バランス 前編
河合が横尾の家に遊びにきたのは、実は少し久しぶりのことだった。
部屋のテレビの前に二人して座り、ひたすらに画面を凝視して手元のコントローラーを忙しなく動かしながらやっているのは格闘ゲームの対戦だ。
お互い得意なキャラを操っての勝負は今のところ2勝2敗の互角、この5戦目が終了した時点で罰ゲームがどちらになるかが決まる。
とは言え、所詮負けた方が家を出てすぐのコンビニまで夜食を買いに行くというだけの話しなのだが。
真剣に画面を凝視してコントローラーを握りながら、それでも無言ということもなく、むしろ画面向こうの真剣勝負とは裏腹になんでもない言葉が飛び交う。
その話題の発端は、やたらとコントローラーに力を込めてボタンを連打している河合だった。
「そういやこないださー、彼女とディズニーランド行ったの」
「へー。あ、こないだのオフ?週末?」
「そー」
「うわー混んでそ」
「そりゃあもう、殺人的だったね!・・・あっ、やべ、やべ、食らう、」
「よーっし捕まえた!・・・だろうなぁ。しかも今って確か、なんだっけ、クリスマス前の・・・なんかやってなかった?」
「そうそう、シンデレラ城スペシャルみたいやつ。夜とかライトアップすげーの」
「あ、それそれ。マジでカップルばっかだったって誰かが言ってた・・・おしっ、あと一発」
「ちょっ、それずりー!・・・そー、なんかどこもかしこもラブラブだった!」
「つーかお前もだろ」
「おれー?」
「お前だって彼女と行ったんだから、その内の一人っつーか、一組だろ?」
「あー、そういうことか。・・・うん、そうそう・・・・・・あっ、死んだ」
「おーし、リーチきた。あと一回勝てば河合くん罰ゲーム〜」
「てか横尾ずるいって、あのコンボずるいって!封印しろって」
「ぜんぜんずるくねーから」
5戦目の第一ラウンドは、横尾の操作するキャラの華麗な連続技によって勝敗が決まったようだ。
後半怒涛の勢いで一気にゲージを削られて為す術もなかった河合は、軽く唇を尖らせて眉根を寄せながら画面を凝視している。
次の第二ラウンドで取られれば5戦目も負けになってしまう。
つまりこの寒い中コンビニに行かなければならないわけで。
たいした罰ゲームではないが、地味に面倒だ。
「しっかし、お前も結構頑張ってるよな」
なんだかしみじみと呟かれたそんな言葉に、河合は軽く汗ばんだコントローラーを軽く放して隣を見る。
「なにそれ勝者の余裕?次見てろよー」
「じゃなくて。彼女」
「は?」
「結構忙しくてもさ、デートとかマメに行ってんじゃん、って」
「あー・・・うん、まぁ、そうかな」
「混む週末にわざわざディズニーランドって相当だろ」
「だってさ、シンデレラ城がライトアップされてる間に行きたいって前から言ってたから」
「優しい彼氏じゃん」
そう言って横尾は軽くからかうようにからりと笑う。
一方の河合は、何故かなんとなく気まずそうに視線を再び画面に戻す。
数ヶ月前から河合は今の彼女と付き合っていた。
一つ年上だったが、少し童顔で割と可愛らしい雰囲気の女性。
ただ顔立ちや雰囲気とは裏腹に気は強くて、物言いもはっきりしていて、何度か顔を合わせたことのある横尾はなんとなくあまり得意ではないかもしれないとも思った。
そして正直周りから見て河合の好みとは少しずれているような印象もあった。
けれど存外に二人は上手くいっているようで、河合いわく「結構あまえんぼなんだよ」という彼女の求める週一デートも、忙しい仕事の合間を見つけてはちゃんと行っているようだった。
そこら辺、河合の真面目さとマメさによるところが大きいのかもしれないと横尾などは思っていた。
一見するとその容姿や言動のせいで軽そうに見える河合だが、親しくなってみればそうではないことなんてすぐにわかる。
一度心を開いた相手には愛情を惜しまない河合と一緒にいるのはとても居心地がいい。
それはたとえ恋人ではなくても感じることで、親友である横尾とてそうだった。
「・・・さー、次こそ勝つぞー。勝ってファイナルラウンド!」
第二ラウンドが始まると、河合は軽く身を乗り出しがちに真剣な表情で瞬き一つせず画面を凝視する。
横尾も意識を画面の方にやると、いかに自分のキャラが得意な展開に持っていけるか考えながら指を動かす。
しかし第一ラウンドの展開から河合も警戒しているらしく、なかなか横尾のキャラの射程範囲に入ってこない。
リーチで言うと河合のキャラの方があるから、慎重に外側から窺うように来られると少し厄介だ。
操るキャラが繰り出した連続技を上手いことかわされて、横尾が無意識に軽く舌打ちすると、隣から何気なく声がした。
「なー、よこー」
「んー?・・・あ、おい、飛び道具ばっか使うなよ」
「お前さ、彼女どう思うー?」
「あ?彼女って?お前の?」
「そー」
「どうってなんだよ」
「どう思うかってー」
「・・・別に。普通に可愛いんじゃね?ちょっと気ぃ強いなとは思うけどな。・・・おっし、きたきた!」
「そっかー・・・可愛いって思うかぁ・・・」
「・・・なんだよ。もしかしてノロケ?それともヤキモチとかか?」
「や、そういうわけじゃー、ないけど・・・」
若干不利だった形勢が逆転しかけているから集中したいのに、河合がぼんやりとどこか気の抜けたような声を断続的に向けてくるから集中しきれない。
しかもその意図を計りかねるような曖昧な言葉。
「そうだろ?俺の彼女ほんと可愛いだろ?」か、もしくは「可愛いからって手ぇ出すなよ」か。
どちらにしろめんどくさいだけの言葉だ。
親友の彼女の感想など、当の親友から求められても反応に困るだけだ。
横尾は努めて意識を画面の方にやりながら、その節張った指先でボタンを連打する。
互いのキャラの体力ゲージも同じくらいの量しか残っていない。
次に技が決まった方が勝つだろう。
河合のキャラの間合いを確認しながら、横尾が次に繰り出す技を考えていると、再び隣から声がした。
「・・・じゃあさ、付き合ってみる?」
相手のキャラが遠距離から技を放ったから、それを避けることに集中していて、その言葉の意味はよくわからなかった。
「はぁ?・・・っつーかお前、いい加減遠距離技ばっかとかせこいだろ、それ」
技の威力はあるがリーチの短い横尾のキャラは、河合のキャラが連続して放つ遠距離技に阻まれてなかなか近づけないでいる。
けれどそんな横尾の軽い文句にも、河合は特に答えるでもなく画面を凝視してボタンを連打しながら、なおも問いかけてくる。
「付き合ってみる?どう?」
「だからなんだよ、それ。お前の彼女だろ?ラブラブなのは知ってるって」
今の忙しい舞台稽古の合間を縫って混雑する週末のテーマパークに彼女を連れていってやるくらいなのだ、そんなあてつけじみたことを言われなくてもわかる。
それこそ、こうして二人で遊ぶのが久しぶりなくらいに。
横尾はなんとなくその言葉を少し鬱陶しく感じつつ、コントローラーを握る手に力をこめた。
けれど次の瞬間聞こえた言葉に、思わずその指がピタリと止まる。
「もう、別れた。横尾のこと好きになっちゃったんだってさ」
「・・・え?おい、それって・・・・・・あっ、くそ・・・」
思わずそちらを向いた瞬間、横尾のキャラは河合のキャラが放った技をモロに食らってしまった。
画面には河合のキャラが勝ちポーズをとっている姿が映し出されている。
これで勝負は最終ラウンドに持ち越しだ。
今のアレを避けていれば・・・と、横尾は一瞬意識を逸らしてしまったことを軽く後悔した。
だがそんなことよりも、その瞬間聞いた言葉はそれ以上に聞き捨てならないもので、コントローラーを未だ握ったまま河合の横顔をじっと窺うように見た。
「今の・・・冗談だろ?」
俺の気を逸らすために言っただけだろ。
横尾はそう続けようとしたけれど、何故かこちらを見ず、未だ画面上をじっと見ているその顔はいつの間にか笑っていなかった。
高く通った鼻筋と長い睫が強調されるその横顔。
ゆるりと一度瞳の瞬く様が、妙なスローモーションに見えた。
「ほんと。・・・何度か会ったことあるじゃん?それで。」
「それで、って・・・。おまえ、会ったことあるって言ったって、ほんとちょっとだし、ほとんど話してもいねーだろ」
「さぁねー、一目惚れなのかも」
どこかおかしそうな口調でそう言うけれど、既に声が笑っていない。
ましてや表情なんて。
いや、もしかしたら笑おうとしているのかもしれないけれど、そんな頬が引きつりそうな無理矢理なそれなんて、横尾にとっては笑顔になど見えるわけもない。
「背が高くて、格好よくて、ちょっとワイルドな感じして、ちょっと強引な感じで引っ張っていってくれそう、だってさ。俺とはぜんぜん違うんだって」
「なんだよそれ・・・。あの女、マジでそんなこと言ったのかよ・・・。お前に?マジで?」
「あの女とか言うなよ」
「マジなのかって訊いてんだよ」
「そうだって言ってるだろ」
固い声。
強張った表情。
横尾は沸々と湧きあがる感情に眩暈がしそうだった。
あまりの怒りに、握ったままだったコントローラーが軋むような音を立てるのがわかる。
信じられなかった。
そんな信じられない程に残酷なことを、あの女は自分の親友にしたのだと、そう思うと怒りが抑えられそうになかった。
そもそも声をかけてきたのは向こうからだったと聞いている。
彼女は河合行きつけのショップの店員で、河合が来る度に毎回熱心に接客していたらしい。
それこそあからさまに贔屓だとわかるくらいの勢いで。
河合も河合でストレートな好意には弱いから、セールストークに応える以外に話すことも増えていって、徐々にその気になっていったというのが成り行きだった。
そうして付き合うようになってから、それこそ忙しい中でできるだけ時間を見つけては会うようにしている姿は、楽しそうにも見えたものだ。
その一方で友達と遊ぶ時間というのは当然減って、周りの親しい仲間達には「やっぱ友達より恋人か」なんて冗談交じりで冷やかす奴もいた。
それでも皆河合が彼女と上手くいっているのだと信じて疑っていなかった。
横尾とてそうだった。
だからこそ、そろそろ自分も彼女を作ろうかなんて、そんなことさえ考え始めていたというのに。
それをあろうことか一番最悪な形で、あの女は裏切ったのだ。
恋人の親友を、なんて。
それを当の恋人に向かって言葉にするなんて。
自分が最初に声をかけてきたくせに。
河合の心を奪ったくせに。
そんな手のひらを返すようなことを、よくも。
「マジ、許せねぇ・・・」
唸るように低く漏らした横尾の言葉に、河合はそれでも横顔を向けたままだ。
ただその瞳がうっすらと細められて小さく息を吐き出した。
「・・・で、どーする?付き合ってみる?」
「どういう、意味だよ・・・」
しかし横尾は怒りと同時、そんな河合の言動が読めなくてなんとなく不安を覚えた。
きつく眉根を寄せたままその横顔を凝視する。
彼女がずっと行きたがっていた場所に忙しい中のオフ日に連れていってやって、そこでそんなことを言われて、あっけなく別れて、ショックでないはずがないのに。
思う以上に傷つきやすい河合だから、落ち込むどころの騒ぎではなかったはずだ。
しかも自分の親友に惚れられて、なんて。
けれど今の河合からはそう言ったものは感じられなかった。
ただ妙に淡々と、それはそうしようと努めているだけなのかもしれないが、まるで読めない表情で横尾に何か言葉を迫っている。
横尾からしてみれば、よりにもよって親友をそんな手酷い方法で裏切った女など、願い下げに決まっている。
むしろ一度会ってひっぱたいてやりたいくらいだ。
横尾がそう言うであろうことなどわかっているはずなのに、敢えてそんなことを言う河合は、いったい横尾にどんな言葉を求めているのだろう。
横尾にはそれがわからなくて、コントローラーを床に置くと身体ごとそちらに向き直る。
それでも河合はこちらを見ない。
「・・・それで俺に、付き合えってこと?」
「そんなこと言ってないよ。そんなの強制するようなことじゃないし」
「じゃあ、なんだよ」
「お前はどうなのかなって思っただけ」
「どうもこうもねーよ。何が言いたいんだよ」
まるで射抜くようにじっと見つめても、その横顔はこちらを見ない。
横尾の中で既に怒りよりも不安と苛立ちの方が勝っていた。
もしかしたら河合は、既に自分を裏切った彼女に対する感情よりも、彼女の心を奪った自分の方に対する感情の方が大きくなっているのではないか。
どう考えても横尾にはまるで非などないし、まさか逆恨みするような人間でもない。
けれど所詮理性と感情は別物で、今の河合は少なからず自分に対して怒りのような、それと似たような、そんな負の感情を抱いているのではないか、横尾はそんな風に思ってどうしようもなく苦しくなった。
「河合・・・」
「ん・・・?」
「俺に言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。なんでも聞くから」
「なんでも、かぁ・・・」
ぼんやりと呟いて緩く目を伏せる横顔に、なんだか胸が締め付けられるのは、気のせいじゃない。
横尾は苦しかった。
なんでこんなことになってしまったんだろうと、そう思わずにはいられなかった。
このままでは、もしかしたら自分は河合の親友の地位まで失ってしまうのではないかと思うと、苦しくて仕方がなかった。
せめて親友でさえいられれば、我慢できると思っていたのに。
隠し通せる気持ちだと思っていたのに。
彼女などという、それこそ目の逸らしようがない存在が現れた以上、諦めもつくかと思っていたのに。
この想いの防波堤は今、よりにもよって最悪の形で壊されていく。
どこか俯きがちに落ちた華奢な肩を慰めるように腕で抱くことすら、もう拒まれてしまうかもしれないのに。
「・・・俺さ、結構浮かれてたんだよね。ほんと、デートとか楽しくってさ」
微かに頬を緩めてぽつんと呟かれた言葉が、だからこそ余計に苦しく聞こえる。
「さすがに初めての彼女ってわけでもないけど、なんか、あんま気を張らなくてもいいっていうか、そういう子だったんだ」
ぽつぽつと落とされていく思い出の欠片が、それを聞いている横尾の眉根をきつく寄せさせる。
付き合っていた当時の河合の様子を思い出せばその言葉が理解できるからこそ、横尾はその言葉に自分が責められているようにも感じてしまう。
たとえ非は欠片もなくとも、事実上河合から彼女を奪ったのは、自分なのだと。
「お前だから、言うけどさ?」
河合はふとおかしそうに笑った。
けれどそれはいつもの馬鹿笑いではなく、やんわりと柔らかな、だからこそなんだか哀しそうなそれ。
依然として画面を向いたままの横顔でもわかった。
「結婚、とかさ・・・バカだって言われるかもしれないけど、ちょっと本気で考えたくらいで。
・・・あはっ、我ながら今思うとマジで浮かれすぎだったなーって感じなんだけどさ」
横尾は再び眩暈のようなものを覚えた。
けれどそれは先程とは確かに違う種類のものだ。
親友を裏切った彼女に怒りを感じ、その親友は原因となった自分を責めているのではないかと不安を覚えて。
更に押し殺してきた目の逸らせない自らの感情を自覚しては焦りを覚え、そして今、それでもなお河合にそんな表情をさせる彼女に嫉妬している。
どうしようもない。
どうしようもないくらいの独占欲だった。
できるなら、親友という地位も恋人という地位も全て欲しかった。
でも大事過ぎて手が出せなかったんだなんて、今となっては言い訳に過ぎない。
こんなことなら、さっさと手を出しておけばよかったのか。
無理矢理にでも自分のものにしておけばよかったのか。
友達だろと、そう言って泣かれるのを押さえつけてでも。
「・・・俺を、恨んでる?」
思わず漏れた言葉は自分で思った以上に力なかった。
けれどそれには笑い飛ばすような声がかかる。
「ばっか、んなわけないじゃん!俺たち友達だろ?・・・ていうかそもそもお前のせいじゃないし」
「でも、な」
「そういう意味じゃなくて。・・・そうじゃないんだって。なんか、責めてる感じに聞こえちゃったんなら、ごめん。・・・ほんと、そういう意味じゃないんだよ」
「でも、俺の方・・・見てくれないんだな」
そう、その瞳はさっきからずっとこちらを見ないのだ。
対戦ゲームのファイナルラウンドが始まる直前で止まったままの、その画面の方を向いたまま。
ただその本来人形のように整った綺麗な横顔を晒すだけで。
それがじれったくて仕方がなかった。
こっちを向いて、たとえ責める言葉でもなんでも言ってくれればいい。
そうすればたとえ自分のせいではなかったとしても、謝るでもなんでもする。望む言葉なんでも言う。
彼女と付き合えという言葉だけは聞けないが、それでも出来る限りのことはする。
そしてだからこそ、俺以上にお前を愛してる奴なんていないんだって、そう言ってやるのに。
けれどそこに苦しげに伏せられた瞳は、か細く返ってきた掠れた声は、横尾をなおも打ちのめすものだった。
「お前のこと、大好きだけど。・・・もう、だめかも。見れないかも」
「河合、俺のこと、嫌んなった・・・?」
「ちがう、ちがうんだって、大好きだよ、お前のこと大好きだよ・・・」
「かわい・・・」
今の横尾の声は、まるで泣き出す寸前の子供のようだった。
普段どちらかというと頼れる兄貴肌というイメージの強い横尾からは想像できない。
それをひしひしと感じるからか、河合はよりきつく目を瞑ってその小さな手で顔を覆う。
ゆるゆると頭を振る。
「でも、だから、だめだ・・・やっぱ、今日来てみてどうだろって、思ってたけど・・・」
「かわい、かわい、こっち向けよ、ふみと・・・ともだち、だろ?」
友達だけじゃ嫌だ。
もうずっとそう思っていた。
だけどそうでなければ傍にいられないのなら、もうそれでもいいから。
その唯一無二の瞳を失うことだけは堪えられない。
「とも、だち、か」
顔を覆っていた手をゆっくりと、力なく膝の上に降ろして。
その妙に赤い唇がぽつんと呟いた言葉。
緩慢な動きが横尾の瞼に焼き付く。
「ともだちって、苦しいな・・・」
そう言った河合の真意がわからなかった。
いや、わかりたくなかった。
もはや友達でいることさえも許されないのかとそう思うことすら、はなから拒否していた。
そのくらい、今の横尾の頭の中は一つのことしか考えられなかった。
「苦しいよ、横尾・・・」
そう言って掠れた声を途切れさせる河合の、落ちた華奢な肩に手を伸ばす。
それは容易く触れる。その程度の距離でしかない。だって親友だから。
細く頼りない身体を抱きしめることだって、それを暴くことだって容易くできる距離。
それのできない関係だっただけ。
そう、友達にはそんなことはできない。
「・・・よこお?」
やはり顔はこちらを向かない。
ただ触れられた肩に何かを感じたのか、微かに震えて、細いからこそ強調される喉仏がこくんと上下するのが見えた。
そしてみるみる内に耳朶が赤くなっていくのはどうしてだろう。
ただ理由など今はどうでもよくて、それはただ横尾の手の力を増させるだけでしかない。
「苦しいならさ・・・もう、やめるか」
「え・・・?」
「友達なんか、やめるか」
もう俺の顔も見たくないんだったら。
そう呟くと同時、横尾は掴んだ肩から力を込めて、細い身体をそのまま床に倒した。
横倒しにされる形になった河合は咄嗟に受け身が取れず、顔を歪めて小さな手でカーペットに爪を立てる。
それでも横尾を見ない瞳は、ただ驚愕に見開かれて忙しなく瞬いている。
わななく赤い唇に視線が釘付けになる。
「横尾、なに、これ・・・」
「・・・友達なら、プロレスごっこかな」
最後の砦だった居場所さえ、なくしてしまうなら。
いっそのこと全部自分から捨てて、力づくで手に入れた方がマシだ。
今の横尾はあまりの喪失感に既に自分を見失っていた。
だから床に友達を俯せに組み敷いて、その華奢な身体からシャツを引きちぎるように剥ぐことになど、もう躊躇わなかった。
「でも友達じゃないなら、やることは一つだろ?」
NEXT
最近わたふみ割とご無沙汰だったかな〜と思いまして。
そして某さんのわたふみが本気萌えでボルテージも上げ上げだったので。
しかし思った以上にドシリアスになってしまった。
横河でも色々書きたいシリアスがあって、まぁこれはその一つなんですが。
やっぱり横河は「親友」っていうのがかなり大きなテーマで、唯一無二の親友であるが故の葛藤が萌えよね!と思うわけで。
そこら辺は色んな角度から攻めていきたいと思ってます。
とりあえず彼女ネタとか一種の禁じ手なんかな・・・でもわとさん彼女ネタ大好きなんよね・・・(笑)。
いやー健全な男の子!って感じするじゃない。
あんなイケメン男子共に彼女の一人や二人くらいいない方がおかしいじゃない。
容赦なくホモにしてる時点でおかしいと言ったらそれまでですが、まぁそんな健全なイケメン男子二人がそんな!みたいなのがホモ萌えの醍醐味じゃん?
というわけで彼女ネタです。
そして横尾さんがきーれちゃったーきれちゃったー、ていうかみんなの男前兄貴横尾さんをこんなんにしてすいません。
うちの横尾さん男前なようであんま男前じゃない気が毎度します。
ていうかふみにベタ惚れすぎですか・・・そうですか・・・でも実際ベタ惚れなのは事実ですし・・・(無反省)。
あと前編だけだとフミトがちょっと酷い子みたいな感じですけど、まぁそこら辺は後編でゴニョゴニョ。
(2008.2.24)
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