BAD COMMUNICATION
藤ヶ谷はキレると凄い。
というのは、実は親しい仲間内ならそれなりに知られていることだった。
「ふざけんな。死ねお前」
低く押さえ込まれたその声に、五関と河合は何事かとそちらを振り返る。
今出てきたばかりのショップの袋をお互い開けながら、ああでもないこうでもないと言い合っていたから、数分遅れて出てきたもう一組のカップルのことをうっかり忘れていたのだけれども。
見れば藤ヶ谷はその細い両腕を組んで目を眇め、自分と同じくらいの長身に向かって吐き捨てるように言った。
「こんなとこまで来てなんなんだよ。やんならせめて俺のいないとこでやれっての!」
藤ヶ谷は普段は人懐こくて、本来整った顔をはにかませる笑顔が可愛らしくて、その長身の割になんだか小動物めいた雰囲気がある。
けれど実は相当口の悪いところがあって、それは主にキレると表に出る。
普段の様子からするとそれは豹変と言ってもよくて、そんな様を垣間見る度、五関と河合は「AB型って怖いな」などと世のAB型の人に失礼なことを思うのだった。
そしてどうやら今は、何やら横尾に対して随分と腹を立てているようだ。
「・・・」
しかしそんな怒りを全開でぶつけられている当の横尾はと言うと、言われたい放題の状態にさすがにむかついているのだろう、きつく眉根を寄せて藤ヶ谷を睨むように見ている。
けれどむっつりと黙り込んだまま一言も言い返すことはない。
横尾とて温厚な方では決してないし、むしろ藤ヶ谷よりずっと短気だから、普段なら存分に言い返すところだ。
言われっぱなしなど横尾の性分ではない。
そしてむしろ剣幕で言えば横尾の方がもっと酷いのだ。
だから主に藤ヶ谷と横尾の喧嘩というのは凄まじいことになるのが常で、それに遭遇する度に、基本が平和主義の五関と河合は辟易するのだけれども。
「おい、なんか言うことないわけ?だんまりかよ」
「・・・」
「黙ってないでなんとか言えよ!」
依然としてむっつりと黙したままの横尾に対して、藤ヶ谷は更に怒りを増幅させたのか、今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
そこへ来てさすがに五関と河合も藤ヶ谷の両側で止めに入る。
「ちょ、ちょっ、藤ヶ谷ストップ!」
「ほら、落ち着きなよ。外なんだから」
「そうそう、いったいどうしたんだよー?」
二人が両側から見上げてくるのに、藤ヶ谷は一瞬ぐっと口を噤んでから、軽く視線を落としてぼそぼそと呟く。
「・・・だって、こいつ、むかつく」
「なにがむかついたの?」
「さっき、店出る時、女ナンパした」
「は?・・・マジで?」
自分達が先に出ていたほんの5分程度の間にそんなことが起きていたとは。
五関と河合は驚いた様子で自然と同時に横尾を見る。
それが本当ならば確かに最悪なことこの上ないだろうとは思う。
確かに、冗談でやるにしろ、何も恋人である藤ヶ谷と一緒の時にやるなという話だろう。
しかし当の横尾は、二人のそんな無言の「最悪」という視線にはさすがに堪えかねたのか、観念した様子で深くため息をついた。
「・・・ちげーんだって、それは」
しかしその言葉は、藤ヶ谷にとってみれば言い訳にしか聞こえなかったようで、再び食って掛かる。
「なにがちげーんだよ!なんもちがわねーよ!」
「・・・そろそろ黙れよお前」
「だまんねーよ!」
「いいから聞け!!」
ついには横尾まで声を荒げるものだから、仕方なしに河合は藤ヶ谷の腕を組むように押さえ、五関は横尾の肩をポンポンと叩く。
「はいはいはい、たいぴー落ち着いてー。とりあえず一緒に話聞こー?」
「横尾も。お前まで怒鳴ってどうすんの。落ち着け」
藤ヶ谷はそこで小さく息を吐いてこくんと頷く。
それを見てとって、横尾もまた再び口を開いた。
「ナンパってわけじゃなくて。マジで。・・・ネックレス、してたんだよ」
「は?ネックレス?」
「藤ヶ谷がこないだなくしたネックレス」
「あー、そういやあったね。気に入ってたやつだからって、藤ヶ谷すっげーへこんでたもんな」
「しかも同じやつがどこ探しても見つからなかったんだっけ」
五関と河合もそのことはよく憶えていて、思い返すように頷く。
それは藤ヶ谷が昔から大事にしていて、何か大事な仕事がある度に肌身離さず身につけていた、言ってしまえば藤ヶ谷にとっては験担ぎのような意味のあるネックレスだった。
それをなくしてしまって藤ヶ谷は暫く酷く落ち込んでいたもので、慰めてやろうと横尾と五関と河合の三人で色々遊びにも連れ出してやったものだ。
「・・・それと同じの、してたんだよ、その子が。だから売ってるとこ訊いた」
そんだけ、なんて。
ぼそりとどこかばつ悪げに呟くと、横尾はそれきり黙ってしまった。
五関と河合は互いに顔を見合わせて、納得したように頷きあう。
確かに横尾らしいと言えばらしい行動だ。
ただどうにも言葉足らずというか、最初からそう言っていれば藤ヶ谷がここまで怒り狂うこともなかっただろうとは思うのだけれども。
「・・・」
それに藤ヶ谷は見るも複雑そうな顔をして横尾に歩み寄ると、その手に拳を作って横尾の胸を不意にドンと強く叩いた。
一度では足りなかったのか、更にもう一度叩く。
「な、なんだよ」
その意味を計りかねてか、横尾は目を瞬かせている。
それに藤ヶ谷はなおも不満そうに胸を叩いた。
「お前、その調子だと気づいてないんだろうけど」
「は?」
「あの、声かけてた女の子、絶対お前に惚れたから」
「はぁ・・・?や、それはねーだろ。店訊いただけだし」
「あるから言ってんだよ!あーやっぱふざけんなお前!」
「おい、なんでそこまで言われなきゃなんねーんだよ!お前のためにやってやったんだぞ!」
「頼んでないし!そんなの!」
「あーそうかよ!気ぃ使って損した!」
恋人がなくした大事なネックレスと同じものをしている女性だったからこそ、声をかけてわざわざ店を訊いたんだと。
普通ならそんな事実が判明した時点で喧嘩は丸く収まると思うのだけれども、そこがそういかないのがこの二人だ。
というよりか、一度本気でキレてしまった藤ヶ谷の意地の張りようは半端ではない。
内心ではどうせ感動しているだろうに。
五関と河合は二人に挟まれるようにして、もはや諦めた様子で呆れた混じりのため息をついた。
「・・・ねー、もうほっといてご飯いこー」
「うん。どうせその内くるだろ」
ただでさえ普段から人目を惹く長身モデルカップルの派手過ぎる喧嘩は、もはやそこら中で目立ちに目立っているのだから。
五関と河合は頷き合うと、二人を放置してさっさと歩き出すのだった。
END
233国勢調査番外編リク第二弾。
「仲良し四人組で、五河+横藤」というリク。でも五河はおまけ状態に。
しかしなんだこれ・・・。
まったくもって内容がない上になんかアレですよねアレ。
初横藤だっていうのにガンギレ藤ヶ谷とかなんかありえんやろっていう。
まぁ横藤はこれからこそこそ開拓していきたい感じであります。
私的に横藤は例のケンカエピソードの印象が強いんだな、きっと。
もーどんどんケンカしろと(ちょ)。
でも横藤のケンカはきっと北藤のケンカと違って引きずらない、みたいな印象。
北藤は逆にありえんくらい引きずりそう。一回のケンカで毎回別れ話の危機になりそう(ひでえ)。
ついでに言うと、横藤は対等関係に見せかけて横尾さんお兄ちゃんで、北藤は北山兄貴ぶってるように見せかけて実は対等くらいかもしれないと思う今日この頃。
しかし太輔の印象は当初と比べるとだいぶ変わったなー(笑)。
あの子意外とクールだし意外と口悪いし意外と気が強いよね。そしてAB型のBガタン(笑)。
まぁ可愛いことに変わりはないけどな!受けに変わりはないけどな!むしろ萌えだけどな!
(2007.10.14)
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