FACES










「河合ちゃん」

呼んだけれど聞こえなかったらしい。

こちらに横顔を向けた河合は、椅子に座ってどこか遠くを見るようにぼんやりとしている。
横から見ると薄い身体がよくわかる。
元々の造りが細い上に、舞台も終盤に差し掛かってきてますます肉が落ちてしまったらしい。
顔つきも一層シャープになって、プロが施してくれた化粧が、その化粧映えする彫りの深い面立ちを鮮やかに彩っている。
舞台上ではいっそ触れたら切れそうな程鋭利な、綺麗としか言いようがないその顔。
でも長い睫が瞬く度に、反比例するような脆さも感じさせる。

「河合、ちゃん」

もう一度呼んだら、今度は気づいた。
こちらを向くと目尻を下げて笑う。
綺麗な顔が、人懐こい笑顔で覆われる。

「おつかれー」
「うん、おつかれー」
「トッツーも休憩?」
「全力で休憩!」
「あっは、なんかそれ逆に疲れそー」

そうやって歯を見せて笑う顔は、綺麗って言うよりか、可愛い感じ。
河合は昔からそう。
色んな顔を見せてた。
それは当然俺にだけじゃなかったけど。
ふざけてる顔、格好いい顔、怒ってる顔、綺麗な顔、落ち込んでる顔、可愛い顔、嬉しそうな顔、泣きそうな顔。あと困った顔。
もちろん開けっぴろげかって言うと必ずしもそういうわけじゃなくて、むしろ意外と強がりだったりするから見せようとしない部分は当然ある。
割とかっこつけたがる子だし。

「なんかさ、メイクさん気合入ってるよね」
「へ?」
「河合ちゃんのメイクの時が一番気合入ってるって、みんな言ってるよ」

舞台はコンサートよりもメイクをしっかりやる。
それは主演の滝沢くんはもちろんそうだし、他のジュニアも例外ではない。
きちんとしたプロのメイクさんがついてやってくれるから、もう長いことこの事務所にいる割に未だに化粧に慣れない俺からすると、鏡に映った自分の顔を見るのもなんとなく恥ずかしい。
でも今俺の顔をどこか不思議そうに見るその顔は、それこそまるで作り物の人形みたいに寸分の隙もなく整えられている。
さすがに男だからマスカラやら口紅やらはつけていないはずなのに、元から量が多くて長い睫や、妙に赤くてつやつやした下唇のせいで、まるで女の人みたいに化粧をしているように見えるんだ。
口を開けば少しやんちゃでお喋りな普通の男の子でしかないのに、河合って不思議だと思う。
本当は、不思議なところなんて何もないはずなのにね。

「ていうかそれってさ、俺の化粧濃いってこと?やっぱ。なんか俺もそう思ってたんだよね・・・うすうすさ・・・」
「濃いっていうか、お化粧の似合う顔なんだよ、河合ちゃんは。だってさ、『河合くんは化粧のし甲斐があるから楽しいわ〜』ってメイクさんが言ってたの、俺聞いたよ」
「えー、それ別に全然嬉しくねー」
「カッコイイじゃん!」
「えー・・・化粧が似合うとか、別にかっこよくはないでしょー・・・」

そう言って綺麗に整えられた顔を軽く顰める。
でも、そういう顔もそれはそれで様になるっていうか、綺麗に見えるんだから、河合って実はほんとに美人さんなんだなと思う。男前っていうか。
じっとその顔を見つめていたら、居心地が悪かったのかちょっと困ったみたいな顔をされた。

「・・・とっつー、見過ぎ。俺照れちゃう」
「あー、俺、河合ちゃんの顔好きなんだよね」
「えー・・・顔なの?」
「うん。格好いいし綺麗だから」
「いやいやいや・・・トッツーのが可愛いし綺麗だから、絶対」
「ううん!俺は可愛くないし綺麗じゃないから!!」
「なんでそこ全力否定なの?」

トッツーやっぱ意味わかんないなー、だって。
ちょっと楽しそうに、でもやっぱりちょっとだけ困ったみたいに、笑う。
河合は実はよくそんな顔をする。
いつも何も考えていないみたいに大口を開けて笑っているイメージだけど、ほんとはそんなことない。
心にたくさんのものを抱え込んで、困った顔をする。
好きな子に困った顔なんてほんとはさせたくないんだけど、でも俺はよくそれを見ている気がする。
ということは、もしかしたら俺は困った奴なのかもしれない。

「やだ?」
「え?」
「顔好きって言われんの、やなのかなって」
「あー、いや・・・やだってわけじゃないけど」
「やなら言ってね。止めるから」
「やじゃないってっ、・・・だから、やじゃ、ないよ」

うん、それならいいんだけど。
だったらさ、そろそろちゃんとこっち見てくれないかな?

「かわいちゃん」
「ん・・・?」
「俺、河合ちゃんの顔ずっと見てるんだ」
「と、とっつー・・・?」

そのキラキラした瞳がようやくこっちを向いた。
そこに俺だけ映してくれるなら、もう死んでもいいなって思っちゃうんだけど。

「河合ちゃん、ほーんと格好いい」

そんなこと言ったら、君はもっと困った顔をするだろうから。
今はまだ言わないでおくね。

「あー・・・あー、ありがと。お褒めにあずかり光栄の至り!」
「やっぱ殺陣の時、敵同士になって河合ちゃんに斬られたいな〜」
「もー、トッツーまた言ってるし!」

うん、何度でも言えるよ、俺は。
でもこの気持ちは、きっと君に受け入れては貰えないものなんだろうなぁ。

「・・・機会があったらね。格好良く斬ってあげるよ」

だってそんな綺麗な顔で、そのくせほんとは似合わないような静かな調子で、付け加えるみたいに呟かれたその言葉が。
君を、そんな泣きそうな顔にさせるから。










END






トツフミは毎度毎度微妙な感じになるよ。初のトツ視点だってのに!
でもトツ視点なので、念願の河合ちゃん推し全開トツを書いてみた(笑)。
いやまだ全開じゃないかな!(どんだけ)
そして妙に押しの強い不思議ちゃんトツ。
全然わかってないわけじゃないんだけど、わかってる部分を踏まえても俺流なトツ。
実は一人でグルグルしちゃってるフミト。
しかし、うちのごっちもトツも、フミトのどこが好きって言われたらたぶん「顔」って答えるよ(ごちトツひどすぎ)。そんでフミトがガガーンとショックを受ける展開萌え(笑)。
ごっちはオフィシャル面食いだし、トツはあの河合ちゃん推しだからね!

あー、あと、演舞城のフミトはほんと一人だけめちゃくちゃガッツリメイクされてて凄いのほんと(笑)。
ていうか一人だけ異常なまでに化粧映えしているというか。女の人を越えてもはやお人形さんだから。萌え。
(2007.10.14)






BACK