ハニーミルク










ベッドからむくりと起きあがる。
眠い目を擦りながらベッドサイドに置かれた時計を手に取り、小さく欠伸。
そろそろ起きて朝ご飯・・・とぼんやり思いながら、河合は跳ね上がった自分の髪を撫でつけるように触れる。
柔らかな髪は癖があって、こうして朝起きた時は大抵凄いことになっている。
顔は洗わずとも髪だけはなんとかしなければ近所のコンビニにも行けない。

そうしてひたすらに髪を片手でいじりつつもう一度欠伸をして、朝食の献立を考える。
献立とは言っても、トーストを焼いてスクランブルエッグを作り、昨日買ったオレンジでも切って、ついでに牛乳を出すという程度のものだ。
ああでも、牛乳の量があまりなかったから、どうせならフレンチトーストにして、ベーコンを焼くのもいいかもしれない。
それならあとトマトも切ればバランス的にもいいだろう。

そんなことを考えている内に目も段々と覚めてくる。
河合は意外と眠りが浅くて朝には割と強い。
だから朝食は基本的に河合の当番になっているのだ。
というよりか、河合がやらなければ朝食は用意されないのだから致し方ない。

軽く欠伸を噛み殺し、さて顔を洗って来ようか、とベッドから降りようとした。
けれどそれは叶わなかった。
不意に後ろから腰に腕が廻ってきたからだ。

「・・・五関くん?起きた?」

隣で身動ぎ一つせず眠っていたと思ったのだけれども。
河合が思わず振り返れば、そこには依然として白いシーツに突っ伏した黒い頭がある。
その腕だけを河合に伸ばして、まるで引き止めるように絡めているのだ。
呼びかけた声には反応がなかった。
だから寝ぼけているのだろうか、そう思って河合はやんわりとその腕を外させようとした。
けれど存外に強く廻ったその腕は外れない。

「五関くーん?起きてんの?」

起きてるなら起きてるで反応くらいしてよ。
河合は思わず呆れたように思って、廻った腕をぺちんと軽く叩いた。
すると、それにもぞりと一度身動いで、廻った腕が一本から二本に増えた。
けれどやはり特に顔が上がることもなく、それ以上の反応はない。
完全に腰にしがみつかれた状態になって、河合は思わず自分の体勢を改めて確認すると、なんとなく視線を彷徨わせる。
もう一度廻った腕に指先で触れつつも、躊躇うような仕草を見せた。
これは案外珍しくもない光景であったりもするのだけれども、それでも普段の恋人の姿を考えれば、だいぶギャップのあるものであることは確かだ。

「・・・起きてんでしょ」

両腕が廻されたことによって、その黒い頭がすぐ傍にある。
河合は髪を撫でるように何気なくその頭に触れながら、少しだけ身を屈めて呟いてみた。

「寝たフリとかかっこよくないよー」

白い耳をツンツンと軽く引っ張ってみる。
するとさすがにその顔が緩慢に上がり、予想通り眠そうな顔が向けられた。
けれど確かにやはり起きてはいるようだ。
それは言ってしまえば、なかなか起きあがれなくてベッドの中でぐずっているような状態。
その顔に河合は思わず笑ってしまった。

「ねっむそーな顔。まだ寝てていいよ?俺ご飯作ってくるから」

だからちょっと離して、と再度腕を外そうとした。
けれどその手は、不意に緩く掴まれた。
そして眠気に掠れた声。

「・・・まだ、いい」
「まだって・・・なんでー」
「いいったらいい」
「えー、でも、朝ごはん作らなきゃ」
「いい。まだお腹空いてない」
「いや俺は空いたんだけど」
「いい」
「ちょっとー・・・」

完全なる駄々っ子なんですけどこの人。
河合は内心呆れつつ、普段なら絶対に見せないであろう、純粋なわがままを言う恋人になんとなくほだされかけていた。
自分にしがみついて、眠そうな顔で駄々をこねて、なんて。
他の人間が知ったらどう思うだろう。

「だからさ、俺作ってくるから五関くんはまだ寝てていいよって」
「よくない」
「なんでだよー」
「郁人」
「・・・なにー」
「いいから、ここにいろって」

不機嫌というよりか、むしろ拗ねたようなという表現に近い。
そしてそんな調子で言ったかと思うと、自分の腕を回した腰を更に引き寄せるようにして、河合の膝の上に頭を載せてしまう。
こうしてしまえば動けないだろと、そんな風に。

当然のように載せられたその重みに、河合は耳がじわじわと赤くなるのを自覚せざるを得なかった。
そしてそれは当然相手にも予想されていて、ふと視線がそちらに向いたのが判る。
もうこうなってしまうとそれ以上なんてできなくて、誤魔化すようにぼやくしかできない。

「・・・あー、もー、ごはんー」
「ちなみに、今日はなにすんの?」
「あ、フレンチトーストにしよっかなーと」
「じゃあ、後で作って」
「もー・・・後っていつだよ」
「俺が起きたら」
「・・・今起きようよむしろ」
「やだ」
「もー」
「郁人」
「なぁにー」
「郁人」
「はいはい」
「こっちおいでよ」

膝に頭を載せたまま、片手を伸ばされたかと思うと顎の辺りに触れられた。
それに思わず身を竦ませると、今度は耳朶に触れられて。

「郁人、真っ赤」
「・・・五関くん、朝から触りすぎ」
「そう?お前触り心地いいから」

そう言って今度は髪に触れられる。

妙に駄々っ子だったり、わがままだったり、名前をたくさん呼んだり、触りたがりだったり。
河合にだけたまに見せるそんな顔。

「なんかもー、ストイックのかけらもなーい」
「ストイック?なにそれ食べられんの?」
「やだー、五関ファンが泣くよー?」
「お前が泣かなければいいよ別に」
「・・・もう」

さらっと殺し文句を言ったり。
そんな河合にだけたまに見せる顔。

そうして河合は胸を満たす甘すぎる感情に、赤くなる耳をどうにもできなくなる。
それに愛しげに笑んでは、頬を撫でるように触れる手の白が対照的な程に。

「ははっ、お前ほんと真っ赤。茹であがっちゃってんじゃない?」
「・・・朝からやたら可愛いとこ見せて、やたらめったら触る人にメロメロなのー」
「メロメロか」
「ずるいよね」
「俺もだからいいじゃん」
「・・・もう、ずるいよ。ずるい」
「ずるくていいからもう暫く寝よ」

そう言って頭を抱き寄せてくる腕の感触に、なんだか幸せすぎて泣きたくなる。
けれどそれは欠伸のせいだということにしておいて、抱き寄せられるままに目を閉じた。

「次起きたら、今度こそごはんだからね・・・」
「そしたら今度は手伝ってやるよ」

耳元に感じる声と息に、もう少しだけ甘い微睡みを。










END






あっまー!
というかごっちー!みたいなね。みたいなね!
フミトの前でだけゆるゆるごっちを書いてみたかったのでした。むしろフミトに甘えるごっち。キュン!
むしろそんなごっちのダメっぽいとこがまた可愛くて好きでどうしようもないフミトだといいと思う。メロメロ!
でもごっちもフミトにメロメロ。甘えたい。可愛いふみきゅんに甘えたいごっち(もはや語感と響きのみ)。
ブハーーー我ながら頭がおかしいとしか思えませんがそんなラブラブラブラブした五河がブームです。
むしろコレ新婚くらいな勢い!
(2007.5.14)






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