Feeling so
ソファーに腰掛けた左真横からずしりとかかった重み。
飯田は特にそちらを向くことはなかったけれど、表情だけでくすりと笑って手にしていた雑誌を閉じる。
するとその重みがさらに増して、傾いてきた頭が肩口に預けられると、耳から頬の辺りを痛んだ髪がくすぐった。
その体勢を崩さないようにと閉じた雑誌を右脇にそっと置く。
「なんかちょっと、痩せたね」
飯田がそうなんでもないことのように言うと、左肩に預けられたその頭が小さくもぞもぞと動いた。
いいポジションを探しているようだ。
「背は伸びたんだけどな」
「うん、伸びたね」
「体重がなかなか増えねーの」
「だから細いんだよ」
「太りてー」
「それ、北山の前では言わない方がいいと思うよ」
「・・・うん。そうだな」
一瞬の沈黙と、頷いたような振動。
それらを感じて飯田は自身もゆるりと頷く。
頬の辺りに感じるその色を抜いた髪に右手を伸ばし、指先で確かめるように触れた。
依然としてそちらは向くことなく、やんわりと指先で巻き込むようにしてみる。
「髪も伸びた」
「それに痛んだし」
「また色抜いたでしょ」
「前の飽きた」
「だから痛むんだよ」
「痛みと引き替えに、俺は俺らしさを得るわけだ」
「なんかちょっと格好いいけど、横尾のらしさって髪が痛んでることなの?」
「ちげーよ!色を抜いてること!」
「昔は黒かったのに」
「お前とかぶるじゃん」
「お揃いだったのに」
「おま、・・・さみーな」
「あー、うん。言ってみただけ」
「なんだそれ。とにかく、これは俺のアイデンティティなの」
「それ、なんか藤ヶ谷の前髪みたいだよね」
「・・・あー。そうかもな」
またも一瞬の沈黙と、頷いたような振動。
飯田はそのまま指に巻き込んでいた髪を解くと、その指をそのまま滑らせるようにして伸ばした。
その先は、飯田の左肩に預けられた頭、その顎先。
するりと撫でるように触れたそれに、横尾はぴくんと小さく反応すると、緩く顔を後ろに傾ける。
飯田もようやくそちらを向いたから視線がやんわり合った。
ああ、落ち込んでるなぁ。
想像通りのその瞳の色に、飯田は顎先に触れていた指を更に移動させ、前髪をかき上げるようにしてその額に当ててやった。
「謝りに行くなら、ついてくよ?」
さして変わらぬトーンで紡がれた言葉に横尾は小さく眉根を寄せつつ、それでも自分の額に当てられたその手に、自分の手を覆うように被せた。
「・・・バーカ、いらねーし」
「うん。そう思ったけど」
「じゃあ言うなよ」
「うん。言ってみただけ」
「お前適当すぎ」
「そんな感じでいいかなーと」
「・・・ま、あの二人だしな」
「そうだよ」
納得したような言葉、けれどそのトーンが随分と落ちている。
被せられた手に力がこもったのが痛い程判る。
それは、そう、文字通り痛いくらいに強い力。
相変わらず加減ができないんだな。
そんなことを思って掴まれた手はそのままに、頭を少し傾けてその顔をじっと見つめた。
真っ直ぐなそれらはいつだって加減ができない。
だからさっき、くだらないことで言い争いを始めた二人に、烈火の如く怒鳴り散らしてしまった。
本当はそんな風に、そんなくだらないことで、その強い絆を台無しにするようなことをして欲しくなかっただけなのに。
「横尾の不器用さは知ってるよ。北山も、藤ヶ谷も」
ちゃんと二人も判ってる。
知っているし、そんな横尾だからこそ好きで。
だからさっき揃ってへこんだ顔で飯田に泣きついてきたのだ。
その時の二人の表情があんまりにも情けなくしょんぼりしていて、それを思い出して思わず笑ってしまった。
けれどその笑いを自分に対してのものだと思ったのか、横尾はムッとした声で低く呟く。
「・・・だーれが不器用だこら」
「うーん、じゃあ、やんちゃ?・・・あ、おこりんぼ、とかどう?」
「子供かよ!」
「うん、俺よりは大人だけどね」
「・・・大人じゃねーよ」
「じゃあやっぱり子供かな」
「どっちだよ!」
「どっちでもいいよ、横尾さんなら」
「・・・お前、変わってんなほんと」
「うん。ちなみに、あと二人くらい変わってるのいるから、大丈夫じゃないかなー」
そしてたぶん、今この部屋の扉向こうで揃ってそわそわしているだろう。
どのタイミングで呼んでやろうかと考えると、飯田は楽しくなってきてまた笑った。
その笑いに怪訝そうな顔をしながらも、なんとなくつられたのか横尾も小さく笑って掴んでいた手を離した。
ゆっくりと身体を起こし、軽く髪をかき上げる。
「あーあ、変人ばっかじゃん、このグループ」
「面白くていいんじゃない?」
「・・・ま、お前が一番だとは思うけど」
「あー、それ嬉しいな」
「バーカ。なんでだよ」
今度こそクスクスと笑いながら戯れのように触れた唇。
そしていったん触れると止められないのは横尾で、それを止めたくないのは飯田だ。
だから申し訳ないけど。
この感触に飽きるまで、扉向こうの二人にはもう少し待っていてもらおうかな。
END
唐突に飯横。
なんかもっと書きたい気持ちはあるんだけども、色々グルグルしてなかなか書けないんだよな〜・・・。
でもなんか、ちょっと幸せめなのを書きたくなったので書いてみました。
しかし相変わらずキョンキョンがニセ。
でもとりあえずキョンちゃんには渉の理解者であってほしいなとかなんとか。
・・・まぁむしろポイントは渉に超怒られてべっこりへこんでる北藤ですけど(笑)。
よこおーごめんなさいーおこんないでー!(わあああん)てなってる二人が扉向こうにいるわけです(愛)。
(2006.10.09)
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