みっくんの小さな恋のメロディ
「ていうか、お前、アレなんなの?」
「は?」
ステージが終わり、テレビ局特有の慌ただしい空気の中を縫うように控え室に戻る途中のことだった。
隣を黙って歩いていた北山のそんな不機嫌気な声に、藤ヶ谷は思わず足を止めてそちらを見た。
幼い顔立ち、けれどその眉間にくっきりと皺を寄せる様は明らかにむかついてます、と書いてあるかのようだ。
ステージ前は普通だったのにどうしたんだろう。
藤ヶ谷はきょとんと目を瞬かせ、小首を傾げてその顔を覗き込む。
「北山?」
「マジお前なんなの」
「な、なんなのって・・・」
「すげえ鬱陶しいんだけど」
「へっ?う、うっとうしいって・・・」
「なにあの顔。気持ち悪いし」
「なんのこと・・・」
「は?なんのことって?お前もう忘れたの?お前バカ?超バカ?」
「ば、バカって言うなよ!ていうかわかんないってほんとに。なんのこと?」
「さっきのあのデレデレした顔はなんだっつってんだよ」
「さっき・・・?」
「・・・亀梨くんが出てきた途端?あのアホ面なんだよ」
「かめなしくん・・・?」
それはさっきのステージでのことを言っているんだろうか、と藤ヶ谷は思い出すように考える。
新曲を歌う山下とそのバックについていたキスマイの年上メンバーとA.B.C.と、その誰しもを驚かせた亀梨のサプライズ出演。
目下カメラの前では未だ驚いた様子の山下と私服で照れ笑いする亀梨の姿が全国ネットで映し出されているところだ。
バックどころか山下本人すら知らされていなかったその唐突な登場に、藤ヶ谷などは思わず踊りながら笑ってしまったものだ。
この事務所にはよくあることだが、ある人間の出演に他の人間が応援で駆けつけるという話題性のある演出。
ジャニーズは皆ファミリーとはよく言ったものだ。
だから曲調的に真面目な顔で割合かっこつけめに踊らなければならないところを、突然のゲスト、しかも割と近しい先輩の登場に藤ヶ谷は嬉しくなって笑ってしまったのだ。
詰まるところ藤ヶ谷としてはただそれだけだったというのに。
「あのデレッデレの顔ったらなかったね。超キモイ」
低めの声音で吐き捨てるように言うのが思う以上に怖い。
ただ嬉しかっただけなのに。
なんでそんなことを言われなければならないのかわからなくて、藤ヶ谷は眉を下げて必死に抗議する。
「なっ、なんでそんな、だって、いきなり来るからっ・・・」
「いきなり来るからなに?驚いたって?そりゃ俺だって驚いたよ」
「だからっ、そういうことじゃん!驚いたからっ・・・」
「驚いてあんなデレデレすんの?」
「デレデレなんてしてないしっ」
「してたっつの。もうさ、亀梨くん見てデレッデレ。顔崩れすぎだから。テレビ出る奴の顔じゃないし。・・・もしかしてお前さぁ?」
「な、なに・・・?」
次から次へと弾丸のように襲い来るその言葉にビクビクと肩を竦める藤ヶ谷は半ば怯えている。
自分より大きいくせして何故だかまるで窺うように上目気味で見る様が、なんだかもやもやと苛立ってしょうがなくて。
さっき亀梨が現れた時にはあんなにも嬉しそうに無邪気に笑って・・・いや、アホみたいな顔してたくせに、と北山は内心ですら悪態をつく。
「ひょっとして、亀梨くんのこと好きなわけ?」
「うぇえっ!?」
あまりの唐突な展開に藤ヶ谷は目をめいっぱい見開いて口をぽかんと開ける。
その顔のまた間抜けた様に北山は思いきり舌打ちしてそれを睨み付ける。
「なんだよそのバカっぽい返事は」
「だ、だって北山が変なこと言うからー!」
「誰が変なんだよ!変なのはお前だよ!いやむしろお前は変態か」
「変態ってなんだよー!お、俺なんも・・・っ」
「だって亀梨くん見ただけであんなデレッデレしちゃってさ。それしか考えらんねーじゃん」
「ちがっ、お、俺ただ、亀梨くんのことは好きっていうか、」
「やっぱそうなんじゃん。お前ホモかよ」
「違うって!好きっていうのは、尊敬してるって意味でっ・・・」
「あーやだやだホモとシンメなんてサイアクー」
「ほ、ホモじゃないってばっ・・・!」
ひどい。そんなひどすぎる。
ただ亀梨は歳もそこまで変わらないのに誰よりも努力して誰よりも輝いて、後輩にも優しくて親しくしてくれて、だから尊敬しているだけなのに。
そんな好意をよりにもよってそんな風に言うだなんて。
しかもそれが他ならない相方に言われたという事実がショックで、藤ヶ谷は泣きそうな顔をしてグッと口を噤む。
しかしそんな顔を見て北山はますますもって不機嫌そうに顔を歪めた。
「そんなに亀梨くんがいいわけ?」
「だからっ、そういうんじゃなくて、亀梨くんは・・・亀梨くんは、憧れっていうか・・・っ」
「・・・ふぅん、憧れねぇ?大好きで憧れで?どーせ無駄なのにさ」
「む、むだって・・・」
「亀梨くんはお前なんかお呼びじゃないってこと」
「・・・別に、なんかしてほしいとか、そういうんじゃ、」
北山のトゲトゲした言葉に藤ヶ谷はすっかり萎縮してしまう。
その目尻にはすでにうっすらと涙すら浮かんでいる。
そしてその怯えた姿が更に北山の神経を逆撫でするのだ。
どうせ自分にはそういう姿ばかりだと。
無邪気に笑いもしないのだと。
「へー?健気だねー藤ヶ谷くんは。ホモなのに」
「だから、ホモじゃないっ!なんでそんなこと言うんだよっ!も、北山きらい・・・」
消え入りそうなその「きらい」は、けれど北山の耳には他の何よりも鮮明に届いて。
何故かズキッと痛んだ心は北山自身意味も判らず、ただ苛立ちを増幅させるだけだった。
「・・・ふん、俺だってホモなんて嫌いだよ」
「き、北山のバーカっ!」
「なんだとこら!」
「バーカバーカバーーーカッ!!」
「待てこら藤ヶ谷ぁーっ!」
藤ヶ谷はついに逃げるようにダッシュでその場から走り出していってしまう。
その後ろ姿には更に北山の苛立った怒声が降り注ぐ。
そんなある日の某局廊下の風景。
それを唖然と見る者数名、呆れたように見る者数名、そしてよく判っていない者数名。
その後、藤ヶ谷に泣きつかれる五関と、北山に八つ当たりされる横尾の姿があったとかなかったとか。
END
安藤さんが絵日記で描かれていた北藤があんまりにも可愛くて思わずインスパイアな北藤です。
例のMステセニョリータ(二週目)ネタ。
亀梨さんご登場で満面の笑みのたいぴーに舌打ちなみっくん。
お互いまだ無自覚故に単なるいじめっこといじめられっこな感じでね!
好きな子をいじめる小学生なみっくんとか超萌えです。バカなんだから!(愛)
ていうか安藤さん勝手にすいませんありがとうございました(笑)。
・・・でも個人的にその後も書きたいところ。
(2006.6.24)
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