たとえ何度繰り返しても










面影は十分に残しつつもまだあどけないその顔が、そこにある。


五関はベッドの上にあぐらをかいた状態で、微動だにせずテレビのディスプレイを見つめていた。
テレビの下にセットされたプレイヤーには、2年程前に先輩のバックで出演した舞台を収めたDVDがセットされていて、今となってはもはや懐かしい、まだ少し幼い自分達の映像が映し出されている。
中でも一際幼いと感じるのはグループで一番年下の河合だ。
それもそのはずで、何せこの時の河合はまだ16歳かそこらなのだから。

今よりも一層細い身体はまだ筋肉も未発達で、少年特有の危うげなラインを描いている。
黙ってさえいれば美少年と言っても差し支えない顔は今に面影を十分残してはいるものの、やはり柔らかな丸みを帯びた頬や、ふとした拍子に見せる無防備な表情はあどけないとしか言いようがない。
ただ今と全く変わらないものがあるとすれば、それはその大きな瞳。
ステージ上で一際光を放つ、あの意志の強そうな鋭い眼差しを宿した瞳だけは、この頃からまるで何かの宝石のようにキラキラと輝いている。
けれどやはり動きや仕草を含めた全体的な感想で言えばやはりそれは幼いとしか言いようがなく、だからこそやたらと強い輝きを放つ瞳が逆にその存在を危うく見せる。

ほんとに、まだ子供だな。

五関は延々と流れるその映像の中そこで踊る幼い河合を見て、どこか感慨深げにそんなことを思う。
もちろん時の流れが全てに等しいことを考えれば、自身とて今と比べて幼いことに変わりはないのだけれども。
ただ昔から見た目に関して言えばあまり変わらない五関と比べてしまうと、そこにはだいぶ差があるだろう。
それに、16歳から18歳の2年間と、18歳から20歳の2年間では、やはり絶対的な違いがある。
年若ければ若い程に2年の歳月は大きいのだ。
そしてそれは思う以上に長い。
無垢で、文字通りまだ誰の手垢もついていなかったその身体に、もはや何の躊躇もなく自らの印をつけるようになるくらいの、そんな歳月。


『俺ね、ずっと前から五関くんのこと、好きだったんだよ』

精一杯の様子でそんなことを言った時の顔をよく憶えている。
やたらと必死で、もはやちゃんと喋れていなくて、普段の度胸はどうしたんだよ、っていうくらい。
幼い顔立ちが日々凛々しく整っていく様を間近で見ている中でも、そんなことを言った時のその表情はやっぱりどこか幼かった。
まるで産まれてたの雛がようやく生え整いかけた翼をおずおずと広げるにも似たイメージ。

刷り込み現象、なんて。
上手いこと言ったもんだな、となんだか妙に冷静に思ったものだ。
幼い雛にとっては目の前にあったものがその世界の全てになる。
それは実際には親鳥でなくてもいい。
ただ一番近くにいて、いつだって一緒にいて、その伸ばされた手を握ってやれさえすれば。

別に自嘲しているわけでも、後悔しているわけでもない。
そんな感情は抱くはずもない。
むしろまだ足りないくらいなのだから。
ただこうしてまだ自分が触れていなかった頃の幼い河合を見ると、こうして物思う時がある。
自分は意外とセンチメンタリストなんだろうか。
思った傍からそんな自分がおかしくてしょうがなったけれども。


ほんとは俺の方が先だったんだよ。
・・・なんて言ったら。
お前はどんな顔をするんだろうな。

きっとそれでも今となれば何も変わりはしないだろうけれども。
たぶん、言ったところで少し照れた様子で、そのくせ嬉しそうに、「なんだ、そうだったんだ」なんて言うだけだろう。
確かに結果としては、どちらが先かなんて大した違いではないのかもしれない。
しかし過程としての2年は大きいのだ。
ましてやまだ16歳だった河合と、既に18歳も過ぎようとしていた五関とでは、そこに横たわる歳月の大きさは違う。
自覚している者としていない者の差がより一層それを大きくする。

きっともっと、他にいくつも選び取れる道がそこにはあったはずだ。
けれどもこの道しか見えないようにした。
同じグループだから、いつもコンビを組んでいるから、危なっかしくて放っておけないから。
そんな当たり前のような理由を盾にして。
そこまで弱くも愚かでもないことは十分に知っている。
ただ自分がそれ以上に狡かっただけの話だ。
もしかしたらそんな思考は驕りだと言われるかもしれない。
しかし事実として、その大きく強い一対の宝石は、まだ誰も触れていないこの頃から既にずっと自分だけを見ていた。
そうなって欲しくて、そのもっと前からずっと見ていたから。


理由なんて簡単すぎる。
その宝石があまりにも綺麗で、どうしても欲しかっただけ。



「・・・ごせきくん?」

背後で微睡んだような声がした。
ゆっくりと振り返ると、自分の隣に転がって眠っていた顔がやんわりと持ち上がり、眠たげに瞼をこすりながらこちらを見上げていた。
いつもキラキラしたその瞳が今はどこかぼんやりと霞んでいて、とろとろと今にもまた眠ってしまいそうに揺れている。
五関はそれにふっと笑って軽く頭を撫でてやった。

「まだ寝てていいよ」
「ん、・・・なにしてたの?」
「DVD見てた」
「あー・・・なんか懐かしいの流れてるなー・・・」
「2年前くらいかな」
「うわーおれ若いなー・・・」
「まだ子供だよ」
「なんか見る度に言うよね、それー・・・」
「子供過ぎて笑えるから」
「でも子供は子供なりに色々考えてたんだからね、これでも・・・」
「そうなんだ」
「そうだよー・・・」
「・・・そうだな」
「そうだよー・・・」

ごく自然な調子で頭を撫で続けていたら、それは河合を再び夢の底に連れ戻していったようで。
瞼が再びゆるゆると降りて、そっと閉じられた。
再び戻る安らかな寝息。
けれどその穏やかな幼い寝顔に反して、何故だか五関のシャツの裾をぎゅっと強く握ったその手。
そっと甲に触れて撫でてみても離される気配はない。
それがなんだか愛しいと同時、痛々しくも感じる。
けれど結局最後に感じるのは妙に昏い充足感だ。

視線だけでもう一度画面を見る。
もしもあの時に戻れたなら、自分はどうするだろうか。
仮定なんて意味がないことは判っていながら、見る度に考える。
そしてその度に自分だけが知っているその答えを反芻する。


たとえあの時に戻ってもきっと同じことをするだろう。
何度出逢っても、きっと同じように恋をするだろう。
他の何も誰もいらないくらいに。











END






なんか暗いな!
でも実際のところこういう話が一番書きやすく自分色であるというかなんというか・・・。
この前書いた話のごっちサイドっぽい感じもしますが、まるで空気が違うという(笑)。
実際のとこ五関さんの方が内面ドロドロと凄まじい執着心をフミトに抱いているんだよ、という話です。
五河はラブラブでドロドロで愛と執着が紙一重だといいよ!
五関さんはああ見えて絶対独占欲強いよなー・・・(夢)。

まぁ実際のとこは、サマリーと滝ドリボを見て昔のフミトがあんまりにも幼くて可愛くて美少年過ぎて危うかったから(自分が)、思わずごっちに代理で色々もわもわしてもらっただけなんですけどね!(さいてー)
いやアレはほんと犯罪を誘発するあどけなさだよ・・・誘拐されるよ・・・。
(2006.7.22)






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