膝の上のヒミツ










うーん、と一つ軽く唸って河合は呟いた。
目の前には少し下にある二階堂の一見強面のきつい顔。

「二階堂って、変わってるよな」
「え、そう?」
「うん。今改めて思ったわけ」
「はぁ。そうかな」
「うん。ていうか重いとか言わないし」

そんなことを言う河合は目下二階堂の膝の上。
そこが椅子だと言わんばかりに平然とした様子で腰を下ろしている。
人を膝に載せたことなどない二階堂としては、思う以上に顔が近づくもんなんだな、となんだか妙に感心して思ってしまった。

「いや、まぁ割と重いは重いんですけど」
「あ、じゃあ退く?」
「別に平気だけど」
「オットコマエー」
「まぁね」
「ヒュー!そこで否定しないのが二階堂って感じー」
「イエー!そこで退かないのが河合くんって感じー」

そのテンションに合わせてノってみせるとあからさまに喜ぶのが、なんだか子供みたいだ。
膝に座った上に更に肩に手を廻してきて、そんな風に楽しげに笑われたら続く言葉なんて所詮形だけのものにしか聞こえない。

「やー、でも退けって言われれば退くって、だから」

でも退けって言われなきゃ退かないんでしょ?
むしろそっちの方が大概変わってる。
ああでも、思えばこんなのは割といつものことなのか。
親しい人間には過剰な程にスキンシップを好む人だから、と二階堂は小さく頷きつつ思った。

「河合くんて」
「んー?」
「人を勘違いさせるタイプ?」
「はぁ?なんのこと?」
「すぐベタベタするから」
「えー、なんだよー。それけなされてんの?」

軽く眉根を寄せて怪訝そうな顔をされて、二階堂は大きく頭を振る。

「違うって。だからー、なんかめっちゃ好かれてんじゃないかって、相手が勘違いしちゃうってこと」

こんな風に近い距離で、当然のような顔でくっついてきて。
間近で見ればなんだかやけに綺麗な顔をもったいなくも崩して屈託なく笑う。
そんなのを見せられたら大なり小なり勘違いはすると思う。
自分は、自分達は、まだそこまで大人ではない。

けれど河合はそれを意に介した様子もなく、いつものように甲高いトーンで弾けるように笑うだけ。

「あはっ、なんだよ、そんなの初めて言われたよ!」
「えー、そう?」
「やっぱ面白いなー二階堂」
「まぁ、上から日々鍛えられてますから」
「だよなー。いいな、いいな!」
「なにがいいの」
「俺も二階堂鍛えたい!」
「や、もうこれ以上はいいんで」
「でもさー、元々は俺らの弟分だったのにさー?」

そう、元々フット2の四人はA.B.C.の弟分だった。
でもその頃はさほど親しくしていたわけでもないから、むしろ今の方が兄貴分・弟分という関係性は強くなっている気がする。
それは恐らく年上組が親しくしていたからだろうということを二階堂はなんとなく理解していた。
言うのは自分に有利にならないと思っているから言わないけれども。

「でも、今も似たようなもんでしょ」
「まー・・・そうかな。キスマイは面白いよな」
「ひとくくりかよ」
「だって俺キスマイ好きだよ」
「あー、それそれ」
「は?」
「勘違いするから絶対」
「勘違いなの?」

すぐには否定せず楽しそうにしている顔がまたそれらしいと思うわけだ。

「勘違いだよ。宏光とか渉とか太輔とかさー」
「ぶっ!その三人が勘違いなんだ?」
「じゃあ河合くんはあの三人好きなの?」
「や、でも、好きだって。決まってんじゃん。なにげに付き合い長いよー?あいつら」
「好きって気持ちは年月じゃないね」
「うーわカッコイイ。二階堂やばいカッコイイ」
「でしょ」
「でも若干寒い。北山みたいになるよ」
「・・・精進します」
「あはは!やっぱ二階堂面白いな〜」

人の膝の上できゃらきゃらと笑う。
躊躇いもなく肩に凭れかかってきては、平気で息がかかるくらいの距離で。

本当は、たぶん、その言葉に嘘がないことは二階堂もなんとなく感じていた。
別に勘違いってわけでもない。
みんな好きなんだろう、本当に。
でも、だからこそ、なんだかひどく難しい気がする。

「ね、河合くん」
「ん?」

自分の肩に廻された細い腕を感じながら、自分からも腕を回してみる。
傍目から見ると肩を組んでいるような状態。
河合はやはり特に気にした様子もない。
だから逆を言えば、たぶん気にさせることが第一歩なんだろう。

「好きって言ったら、どうする?」

目の前で黒目がちの瞳が何度か瞬くのが見えた。
特に言葉はなく、距離を置かれるでもなく。

「・・・んー、二階堂ってやっぱ変わってるよなぁ、って返す」

そんなことを平然と言いながら、ごろりと更に体重をかけてもたれかかられる。
やっぱり手強いと思わざるを得なかった。
二階堂はされるがままで軽く眉根を寄せた。

「俺、そんな変わってんのかな」
「結構だよお前」
「うそ。でもそんなのしょっちゅう言われてんじゃないの?どうせ」

実際言われているのを見たことがあるのだから。
でも少なくとも一度もこんな返しはしていなかったように思う。
むしろ「俺も好きー」くらいのことは言ってのけていた。

「なんかお前だと変な感じするよね」
「変な感じって・・・差別じゃねー?」

そりゃ、ちょっとばっかりマジ入ってるけど。
そんなことはどうせ伝わりはしないだろうから、と二階堂はそろそろ膝の痺れを感じながら思った。

「えーと。河合くんすきー」
「変な二階堂ー。っていうかさっきより若干棒読み気になるよそこー」
「そこはこれから頑張るってことで」
「・・・やっぱ、へーんなの」

痺れる感覚の中で感じた小さな違和感。
いつものようにべったりとくっついて笑う中で、肩に廻されたその手がふとした拍子に首筋に触れる。
その指先が妙に熱くてドキリとした。
ただそれだけのことと言えばそうなのだけれども。

ただそれだけのことが大事なことであると、そう二階堂が気付くのはもう少し先の話。










END






ニカフミが密かに熱い昨今!ついにやった!
やはりあのお膝はまずかったよ・・・。うん・・・。
ニカちゃんは基本受けだと思うんだけど攻めでも格好良くて好きです。
ていうか私的に渉とニカちゃんは攻めでも受けでもおいしいときめきっ子だよ!
そしてこれは実はさりげに両思いなんだよ、ていう感じで。
(2006.9.3)







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