魔法使いの恋人
「ねー」
「んー?」
「マジックさ、すーごかったねえー」
「うん、あれはほんとにすごかった」
「あのナンバープレートのとことかさ、感動しちゃったし」
今日は滝沢他ジュニアのみんなで世界的に著名なマジシャンのショーを観に行き、今はその帰りだった。
ファンも招いたイベントだったので、それを考慮してスタッフに最寄り駅とは違う駅の近くまで送ってもらい、駅前は車が停めにくいからと少し離れた場所で降ろされた後、二人はロータリーの傍を歩いていた。
「でもあれってさ、ほんとはタネも仕掛けもあるわけじゃん?」
「そりゃそうだよ」
「ね。なのに全然そう見えないんだから、すごいよね」
「うん」
「夢あるよねー」
「俺らとちょっと似てるかもね」
「俺ら?・・・あー、夢与える感じ?」
「そうそう」
「うーん、そう考えると俺らも結構すごい?」
「職業的にはそうかもしれないけど、俺らくらいじゃまだまだだよ」
「あはっ、それは言えてる。タッキーくらいになればまた違うよね」
「そういうこと」
河合はもちろんのこと、その隣を歩く五関もなんとなく楽しそうで。
ああ、本当に楽しかったんだなぁ、それなら隣で一緒に観たかったなぁ、と河合はぼんやりとそんなことを思いながらその白い横顔をじっと見つめた。
冷たい風が二人の間をすり抜けるように吹いて、その真っ直ぐな黒髪がサラリと舞う。
それを少しだけ鬱陶しそうに除けた手がまた白くて、長い指が綺麗だなぁ、と河合はその仕草になんだか見とれてしまった。
「・・・なに?」
「あ、・・・ううん、なんでもないでーす」
「なんだよ」
怪訝そうな声と表情。
白くて清廉でストイックで落ち着いていて冷たそうで、そのくせ中身は暖かくて優しい。
なんだかこの人には冬が似合う、なんて。
素でそんな感想を抱いてしまった自分が少しだけ恥ずかしかったし、そんなことをバカ正直に言えば呆れられるのは目に見えているので、慌てて手で口元を覆った。
けれど当の五関は、どうせまたバカなことを考えたんだろ、とでも言わんばかりの視線を向けてくるので、河合は代わりに違うことを口にした。
「うーんと、さ、マジシャンの人って、手が綺麗なんだよね」
「手?」
「うん。みんな綺麗な手してるの。指が長くって」
「あー、そうかも」
「だから五関くんも、マジシャン向きだなって」
「・・・俺?」
「うん。五関くん絶対向いてるよー」
「マジシャン、ねぇ・・・」
そんなことは言われたこともない。
確かに手が綺麗だとはよく言われるが、それは初めてだと思う。
そんなことを考えつつもう一度河合の方を見ると、なんだかうっすら微笑んでこちらを見ていた。
バカみたいに幸せそうだな、なんて若干酷い感想が頭を過ぎる。
でも、同時に綺麗だとも思った。
河合がよく気付くとそんな表情で自分を見ていることを五関は知っている。
それは自惚れでもなんでもない事実として。
そこで五関はふと夜空を見上げ、何か思いついたように頷いた。
そしてその白い右手でふとパンツのポケットを探り、一枚のハンカチを取り出してみせる。
スッと流れるような動作でそれを開き、もう片方の手で端を摘んで広げてみせる様がなんだか本当にマジシャンのようだ。
河合もなんだか少し驚きながらも楽しそうに笑う。
「うっわ、なんか本物みたい」
「ひとつ、マジック見せてやるよ」
「え?マジで?」
「マジで」
「いきなりそんなんできんの?」
「できる」
「すげー!見せて見せて!」
いくら深夜に差し掛かろうと言う時間とは言え、駅前なので人はそれなりにいる。
けれどそんなことはお構いなしに手を叩いて笑う河合に普段ならうるさいとでも言う五関だけれど、今日は自分も楽しかったし、その拍手になんとなく乗せられたから。
少しばかり仰々しく、まるで本物のマジシャンのような仕草で広げた白いハンカチを河合の前に掲げてみせた。
「それじゃあ、目を瞑って」
「え、俺?」
「お前しかいないだろ」
「あー、うん、でもそれだとさ、俺マジック見れなくない?」
「見れるよ」
「そうなの?」
「そうなの」
「んー、わかった。・・・はい」
少し不思議そうではあるけれど、河合は言われるままに目を瞑った。
それを確認すると、五関は更にハンカチを河合の前に近づけて、自分はもう一度夜空を見上げる。
「河合、もう少し上向いてくれる?」
「はーい。このくらい?」
「もうちょっと、空の辺り」
「空?・・・このくらいでいい?」
「うん」
言われたとおり少しだけ上向いた河合の前にハンカチを掲げる。
それから大仰に、まるでマジシャンがするように、それを左右に揺さぶってみせた。
「あ、なんかハンカチむずむずする・・・」
「これでお前の目に魔法をかけたから」
「マジ?・・・なんか五関くんほんとにマジシャンっぽいんだけど」
「あれ、知らなかった?」
「うっそ、本物?・・・うわ、どうしよ、ドキドキしてきた」
「それじゃあいくよ。スリーカウント後に目を開けて」
その静かな声に、「え、ほんとに何かやるの?」と河合は小さく息を飲む。
それから高めで落ち着いた声が、耳元でカウントを刻む。
「ワン、ツー、スリー」
声と共に目の前からハンカチがなくなって、冷たい夜風を再び感じると同時、河合は言われるがままにパチっと目を開けた。
自分から開けたと言うよりか・・・本当に魔法によって開けさせられてしまったような感覚。
「あ・・・うわ・・・」
開いた目の向こうには満天の星空が広がっていた。
今日の夜空は快晴で、冷たい空気のせいか星がとてもよく見えた。
「すごい、・・・きれーだねー」
ただじっと夜空を見上げぽつんと呟く河合に、ふっと雰囲気だけで笑った気配。
こんなのは当たり前だけれども、当然マジックでもなんでもない。
ただそこにあるものを改めて見せたに過ぎない。
けれども、そうされなければ実はなかなか見ないものであることも事実で。
実のところを言えば、五関はマジックにかこつけてなんとなくそれを河合に見せてやりたかっただけなのだ。
ストレートに言うには些か恥ずかしいからこその、マジック。
「どうだった?」
夜空を見上げるその横顔。
長い睫がパチンと瞬き、こちらを向いて、これ以上なく嬉しそうに微笑む。
まるでその瞳に星を宿したようにキラキラと輝かせて。
「これぞほんとのマジック、って感じ?」
「そう、タネも仕掛けもないから」
「五関くん、もうマジシャンていうよりか魔法使いだよね」
「そういうことにしといて」
「じゃあさ、また見せてね、魔法」
そのふふっと楽しそうに笑った顔が、なんとなく可愛かったので。
星の煌めく夜空の下、さりげなくふっと顔を寄せ、小さく触れるだけの魔法のようなキスをした。
END
最近酷いごっちばっか書いてるなー・・・ということで、でもラブも大好きだぜ!というアピールを兼ねて書いてみたラブ五河。
とか言ってたら思った以上にラブくなってしまい恥ずかしいことこの上ないですが。
もうなんかちょっとごっち寒いもんねコレね・・・(笑)。でもフミトはごっちのすることなら恥ずかしいとか欠片も思わないのでオッケーです!(バカップル)
ネタとしては、デビッド・カッパーフィールドのマジックショーをタッキーとキスエビちゃん他ジュニアが見に来てた時のネタです。
ごっちはフミトだけの魔法使いなんだよ!(お前が一番恥ずかしい)
(2007.1.6)
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