Heat over skin,and under skin.










『俺、こう見えて昔所属してた少年野球チームではエースで四番だったんだよ』

試合が始まる前そんなことを言った顔は、得意げであり単純に嬉しそうでもあった。
支給された紺色のユニフォームにどこか浮かれ気味で袖を通していたその姿。
それは普段ステージ衣装を着る時のそれともまた違って、どこか懐かしそうで、そのくせ子供っぽいのとはまた違う無邪気さがあって。
付き合いはそれなりに長くなるけれども、そんな表情は初めて見たと思った。

実際、今回の野球大会において河合は東軍の勝利に大きく貢献したと思う。
東軍に集められた東京のジュニアは皆それなりに野球経験が豊富な人間ばかりで、横尾も例外ではなかったけれど。
それでもその活躍は、そんな野球経験豊富なスタメンメンツからしてもなかなかのものだった。
それは一緒にプレーしたメンバーだからこそいっそう感じたことだ。
実際表彰式の際も東軍キャプテンの翼などは、受け取ったトロフィーをおもむろに笑顔で河合に手渡していた。
勿論それは冗談の範疇のことではあるけれども、黒目がちな瞳をきょとんと瞬かせ、小さく笑ってそれを受け取った河合に、翼は「翼賞あげる」とまで言っていた。
それを河合の隣にいた草野と田口が慌てて止めていた光景を思い出して、横尾は思わず笑ってしまった。

・・・さて、そんな翼賞受賞者はどこに行ったんだか。
手早く着替えを終えてロッカールームに視線を巡らすけれども見あたらない。
荷物はまだ手つかずで置いてあるし、何より着てきた私服がまだそこにあるということは、着替えてすらいないということだろう。
引き上げる時にはすぐそこにいたはずなのに一体どうしたのか。
念のためA.B.C.のメンバーに尋ねてみると、何やらロッカールームまできたところで忘れ物に気付いたとかで、慌てて戻ったらしい。
それに納得してそのまま少し待ってはみるけれども、やはり帰ってくる気配はない。

「あー、置いて帰んぞ、もー・・・」

そう呟きつつも、横尾は着替えた私服で、荷物はそのまま置いてロッカールームを後にした。






忘れ物を取りに行ったということはグラウンドのベンチだろうか。
何人かのスタッフとすれ違いつつ、長い廊下を抜けて再びグラウンドに出る。
一応、とグラウンドに上がる階段脇から顔だけをこっそり出して客席を窺ってみるが、どうやら客は皆帰ったようだ。
グラウンド上には後片付けと点検をしている何人かのスタッフがまばらにいるだけだった。
これなら顔を出しても問題ないだろう。

グラウンドを突っ切って東軍が使っていたベンチに向かう。
するとグラウンドの地面からは一段下の奥まった場所にあるベンチの、その中でも一番奥に座っているその姿を見つけた。
なにぼけっと座ってんだ、あいつ。
そんなことを思って近づいていって、横尾ははたとした。
座った状態で軽く上体を傾けて背後の壁に寄りかかっているその姿。
何故か試合中同様に紺色のユニフォーム姿でヘルメットを被ったままの頭は軽く俯き加減になっているせいで、今その表情はよく見えない。
もしかして・・・と思ってゆっくりと近寄り、そのすぐ前まできたところで身を屈め、そうっと覗き込んでみた。
見慣れたその顔は目を閉じ、うっすら開いた唇からは小さく吐息が漏れている。

「・・・寝てる?」

確認するように呟いてみるけれど、反応は特になかった。
本当に寝ているならば反応など返ってこなくて当然なのだけれども。

どうしたものかと思いながら、とりあえずその頭が傾げるように壁にもたれかかっている方の隣に腰を下ろした。
起こした方がいいというか、起こさなければ帰れない。
そうは思いつつ、横尾はなんとなく暫しその寝顔を少し上から見下ろすように眺めた。
そろそろ陽も落ち始める頃で、音がしそうな程長い睫が瞼に影を落としている。
あの意志の強そうな鋭い瞳が隠れてしまっているせいなのか、その寝顔には普段の一見生意気そうな、そして鬱陶しい程に騒がしい印象などまるでない。
むしろその整った顔の造りと、そこに密かに未だ存在する幼さのみが表面に顕れている。
寝顔だけは天使、なんて。
まるで赤ん坊だなぁ、とそんなことを思って思わずおかしくなってしまった。
そしてそんな天使の寝顔を彩るようなふわりとしたダークブラウンの柔らかな髪が、ヘルメットの中からこっそり覗いている様がまた余計幼くみせる。
それは硬質なヘルメットの質感との対比があるからこそ、より妙に甘やかな印象が増すのだ。

しかしそう思えば、同時にますます疑問にも感じる。
何故いまさらヘルメットなど被っているのか。
試合終了後の表彰式では既に脱いでいたというのに。
しかも見ればそのヘルメットは僅かにずれてしまっていた。
どうやら支給されたヘルメットは河合の頭には大きかったらしく、そういえば試合中も出塁したり守備で走ったりする度にせっせと直していたものだ。
横尾もそれを何かの拍子に見て、邪魔そうだな、と思った。
けれど当の本人は直しながらも野球が楽しくてしょうがないのか、そんな直す自分の仕草すらも楽しむように笑っていた。
そこら辺、普段から仕事でもなんでも楽しむことをモットーにしている河合らしいと感じた。

ふと頬を風が撫ぜた。
涼しくて気持ちがいい。
その拍子に、ヘルメットから覗いていた髪がふわりと鼻をくすぐったようで、河合はむず痒そうに小さく声を漏らし身動いだだ。
たぶんヘルメットの位置がずれているからそうなるんだろう。
横尾はそのヘルメットを直してやろうとそうっと手をかけた。
すると、その瞬間に河合の目がうっすら開き、パチン、パチン、と何度か緩く瞬いた。
そうかと思うとすぐ目の前にある存在に気づいたのか、ゆるゆると顔を上げて横尾を見た。
自分の状態にまで意識が行っていないのか、どこかぼんやりと不思議そうな表情。

「よこー・・・?」

完全に寝ぼけ眼だ。
横尾は、はぁ、と呆れたように息を吐き出しながら、そのままヘルメットの位置を直してやった。
河合は判っていないながらもされるがままで、むしろ横尾が直しやすいようにもたれかかっていた壁から上体を起こした。
ヘルメットの位置を直し、そこから覗く髪を指先で軽く整えてやる。
というか、もう被っている必要性自体ないとは思うのだが。

そうしてやってから横尾は硬質なヘルメットの上をぽんぽんと軽く弾くように叩き、改めて言った。

「はい、おはよー」
「あー・・・おはよ。・・・ていうか、寝てた?おれ」
「めちゃくちゃ寝てたし」
「まじかー・・・」
「ていうかお前、こんなとこでなにしてんの?」

ふぁ、と間抜けた欠伸を一つして軽く目をこする。
欠伸のせいで僅かに潤んだ目をまた何度か瞬かせてから、河合は思い出したように笑った。

「あのさ、ヘルメットを忘れちゃったんだよね」
「あ、そうなんだ」
「んでさ、ベンチにあったんだけど、それとったらなんか、また被りたくなってきて」
「なんでだよ」
「だって早々できないじゃん?もうちょっと堪能しとこうと思って」
「そこら辺の思考が意味わかんねー」

確かに河合も横尾も野球経験はそれなりに抱負とは言え、それはやはり一昔前のことであり、今となってはやることなどまずない。
従ってユニフォームやらヘルメットやらを着用する機会もあるわけがないのだ。
河合が言っているのはそういうことなのだろうが、だからと言ってヘルメットをしてそのまま一人寝こけているというのがありえない。
しかし河合からしてみればそこには一応の理由もある。

「ヘルメットかぶったら、なんかまたやる気になってきてさ」
「やる気ー?」
「そうそう、野球やりたくなってきて!」
「さっきやったじゃん」
「全然たんない」
「一人野球かよ」
「でもさすがにそれは無理だから、グラウンド一周走ってきた!」
「うわ、お前、さむっ」
「なんでだよ。さむくないよ」
「さみーまじさみー。・・・ていうかそんで、なんで寝てんだよ」
「これがさ、グラウンド一周って意外と距離あんのな!疲れるのなんのって!」
「バカじゃねーのお前・・・」

そうしてかいた汗を乾かすためにベンチに座り、少し風に当たっていこうと思っていたらうっかり寝てしまった、ということらしい。
らしいと言えばらしいが、横尾からしてみれば、待っていた自分の身にもなれと思う。
しかしそんなことはお構いなしで、河合は位置を直してもらったヘルメットを指の爪先で硬さを確かめるようにカツカツと軽く叩いた。

「あー、でもヘルメットしたまま寝てたらなんか頭あつー」
「当たり前じゃん」

バーカ、とそんなことを言いつつ、横尾はそのヘルメットに再び両手をかけてその頭からゆっくりと外す。
頭から持ち上がったそれがなくなって、さらされた頭をちょうど穏やかな風が撫ぜた。
ダークブラウンの柔らかな髪がその風合いそのままに揺れ、伸びた襟足を舞わせる。
その風になびく髪が目にかかるのが鬱陶しかったのか、目を細めてその比較的小さな手で払いのける様を横尾はなにとはなしに見つめた。
一瞬伏せられた瞳が再び開き、黒目がちな瞳が瞬きながら自然と横尾を見上げる。
その一連の流れになんだか妙に惹きつけられた。
手にしていたヘルメットを脇に置くと、横尾はそのまま身を屈め、うっすら開いたその唇に自分のものを寄せる。
すると自然と、まるで当然のような仕草で瞳が閉じられる。
口づけはまさに触れ合うだけの代物だったけれど、触れた先から妙に熱を持って、何故だか胸の奥の鼓動を逸らせる。
そろそろウブな年頃でもないとは思うけれど、横尾にとって河合とするそれは何故かいつでも妙な衝動を沸き起こらせるのだ。

唇が離れて、再びその瞳が開いて。
けれど見下ろしたすぐ先で、河合は何か言いたげな瞳でじっと横尾を見上げてくる。
そのくせいつも溢れるように饒舌なあの言葉はまるでなく、ただ今度は向こうからその細い腕が伸びてきた。
ストイックとも言える、何の変哲もない紺色のユニフォームの袖に包まれたその腕。
けれどそれなのに、その動きは確かに纏っているもののストイックさとは反するような動きを持っているように感じた。
横尾の肩に絡むように回ったその腕と同時、ねだるように呟かれた言葉。

「なー、しよっか」






そこは西軍が使っていたロッカールームだった。
西軍は関ジャニ∞を中心とした関西ジュニアで構成されていたから、帰りの新幹線の都合上、そこはとっくにものけの空で好都合だった。
・・・とは言え、いくらなんでもこんなことをするには無謀な場所だということはよく判っていたのだけれども。

「はぁ、っ・・・はぁ、よこ、・・・よこお・・・」

決して狭くはない部屋に響く声は、確かにその時特有の媚びを孕んで濡れている。
さっきからもはや閉じられなくなった唇から荒い息と掠れた声が漏れるのを、時折受け止めるように唇で塞ぐ。

「んッ、・・・ん、はー・・・」

すると触れる度ぴくんと戦く身体をその長い両腕で抱き留めて、横は既に露わになっているその肌に滑るように指先で触れる。
部屋の一番奥にあるトレーニング機器の傍に置かれた長椅子を跨ぐように座り、河合の身体を正面から抱っこするような形で膝の上に跨らせていた。

河合は未だユニフォームを身に纏っていたが、既にそれは半分以上脱がされてしまって見るも露わな状態だ。
紺色の上着部分は既に前のボタンが全て外れていて、その袖口も両方とも二の腕の辺りに絡みついているだけになっている。
下は下でベルトは既に抜き取られて床に放られてしまい、右脚の部分だけが膝にまとわりついて横尾の太股の上にある。
もはや着ている意味などまるでない。
むしろ早く全て脱がせてしまった方が早いのではないかと思う程。
けれど既にそれすらも面倒だというのが河合の気持ちで、またそんな乱れた状態にかき立てられるというのが横尾の気持ちだったから、特にお互い脱ぐ様子も脱がせる様子もなかった。

戯れのように何度も啄むように唇を合わせる。
吐息が混じってそれらに急かされる。
それからようやく唇が離れると、河合はうっすら紅潮し始めた頬を隠しもせずにじっと横尾を見上げ、小さく唇を突き出した。
その様子に横尾は眉を上げて怪訝そうな表情を見せる。

「ん?なんだよ」
「あっつい・・・」
「あー、汗かいてんな」

そう言って額に触れるとしっとりと湿っていた。
そしてそれ以外の肌にも直接触れれば、やはりそこも同様で。
額以外の場所、そこは胸元だったり太股だったり、触れられる度に小さく反応しては熱い息を吐き出しながら、河合は目元を染める。

「うー・・・あついー・・・」
「我慢しろよ。お前がしたいって言い出したんだろ」
「シャワー入ればよかった・・・ベタベタする・・・」
「俺だって同じだっつの」
「・・・よこお、さ、」

文句の多い奴、と呆れている横尾を再び見上げて、河合は小さく身動ぐと僅かに伸び上がるようにしてじっと見つめてきた。
そう言っていた割に、その瞳の奥にはからかうような色が映っている。

「今日、なんか早くねー?」
「・・・普通だろ」
「普通じゃないってー。なんかいつもより早いもん。がっついてる感じする」
「そりゃお前だろ」
「俺はいつものことじゃん」
「それは認めんのかよ。うぜーな」
「だって・・・・・・っん、ぁ・あ・・ッ」
「お前うるさい」

呆れたように言いつつ、既に立ち上がったその下肢の中心に躊躇なく指を絡めてやる。
そのくびれの部分に指先を滑らせるように刺激してやると、河合は直接的なその感覚に途切れ途切れに声を漏らし、目の前の胸にギュッとしがみつく。
微かに震える薄い肩が見えて、横尾は片手を背中に廻して抱き込むようにその身体を引き寄せる。
そしてそれとは逆の手、その人差し指と中指を自らの舌で軽く湿らせた。

「あんま時間かけてらんねーし」
「ッ、・・・よこ、・・・」
「まさかいきなり挿れたりとかしないけどさ」

言いながら、湿った自らの長い人差し指を、さっきから戯れ程度で触れていた後孔にゆっくりと差し込む。
侵入してくる確かな感触に、河合は否応なしに反応しては、横尾の脚と脚の間に片膝をついては伸び上がるように肩口にしがみついた。

「・・・っは、ぁ・・・んッ」
「慣らすからじっとしてろよ」
「ん、・・・うん・・・・・・はぁ、・・・はぁ」

自然と耳元に感じる熱い息遣いに、横尾もじわじわと下腹部から沸き上がるような衝動が強くなる。
支えるために背中に廻していた手をそのまま辿るようにして、腰、そしてその下へと滑らせていく。
全体的に身体のパーツが小造りな河合はやはりその臀部も小ぶりで、大きな横尾の手を持ってすればつるりと一撫で出来てしまうくらいだ。
ストイックな何の変哲もない、むしろ少し泥に汚れた白い布から露わになっているそれは、やはり普段陽に当たらないせいもあって他の部分よりも白い。
そのコントラストがなんだか妙に背徳的な気分にさせる。
片手でそれを割開かせるようにしながら、もう片方の手・・・人差し指だけを差し込んだそれの、今度は中指も同様に差し入れた。
ビクンと一際大きく震えて肩口に顔を埋めてくるのを、両手がもう使えないから顎先で宥めるように上から押さえつける。
そうして差し入れた二本の指で襞の奥をかき分けるようにして広げていく。
その度河合は掠れた甘くハスキーな声を漏らし、時折目の前の横尾の首筋に歯を立てるのだ。
それは感じる快感の度合いによって強さを増すらしく、横尾からしてみればそれは時として結構な痛みを伴う場合がある。

「ちょ、・・・っいて、いてーって」
「ぁ、・・あ、ッうー・・・だって・・・」
「そんなきつい?」
「きつくは、ない・・・」
「じゃあ我慢しろよ」
「やだ・・・」
「やだってなに」
「がまん、できないもん・・・」

理由になってないだろ、とは思いつつ。
横尾は差し入れたのとは逆の手で河合の顎を掴んで自分の方を向かせると、噛みつくように口づける。

「ンッ・・・」

唐突なそれは今の河合が応えられるような生やさしいものではなくて、反射的にギュッと目を瞑ると、奪われる呼気をせめて取り戻すように喘ぎながら目の前の肩を掴む。
けれどそうしている間にも、胎内を探るように動く長い二本の指が、奥の襞をひっかくように刺激してくるから河合の身体はその度大きく震えて、手の力すらも段々と入らなくなってくる。
そうしてしがみつく力すら奪われてパタンと落ちてしまった片腕からは、申し訳程度に絡みついていたユニフォームの袖も滑り落ちてしまう。
ハラリと目の前を踊った紺色のそれを視界に映し、そこで横尾はようやく唇を離してやった。

「ふ、ぁ・・・っはぁ、はぁッ・・・」

顔を真っ赤にして、潤んだ目をパシパシと瞬かせる。
その身体はすっかり横尾にもたれかかるようにしてだらりと力ない。
目の前で揺れるダークブラウンの髪を緩く撫で、横尾はそのまま顔を覗き込んで笑う。

「あー、もうくったくたじゃん」
「なん・・だよ・・・。はやいし・・・なんか、ごーいん、じゃね・・・?」
「だーから、時間かけらんないんだって言ってんだろ?」
「・・・・・・ふぅん。じゃあ、はやくしよ・・・」

そう小声で呟いては、河合はそのまま横尾の胸にぽふっと顔を埋めてしまう。
それに横尾が怪訝そうな顔をして覗き込むように頬をつつくけれど、それには無言で頭を振るだけ。
自分で誘ってきといてなにその態度、と一瞬思う。
けれど確かに言うように、いつもより性急ではある。
それは言葉通りこんな場所で長々と時間をかけていられないせいもあるし、それ以外の理由もある。
さっきは自分で「がっついてる感じする」なんて言っておいて、実際あまりちゃんとそれを理解していないのだろうなと横尾は思った。
恐らくは時間に追われて早急になる、というある種心理面の外にある理由が気に入らないんだろう。
そう、いつも散々誘うだけ誘う割には、そこに心が追いついていないと感じると拗ねるのだ。このわがままな恋人は。
それはきっと根本的な部分で判っていないからだ。
そして、お前の方が好きじゃん、なんて無邪気に笑ってみせるくせに、実際したいのは自分の方だなんて、そんな馬鹿なことを思っているからだ。
だから河合は判らないんだ、と横尾はこんな時思う。

いつだってその全部に煽られて、情動を突き動かされて、時にめちゃくちゃにしたい衝動を抑え込んで抱いてる、なんて。

ぴたりと動きを止めてしまった横尾を軽く訝しんでか、おずおずと顔を上げて覗き込んでくる表情には疑いがない。
気持ちなんて不確かなものはろくに信じられないくせに、横尾自身に対してはある種絶対とも言える安心感を抱いている。
横尾は自分に酷いことをしないと何故かそう思っている。できないと思っている節すらある。
それは捉えようによっては甘えているとも言えるのだろう。
それはなんだかとてもくすぐったく、それこそ同時に自らの欲を露わにしてぶつけるのを躊躇わせもする理由であるのだけれども

「・・・よこお?」

ぽつん、と呟かれた自らの名。
状態が状態だからどこかいとけなく響くそれに、ますます沸き上がる衝動に突き動かされる。
まさか親友にこんな気持ちを覚えるなんて思わなかった。
幼い頃からずっと一緒にやってきた大事な人間にこんなことを思うなんて。
けれどそうは言っても今更この気持ちは否定できない。

片方の裾が既に脱げ落ちてしまい露わになった肩を抱いて、そこに唇を落としてきつく吸い上げる。
その皮膚の下にある熱とか気持ちとか、全部を自分の中に取り込むようにして。
途端にまた息を飲む身体をぎゅっと抱き竦めると、差し入れていた指を一気に引き抜いた。
それに続くのが何か、もう判らない河合ではない。
だから反射的にヒュッと息を飲んで身を固くした。
否応無しの緊張を解すように柔らかく頬に口づけると、再びおずおずと窺ってくる紅潮した顔。
上がると同時に唇を合わせてやる。
けれど今度はすぐに離し、吐息が届くくらいの距離で横尾はそっと囁くように漏らした。

「ゆっくりとか、マジ無理だから」
「ん、だから、いいよって・・・」
「お前が思うよりずっと、そうなんだよ。・・・わかんねーだろうけど」
「ん・・・?」

別に判らなくたっていいんだけど、と内心だけで付け加える。
けれど、余裕があるとでも思ってるんだろうか。
あるわけがないのに。
あるとすれば、そっちがそう思ってるだけ。
あとは・・・うっかり壊してしまったりしないようにと、ただその気持ちがブレーキをかけているだけ。

そうしてゆっくり髪を撫でる。
河合はその感覚に気持ちよさ気に目を細め、自分の髪に触れる横尾の手を自分からとって緩く握った。

「なんかー・・・おまえ、すっごい顔、してる・・・」

ぽつんとそんなことを呟いた顔は、ぼうっと熱に浮かされたみたいな表情だった。
実際赤い顔でじっと見上げてきては、微かに雫に濡れた睫を瞬かせてその黒目がちな瞳にただじっと横尾を映す。
横尾の膝の上にぺたんと跨ったままに、既に身に纏っていたユニフォームは片腕と片脚に絡みつくだけだ。
露わになっている肌のところどころには赤く鬱血した痕があって、けれどそんなものを気にした様子もなく、ただじっと何かを待つように見つめてくる。
そして痕を残してはまずいと思ってそこだけは触れていなかったまっさらな首筋。
肩から二の腕まで一線の滑らかなラインを描くそこが否応なしに目に入ってくる。
横尾はその首筋に長い指を伝うように滑らせると、そのまま引き寄せて唇を寄せた。
そして吸い上げるでもなく、その尖った特徴的な八重歯を軽く立ててみせる。
さすがにそれには小さな抵抗があった。

「ッ、よこ、・・・だめ、そこは、見えるってっ・・・」
「・・・なー、ふみと」
「ん・・・っん・・・?」
「俺さ、すっげー食いたいの」
「よこ、・・・・・・わた、る?」

まるで吸血鬼に噛まれてるみたいだ、なんて思いながら。
河合は横尾の伸びた後ろ毛をキュッと掴んで顔を窺う。

「めちゃくちゃ食いたいの。・・・お前、やっぱうまそうなんだもん」

首筋に歯を立てていた顔を上げ、今さっき河合の肌に食い込んでいた八重歯を見せて笑う。
すると河合は特に言葉もなく、顔を染めていた赤の色を更に濃くして、ただこくんと頷いた。
今、確かに伝わってきた、と河合はじんわりする胸の内を持てあましながら思った。

自分に対して過ぎるくらいに真っ直ぐな愛情をそうやって向けてくれるから。
わがままにそれを欲しがる自分にそれをちゃんと見せてくれるから。
だから、河合はあの時、こっち側でいいと・・・こっち側がいいと、躊躇うことなくそう言ったのだ。

「・・・たぶん、ね」
「ん?」
「いまが、たべごろ」
「あー、だよな」

本気で照れるとカタコトになることはよく知っている。
横尾はそんなことを思って笑うと、すっかり熟れてしまった身体を片手で引き寄せて、果実の最後の皮を剥くようにユニフォームの裾を落とした。










END






まずこの設定はなんだよというのを説明すると、一昨年?にやった野球大会。アレですよ。
元々西軍目当てで去年頃見たのを最近になって見返してみたら、うっかり可愛いあの子たちが東軍にいたっていう(笑)。
もー・・・ね、今度感想はみっちりうざく書きたいと思いますが、そのユニフォーム姿のフミトがありえないくらい可愛くって!
私今までで一番萌えたフミトだったよ・・・野球ユニフォームフミト・・・(どうなの)。
だもんだから、ちょっとユニフォームプレイとかいいじゃない・・・と悶々しはじめたらどうしようもなくなったのでした。
実際にはプレイになってないけど。しかももっとエロくしたかったんだけど!・・・途中で飽きたました(ダメ)。
五河と横河で迷ったんだけど、やはり野球なら横河だなと。横河は両方スタメンだったしということで。
しかしうちのフミトは五河でも横河でも確実に自分から誘っていくなー・・・(遠い目)。そのくせ本番になるとダメなの(あーあ)。
やーでも横河ってなんかほんと書いてて楽しい。
(2006.9.22)






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