Be My Girl ? 1










いつもの朝。
変わりないはずの朝。
けれど確実に変わっているものがあった。

その日はもうすぐ始まるタッキー&翼のツアーリハーサル日で、主立ったジュニアは皆会場となるホールに集まっていた。
A.B.C.の楽屋には既に五関、戸塚、塚田の三人は集合していて、各々好きなことをしながら残る一人を待っていたのだけれども、周知されていた集合時刻になっても河合が現れる気配はない。
ソファーにあぐらをかいてその上にギターを抱えるようにして弾いていた戸塚は、ふと視線を時計にやって小首を傾げる。

「河合ちゃん遅いね」
「あー、珍しいよね、河合ちゃんが遅刻なんて」

塚田もまた床に座ってストレッチをしていた手を止め、戸塚の言葉に応える。
ああ見えて河合は時間にはきっちりしているし、特に仕事関係での遅刻など今までほとんどなかった。
それに万が一遅れるにしろ、少なくともメンバーの誰かしらに連絡くらいは寄越すというのに。

二人がそんなことを言い合っている最中、残る五関はソファーにどっかり腰掛けて携帯ゲームを手にしたまま、特に二人の会話に加わるでもなく扉の方をチラリと見て、更に目の前のテーブルに置かれた自分の携帯に視線をやった。
集合時刻になったということは、そろそろ準備をしなければならない。
仕方がないから連絡してみるか、そう思って五関が手元のゲーム機のポーズボタンを押した時だった。

楽屋の扉がゆっくりと開く。
それこそ、そろりとまるで泥棒が入るかのような慎重さで。
三人はそちらに一斉に視線をやった。
そこには当然のように、グループの末っ子の姿がある。
キャスケットを目深にかぶって何故か俯きがちで入ってきたその姿からは、表情はよく読み取れず、ただ黒いそこから覗くキャラメル色のふわふわした髪だけが微かに揺れている。
夏だというのに長袖の随分大きめなパーカーを着込んだ様はかなり暑そうにも見える。

「あっ、河合ちゃん!おはよー」
「おはよ〜。河合ちゃんが遅刻って珍しいね。なんかあったの?大丈夫?」

戸塚と塚田がそれぞれ声をかける。
けれど河合はそれに言葉を返すでもなく、扉を後ろ手で閉めたところで立ち尽くしたように動かない。
ただ俯きがちな口元が何やら言いたそうに緩慢に動いているのだけは見える。
それに戸塚と塚田は二人して顔を見合わせるように首を傾げ、揃ってもう一度河合を見ると、少しだけ心配気に声をかけた。

「河合ちゃん?どしたの?もしかして具合悪いとか?」
「ほら、とにかくちょっとこっちおいでよ」

診てあげるから、と。
塚田がそう言って手招きするのにも、河合は俯きがちに緩慢に口を動かすだけで、その場から動こうとしない。
だぼだぼの、明らかに大きすぎるパーカーに包まれた身体を縮こまらせるようにしているその姿は、なんだか妙に小さく見える。
いや、実際元々小柄ではあるのだけれども、それを言うならこのグループは全員がそうだ。
しかしそんなさして上背の変わらないメンバーから見ても、今の河合は妙に小さく見えた。

戸塚と塚田の更に向こうのソファーの上からそんな様を見ていた五関は、なんとなく妙な違和感のようなものを覚えて、軽く眉根を寄せながらゲーム機を置いて立ち上がる。
体調が悪いならそれはそれで心配だが、今の河合の様子はそんなものではないように思えた。

「河合?どした?」

五関がそう声をかけると、未だ緩慢に動かされていた唇からようやく小さな声が漏れた。
少し掠れたようなそれは、一見すると確かに体調が芳しくないようにも思えるのだけれども。

「・・・あ、・・・なんでもないんだ、けど」
「河合・・・?風邪引いた?」

五関はそんなことを呟きながらそちらに寄っていく。
声の調子というか、色が明らかにいつもと違うのだ。
その特有のハスキーな声が心なしか上擦ったように高くなっている気がする。
確かに風邪なら、この夏場にそんな暑そうな大きなパーカーを着込んでいる理由にも説明がつく。
大人しく休めばいいものを、仕事に人一倍の熱意と責任感を持つこの末っ子は、それを良しとせず無理矢理きたのだろう。
そんなことを思いながら、五関は手を伸ばせる距離まで近づいた。
しかしそこで五関は更に眉を寄せて足を止めた。

「え・・・?」

明らかに戸惑ったような声。
それを後ろから見るような形になっていた戸塚と塚田は、それにもまた不思議そうに目を瞬かせる。
五関は近づいたことによって一体何に気付き、戸惑ったのか。
それは実際すぐ近くまで来てみてわかることだった。
そしてそれは少なくとも、声の変化のように「風邪」という言葉で説明ができるものではなかったのだ。

俯きがちに立っている河合。
身を縮こまらせているように見えたからよくわからなかった。
けれどすぐそこに来ればわかる。

「・・・河合?」
「な、に・・・?」
「ちょっとこっち見て」
「あー、うん・・・」

そう言われて河合が緩慢に顔を上げると、そこで視線が当然のようにかち合う。
五関の目の前にあったのは、見慣れた彫りの深く整った顔だ。
ただそれとても、いつもとまるで同じかということそんなことはなかったのだけれども、今の五関にとってはそれ以上に衝撃が大きすぎることがあった。

「お前・・・背、縮んだ・・・?」

傍目からすれば何を馬鹿なと言われるようなことだ。むしろ冗談にしか聞こえない。
事実後ろから見ていた戸塚と塚田も、五関が何やら真顔で冗談を言っているとしか思えなかった。
けれど五関は紛れもなく本気だった。
口から思わず漏れた言葉は、確かに目の前にある事実をそのまま反映しているとしか言えないのだから。

河合の身長は168センチ。
五関の身長は165センチ。
どちらも平均より小柄なことに変わりはないが、それでも比較すれば五関は河合より身長が低かった。
それは数字の上でも、僅かな違いながら実際の目線の高さでも当然そうだ。
・・・そうだった、はずなのだけれども。

今五関を見上げている河合の視線の高さは明らかにおかしかった。
そう、何せ「五関を見上げている」のだから。
身を屈めているでもなんでもない、ただ普通に立っているだけなのに、五関を見上げている。
明らかに慣れないその感覚に、五関は言葉こそなかったけれども常になく動揺した。

「かわ、かわい・・・?」
「・・・うん」
「お前、なに、なんで・・・」

ろくに形にならぬ言葉を呟いてしまう。
けれどそうすると、じっと見上げてくるその顔がなんだか段々しょぼくれたようなものに変わっていくのがわかった。
元々シャープな顎のラインは更にほっそりとして、くっきりとした鼻梁は心なしか細くなったように見受けられ、元より大きく意志の強そうな瞳はますますもって大きく見えるし、量が多くて長い睫は更にその存在感を増したように見えるし、男にしては妙に赤くてつやつやした唇はなんだか少し小作りになったようにも思える。
確かに元から黙ってさえいれば綺麗な顔をしていたが、それでもそれは「女っぽい」という形容はあまり似つかわしくない、凛々しくきつい美貌だったのだ。
しかし今五関をじっと、いっそ縋るような様子で見上げてくる顔は、まるで女の子のようで・・・。

五関が無言でそんなことを考えて黙り込んでいると、目の前のまるで女の子のような顔がふにゃりと泣きそうに歪んだ。
それに思わずハッとしたのもつかの間、立ち尽くす五関の胸にまるで飛び込むようにして河合が勢いよくしがみついてきた。

「ご、ごせきくんっ!おれ、どうしよ・・・!」
「ちょっ、おい、かわ・・・っ」

咄嗟に五関は何をするのかと声を上げたのだけれども、その受け止めた感触にまた衝撃を受けて言葉を続けられなくなってしまう。
決して広くはない胸の中、そしてその割には長い腕の中。
河合の身体が、さすがにすっぽりとはいかないけれども、確かに収まってしまった。
元より骨格から細い体型とはいえ、そこに感じるラインは既に男のそれではない。
そして同時、その勢いで脱げてしまったキャスケットの中から覗いたふわりとした甘い色の髪が肩口から頬の辺りをくすぐる。
それを当然のようにくすぐったいと思うと同時、五関は更なる衝撃の事実に気づき、文字通り固まってしまった。

「・・・あれ?五関くんどしたの?ていうか二人ともどしたの?」
「なんか突然のラブシーンだね〜。ていうかあの二人ってそういう関係だったっけ」
「えー?だめだって!俺だって河合ちゃんのこと好きなんだから!五関くんずるいよ」
「だよね。抜け駆けはだめでしょ〜」

戸塚と塚田が口々にそう言ってくる言葉も、けれど今の五関の耳には入らない。
今腕の中に確かにある感触が衝撃的過ぎてどうしていいのかわからず、ただしがみつかれたままに片手を緩慢に自らの額にやって、顔を覆うしかなかった。

男にはあるはずもない、丸みを帯びた柔らかな感触。
五関とて成人男子だ。それが何かわからぬわけがない。
しかし目の前の年下の相方にその感触があることは、どう考えてもおかしい。
おかしいのに事実としてそこに感触はあって、しがみつかれたことでまるで押し付けられるようなその感覚に、五関は額を押さえたままになんとか声を絞り出し、腕の中の河合に問いかける。

「お前・・・いつから女の子になったわけ・・・?」

その言葉に背後の塚田と戸塚は咄嗟に顔を見合わせる。
そして当の河合は五関にしがみついたままにがばっと顔を上げ、泣きそうな顔で声を上げる。
その音量だけは、ああいつもの河合だ、と思わせてくれるものだったのだけれども。

「今朝起きたらっ、なんか胸についてて!下のがなくなっちゃってた!どーしよごせきくんっ!!」

どしようも何も。
とりあえずその押し付けてくる柔らかいモノをどうにかしてくれ、と五関は唸るように呟くしかなかった。






楽屋内は一気に阿鼻叫喚・・・とはならず。
各々の性質上の問題か、楽屋内は一瞬の騒然の後すぐさまほぼいつも通りの様子になっていた。
言ってしまえば河合が騒がしい程度だが、それとていつものことと言えばそうだ。

「なぁるほど〜。そしたら、朝トイレ行って気づいたんだ?」

塚田はソファーの上に河合を座らせると、いつもより下にあるその顔を優しく覗き込むようにこの現状について尋ねていた。
ちなみに五関は先程の感触があまりに衝撃だったのか、向こうのパイプ椅子に座ってそっぽを向いているし、戸塚は何故か二人を遠巻きに、同時に興味深そうに見守っている。

「うん、あの、いつもみたいにジャージと下着下ろしたらさ?なんかそこにあるはずのものがなくて!」
「それはびっくりだね〜」
「マジマジ!俺一分くらい固まっちゃったもん。なんか寝てる間に変な鬼みたいなのが来て、ちょん切られちゃったのかと思った」
「それは怖いね〜」
「まーじーで!もうなんか現実を直視できなくて部屋に戻ってさ、でも仕事行かなきゃだめだから、着替えようと思って上脱いだらさ、今度はなんか柔らかいもんがついてるし!」
「ああ〜・・・うん、なるほど、それでそんなおっきいパーカー着てきたんだ〜・・・」
「そうなんだよー。だって、これくらいしか隠せそうなのなかったんだもん・・・」

言いながら心なしか眉を下げて、河合は着ている大きなパーカーのジッパーを少しだけ下ろして中を覗き込む。
普段ならそこには当然まっ平らで薄い胸があるだけなのに、今は確かなふくらみがあった。
男なら誰もが本能的に目を引かれずにはいられない、女性だけが持つ部分だ。

「なんでいきなりそんなことになっちゃったんだろうねぇ・・・」

塚田はしみじみとそう呟く。
どう考えても科学的な何かで説明のつく事態ではない。
それだけに、どうしてこんなことになってしまったのかということを考えるのはあまり意味もないような気がした。
ただ言えるのは、今目の前にいる年下の仲間が、紛れもなく19歳の男の子だったグループの末っ子が、突然女の子になってしまったということだけだ。

「ほんとに女の子なんだぁ・・・」
「ほんとほんと!信じらんないだろうけどほんとなんだって!ほら見て塚ちゃん!」

自分でも到底信じられないような事態だけに、相手に信じてもらうのにも困難を伴うことがわかっていたのだろう。
河合は自分の今の状態を信じてもらおうと、勢いよくパーカーの前を開け放つ。

「ちょ、河合ちゃん!だめっ!なにしてるの!」

塚田は珍しく焦ったように声を上げ、咄嗟にそのパーカーの前を両手で閉めさせる。
まさか中に何も着ていないわけではなかったけれども、そこにはタンクトップ一枚着ているだけだった。
確かにこの時期の河合の格好としては、上のパーカーなしでその状態がデフォルトくらいだろう。
しかしながら、今の河合の状態は普通ではないのだ。
考えてみればわかるはずだが、河合は今自身の身に降りかかっていることだけに動揺していてそこまで思い至らないのだろう。
女の子の身体でタンクトップ一枚の姿など、いくらなんでも刺激が強すぎる。

「えっ、あれ、あ、ご、ごめん・・・?」

塚田のしっかりした造りの両手に前を閉められたまま、河合は窺うように上目がちに塚田を覗き込んでくる。
その様に塚田はうっすら顔を赤くして軽くため息をつくと、ゆっくりとパーカーのジッパーを上げてやった。

「も〜〜・・・河合ちゃん、とりあえず、その前開けちゃだめね」
「えー・・・でも、暑いよー・・・」
「だめ!もう、だめったらだめだから!」
「えええー・・・」

不満気な河合のほっぺたを軽く摘んでやる。
それにふるふると頭を振る姿はいつもと変わらないように見えて、やはりよくよく見ていると違うのだ。
しかしそこら辺は当の本人はあまりわかっていないらしい。
単純に本来あるはずのものがなくなって、ないはずのものがついてしまった、その程度の認識なのだ。
当たり前のことながら、河合は生を受けてからこの方男として生活してきたのだから、気にしろというのは無理があるのかもしれない。
けれど事実として今そんな身体になってしまっている以上、最低限気をつけなければならないことは確実にある。
塚田は既にそこら辺まで考えては、どうしたものかと何気なく視線を残り二人の方にやった。

するとどうやら河合がパーカーの前を勢いよく開け放ってしまった瞬間を見てしまったのか、塚田以上に顔を赤くした戸塚が、一体何を思ったのかパイプ椅子に座ってそっぽを向いている五関の方におずおずと寄っていくのが見えた。

「あ、あのさぁ、五関くん」
「・・・なに?」

五関は五関で先程の感触が未だに残っているらしく、常にはないばつの悪そうな表情で仕方なしに戸塚の方に顔だけを向ける。

「あーの、さぁ・・・」
「だから、なに?」
「ううーん、と・・・俺、女の子って割と苦手だからさ・・・いや、嫌いなわけではないんだけど、緊張しちゃうっていうか・・・」
「ああ、うん・・・トッツーはそうだよね」
「だからさ、今まで付き合ったことってほんの少ししかないんだけど・・・」
「うん・・・そうなんだ・・・」

トッツーは一体何が言いたいんだろう。
五関は内心そんなことを思いながらも、根気よくその続きを促した。
しかしそんな五関を前に、戸塚は依然として顔を赤くしたままに、何やら耳元でこそこそと小声で尋ねた。

「・・・あのさ、河合ちゃんの胸、どうだった?」
「ぶっ・・・!と、とっつー!?」

五関はらしくもなく思い切り吹き出してしまった。
しかしそれは致し方ないことだろう。
何せあまりと言えばあまりな質問だ。
五関は軽く声を裏返らせる勢いで、その無邪気で子供のような一つ年下の仲間の顔を凝視する。
常にはないそんな五関の反応に、戸塚本人もしまったと思ったのか、更に顔を赤くして慌てた様子で両手を振る。

「あっ、違うんだよ!なんかこう、ちょっとした興味っていうか、やらしい意味とかぜんぜんなくて!」
「あ、そ、そう・・・そっか・・・」
「うん、ほんとに!ただ単に興味っていうか、なんかほらっ、ありえない状況だからさ!つい好奇心ていうかっ・・・!」
「そ、そう、だよね・・・うん・・・」

それこそ戸塚が初めて女性の身体を見た男の子のように照れては動揺するものだから、五関もそれ以上何か言うこともできず、ただその勢いに押されるように頷くしかなかった。
そう、戸塚はいい意味でも悪い意味でも、いつまで経っても少年めいたところがある。

「・・・うん、でさ・・・どうー、だった?」
「どうだった、って・・・?」
「だから、そのー・・・えっと」

そして否定はしつつも好奇心はやはり隠し切れないらしい。
今の河合に近づいて直接確かめる勇気はないけれども、気になる気持ちは抑えられないようだ。
戸塚は更に顔を近づけると、五関の耳元でこしょこしょと呟くように尋ねた。

「河合ちゃん、やわらかかった?てか、おっきかった・・・?」

その言葉にはさすがに何か言ってやろうかと思ったが、同時にその言葉によってさっきの感触が蘇ってきて、五関は思わず視線を泳がせながら小声で呟き返した。

「・・・・・・ん、たぶん、Cくらい」

五関くんもやっぱ男なんだな。
ていうか抱きつかれただけでわかるとか、すげー。
というのが戸塚の内心の第一声だったけれども、そんな呟かれた事実とさっき垣間見たパーカーの中のあの膨らみとを合致させた途端、思わず口元を押さえた。

「ごせきくん、俺ってだめなやつだ・・・」
「は?なにが?」
「河合ちゃんに対してフラチなこと考えちゃった・・・!」
「ふ、不埒ってトッツー・・・なに考えたの」
「わー!俺には河合ちゃんを好きでいる資格なんてないんだ・・・!」
「いや、ちょっとトッツー落ち着いて」

しかしながら頭を抱えてもはや混乱をきたす戸塚を前に、五関もあまり平静とは言えなかった。
それを遠目に「あーあ」と呆れ交じりで眺めていた塚田だったけれども、いつの間にか目の前から河合がいなくなっていることに気づいてはたとする。
どこに行ったのかと慌てて部屋を見回すと、河合は衣装棚の前に立って、今日のリハーサルで着る衣装合わせをすべくパーカーを脱いでいた。
今さっき塚田が口を酸っぱくして言ったにも関わらずだ。

「ちょっ、河合ちゃん!だめって言ってるでしょーっ!なにしてるのっ!」

塚田が大声でそう言うと、河合はびくりと身を竦ませて振り返った。
その手には衣装があるのだけれども、自身の上半身は今タンクトップ一枚なわけで。

「えっ、え、だって、もう集合時間過ぎてるし、衣装合わせなきゃ!」
「だめだめ!河合ちゃんはいいの!ていうか脱いじゃだめだからっ!」
「だって脱がなきゃ着替えらんないよ!」
「もー!五関くんとトッツーもなんとか言って〜!」

さっきはあんなにうろたえてたくせに、なんですっかり普段通りの行動してるの!
ていうか今くらい仕事のこと忘れてもいいのに!
河合らしいというかなんというか、そんな行動に困ったように塚田が二人を見ると、五関と戸塚は互いに顔を見合わせてから、五関はばつ悪そうに、そして戸塚は顔を赤くして仕方なさそうに寄ってきた。
二人とも頑なに河合の胸の辺りは見ないようにしていて、それを当の河合は至極不思議そうにしている。
何が気まずいかと言えば、ずっと大事にしてきた年下の仲間が、他ならぬ河合が、こんな状況になってしまったからだ。

「河合、いいから塚ちゃんの言うこと聞いて」
「えー五関くんまでそんな!だってもうすぐリハーサルっ・・・」
「河合ちゃん!今の河合ちゃんは河合ちゃんであって河合ちゃんじゃないからだめなんだよ!」
「ええートッツーなに言ってんの!そりゃ、こんな身体だけどさ、でも仕事はやっぱちゃんとしないとっ・・・」
「もー河合ちゃん!河合ちゃんは今女の子なんだからね!?」
「塚ちゃんっ、おれ、女の子じゃないよ!」

当然のような顔でのたまう河合に、三人は同時に「なに言ってんだこいつは」という顔でため息をついた。
そしてそのため息にあからさまに唇を尖らせて、河合はつまらなそうに頬を膨らませた。

「だって・・・女の子じゃないもん、俺。ちょっとなんか変なことになって、む、胸とかついちゃって、アレがなくなっちゃってるけど・・・でも、違うもん・・・。すぐ、戻るし、こんなの・・・」

そう言ってギュッと衣装を両手で握る。
河合の言いたいことはわからなくもない。
何の摩訶不思議かそんな身体になってしまったとしても、河合郁人は紛れもなく19歳の男の子だ。
だから急にそんな女の子扱いをされたって居心地が悪いだけなのだろう。
普段通りでいたい。そうすればきっとすぐに戻るはず。
そう思いたいのだろう。
それはきっとこの現状の裏腹な不安を表しているとも言える。

「だから、リハーサルも、ちゃんとやるし・・・」

けれど言葉とは裏腹に心細げに響いた、常よりも少し高めの声。
いつもよりも下にある甘い色の頭。瞬いた長い睫。
それを見て、五関と戸塚と塚田は互いに顔を見合わせる。
大事にしてきた末っ子をどこまでも守りたいのなら、自分達が頑張るしかないのだろう。

「・・・じゃあ、とりあえずサラシ巻こう?」
「サラシ?」
「そう。だってそのままじゃ、その・・・胸がね、動きづらいと思うから」
「あー、なるほど!」

塚田はそう言って楽屋内でサラシ代わりになりそうな包帯を探しに動き出す。
このままその身体を他の人間の好奇の視線に晒すなど断固として許せない。

「河合ちゃん、疲れたら俺に言ってね!」
「あははっ、大丈夫だよ〜。俺体力には自信アリ!」
「うんうん、でも今日はアクロバットもフライングも多いからさ」
「あー、そうだね。じゃあ疲れたらトッツーに言うわ」

そんないつも以上に細くて小さな身体では、いつものようにアクロバットやフライングができるとは思えない。
もしも不用意に怪我をしてしまったりしないように、いざとなればその下敷きになれるくらいの用意をしておかなければ。

「お前、今日キスマイに近寄るの禁止ね」
「えー!なにそれ!どんな禁止令!」
「危ないから」
「なにが!あいつらが危ないのはいつものことじゃん!」
「いいから。むしろ俺とトッツーと塚ちゃん以外には近寄らないこと」
「なにそれ・・・つまんねー・・・」
「ちゃんと遊んでやるから。わかった?」
「・・・はぁい」

いつも河合の周りには人が途絶えることはなく、暇さえあれば誰かしらが絡んでくる。
それが今こんな状況では一体何が起こるかわからないのだ。
特に、全員が全員やたらと河合を気に入っている親しいあのグループに関して言えば、いろんな意味で目を光らせておかなければならないだろう。
五関はそんなことを思いながら、さりげなく自分の上着を河合にかけた。

しかしそんな中、楽屋の扉を叩く音がした。
次いで聞きなれた彼らの声。

『かーわいくん!あっそびーましょー』
『そろそろ時間だぞー』
『ふみとふみとー、今日あのゲーム持ってきたよー!』

「あ、噂をすればきた」

河合はそれに目を瞬かせて扉に向かおうとしたけれど、すぐさま三人に止められる。
五関は首根っこを、戸塚は腕を、塚田は肩を、それぞれ掴んで押しとどめるようにした状態でため息をつく。

今日はA.B.C.にとっていつになく長い一日になりそうだ。










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233国勢調査リク第二弾。
「エビメン×河合。河合ちゃんが女の子になっちゃった!」というリク。
基本的にフミ子なら貧乳推奨ですが、女子化が先天性ではない場合、胸はある程度おっきい方が色々楽しいので今回は多少大きめです(まず言いたいことはそれか)。
なんかもうほんとすいませんとしか言いようがないモンができあがりましたが・・・でもまだ続いちゃうんだな、これが。
とりあえず、フミト以外のエビ(特にごちトツ)はムッツリですよね!みたいなね。うふ。キモイぜ私。
こんなもんにお付き合いありがとうございました・・・(ほんとにな)。
(2007.10.14)






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