孤独の微笑
「お前、髪切った?」
収録のリハーサルスタジオで本番さながらに音楽が流れる中、赤西は平然と言った。
設置された階段の上から悠々と降りてきながら、まるでそれが振り付けの一部であるかのように、その緩くパーマのかかった髪を長い指先で気怠げにかきあげる。
まるで画面の向こうにいるような絵になるその艶めいた仕草に思わず一瞬見とれていたら、その顔がこちらを向いて小声で囁くように言われた言葉が、それだ。
流れとして一番最初に絡む構成になっているから、赤西がこちらを向くのは当然だけれども、まさか歌中に話しかけられるとは思っていなかったから河合は一瞬返事が遅れた。
そのきょとんと目を丸くしてうっすら唇を開くだけの様にふっと薄い笑みを浮かべると、赤西は極自然な流れで河合の方に身体を向け、小首を傾げるようにやんわりと顔を近づけてくる。
それに河合ははたとして自分からもゆるゆると滑らかな動きで四肢を絡ませるように距離を詰める。
しかし近づいたその距離で、赤西がもう一度小声で囁く。
位置的に他のメンバーはもう少し下にいるから、それは聞こえていないだろう。
「髪、切っちゃったんだ?」
「・・・あ、はい。ちょっと前、ですけど・・・」
無視をするわけにはいかない。
けれど堂々と話すわけにもいかない。
河合はせめて極々小声で呟くように返し、振りを続ける。
赤西の胸から腰、下半身にかけて、自らの身体を擦りつけるように緩やかに身体を降ろしていく。
そんな様を赤西は嫣然とした笑みを浮かべながら見下ろす、そんな絡みだ。
けれど河合が身体を降ろしていくのを見下ろしながら、何故か赤西は手を伸ばし、その手を河合の後頭部に廻した。まるでその頭を支えるように。
予定にはないその振りに、河合は一瞬驚いたように見上げる。
すると何故かその柔らかく微笑む綺麗な顔が近づいてきて、後頭部に当てられた手に力がこもったかと思うと、そのまま頭を掬い上げられるような体勢になった。
「もったいない。俺、長い時のが好きだな」
「あ・・・えっと、」
河合はどう反応していいかわからなかった。
明らかに予定にはない動きで、本来ならもう次の戸塚と絡んでいる頃合いだ。
それにリハーサルとは言え歌中に平然と話しかけてくる赤西は、こうしてバックにつくのも久しぶりだが、留学以前より更にその自由さを増している気がする。
本来なら誰かと絡むのは大好きな河合だが、赤西のそれは河合のそれとは根本的に空気が違う。
そのどこか滲み出るような色気のある綺麗な顔に浮かべられた嫣然とした微笑みも、大きな手に絶妙な力でもってさりげなく距離を詰めてくるのも、それを不自然に感じさせず抵抗すら忘れさせる雰囲気も、彼独特のものだろう。
基本的に河合は雰囲気に弱い、もっと言ってしまえば流されやすいタイプなので、その空気だけで持っていかれてしまう。
けれどそれでもステージ上であるという意識が残っていたせいか、河合はなんとかその動きに合わせるように自らも腕を伸ばして更に深く絡まるように身を浮かせた。
それに赤西はまるで「そうこなくっちゃ」とでも言うかのように楽しげに笑むと、更に距離を詰めて目の前の細い首筋に顔を寄せると、あろうことかその髪の生え際の柔らかな部分に唇を寄せてきた。
「っぁ・・・」
一瞬、軽く触れた程度だったけれど、その確かな感触に河合は混乱すら来して、小さく声を漏らしてしまった。
それにはさすがに段の下の方にいたメンバーも気付く。
段の一番下にいる顔が確かに顰められたのが見えて、河合は思わず振りも忘れて片手で口元を塞いだ。
その様に赤西は喉の奥でくつりと笑う。
「・・・相変わらず慣れてないね。五関くんは相手してくんないの?」
ふふ、と何やら楽しげに笑ったかと思うと、指先で首筋から伝うように今度は耳朶の裏側に一瞬触れられる。
そこからかあっと耳が熱くなった気がした。
「じ、じんくん・・・」
もはや曲どころではない。
事実いつの間にか音楽も止んで、河合はそれにようやく気付くとその場にぺたんと尻餅をついてしまった。
それをなお頭上から楽しげに見下ろしている赤西の元に、五関が顔を顰めながら段を上がってくる。
河合以上に赤西と付き合いの長い五関だから、その桁外れの自由さは当に知ってはいたが、さすがにこの展開にまで黙っているわけにはいかない。
「・・・時間ないんだから、ちゃんとやれ」
ジュニア内で赤西相手にここまで言えるのは、入所時期が変わらない五関だけだ。
そして赤西本人もそれをまるで心地良いものであるかのように捉えていて、その顔になんとも緩んだ悪気のない笑みを浮かべた。
「ねぇ、たまには貸してよ、五関くん」
その脈絡ない言葉に、河合などは不思議そうに目を瞬かせ、未だ座り込んだまま二人を交互に見上げている。
しかし五関はその意味を理解したのか、更に顔を顰め、同時に呆れたようにため息をついた。
「こいつは、そういうんじゃないから」
小声で呟かれたそれに、けれど赤西はそれこそが望む言葉であるかのように満足げに微笑んでみせた。
「あはは、知ってーるよー」
けれどその綺麗な微笑みを下から真っ直ぐに見上げていた河合は、ふと小首を傾げる。
赤西は留学する前と少し変わった気がする。
それは当然と言えばそうかもしれないけれど、何か胸に引っかかるような、その身に纏う空気が。
「・・・じん、くん?」
応えるように、その笑みがやんわりと河合に降りてくる。
その蠱惑的な唇がうっすら開き、形作った言葉は囁きのように小さくて、河合と、そして五関にしか聞こえなかった。
『おまえはいいね、愛されてて』
じゃあ、あなたは愛されてないの?
河合はその時、その綺麗だけれどどこか危うげな薄い笑みから目を離せなかった。
END
じんじんはわとさん的には基本受けです(しょっぱなから何を)。
亀仁かなと思う。
のでコレはうっすらそんな空気を纏っているような。
たぶんアレよ、留学から返ってきてカメ様と微妙な空気になってて、でもなんか自分から歩み寄れないじんじんが寂しくてそこらにいた手近な小動物(女豹)に気まぐれにちょっかい出してみただけ、みたいなね。ひどいね。
五関さんは亀仁の紆余曲折というか基本曲折だらけの関係を知っているのでもはや諦め気味であんま怒りません、みたいな。
でもさすがに自分の彼女に手を出されるのは黙ってられないので一応メッてするくらいな。
・・・まさかここへ来て亀仁とか出てくるとは思いませんでしたけども(なにしてんの)。
しかしほんとなに書いてんだわたし。
いや単にぴんきーのじんふみユリ絡みをネタにしたかっただけなんだけどね!
しかしフミトは基本年上というか先輩に弱いから、好きな男前の先輩に迫られたらあれよあれよという間に手込めにされそう!(おま)
具体的に言うとじんじん・かめさま・たきちゃん・じゅんくん辺り。あとはキムタク神な。その辺ならマジ抱かれてもいいと思ってそうだよふみ・・・。
女豹がちゃんと女豹してるやつはまた今度書きたいです(ええー)。
(2007.10.14)
BACK