そんな朝のこと










遠くで何かざわざわとした音が聞こえて目を覚ます。
ぼんやりとした頭を持てあましつつ、戸塚は重い瞼を手の甲でごしごしと擦った。
寝ていた体勢のせいで、普段癖のない黒髪も今はあらぬ方向に跳ね返っているけれど、そんなことは気にする意識もなくのろのろと上半身だけで起きあがった。

ぺたん。
無意識に手をついたのは投げ出された自分の太股だった。
未だ完全には目覚めていないまま、物珍しいはずなどない自らの脚にぺたぺたと触る。
どうにも筋肉、というよりか肉のつきやすい体質をしているので内心気にしてはいるのだ。
昨日までのコンサートでちょっとは痩せたかな・・・ああそういえばコンサート終わったんだっけ、と思い出す順番が少しあやふやになる。
むしろその前に意識すべきことは、自分の今触れている脚が何も覆われていないことなのだが、生憎とそこには未だ思い至らない。
上は一応寝間着のシャツを着ているので肌寒さは特になかった。
何も履いていない下だって、寝ている間は布団がかかっていたから特にお腹を壊したということもない。
そんなことは今まで一度だってなかった。
だから今回も特に気にする必要はない、ということを戸塚は無意識の内とは言え感じているので、結局まるで不思議には思わないのだった。


「あ、トッツーおはよ〜」

聞き慣れた明るく穏やかなトーンの声に、はたとそちらを見る。
目覚めに見るにはまさに似つかわしい、太陽のように眩しいその笑顔に戸塚も自然と笑い返した。

「おっはよー」
「よく眠れた?まだ眠いなら寝てていいよ?」
「んー、なんか起きちゃったなぁ」

とは言いつつも、折角起こした上半身は再びシーツの上にごろりと転がる。
けれどさっきとは違って俯せになった状態で、ベッドの端に腰掛けている塚田をそのままじっと見上げた。
塚田は戸塚とは逆で、下だけジャージを履いた状態で、上は何も身につけていない。
身体は向こうに向けた状態で顔だけで戸塚を振り返っているので、その顔立ちに似合わぬ鍛えられた身体のラインが惜しげもなく晒されていた。
どうやら朝のニュースを見ていたようで、向こうのテレビでは見慣れたアナウンサーが記事を読み上げている。
戸塚が目覚める時に聞いたざわめきはどうやらこれだったらしい。
そして更に見れば、塚田の右手にはハンドグリップがさりげなく握られ、こうして戸塚と話している間にも絶え間なく動かされていた。
戸塚はそれに興味津々と言った様子で、シーツの上を転がったまま這いずるように近寄っていく。
そんな様子がとても可愛らしくて、塚田はクスリと笑うと小首を傾げてその様子を眺めた。

「ん?どしたの?」
「あー・・・塚ちゃんがヒーローたる所以がここに!と思ってさ」
「ヒーロー?」
「その絶え間ない努力だよね、やっぱ!」
「えー、あ、これ?」

転がったままうんうんと頷きながら指差されたハンドグリップを、塚田はおかしそうにその目の前に差し出してみる。
すると戸塚はまるでおもちゃを与えられた猫のように、嬉しそうにそれを両手でいじり始めた。
両手でギュウギュウと握り、それから片手でも試してみて、うんうんと唸る。
シーツの上を緩慢に転がりながら暫くそんなことを繰り返す戸塚を、塚田はテレビのニュースなどもはやそっちのけでニコニコと眺めていた。
爽やかな朝ながら、白いシーツの上を緩やかに舞う黒髪というのはいつ見てもいいものだ、としみじみ思う。
いつだってテンションの上がり下がりがその時次第でまるで読めない戸塚でさえ、やはり自分達が主役の一角であったステージの千秋楽後ともなれば、そこは素直にテンションが上がっていたもので。
同じグループのあの末っ子ようにあからさまにしたがる、なんていうタイプではないが、やはりそれなりにわかりやすく反応が素直になるのがいつにもなく楽しかったものだ。
ただいつもより寝るのが遅くなってしまったから、大丈夫かなと少し気になってはいた。
もちろん基本的に事後のアフターケアは万全を期しているし、そこら塚田に抜かりはない。
戸塚の身体に少しでも負荷が残るようなことがあってはならないから。
それでも実際起きるまではどうだろうかと思っていたが、この様子ならば問題ないだろう。

そんな塚田の内心の思いなど露知らず。
「トツカショータ、90%!」と昔のアニメキャラを真似て、戸塚はハンドグリップを思い切り握っては転がる。
それを楽しげに眺めつつ、塚田は傍に置いてあったリモコンでチャンネルを変える。
時間的にはジャストタイミングだった。
今は世間的には夏休みで、この時期の午前中というのは必ずアニメの再放送をやっているのだ。
チャンネルを変えた途端流れ始める懐かしい曲に戸塚は目に見えて反応すると、ハンドグリップなどもはや飽きたとばかりにシーツに放り出し、ガバリと起きあがった。

「あっ、それっ、・・・やっぱり!」
「再放送始まるよー。見よっか?」
「見る見る!やった!ドラゴンボールきたよー!」

しかもまだ無印の頃のじゃん!と興奮気味に捲し立てながら、戸塚はベッドの端までやってきては塚田の隣にボフンと腰掛ける。
その拍子に戸塚の手が隣の塚田の手の上に被さるように触れた。
そのキラキラと子供のように輝く瞳の先には、今となれば作画の古さは拭えないものの、何度見ても色褪せない童心の塊のような絵が広がっている。
昇っていくドラゴンを見て満面で笑う戸塚の横顔を暫し見つめて、塚田は自分の手の上に置かれた戸塚の手を緩く握ってから、同じようにテレビの方を見る。


ひどく当たり前のことかもしれないけれど。
今、君とこうしていられることが、とても幸せに思えるよ。


なんだかぼんやりとそんなことを思っていたら、オープニング曲が終わってCMに入ったところで、何故か握った手を向こうから握り返された。
もう特にそちらを見ることはなかったけれど、二人ともお互いがお互いに笑っているのが判った。











END






ジュニアコン千秋楽後の恋人達シリーズその3(いつのまにかシリーズ化)。
五河、北藤に引き続き今回は塚戸で。
でも五河&北藤とは違って塚戸は翌朝です(笑)。
だってそんな、塚戸で最中(一歩手前)なんて書けない・・・!
塚ちゃんシャレにならないから!(わあ)
塚戸は翌朝で爽やかにー!
なんか自分の塚戸の中では今までで一番まとも?に書けたような気がしなくもなく・・・いや比較の問題で・・・。
塚戸って難しいんだも!
特にトツが・・・あの不思議ちゃん具合をいい塩梅で書くのが難しい。
ていうか塚戸は長々と書かずサラリと書くのがいいのだなと今回で思いました。
たぶん一番小難しいこと抜きで本能的なカプだから(笑)。
(2006.9.22)






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