ごっこ遊び










収録後の控え室。
二階堂と千賀がなにやらソファーの上でこしょこしょと話しているのを見て、面白そうとばかりに目を輝かせて近寄ると、わざわざ背もたれを乗り越えるようにしてその間に遠慮なく割り込んで座った男がいた。

「あーヒマーー」
「うわっ・・・なんだよ、郁人じゃん」
「河合くんどしたの?」
「だからヒマなの。てかお前らなにしてんの?」

当然のように二人の肩にそれぞれ手を回し、きょろきょろと交互に顔を窺ってくる。
そういうあんたこそなんで真ん中にくるの。
そんなことを思ったりしないでもなかったけれど、河合のこういう無駄にスキンシップの激しい感じは割といつものことだし、むしろそんな河合だからこそ好きだと思う二人なので特に何も言わない。

「あー、うん、まぁー色々?」
「は?なにそれ?」
「そうそう、色々ね、色々」
「だから、なんだよそれ?」

二階堂と千賀は河合を挟んでお互いに顔を見合わせながら、何か取り繕ようにアハハとわざとらしく笑い合う。
しかし当の河合はなんとなく釈然としないような表情をしている。

「なにお前ら、俺仲間はずれかよー」
「いやそういうわけじゃないって。なー千賀?」
「そうそう、俺らと河合くんはいつだって仲間です!」
「あっそ。ならいいけどー?」

そう言いながら河合が依然として二人の肩に手を回しているせいで、三人は傍目から見るとやたらとべったりくっつきあっていて、それは仲良さ気で周囲からは微笑ましく見える。
河合からしてみれば二階堂と千賀は大のお気に入りの弟分と言った感じなのだが、その実周囲からするとそれは「2グループの末っ子組」というくくりになることを当の河合だけが知らない。

「つーかまじヒマなの、ヒマ。千賀なんかやれよ」
「ええー・・・またむちゃぶりー」
「むちゃじゃないよ。お前ならできる!」
「ええー」

自分のグループではそんなことないのに、なんでうちのグループ来ると途端にこうなんだろう、この人。
いきなりそんなことを言われた当の千賀と、自分の方に振られないようにと特に口を挟まず楽しげにそれを見ている二階堂は同時に思った。

「でも俺、河合くんみたいに芸達者じゃないんで・・・」
「あー、郁人のモノマネまじ面白いよね」
「そうそう、ああいうのとか、俺ないし」
「じゃあ今考えよ!」
「今かよ」
「えええーー」
「あれとか、ほら、千賀の滑らない話!これどう?」
「郁人、それって滑らないとか言いつつ必ず滑るっていう、そういう展開を期待してんの?」
「まじウケると思うんだけど」
「河合くんひどい」
「じゃあなにがいいんだよ。ていうかヒマなんだよお前らなんかやれよー」
「うわーまじ横暴なんだけど」
「なんで俺らに面白いこと期待するの」

構ってもらいたいなら、横尾なり藤ヶ谷なりを探せばいいのでは。
二階堂と千賀は当然のように思う。
しかし恐らくそこら辺のメンツがいないからこそこの二人をロックオンしているわけで。

「んんんー・・・じゃあ郁人、ごっこ遊びしよう!」
「ごっこ遊び?」
「うん、痴情のもつれごっこ!」
「ぶっ!おま、なにそれ?」
「あ、二階堂最近昼メロ凝ってんだよね」
「そうそう、アレ結構はまるぜ」
「そうなんだ・・・ばかだねお前・・・」

思わず呆れ交じりで呟いた河合に、二階堂はキュッと眉を上げて目の前の顔を指差す。

「郁人がヒマだっつったんだろ!」
「あー、まぁ・・・」
「ね、具体的にどうすんの?」
「え、お前そこ乗るのかよ」
「よくぞ訊いてくれた千賀!」
「あれ、始まるの?これ」

でもこの三人でそんな昼メロっぽい展開やって面白いの?と河合は当然のように思う。
けれど二階堂はふふふと怪しげに笑うと、大きく頷いてみせた。

「配役!まず郁人は主人公ね」
「あ、まじで?俺主役でいいの?」
「もちろん、そうじゃなきゃ面白くないもん」
「え〜そうかな」
「んで、俺は身長175センチモデル体型、ちょっとヤンキーっぽくて、チャームポイントは八重歯の役!」
「・・・は?なにそれ?」

その具体的な特徴はなんだろう。
というよりか、それはもしかしなくても物凄く身近にいる人間のことではないのか。
河合が当然のように言うのを敢えて無視して、二階堂は次に千賀を指差す。

「千賀は、身長165センチのちっちゃいのにダンディで、妙に落ち着いてて、ダンスめっちゃ上手い役!」
「ちょ、待って、それってさ・・・」

それらはどう考えても実在の人物だ。
ちょうど今ここにいないだけで、さっきまで話していた二人ではないのか。
展開のあまりの意味わからなさに疑問符をたくさん頭の上に浮かべている河合に、二人は揃って楽しげに笑いかける。

「俺ら、郁人大好きだからさ!」
「は?」
「そう、河合くんが大好きなあまり!」
「あ?」

マジ意味わかんねーこいつらなに?
暇つぶしを求めてやってはきたが、何やら展開がおかしい。
しかもどう考えても二階堂と千賀の役はあの二人だ。
それで何をするって?・・・痴情のもつれごっこ?
なんだそれ。
しかし当然のようにそう思う河合を後目に、二階堂は腕を組んで考え始め、千賀もそれに倣う。

「シチュエーションはどうすっかなー」
「ん〜・・・やっぱ、そっちが先に?」
「だよなー。無理矢理とかなっちゃったりしてな!」
「ええっ、河合くんかわいそう!」
「・・・え?俺がなに?なに??」
「いーんだよこっちはそういう、ちょっと強引に行く系だろやっぱ。勢いあまって」
「じゃあこっちがそれを慰めたりするのかな〜。あくまでもさりげなく?」
「そう!さりげなさ重要!でもそんなん言いつつ、実はあんま裏では余裕なかったりしてさー」
「落ち着いてる振りしてやきもちやいてたりするのかなぁ」
「いいねーそれ!盛り上がる!でも郁人はそんなの知らないから、傷心のあまり、今まで以上にめっちゃ頼っちゃったりしてさ」
「・・・は?俺がなんだよ、だから。・・・傷心?」
「こっちは我慢しすぎて限界になっちゃって、結局同じことしちゃったりするのかな」
「うわーどうしよそんなんなったら、こっちも黙ってらんねーじゃん!修羅場ー!どうする郁人!」
「いやどうもこうも、さっきからなに話してんの?お前ら」
「どっちも好きだから板ばさみで悩むんだよ〜河合くんがんばって!」
「いやだからなにをがんばれって?」

いつのまにやら両側で大盛り上がりしている二人に、河合はもはや若干引いている。
意味がわからないのはもちろんそうなのだが、なにやら自分の与り知らぬところで物凄く変な妄想を繰り広げられている気がする。
いい加減悪寒がするのでここから離れようかと考え始めると同時、二人に腕をがしっと掴まれた。

「郁人、どっちを選んでも、俺らは郁人を責めないよ・・・!」
「河合くん、愛って時に人を傷つけるものなんです・・・!」

いやもう、マジ意味わかんないから。
もはやウザいからお前ら。
陽気もだいぶ暖かくなってきたから、ちょっとおかしくなっちゃったんだな。
河合は無理矢理そう結論づけて立ち上がろうとした。
しかしその前に、二人の身体が河合から離れた。
正確には、引き剥がされた。
自然とそちらを見ると、二人は揃って背後から首根っこを掴まれていた。

「げっっ!わ、わたる・・・!」
「ひゃっ!ごせきく・・・っ!」
「あ、二人ともようやく戻ってきたよー」

河合がどこか安心したようにソファーから見上げた先には、二階堂の頭に拳骨を振り下ろす瞬間の横尾と、千賀の耳を思い切り引っ張っている五関の姿があった。
横尾はさらに二階堂の頭にぐりぐりと拳骨を押し付けながら、五関は千賀の頬を容赦なく引っ張りながら、それでも笑って河合を見た。

「おー、お待たせ。ちょっと時間かかっちゃったんだよ」
「もう終わったから、お前ちょっと先に外出てて」
「ん?そう?・・・てか、そこの二人相当痛そうなんだけど」
「大丈夫だって。むしろちょっと鍛えてるだけ」
「そうそう、若い内は元気だから大丈夫」
「そういうもん?」

でも後ろから容赦なく長い腕にヘッドロックをかけられる二階堂と、白い手に両頬を左右に思い切り引き伸ばされている千賀の様子はあまり大丈夫そうには見えない。

「わ、わたっ・・・ギッ、ギブギブギブ・・・ッ!」
「よーし二階堂、余計なことこれ以上言わないように鍛えてやるから覚悟しろ?」
「ごえんにゃはい、ごえんにゃはいっ・・・!ごへひふんっ・・・!」
「千賀、俺いいこのお前がそんなこと考えてたなんて悲しいな。・・・いいこの千賀に戻ろうな?」
「・・・なんか楽しそうだなー」

いやどこがだよ!
二階堂と千賀は内心だけでおもいきり突っ込んだ。
しかし横尾と五関が揃って笑顔を河合に向けるので、それを伝えることはできなかった。

「河合、外に藤ヶ谷待ってるから」
「あ、まじで?」
「この後四人でビリヤード行こうって話になったんだよ」
「あっ、いいねー!」

じゃあ俺先外出てる!
二階堂と千賀からあっさりと興味を移した河合は、なんだか軽やかな足取りで部屋を出て行ってしまった。

それを見届けた横尾と五関は、互いに顔を見合わせて、また笑った。

「ていうか痴情のもつれとかないし」
「もつれる必要性がないしね」
「そこんとこ教えとかないとな」
「じっくり教えてあげようか」

そんな会話を頭の上で聞きながら、二階堂と千賀は色々と諦めようにため息をついたのだった。










END






ニカフミが最近痴情のもつれごっこしてたからさー(少クラ)。
そしてカツンコンであんまりにもフミトが千ニカの二人にちょっかいかけてて大好きだったからさー。
というあわせ技で生まれたどうしようもないブツです。
フミトは千ニカ大好きで弟みたいに可愛がってて、千ニカもフミト大好きで、でもおにいちゃんてより年上の手のかかる友達って感じ。
しかしそんな二人はそういえばわたごちには頭あがらんじゃん!ていうなんかいろんな萌えが詰まっているような、そんなような。むしろ二階堂は渉の弟、千賀はごっちの弟です。
けど意味はよくわかりません、ていうかむしろ意味はあんまりないです。
(2007.8.12)






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