僕の猫日和
「五関くん誕生日おめでと〜!」
「おめでとー!」
「うん、ありがとう」
「というわけで!俺とトッツーからのプレゼントだよー!」
「超頑張って用意したよね塚ちゃん!」
「ねっ!」
「ねっ!」
「・・・ああ、うん、ありがとう」
互いに顔を見合わせてニコニコと笑う二人は可愛らしいと言えば可愛らしい。
五関は塚田と戸塚の笑顔が好きだ。
塚田の笑顔は癒されるし、戸塚の笑顔は無邪気でいいと思う。
そんな二人の笑顔がダブルで自分に向けられるなんて、それだけでもうプレゼントだと言ってもいいんじゃないかというくらい。
しかしその笑顔の二人は更にプレゼントを用意してくれたのだと言う。
その好意は純粋に嬉しい。
嬉しいけれども。
目の前のソファの上にあるその物体・・・いや、その人物に、五関は思わず素で呟く。
「なにこれ」
「プレゼントだよー」
「プレゼントでーす」
まるで双子よろしくハモる二人はやはり可愛らしい。
だがこんなものを用意したのがこの二人だと思えば、その笑顔にも若干疑うところが出てくるというものだ。
ニコニコと自分を見る塚田と戸塚に小さく息を吐き出して、五関は目の前のソレに呆れたような視線を送る。
「なんだこれ、ほんと」
「だーからー、プレゼントだってば」
「超!渾・身・の!」
「・・・意味わかんないんだけど」
「え?そう?・・・わかんないかな?トッツー?」
「ううん、そんなことないよ!こんなわかりやすいプレゼントないよ?」
「・・・二人ともふざけてる?」
「え?なんで?なんで??」
「俺ら超真剣だよ!ほら五関くんよく見て」
「いや、いいよ別に」
五関は思い切り目を逸らす。
なんだか「こんなもの」をじっと見ていたら、それだけで犯罪な気がしてくるからだ。
しかしそんな五関のつれない態度に二人はこれでもかと口を尖らせる。
「え〜可哀相だから見てあげてよ。もったいないし」
「そうだよ。五関くんが見てあげなきゃ誰が見るの」
「ていうか、思いっきり楽しんでるだろ二人とも・・・」
深いため息をつく五関を前に、二人は頷いて顔を見合わせると小首を傾げて笑い合う。
「うん!超楽しかったね、トッツー!」
「ねっ!またやろうね、塚ちゃん!」
「あっそ・・・」
仲が良くて結構なことで。
でも俺を巻き込むのは頼むから止めてくれ。
そんな言葉が思わず口から出ていきそうになった時、はたとまたソレが視界に入ってしまった。
正直目を逸らしたい。
とりあえずそんな趣味はないと全力で否定したい。
でもいくらふざけ半分、自分たちが楽しみたい半分とは言え・・・って、それじゃ俺を祝う気なんてほんとはないんじゃないか?
五関は内心一人ツッコミを入れながらも、諦めたようにまたため息をつく。
一応目の前のソレは仲間で友達で・・・更に言ってしまえば、自分の恋人なわけで。
いつの間にかぼんやりとソレを眺めていたらいつの間にか両側を二人にとられていた。
「ねー、可愛いよね?」
「力作だよ力作!」
「・・・どっから用意したんだよ、こんなの」
「スペシャルサンクスフォー北山宏光〜」
「センキューヒロミツ!」
「北山か・・・」
イエーイ!と自分を挟んでピースし合う二人のテンションがもはや女子高生のそれだ。
二人の口から出てきた某キスマイ最年長の名に、五関は深い納得のため息をつかずにはいられない。
同時、なんで自分の誕生日にこんなに盛大に溜息をつかなければならないのかと自問自答せずにはいられない。
北山が自分の恋人にもこんな格好をさせたのかと思うと、意外と身近には変な嗜好を持つ奴がいるんだな、ともはや感慨深くすらある。
五関は何かを諦めたようにいったん目を伏せるとまた開けて、目の前のソファーの前にしゃがみ込んだ。
そこには恋人がソファーに収まるように背中を丸めて眠ってる。
閉じた瞼を長い睫が彩るその細面。
その艶やかに伸びた黒髪がサラリと額にかかっている。
リップを塗っているわけでもないのに妙につやつやした唇はうっすらと開いて穏やかな寝息を立てている。
こうして黙っていれば整った綺麗な顔をしていると思う。
しかも一見冷たそうにすら見える程に。
口を開けばバカなことばかり言うし騒がしいし大口を開けて笑うから、途端に台無しだけれども。
そしてそんなところがまたこいつらしいと思う。
しかし今は何を言うこともなくあどけなく眠っている。
五関は誰にも言わないが、河合がこうして眠っているのを見ると実は無性に頭を撫でてやりたくなるのだ。
どうせなら起きている時にやってやれば相手もこれ以上ない程に喜ぶのを知っているくせに、敢えてその意識のない時にするのが好きだ。
・・・ただ、今こんな状態の河合の頭を撫でようものなら完全に自分が変態な気がしたので、一瞬伸ばそうかと思った手は全力で留めた。
そんな五関の内心の一瞬の葛藤を知ってか知らずか、両側にいた塚田と戸塚もまたしゃがみ込んで楽しそうに目の前で眠る河合を見る。
その穏やかに上下する黒い頭には、にょきりと生えた、黒い猫耳。
更に視線を少しずらせば、しどけなく放り出された下半身に見え隠れする、黒い尻尾。
そして下こそ何の変哲もないジーパンだけれども、上は真っ白なシャツで、前は全開。
しかも若干寝乱れたせいか左肩は丸出し。
全体的に見れば異様としか言いようのない光景を、けれども塚田と戸塚はやはり楽しそうに見るだけだ。
「思った以上に似合うよね〜」
「いい素材だなぁ、河合は」
「これが萌えってやつだよね、萌え!」
「塚ちゃんナイス萌えー!」
「・・・二人ともそろそろ落ち着けよ」
最近塚田が覚えた「萌え」という単語に関しては五関は生憎とよく知らないが、この目の前の恋人の今の状態を指すというのならば、恐らくはあまり真っ当なものとは言い難いだろうことだけは判る。
そして自分同様よく判ってはいないだろうに、塚田がそう言うのが意味もなく楽しいのか一緒になって連呼する戸塚のテンションが、また事態を更に悪化させている。
「いや、マジで意味が判らないんだけど・・・」
正直そうとしか言いようがない。
確かに職業柄、コスプレ紛いの格好はよくするから、多少のことなら今更動じない。
けれどもこれはその範疇を既に越えているような気がする。
単純に冗談だと笑えるものではないと五関は本能的に思った。
そしてそう思ってしまったのは相手が河合郁人だからだということは、生憎と本人は気付いていない。
五関は基本的に常識人でいたいのだ。
しかしそんな五関のささやかな願望を粉みじんに砕こうとするのが、この笑顔も愛らしい仲間二人なのだ。
「またまた〜ほんとは可愛いって思ってるでしょ〜?」
「素直になっちゃいなよ五関くん!もう21なんだしさ」
「ちょっと言いがかり止めろって。マジでありえないから」
「だって猫耳だよ?河合ちゃんが猫耳だよ?」
「郁人がにゃんこになっちゃったよすごいなぁ」
「別にすごくないしこいつは猫じゃないし」
段々疲れてきた。
もう帰って寝たい。
ただ、こんな状態の恋人を置いて帰るのも若干忍びないのでなんとか耐える。
そうだ、自分へのプレゼントなどと言って、寝ている間にこんな格好にさせられてしまった河合こそ一番の被害者なのだ。
いくら河合がお祭り騒ぎ大好きとは言え、さすがにこんなことをさせられたとあってはショックだろう。
「だいたいさ、人が寝てる間にコレはないだろ。いくら河合だからって」
「ん?寝てる間に?」
「あれ、なに言ってんの?」
とぼけているでもなく、本当に不思議そうに言う二人に五関ははたとする。
次いで塚田があっけらかんと言った言葉にはもはや頭痛を覚えた。
「これ、河合も協力してくれたんだよ?」
五関は何よりも反射的に思う。
河合郁人という人間を甘く見ていた。
「・・・・・・どこまでバカなんだ、コイツ」
心からそう呟く五関に対して二人はこれでもかと楽しげに笑う。
「あはは、まぁ五関くんを連れてくる間に寝ちゃったのは予想外だったけどね〜」
「準備してる間はノリノリだったよね、河合」
「そうそう、俺可愛い?イケてる?って何度も訊かれたもん」
「バカだ・・・」
なんだかもうこっちが恥ずかしくなってくる。
五関は思わず額を抑えた。
自分へのプレゼントだと言ってこんなものを用意する二人もバカだと思うが、何よりそれを喜々としてやった河合が一番バカだ。
単に自分の誕生日にかこつけてバカ騒ぎがしたいだけなんじゃないか?と思わず疑いたくもなる。
つい疑念に満ちた眼差しをその寝顔に向けていたら、さすがにフォローのつもりなのか、戸塚が目の前の河合の頭をポンポンと軽く撫でて言った。
「でもこれでもさ、一応本気なんだよこいつ」
「本気って・・・」
「なにあげたら五関くん喜ぶかな?って散々訊かれたもん」
「・・・だからって、」
「ほんとはね、ちゃんとしたプレゼントも買ったらしいんだよね。でも、もっと他にないかなって、ずーっと言ってて」
その黒髪と一緒に掌に当たるモコモコした猫耳の感触が楽しいのか、戸塚は笑いながらそんなことを言う。
そんな戸塚を見て塚田もまたふふっと何か含み笑う。
「それならやっぱ河合ちゃん自身が一番喜ぶよ〜って言ったの、俺」
「・・・・・・塚ちゃん?」
「どうせなら俺が河合ちゃんをもっと可愛くしてあげる〜って」
「塚ちゃん、塚ちゃん」
「ん?」
「・・・面白がってるだろ」
「なんのこと〜?」
あは、と小首を傾げて眩しいばかりに笑うその顔は今だけは癒されない。
とりあえず塚ちゃんだけは敵に回すのは止めておこう、五関は反射的にそう思った。
しょうがないのでまずは現状打破、とばかりに目の前ですやすやと眠るその頭をガツンと叩いた。
しかもそこそこの力を込めて。
「あっ、叩いた」
「うわー容赦ない」
さすがに二人も目を瞬かせて驚いたように呟く。
それを後目に、結構な衝撃を頭に受けた河合はびくっと身体を竦ませてパチンと目を開けた。
その様がまた今の状態と相まって本気で猫のようだ。
「っ、な、なに、・・・うー、いたい・・・」
「いい加減起きろバカ」
「うー・・・なにー?ごせきくん痛いじゃんなにすんのー・・・」
寝起きのせいと相まって若干涙目で五関を見上げる。
頭をさすりながらも小さく欠伸をして、のろのろと起きあがる。
まだ頭が半分寝ているのか自分の状態を忘れているようで、頭をさすっていた手がふとその猫耳に触れるときょとんと不思議そうな顔でそれを確かめる。
「・・・あれ?なんかついてる?」
「自分でして忘れんなよ・・・」
「ん?・・・・・・あっ、そうだ、そうそう、『萌え』だ!」
ポン、と手を叩いて頷く。
一体どういう説明を塚田から受けたのか想像に容易い反応だ。
戸塚といい河合といい、色々と真に受けやすい二人に関しては、あの癒し系笑顔で平然とやらかす塚田は教育上良くないと思う。
けれどチラ、と塚田を見ても、やはりそこには特に気にした様子もない、いつも通りの笑顔があるだけなので、もう追求するのは無駄だと悟る。
「もー河合ちゃん、寝ちゃだめじゃん」
「ごめんー」
「まーたお腹出してるし」
「だってこの部屋暑いんだもん」
すぐ上の兄の如く苦笑気味に窘めてくる二人に対して、河合は目を擦りながらばつ悪そうに笑う。
しかも猫耳はそのまま。
元々河合郁人はことある事に肌を露出したがる。
ステージ上に関して言えばテンションが上がるかららしく、それは別にいいとは思うが、何も日常でまでそんな全開にすることはないだろう。
もはや露出狂一歩手前だと五関は冷静に思う。
けれどそんな五関を後目に、塚田は平然と言う。
「でもそんなのもまた萌えかも。いいね河合ちゃん!」
「えっ、そうなの?これも『萌え』なの?」
「やったじゃん河合!萌えレベルアップじゃん!」
「あっ、そうなんだ?うん、やった!」
「・・・・・・」
バカばっかりだ、と思う。
グループ内で四人中三人もこんな状態では、むしろ自分が異端な気がしてくる。
五関はもはや何か言うことを諦めて、おもむろに河合のシャツの襟に手をかける。
「え、五関くん?」
「・・・いつまで開けてんの。腹壊すよほんとに」
「うん、でも、意外と鍛えてるから大丈夫!」
「見てて恥ずかしいから」
ソファーの上に座っている河合を前に、自然と片膝をついてそのシャツのボタンを一つ一つ留めてやる。
河合はそんな五関をじっと見るだけでされるがままだ。
五関も思わずそちらに視線をやる。
すると視線は当然かち合う。
しかし見慣れないモノがその頭についているのがどうにも違和感を覚えさせる。
「・・・お前、それ、いつまでつけてんの?」
「え?」
「耳」
「あっ、忘れてた」
「忘れんの早すぎだから」
「・・・あは、やっぱ気持ち悪い?」
一応そういう意識はあるのか。
五関はそう思って、ボタンを全てはめ終えた流れでその手を上に伸ばした。
それにも河合は何かとじっと見ているだけだ。
身動きせず視線だけを動かす様がやはりなんとなく猫っぽい。
その黒髪から覗く黒い猫耳をおもむろにぎゅむっと引っ張ってみた。
「いたっ!」
「え、嘘だろ?」
そんな人工的な代物が痛いはずがない。
痛そうにきゅっと目を瞑ってその耳を押さえる、なんて。
そんな本当に生えているみたいな反応をする河合に、さすがの五関も若干狼狽えたようにパッと手を離す。
「あ、それね、根本をピンでカッチリ止めてるから。
無理矢理とろうとすると髪が引っ張られて痛いんだよ」
「なんか河合、ほんとに猫みたいだなぁ」
「五関くん優しくしてあげなきゃだめだよ〜」
のんびりとそんなことをのたまう塚田と戸塚を後目に、五関はなんとなく段々といたたまれない気分になってきていた。
妙な空気が流れ始めているような気がする。
しかも主に自分から。
「・・・河合」
「あ、うん?」
「帰るよ」
「えっ!」
「早くして」
「あっちょ、待って!」
「あと10秒で支度しないと置いてくから。・・・10、・・・9、」
「うそっ厳しい!待って、まず耳・・・っあ、あと尻尾もじゃんっ・・・」
唐突にテンカウントを始める五関に焦りつつ、河合は慌てて耳と尻尾をとって荷物をまとめる。
そうやってる姿はどちらかというと犬だな、と反射的にそう思って五関は思わずさりげなく視線を逸らした。
なんとなく今回の黒幕の術中にはまっている気がする。
チラ、とそちらを見ると見抜かれたようにニコリと笑い返された。
やはりあの笑顔には色々な意味で敵わないと思わされる。
「・・・3、・・・2、・・・1、」
「はいっ!できた!できましたっ!準備完了です隊長!」
「じゃ、帰るよ」
「はーいっ!」
バタバタと支度を終えて浅く息をつく河合を後目に、塚田と戸塚もゆっくりと帰り支度を始めていた。
「じゃ、二人ともまた明日」
「またねー。誕生日おめでとー!」
「プレゼント大事にしてね〜」
「・・・・・・はいはい」
そうして五関と河合が帰った後、数分遅れて塚田と戸塚も楽屋を後にした。
「ねぇ、塚ちゃん」
「ん?」
「五関くんにはやっぱあの手の冗談は通じないねぇ」
「んー、まぁでも、喜んでくれたとは思うし、いいんじゃないかなぁ」
「えー喜んでた?呆れてたじゃなくて?」
「うん。・・・あの人はねぇ、大事なものは一人でこっそり持って帰るタイプだから」
「あー、なるほどね!・・・あれ、ってことはー・・・」
「河合ちゃん、耳と尻尾ちゃんと持って帰ってよかったよね」
ニコリと笑う塚田の顔を見て、戸塚は一瞬ぽかんとした様子を見せてからさりげなく訊いた。
「あの、さぁ。塚ちゃんはさ、どうなの?」
「どうって?」
「だから、プレゼント貰ったら」
「俺?俺はねぇ、嬉しくなっちゃってすぐ開けちゃうかなぁ」
「あ、そうなんだ・・・」
「トッツーもつけてみる?」
「えっ」
「トッツーも似合うと思うよー」
「そ、そうかな・・・」
戸塚はぼんやりと思った。
塚ちゃんを驚く程喜ばせるには、半端な『萌え』じゃだめなんだろうなぁ、と。
END
ごっちお誕生日おめでとう〜!
・・・という割にごっちが全くいい目を見ていないというかむしろ可哀相というか。
なんか日に日にごっちが苦労担当になっていくこの現実ってばなんなの。
塚戸の二人はマイペースでフミトはごっちバカなので、全員でいるとこういう空気に。
しかし猫耳ですよ猫耳。
あんまりにもベタすぎてエイトですらやってなかったのに猫耳。
いやね、でも萌えと言えばね、ていうことで。
前に雑誌で塚ちゃんがフミトの眼鏡姿に対して本気で「これが萌え度120%ってやつだよね!」とか平然と言ってて衝撃を受けたので。
塚ちゃんおかしいからそれ。
いや確かに眼鏡フミト(黒縁)はありえないくらい萌えでしたけどね!
ていうかメンバー三人から萌えだの格好いいだのオシャレだのやんやと褒められる眼鏡姿の末っ子フェアリーたるや愛されすぎでした。
なんだったんだあれはほんとに。
・・・えーと、とりあえず雛誕同様、当然本番はこの後になるわけですけどね。
言うたらこれはオープニングですよね。
わとさん、ごっちはムッツリだといいなと思っている!(最悪な発言出ましたよ)
ちゃんとこの後は期待以上のことをしてくれると信じています。にゃんこをにゃんにゃん言わせてくれるはず。
そしてさりげなく塚戸。もう私の中でフミトとトッツーはにゃんこで決定です。
とにもかくにも、21歳のダンディおめでとう!
(2006.6.17)
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