Calling










滞在3日目か。

北山は無意識にそんなことをぼんやりと考えては、はたと我に返ると鬱陶しげに頭をかく。
身体を思いきり後ろに倒しても柔らかく受け止めてくれるそのソファーは、さすがホテルのロビーと言わんばかりで気持ちはいいのだけれども、まだ時間も早いせいか頭はあまり目覚めていない。
普段ホテルに泊まる時は朝一のコンサートでもなければこんなに早くは起きない。
それはここが慣れない異国の地だからなのか。
それともいつも隣にいる人間がいないからなのか。

「・・・うざ」

呟いた対象はそのいない人間にか。
それとも自分にか。
それとも、この訳の判らない感情にか。

いや、訳が判らない、とは思いつつも。
実際にはわかっているのだ。
自分の感情くらい判っている。
だけれどもあまり認めたくはない。

たかが三日だ。
まだ、三日。
普段だってそのくらい会わないことはあるはずなのに。
どうしてこんなにも考えてしまうのか。

こっちに来ているからこそ考えるべきことなんて山ほどある。
楽しくないのかと言えばそんなことはあるはずもなく、むしろ日々見るもの聞くもの興味深いものばかりだ。
一緒に来ているメンバーだって近しい人間ばかりで、それはいっそ修学旅行のようでもあり、事実昨日みんなで一緒に過した夕飯時は本当に楽しくてしょうがなかった。
他愛もない話をして、時折真面目な話もして、結局はバカ話をして。
それはとても充実した日々なのに。
それなのに北山は今日、いつになく早く目覚めてしまった。
目覚まし時計もないのに。
起こしてくれるあいつもいないのに。
でも、きっとだからこそ起きてしまった。
それは北山にとっては認めがたいことでもあり、同時にとっくのとうに知っていることでもある。
あの妙にトーンの高い喋り声と、はにかむような笑い方と、すぐ困ったように下がる眉と。
思い出したらキリがない。
自分はこんなにも弱い人間だっただろうか、と北山はさすがに苦笑するしかない。

常に強くありたいと思っている。
常に大事な人を守れるくらいに強く、強く。
けれどこんな時、まだまだ駄目だと思い知らされる。
誰よりも守りたい人間が傍にいなければ、強くなんてなれない自分。
もしかしたら、それは本当の意味での強さではないのかもしれない。
だとしたら、自分は本当には強くなんて一生なれないのかもしれない。
それでも口にはしないことが最後の砦だからこそ、北山はきつく口を噤むのだけれども。


「北山?」

背後から呼ぶ声がして、ハッと振り返った。
そこにはパーカーにジーンズというラフな格好で立っている五関だった。
見れば五関も随分眠そうな顔をしている。
そういえば五関も朝が弱いんだと、河合経由で藤ヶ谷から聞いたことがある。
北山はゆっくりと立ち上がって軽く手を上げる。

「あー、おはよ」
「おはよ」
「早いじゃん」
「あのうるさいのが朝強いから」
「なるほど。そりゃご愁傷様」
「ま、俺は朝弱いから助かることも多いけど」
「ああ、確かに・・・」

俺もそうだよ、と。
反射的に言いそうになって北山は口を噤んだ。
別に今日は起こされたわけではない。
1人で起きたのだ。
だからそれを言うのは違う。
だから言わないでおくだけだ。

北山はまた小さく息を吐きながら軽く頭をかく。
気持ち視線を落としがちなその様子を眺めるように見て、五関は何故か表情だけでふっと笑うと小首を傾げて軽い調子で言った。

「なぁ、ちょっと買い物行かない?」
「は?これから?」
「うん。たぶんそろそろ店も開く頃だと思うんだけど」
「買い物?」
「うん」
「誰と誰が?」
「俺と北山が」
「・・・なんで?」

あまりにも意外な誘いに北山はぽかんと口を開けて、五関の顔を窺うように見る。
付き合いはそこそこになるし、同い年だし、仲は普通にいいけれども。
今まで二人で出かけたことなんてなかったし、お互い誘ったこともなかった。
むしろ北山の恋人の方がよっぽど仲がいいだろうし、よくどこぞへ出かけたという話も聞く。
それをわざわざこんな異国の地まで来て自分を誘うとは、と。
北山は小さく考えるような仕草を見せて、もう一度改めて五関を見た。
そこにどんな思惑があるのかどうしても気になったから。
けれどそんな視線も意に介した様子はなく、五関は小さく欠伸を噛み殺してジーンズのポケットに入っている財布を確かめている。

「お土産でも買おうかなーと思って」
「お土産ね・・・」
「北山は買わない?」
「や、俺も買うけど。っていうか俺の場合買ってかなきゃ後で罵詈雑言だから」
「そりゃそうだな」
「ったくさー、1人1個必須!って、俺の財布をどんだけ圧迫するつもりなんだよあいつら」
「確かに6人分は大変だな」
「や、7人分」
「ああ、そうか」
「あの野郎、勉学に励む、とかぬかしといてちゃっかりしてるよ」

必ず戻ってくるから。
そう言って今グループから離れている彼からも、出立する前日に電話があった。
お互いの近況を軽く話した後、最後に穏やかな調子で携帯越しに響いた、あの言葉。
年下のくせに生意気な、と思わずにはいられなかった。
そして携帯越しでは見えるはずもなかったけれども、その向こうにあの柔らかい笑顔があっただろうことは想像に難くなかった。

『寂しくなったら、ちゃんと藤ヶ谷に電話しなよ』

誰がするかバーカ。
結局北山の最後の言葉はそんなもので、それに飯田はおかしそうに笑っただけだった。
そして実際電話なんてできていない。
できるはずもない。
たったの3日で、なんて言って電話しろって言うんだ。

そんなことを思い出す北山を後目に、五関は持ってきたパンフレット片手でペラペラと捲っては店を物色しているようだった。

「お土産買うのってさ、1人だと色々迷うんだよな」
「あー、まぁ、確かに。特にここじゃね」
「そう。だから付き合って欲しいってのもあるんだよ」
「別にいいよ。じゃあ行くか」

まぁそんなに勘ぐることもない。
北山は息を吐き出して小さく笑うと頷いた。
どうせだからこれを機に、同い年のグループ最年長同士、交流を深めるのもいいかもしれない。

そうして連れ立ってホテルを出ようとした時、そんな二人の背後からやたらと大きな声が飛び込んできた。

「あーーー!!!」


聞き覚えのある声は物凄い勢いで近付いてくる。
五関は反射的に額を押さえ、北山は思い切り眉根を寄せた。

「五関くん、北山とどっか行くのっ?」

朝っぱらから全力ダッシュで目の前に嵐の如く現れた河合は、五関と北山を交互に見てはなんだか楽しげだ。
その様が二人の目には散歩に連れていって欲しがっている子犬のようにも見えた。

「うるさいのが来た・・・」
「むしろうざいのが来た」
「ちょ、二人ともなんだよ!なにそのひどい反応!」

あんまりなその反応に河合は口を尖らせる。
河合が今日も朝一で起きてシャワーに入って出てきたら、そこにさっきいたはずの五関がいなかった。
シャワーに入る時には眠たげに目をこすっていたというのに。
他のメンバーはまだ起きていないようだったから、河合はなんとなく1人ではつまらなくて五関を探しにきたのだ。

「あー、あのさ、後で構ってやるからちょっと待ってて」

五関は若干取り繕うような様子で河合の頭を軽く弾くように叩く。
それに河合は不思議そうに、そして少しだけ不満気に目を瞬かせる。

「えっなんで?俺一緒に行っちゃだめなの?」
「駄目っていうか・・・」

どうしたもんか、と眉根を寄せる五関を見て北山は呆れたような様子でため息をつく。
このカップルの間に挟まれるのはいくらなんでも勘弁してもらいたい。

「・・・いいんじゃん、河合と一緒に行けば。俺部屋戻るし」

そう言ってさっさと戻ろうと踵を返す北山を見て、五関は少しだけ焦ったような様子を見せる。

「いや、ていうか・・・・・・おい、河合、昨日寝る前に言ったこと忘れた?」

軽く河合の胸倉を掴んで引き寄せると、ひそひそと小声で言い聞かせるように言う。
それに北山はぴたりと足を止めた。
当の河合はというと、五関に言われたことが一瞬判らずきょとんとしていたが、ワンテンポ置いて思い出したのか「ああ!」と手を叩いた。

「あれか!北山に、うまいこと藤ヶ谷に電話させるってやつ、っむぐぐぐ」
「・・・お前はいちいち口に出さなきゃ思い出せないわけか」
「むーむーむー!」

何やら軽いコントが始まっている。
さすがに呆れを通り越してすらいる様子の五関が河合の口を強引にてのひらで塞ぎ、河合がそれにしまったという様子でもごもごと苦しそうにその手を掴んでいる。
そんな光景を前に北山はなんとなくピンときて、再び二人のもとに戻った。

「・・・五関くん?」
「なに?」

疑念を込めた声を向けても平然としたその態度はさすがだ。
しかし余計なおまけのおかげでそれすらももはや台無しで。
北山は心持ち低い声で咎めるように言った。

「余計な気を回してくれなくてもいいから」

それに反論することもなく、五関はチラッと北山を見る。
気を使ってくれることはありがたいのかもしれないが、こんな状況ではなんだかますますどうしようもない自分を自覚させられるようでいたたまれなかった。
普段何をどう言ったって、あいつがいなければ駄目な自分。
北山はきつく唇を噛んで押さえ込むように呟く。

「・・・別にあと何日かで帰るんだし。いいんだよ」

それに小さくため息をついて、五関はどうしたもんかと考えるような仕草を見せる。
けれど何も言わない五関の代わりに、いつのまにか手を振り解いていた河合がつまらなそうに言った。

「北山って、自分のことばっかだよな」
「は?なに?」
「自分のことばっかだって言ってんの」
「お前ケンカ売ってんの?」
「おい河合、止めろって」

窘めるように河合の肩に手をやる五関には軽く一瞥しただけで、河合はすぐさま北山を見て首を傾げる。

「自分ばっかだと思ってんの?」
「だから何がだよ」
「相手も寂しいかもとか、思わないわけ?」
「・・・なんでお前にそんなのわかんだよ」
「なんでってー・・・」

睨むようにこちらを見て低く呟く北山に、けれど河合は途端におかしそうに笑ったかと思うとあっけらかんと言ってみせた。

「俺、昨日藤ヶ谷に電話したから!」
「はぁ!?」
「お前・・・」

北山は目を剥き、五関は呆れたような顔をした。

「やー、どうしてるかなーって思って!あ、横尾にもしたけどね!」
「なにしてんだよお前!」
「ああ、だから昨日夕飯遅れたのか・・・」
「五関くんご名答!・・・というわけで、北山は即刻藤ヶ谷に電話してあげるといいと思う!」

なんだか妙に偉そうな調子でそんなことを言うのに、北山は盛大に舌打ちしてくるっと背中を向けてしまった。

「なんだよお前・・・ていうかなんでお前が先に電話してんだよ・・・」
「あはっ、先手必勝!」
「意味わかんねーよ!」

反射的に振り返って突っ込んでやるけれども、もう怒る気にはなれなかった。
けれどそんな北山の感情の変化を敏感に感じ取って、河合はふふっと笑うと北山に寄っていって、覗き込むようにして見上げた。

「ほんとはお土産とかより電話がいい、だってさ」
「・・・はずい奴」
「ヒューヒューだよ!」
「うるせーなこのバカ!」
「ラブラブじゃーん!」
「マジ黙れよ!」
「・・・お前らまだ朝だから。少し声のトーン抑えて」

まぁ、結果オーライかな。
五関は呆れつつもホッと息をついて笑う。

この器用で不器用で、強くて脆くて、弱みを見せることを極端に嫌う男には、確かに結局恋人の言葉しか効かないんだろう。
そういう意味では今回のお手柄はこの突然現れた嵐のような男にあるのかもしれない。
調子に乗るだろうから決して言わないが、と。
けれどそう思った矢先、北山と言い合いをしていた河合がふとこちらを見て、五関は目を瞬かせる。
河合は何も言わなかったけれど、満面で笑ってヒラリと手を振ってみせた。

河合は河合なりに、北山のことを考えていたのかもしれない。
そうでなければわざわざ藤ヶ谷に電話なんてしないだろう。
本当は自分よりも余程しっかりした人間なのかもしれない、と五関は内心だけでそんなことを思った。

「じゃ、お前も行く?」
「いくいく!俺もお土産買う!」

五関の言葉に嬉しそうに頷く河合を鬱陶しげに見やって、北山は嫌味たらしく言ってのける。

「どうでもいいけど、くれぐれも俺の前でいちゃつくなよ」

しかし河合もまたチラッと北山を見て平然と言ってのける。

「じゃあ北山も五関くんといちゃつくなよ」
「いちゃつかねーよ!なんだよその展開」
「五関くんとするくらいなら俺といちゃついていいから!」
「誰がするか!」
「・・・ていうかお前、それは俺が気分よくないんだけど」
「あっ、五関くんやきもちやいてくれんの!?」
「マジうるせーこいつなんだよ!ちょっと五関くんしっかり教育してよ!」
「ああ、ごめん。バカで」
「あははっ、じゃあ二人とも行くかー!」
「はいはい」
「ちょ、引っ張んなって!」

二人の間に入るような形で、その腕をそれぞれ掴んで河合は足早に歩き出す。
引っ張られるように歩きながらも、北山は我知らず緩んだ頬を持て余しながら思った。


買い物から帰ったら、土産買った報告ついでに電話してやるか。










END






まだ書くつもりか、っていうベガスネタ。北藤編。たいぴ出てないけど北藤と言い張る心意気。
みっくんはキスマイでは1人だけベガスに行ったので、内心ちょっと藤ヶ谷が恋しくなっちゃってたりするといいよ!という話を友達として悶々していたのでした。
そしてついでに、ベガスでみっくんとフミトがごっちのサングラスを選んであげたというときめきエピソードを見たので、じゃあ五河+みっくんでお買い物!?という妄想がね。もわもわとね。
さりげなくこの三人というのもときめくわとさんです。
あと昨日の少クラ観覧で、妙にみっくんがごっちに懐いてたのを見て、ベガスでちょっと仲良くなったんじゃないかと推測。なんかこの二人はカプじゃなくてコンビでいいよね!と。
そして相変わらずフミトがどうにもこうにもアレですいません。フミトが大好きです(わかったよ)。
(2006.7.22)






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