想モードに突入してしまう千賀健永ですどうぞよろしく(いやだ)。
(2007.3.25)
BACK