それは誰も触れてはならないもの
五関くんと河合はあの後やっぱり五関くんちに行ったのかなぁ。
・・・なんて話しながら二人が向かった先は塚田の家で、状況としては結局のところ似たようなものだった。
それを本人達が知るのは後日のことになるのだけれども。
「ね、塚ちゃんさ」
「わーやっぱり!」
「うん・・・えっと、」
「トッツーも似合うね!」
「・・・うんと、なんとなくおかしくない?」
「全然おかしくないよ〜」
「そりゃ、河合は似合ってたと思う、けど」
戸塚はもぞ、とその場で小さく身動いで困ったように視線を落としがちに呟く。
それがなんとなく知らない場所に連れて来られた猫みたいで、かわいいなぁ、と塚田は思った。
家に来るまではさっきの五関と河合の話に花を咲かせて、それこそ塚田以上にテンションが高かったというのに。
部屋に招き入れるや否やそのテンションは一気に落ち着いてしまった。
なんだかそれこそ借りてきた猫のようにちょこんと床に座ってどこかぼんやりしている。
戸塚は本当にテンションの上がり下がりが激しい。
そんなとこもトッツーらしいけど、などと思う塚田はそれが自分の行為のせいであることなどおかまいなしで、かわいいなぁ、とまた内心思っていた。
決して口には出さなかったけれども、ニコニコと小首を傾げながら塚田が眺めたら、その視線に戸塚はますます視線を落としてぽつりと呟く。
「あの、さー・・・やっぱさ、俺はちょっと違うんじゃないかな」
「なんで?似合ってるのに」
「だから、・・・河合はともかくさー」
「河合もそりゃ似合ってたけど。俺としてはトッツーの方がいいなぁ」
「俺、そんなかわいくないし」
「そんなことないよ〜」
「塚ちゃんて物好きだよね」
「物好きっていうか、トッツーが好き」
「うん、俺も塚ちゃん、好きだけど、さ」
「好きでもこれはだめだった?」
「ええと、」
だめ?と小首を傾げて覗き込まれると逆に駄目とは言えなくなってしまう。
好き、なんて。
たとえ深い意味はなかったとしても、好意を告げられてしまったらなおのこと。
・・・だけれども、やはり今どうしても気になるのは自分の頭についたこの、白い猫耳。
「えーと、塚ちゃんも持ってたんだね」
「うん、持ってたの」
「こっちは白いけど・・・」
「そうそう、トッツーも黒い方が似合うかなぁと思ったんだけどね、白も似合うね〜」
「うーんと・・・白猫ってあんま、見ないよね」
「あー確かにね。あんまいないかも」
「すぐ汚れちゃうからかな。白猫って気付かないのかな」
なんだかずれた発言しかできない。
核心部に触れることができない。
それはこの正しく異様としか言いようのないシチュエーションのせいだったのだが。
生憎と戸塚がずれたことを言うのは割といつものことなので、誰よりも本人がこのおかしさにいまいち気づけていない。
「うん、そうかも。トッツーみたいだよね」
「えー・・・?俺?」
そして戸塚が現状を正しく理解できていない一番の原因は、やはり何と言ってもこの笑顔も眩しい恋人のせいだ。
「うん。トッツーのイメージって、まっしろって感じだもん」
「それはさすがに違うと思うんだけど」
「そうかなぁ。だってトッツーってすごく純粋!って感じするし」
「それは塚ちゃんじゃないの?」
「トッツーだよ〜」
「塚ちゃんだってばー」
「ううん、やっぱトッツーだよ。この耳とおんなじだよ」
「んっ・・・?」
白くてモコモコした耳のついた頭をおもむろに撫でられた。
癖のない黒髪がサラリと音を立てるように流れる。
存外にしっかりとした感触のそれは何も初めて感じるものではないけれど、あまり慣れるものでもない。
今回に関して言えば、その慣れない感覚はつけたことのあるはずもないソレのせいだとも判ってはいるが、振り払う気にはなれない。
こんなものをつけている自分はやっぱりどこか滑稽でおかしいんだろうなぁとはさすがに思うものの、戸塚は結局それくらいしか考えない。
ただその代わり、塚ちゃんの手はきもちいいな、とぼんやり思っただけだった。
戸塚がそれ以上を考えないのは、考えられないのは。
やはり結局のところ、その笑顔が自分だけに向けられて、そんな何の根拠もないのに、そのくせそのどこにも嘘を探せない言葉を向けてくるからだ。
「心がまっしろってこと。トッツーはきれいだよね」
「・・・そういう、塚ちゃんはさ、」
「ん?」
その先の言葉なんて何も思い浮かばなかったけれど、つい口に出してしまった。
「塚ちゃんは、・・・」
「うん?なに?」
塚田は依然として軽くちょこちょこと掌で耳と髪を混ぜるように撫でてくるけれど、そうされると言葉は余計に出てこなくなった。
いっそ言葉を失ってしまったみたいに。
それ以外は忘れてしまったみたいに。
結局はずれたことを呟くしかできなかった。
「塚ちゃんは・・・・・・塚ちゃんだよね」
「うん、そうだよ」
けれどそれを当然のように肯定するから。
今ここで紡ぐ言葉はそれだけでいいと、当然のように言うから。
戸塚はその手から離れられなくなるのかもしれない。
それはなんだかちょっぴり不安で、そのくせ過ぎるくらいの幸福にも感じられて、戸塚はうっすら目を細めて小さく息を吐き出した。
目敏く気付いた塚田は俯きがちな戸塚の顔をじっと覗き込む。
「ん?トッツー、ねむたいの?」
「うん・・・なんか、ちょっとね。寝不足かなぁ」
「寝る?」
「いや、でも、帰らないとー・・・」
「いいよー、外雨だし。風邪引いちゃうよ」
雨で風邪を引くから、なんて。
まるで本当に猫みたいな扱いはいくらなんでも恥ずかしいなぁとも思うのだけれども。
確かになんとなくまだここにいたい気持ちはあって。
戸塚はこくんと小さく頷いて今度は本当に欠伸をした。
その様に塚田はふっと笑うともう一度やんわりと戸塚の頭を撫でた。
抵抗はまるでされないけれども、依然として覗き込むようにしているとたまに視線が合って、笑いかけると僅かに首を傾げて少しだけ恥ずかしげに笑い返される。
今日が雨でよかったなぁ、と塚田は思う。
そして更にこうも思う。
ああ、もしも外がずっと雨なら、この白猫は誰にも汚されずに済むのかな?
END
さくさくと塚戸第二弾。そしてまたもやゆりさんへの捧げモノ(いい加減に)。
そしてごっち誕もとい猫耳祭の番外編(笑)。
うっかりトッツーにもつけてみたよ!フミトが黒猫なのでトッツーは白猫で!猫耳大好き!(笑顔)
ゆりさんが、塚ちゃんはトッツーに対して隠れ変態だといい、と仰ってたのに大変感銘を受けた一品。ゆりさんごめんなさい。
でもいいよねー隠れ変態の塚ちゃん!ついでにごっちは隠れサドで!(余計)
・・・エビの攻めっこ隠れてひどいよ(お前がひどいよ)。
だがしかしうちの塚ちゃんは隠れ変態というよりか、ちょっぴり頭がおかしいような気も・・・。むしろ塚ちゃんファンに土下座。
いやでもそんな塚戸萌える。
(2006.6.24)
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