フィルム
『今でもまだお前のこと好きだって言ったら、どうする?』
少し驚いたようにこちらを向いた、その顔。
だいぶ男っぽくなっただろうか。
幼かったあの頃と比べると一緒に仕事をする機会もめっきり減って、久しぶりに見た河合はなんだか少し大人になったように思った。
事実もうすぐ成人を迎えるのだから、それは当然と言えば当然なのだけれども。
今でも記憶の中にいる河合はいつだって無邪気に笑い、自分の名ばかり連呼して、まるで子犬のようにじゃれついてくるのだ。
それはまるで頭の中で淡々と上映される古い映画のようで、最後には必ず同じ結末がやってくる。
セピア色のフィルムの最後は必ず幼い泣き顔。
堪えることもなく泣きじゃくる顔。
とめどなく零れ落ちる涙。
それに拳を握り締めて背を向けた、やはり幼かった自分。
「あー、でも、俺彼女いるもん」
あっけらかんとそう言った河合は、向けられた言葉に対する驚きももはや特に感じさせない。
あの頃の河合だったらきっと、それだけでうろたえて顔を赤くして、その真意を必死に問おうとしただろうに。
「マジで?」
「マジマジ。俺けっこーモテんだから」
「彼氏の間違いじゃなくて?」
「うわーなにそれ、どういう意味?」
軽く細められた目はキラキラと、けれど昔にはなかった鋭い色を帯びている。
図星だっただろうか。
それは、初めて過ごしたあの恋の時間があまりにも濃密過ぎたから。
「お前、男じゃなきゃダメなんじゃないの」
「すっげー言われようだなぁ。普通なら怒るとこだよ?」
「でも怒んないじゃん」
「だって、なんか・・・意味わかんないんだもん」
それでもあの頃と変わらぬ妙に赤くてつやつやした唇を尖らせる。
いつだって意味を、その理由を求めるところも変わらない。
「ヨリ戻したいって意味だよ」
「あっはは!唐突すぎじゃない?それ」
「そう?」
「唐突だよ。だってもう何年経ってると思ってんの?」
何年だろう。
終わったその瞬間からあまり数えないようにしていたから、正直よくわからない。
ただ、壊れた恋が心に膿を作る程度の時間ではあったかもしれない。
「もうさ・・・せっかくいい思い出って感じなのに。なんで今更なの」
パーカーのポケットに手を突っ込んで、どこか呆れたようにすら聞こえる調子で言った。
そして深いため息。
まるで大人みたいだ。
お前にはそんなの似合わないよ、郁人。
「もう一度、俺んとこ来て」
戻って来いとは言わなかった。
だってその手を、伸ばされた小さな手を、先に離したのは自分だったから。
今度こちらを向いたその顔は、もう驚きすらなかった。
似合わない、自嘲めいた、その赤い唇の端だけを上げた笑みがそこにあった。
ただ何かを堪えた瞳だけは隠しようもないようだったけれども。
「雄大くん。一度捨てた奴の、いったいどこが惜しくなった?」
その呼び方だけはあの頃のままで。
END
最近何故か熱いたつふみをイメージのみで。
いやでもやっぱ過去は過去で大きいだろ、とそうも思う昨今でね・・・。
やはりあの旧エビ時代からのフミトの辰巳大好きっぷりもフミヲタとしては一度は通っておくべきではないのかと。
辰巳と同じ高校行きたくてわざわざ家から遠い学校選んだとかね、五河&横河並みの伝説だと思うんだが。
しかしそうは言うても正直こんだけじゃそのイメージすら伝わらない件(笑)。
敢えて言うならなんか、五関さんと横尾さんを足して二で割ったみたいな気配も・・・(寒)。だって結局フミトってこういうのがタイプじゃん(極寒)。
でも一応自分内では二人よりもっと軽いというか軽く見えるというか、硬派と軟派で分けるならどちらかというと軟派路線なんだけどね。もっとバカだしもっと柔軟だし。みたいな。イメージ。なので後日変わる可能性は大ですけど(怖)。
とりあえず私的に、フミトの初めての人(笑えばいい)は、五関説と辰巳説に分かれます。
やはり幼き日のマジ妖精ふみとの心を染め上げて持っていってしまった相手となると、やはりその時一番傍にいた人だろ?という話でね。そうなると五関さんか辰巳だろと。
むしろ辰巳説の方が有力なんじゃないかとすら思うわけで。あの幼い時代に限って言えば五関さんより辰巳かもしれんと。だって雄大くんと郁人だよ・・・!
でもあくまでも幼い日限定であり、フミトが思春期になる時分に道が半ば分かたれてしまったことを考えると、たつふみってあんまりハッピーエンド思考にならないんだよねこれが・・・(笑)。でもだからこそ萌えるとも言えるんだよね・・・。
ていうか普通に続きそうな終わりに。
(2007.10.14)
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