可愛い猫の鳴かせ方 前編










向かい合ったまま、五関の目の前でひょこんと揺れる黒い耳。
ピンで髪の根元にきっちり留められたそれは、まるで本当に生えているように河合が動く度同じように動く。
その光景がなんとも不思議というか、妙な気分にさせられる。
それは恐らくこの特有の湿った空気感のせいもあるだろう。
けれどそんな人工的な耳を後目に、同じく人工的な黒い尻尾に関してはもう既に床に放られてしまっていた。
それは河合が履いていたジーパンに直接つけられていたものだからだ。
既にそのジーパンは脱ぎ捨てられ、座った五関の上に脚を直接さらして跨っているのだから致し方ない。
まるで観察するようにそう考える五関だって実際のところ、軽く頭の奥が熱で痺れるような感覚で、細い腰を掴んだその手の先に力が入っている。
すらりとした細い脚が時折小さく震えるように身動ぐのを視界の端に入れながら、五関はその表情を窺うように見た。
その息を浅くしながら、時折伏目がちに長い睫が瞬く。

「はぁ・・・」
「落ち着いた?」
「う、ん・・・だいぶ」

腰に廻したのとは逆の手で、河合の額を撫でるようにそこにかかった髪をかき上げてやる。
少し汗ばんだような湿った感触。
心なしか優しいその触れ方に河合はホッとしたように頬を緩めながら、小さくこくんと頷いて片腕をふらりと五関の首に廻した。

自分から誘ったことだというのに、河合はもう挿れた段階で既に根を上げそうになっていた。
初めてというわけではないものの、それでも未だ慣れない体勢で、しかも完全に自分が動いて、という一連の流れは河合を思う以上に消耗させた。
もちろん自分から望んでしたことだから不満などないのだけれども、いかんせん挿れる角度やら微妙な位置やらその感覚やら、わかったようなつもりでいた河合にはそれは結構な難関で。
いかに普段さりげなく五関にリードされていたかを思い知って、なんとなくそれがまたいたたまれない。

「お前一気にやるからだよ。ろくに慣らさずいれるから」

呆れたように言いながらも、さりげなく頭を撫でてくる手の感触がやっぱりなんとなく優しくて、河合は目の前の肩をぎゅっと掴んでぼそぼそと呟く。

「だって、やり方とかよくわかんないし・・・」
「そんなら最初から乗っかってこなきゃいいのに」
「だって・・・」

五関くんの誕生日だから。
だから今日は俺が色々したかったんだよ。
全部俺がやって、五関くんのこと気持ちよくさせてあげたかったの。
・・・けれどそんな一連の台詞は浅く吐き出される息に紛れてしまって、代わりに五関のからかうような声が少し下から向けられる。

「この体勢、河合にはまだ早いんじゃないの」
「・・・子供扱いやめてよ」
「俺は子供にこんなことしないけど。犯罪者にはなりたくないし」
「なんかむかつく」
「なにがだよ」
「なんか慣れてるっぽくてむかつくんだよ」

薄く染まった顔をむすっと歪めて唇を尖らせる。
いつも五関には無条件の好意を示す河合には割と珍しいその態度に、五関はなんだか楽しげに表情だけで笑う。

「なに?いまさらこんなとこで反抗期?」
「反抗期なんてとっくに終わりましたー!」
「ああ、あれはほんと酷かった。反抗期」

思い出すようにわざとらしく深く頷いてみせるのがばつ悪くて、河合はふいっと顔を逸らす。
思えば五関とはまだ本当に子供と言って差し支えない時分に事務所に入ってからずっと一緒にいるのだ。
それこそ本当に河合が反抗期の時期ですら五関は知っている。
普段の明るさや人懐こさからはあまり想像できないが、河合の反抗期は結構酷かった。
そこら辺メンバーやキスマイのメンツ辺りはよく知っていて、皆口を揃えて「五関くんがいてよかった」と懐かしむように言うのだ。
そしてそれは他ならない本人が一番よく判っているところなので、それを話題にされるとどにもこうにもばつが悪い。

「・・・俺は過去は引きずらない男なの」
「はいはい。それはいいから無駄に喋って体力を使わないように。お前ただでさえすぐバテるんだから」
「・・・もうっ、動くよ!」
「はいはい、どうぞー」

腰に廻したのとは逆の手をヒラヒラと振ってみせる。
あんまりなその態度に河合は顔をがばっと上げて眉をつり上げると、キッと目の前の顔を見据える。
その拍子に黒い耳がひょこんと動くものだから、それが妙に愛らしく見えて、五関はまたそれにうっかり笑ってしまった。

「余裕ぶってられんのも今のうちだからっ」

僅かに濡れた唇はそれだけ見れば随分艶っぽく見えるのに、見るからに拗ねたように尖って子供めいた台詞を吐くから、どうにもギャップがある。
五関は河合のこういうギャップに意外とその気にさせられているのだが、生憎と河合からすればそれは自分をからかっているようにしか見えないのだ。

「お前こそさ、あんま俺を余裕にさせとかないでくれる?」

そうしないと、勝手に動いちゃうよ?
・・・なんて、なんだか妙に楽しげに言うから。
河合は無言で目を眇めると、その目の前の肩を強く掴んで、少しだけ腰を引くとグッと力を込めながら強く揺すった。
途端、繋がった奥の方を強い刺激が掠めたかと思うときつく締まる。
加減ができなかったから河合自身その衝撃にびくんと肩を揺らして、思わずひゅっと息を詰めた。

「・・・っぁ、ん!」
「っ、お前、動き方が乱暴」
「まだ、これから・・・だよ」
「・・・これから、ね」

浅く息をしながら顔を赤くして、僅かに動くだけで身体を震わせて、躊躇しながらまた動く。
まるでおっかなびっくりなのは見てとれるし、実際五関にはその感覚は当然手に取るように判るわけで。
目の前でゆらりと揺れるその黒い耳をおもむろに指先で摘んで引っ張りながら、五関は伏し目がちになるその顔を至近距離で覗き込むと、その唇に自分のそれで軽く触れた。
それだけでも微かに震えるくせに、あとこれからどうしてくれるというのか。
五関は内心おかしく思いながらも摘んだその黒い耳と混ぜるようにして髪を撫でて、もう一度唇に触れる。

「ん・・・」
「まぁ、誕生日だしね。せっかくこんなものまでつけてくれてるんだし」
「・・・ごせきくん、なんだかんだ言ってさ、」

撫でられる感覚が気持ちいいのか、うっすら目を細めて小さく息を吐き出す。
けれどその合間にも身動ぐ度敏感な部分が擦れるらしく、さっきから意図的に放置されたその下肢の中心は確かに濡れて反応を示していた。
五関はそれに目敏く気付きながらも、特に何をするでもなく続きを促すように顔を覗き込むだけ。

「うん?なに?」
「意外とノリノリなんじゃないの・・・?」
「さぁ。そこら辺はお前がノらせてくれるんじゃないの?」
「・・・・・・」

口では五関に勝てない。
とは言え、それなら動けば勝てるのかと言えばそれもまた違うわけで。
何も別に勝ちたいわけでもないけれど、河合はこの状況下は普段以上に分が悪いことを実感して口を噤んだ。
代わりにふっと首を傾げて顔を近づける。
五関の視界の端でまた黒い耳が揺れたかと思うと唇が重なった。

「ん・・・」

うっすら目を細めて抱き留めてやるようにしながら、腰に廻した手に力を込めて、逆の手を後頭部に当てる。
河合は目を瞑っているから、この距離ではその長すぎる睫が自分にまで届くような気がする程だ。

「ふ、・・っん」

河合は両手を五関の首に回して更に口づけを深めようとする。
おずおずと入り込んでくる小さな舌の感覚。
その動きもまたなんとなくぎこちない。
特に自分から絡め取るでもなく、それに応じる程度の動きで、後頭部に廻した手をゆっくりとさするように上下させると、その拍子に黒い耳がまた揺れる。
その光景がどうにも異様というか、本当に猫とキスしているような気にさえなって、五関はなんとなくどこか倒錯的な心地を覚えていた。
ただやはり、五関には子供相手にも、そして猫相手にもこんなことをする趣味はないので、それは相手が河合郁人だからこそのものだとちゃんと判ってはいるのだけれども。

「は、ふ・・・」
「はぁ・・・」

ようやく唇を離して息をつく。
見れば河合の薄い唇は真っ赤になっていて、薄く開いたそれがそっと息を吐き出すと、どこかとろんとした表情で目を瞬かせている。
そのどこか浮かされたような表情に苦笑して五関は額にぺちっと手を当てた。

「・・・河合?」
「ん・・・?」
「お前がよくなっちゃってどうすんの」
「・・・だから、これ、から」
「あ、そ」

これは先が長そうだ、なんてぼんやりと五関が考えていたら、そんな思考に反して河合が小さく顔を俯けて何かこくんと一つ頷いた。
いや、頷いたというか、何かを覚悟したような。
五関がその顔を覗き込もうとしたら、不意に河合の腰が少し浮いて熱が中途半端に引き抜かれたかと思うと、僅かに角度を変えて再び熱に宛がわれる。
ずるりと何かが奥の襞に擦れてビリリと何かが走るような感覚。
五関の耳元を微かに喘ぎ混じりの吐息が掠める。
唐突な衝撃に五関も思わず息を詰めて、堪えるように片目を瞑った。

「っ・・・」
「はぁ、・・・っん、ぁう・・・」
「こら、ほんと、乱暴だな・・・」
「っだ、って・・・」
「お前がしんどくなるだけだよ」
「だいじょぶ、だよ・・・」
「お前の大丈夫はあんま当てにならないんだけど・・・」

そうは言いつつ、目の前で自分に縋るようにしながらも、なんとか腰を揺らして自分に快楽を与えようとするその姿は何となく健気な感じもして悪くない。
恐らく頭の中ではこの次にどう動いたらいいかで頭がいっぱいだろうその顔は見てすぐ判る。
とは言え、動き自体は雑というかあまり的確ではなくて勢いばかりではあるが。
けれど支えるように腰を掴んだ自分の手に熱を感じて、あながち感じていないわけでもない自身を実感すると、五関は深く息を吐き出す。
見た目や言動から遊んでそうなイメージの割には、案外慣れていないその動きが逆にまずいというのもあるのかもしれない。
そこら辺は教えてやるつもりはないが。

「んっ、はぁ・・ッ」

けれど五関に多少の変化があったことがなんとなくわかるのか、河合は微かに嬉しそうに染まった頬を緩めて更に腰を揺らす。
いつも落ち着いていて理性的なイメージのある年上の恋人がこの時だけは僅かにその理性を崩す瞬間があって、河合はそれが言いようもなく好きだ。
それが自分のせいなのかと思うとなんだか胸の辺りがぎゅっとなって、そしてまた繋がった部分も更に熱を持つ気がした。

そうして段々と会話もなくなってきて、河合は完全に目の前の快楽と動きに没頭していく。
既に部屋の中は湿った空気と浅い息づかいと、時折漏れる河合の上擦ったような声だけで。
五関もまた特に口を挟むことなく、特に手を出すことこそしないものの、河合が動きやすいようにとなんとか支えてやっていた。
けれども五関もまた、河合同様に行為に意識を集中し始めていたせいなだっただろうか。

意志の強そうな大きな瞳を熱っぽく潤ませて少し伏し目がちに瞬かせる様。
長い睫が生理的な雫に煙って、腫れたみたいな赤い唇が時折堪らず自分に吸い付くように触れてくる様。
気持ちよければ素直に漏れてしまう濡れたような掠れたハスキーで甘い声。
未だ動きの加減ができなくて、強すぎる感覚に耐えきれずに自分にしがみついてきた時に、ふと触れる髪と人工的な耳の感触。

五関はじわじわと身体と頭の奥を支配し始める熱を自覚しながらも、視覚聴覚触覚、あらゆる感覚に触れる河合のそれらに当てられ始めていた。
言ってしまえば河合自身が熱の根源みたいなものなのだ。

ずっと支えるように腰に当てられていた五関の手がぴくんと動く。
長い指先が、する、と僅かに腰の上の辺りを撫でるように滑った。
そんな動きにすら河合はふっと息を吐いて声を漏らす。
その拍子にパチンと一度瞬いた瞳を彩る長い睫が、僅かに雫を弾いた気がした。
たぶん、切っ掛けはそんなものだった。

「・・・河合?」
「な、に・・っ?」

没頭していた意識を引き上げるようにして、河合は小首を傾げて目を瞬かせる。
その熱を持った頬をやんわりと撫でてやりながら、五関はさも平然と言った。

「そろそろ、ほんと重くてしんどいんだけどさ」
「え・・・?」
「ちょっとベッドまで移動できる?」
「な、むり、だって、むり・・・っ」

今更何を言い出すのかと、河合はふるふると頭を振る。
奥に感じる熱はもう少しで出口を見るくらいには昂ぶっていて、河合自身の熱ですらも既にポタポタと白濁を滴らせているのだ。
もちろん五関は僅かにも触れてはくれないから、自分で時折慰めるように触れるしかないのが現状だけれども。

「でもほんとこの体勢しんどい」

平然とそんなことを言う顔が五関らしくて、少しだけ小憎たらしくもある。
河合はなんだか快楽以外のもので胸の奥がドキドキとやたらと鼓動が早くなるのを感じながら、きゅっと眉根を寄せて上擦る声で漏らす。

「そんなの、おれのがもっとっ・・・」
「最初に乗っかってきたのはお前じゃん」
「・・・そ、だけど、」
「できないの?」

それこそまるで猫をあやすような調子で、手の甲で頬をさすられる。
白くて綺麗なその手は河合が大好きなものの一つで、それに触れられるだけで嬉しくて、でも言われる言葉はどうにも意地が悪くて。
そんなどうしようもない鬩ぎ合いに河合は堪らず廻した両腕に力を込めてしがみつく。
さらりと流れた髪と触れた熱を持った頬の感触に、五関はそれを受け止めるようにしながら後頭部を軽く撫でてやるけれど、特に許しの言葉はない。

「いっかい、このままで、・・・そしたら、そのあとベッドいくから、だから・・・」
「・・・このまんまで一回したい?」
「だって、もう、これじゃ・・・」
「俺は別にいいよ。一回抜いても」
「やだぁ、ッ・・・」

まるで駄々っ子みたいにぎゅうぎゅうとしがみついてくる河合に、五関はなんとも楽しげに笑って頭の上でポンポンと手を弾ませる。

「嫌なの?」
「・・・やなの?」
「それは俺が訊いてるんだけど」
「やなの・・・?」
「だから」
「じゃ、なんで、そんな、いじわるすんの・・・?」

その声は僅かに震えている。
恐らく身体の奥を暴れる熱のせいもあるだろうけれど、それ以外のものも確実にある。
五関にはそれが判っている。
じゃあそれこそ河合が言うようにどうしてそんなことを言うのか、という問いに関しては、けれどあまり考える気はない。

「・・・さぁ、なんでだろ」
「おれ、うごく、から・・・」
「ん・・・?」
「がんばってうごくし、ちゃんとやる、から。・・・いっかい、このまんま、させて?」

ゆるりと持ち上がった顔がじっと上目で見つめてくる。
いつも上がり気味の眉が心なしか下がっていて、目は既に赤くなり始めていて、五関はなんとなくその目元にそっと唇を寄せた。

「・・・泣きそう。目、潤んでる」
「な、ないてないよ・・・っ」
「俺がいじめてるみたいじゃん」
「ちがうってばっ・・・」
「あ、そ」

そこで違うと言ってしまう辺りがバカだな、と五関は思う。
実際いじめているのに。
ただ、じゃあどうしてそんなことをするのか、という問いに関してはやはり深く考える気はない。
五関にとってみればそれは「河合だから」ということで十分なのだ。

「まぁ、泣いても知らないよ、って言ったしね」
「・・・ごせきくん、て」
「なに?」
「なんで、かな」
「なにが?」
「いつもこの時だけ、いじわるだよね・・・」
「人をサドみたいに言うなよ」

心外だ、とばかりに五関は眉を上げる。

「でもほんとじゃん・・・」

ぶす、と唇を尖らせて眉根を寄せる赤い顔。
心なしかむくれたほっぺたをぎゅっと指先で摘んでやったら、ふるふると頭を振られた。
恐らく動いている間に・・・なんだろうけれども、その固定された耳が少しずれてきたのか僅かに前に降りたような状態になっていて、それがまた耳を垂れたようにも見えてますます猫だ。

「こんな日くらい、いじわるしなくたっていいじゃん・・・」

あーあ、拗ねた。
五関は内心呆れたように思う。
別にいいじゃん、俺の誕生日なんだから。
けれどそんな言動を実際塚田辺りが聞いていたら、恐らくこう言うだろう。

『五関くんて、割と無自覚に河合のこと自分のものって思ってるよね』

恐らくそんなことを実際五関が聞いたとしても怪訝そうな顔で、「河合はものじゃないけど」とでも言うところだろうけれど。
詰まるところ結局本質はそういうことなのだ。

「もー、動けない・・・」

ぽてっ、と身体ごと五関にもたれ掛かってくる。
それがもう完全に甘える猫でしかなくて、五関は口ではまた「あーあ」などと言いながらもそれを受け止めてやって、頭をぽふぽふと叩く。

「なに、もうギブアップ?」
「ちがいますー」
「動けないって言うから」
「ベッドまでとかむりだって言ってんのー・・・」
「それは動けないんじゃなくて、動きたくないってことだろ」
「・・・やだ。動かない。もうこのまんま五関くんイかせてやんない」

肩口に顔を埋めたまま頭を振るから耳がいちいち頬に当たってくすぐったい。
それに楽しげに唇の端を上げると、五関はそろりと手を忍ばせて、さっきからまだ一度も触ってやっていなかった河合の下肢の中心に無造作に指を絡ませた。

「ひゃっ・・・」

けれどまるで予想だにしないことだったのか、河合はそれこそ全身をびくんと戦かせてすぐさま起きあがる。
特に力を込めるでもなく、それこそ撫でるように触れられただけなのに、その覚えのある綺麗な指の感触に河合はそれだけで達しそうになってしまった。

「なにその声。猫だから?」

そう言ってなんだか楽しげに笑う五関は、けれどそんな河合を見越したように、絡ませた指で巧みに根本を押さえつけてしまった。
ピンポイントに抑えられた熱は痛くはないのだけれども、ひたすらにせき止められた快楽が身体の内に跳ね返ってくるようで苦しい。
河合は再び首筋にしがみついて眉根を寄せると、懇願するようにじっと見つめる。

「ご、せき、くんっ・・・」
「動かないの?そんならお前もイけないってことだけど」
「はなしてよ・・・」
「だって河合が嘘つくから」
「うそ、って、」
「俺に色々してくれるんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・」

意地悪な言葉。
でもそんな顔こそまた五関らしい気もして、河合はこくんと頷くと伏し目がちにゆるゆると身体を起こすと小さく呼吸する。
河合は、たぶんこういうのが惚れた弱みって奴なんだろうなぁ、とぼんやりする頭の奥で思いながらそっと顔を俯ける。
まさかそんな言葉や態度に傷つくわけではないし、それこそ言葉通り自分の言い出したことだし、言ってしまえばそんな五関もまた好きだと思うから。
むしろこれは応えられない自分がだめなんだなぁ、と河合はそんなところで妙にしょんぼりしてしまった。

「河合?」
「・・・ん」
「かーわーい?」
「ん・・・」
「ったく・・・」

けれど河合が自分の言葉に言い返してこずに無言で俯いてしまったことに、五関は内心ばつ悪さを感じていた。
やりすぎただろうか。
いやでもこの程度は割といつものことじゃないだろうか。
こっちが言いたいことを言って、相手も調子に乗った言動で返してくればそれでいいものを。
そんな風に変に気にしたような態度をとられるとこっちもやりづらくなるというものだ。

「・・・郁人、ほら」

俯く河合の頭を上げさせるように軽く叩く。

「こっち向いて」
「はい・・・」
「顔上げて。キスできない」
「・・・うん」

そろりと上がったその顔はやっぱり赤くて、そしてそれ以上に緩んでいた。
五関は思わず吹き出すように笑ってしまった。

「バカ、あからさまに嬉しそうな顔すんなよ」
「だってうれしいもん・・・」

素直なのはいいことだ、と実感する。
その方が色々とこっちもやり甲斐があるというもので。

五関はそっと唇を寄せて口づけてやると、小さく呟くように言った。

「・・・可愛いね、お前」
「・・・・・・」
「・・・そこでなんか反応しろよ。俺が寒いじゃん」
「・・・あ、ありがと」

イメージに反して河合が慣れていないと五関が感じるのは、実際の行為の上でもそうだが、何よりもこんな時だ。
普段から甘い台詞や愛の言葉を夢見るように求めるタイプの割には、実際本気でその手のことを言おうものなら、こうして言葉を失ったように顔を紅潮させて黙り込むのだ。
そしてこういう時こそ、五関は自分が河合に酷いことをしているように最も感じてしまうわけで。

「なんでそこで照れるかなーお前は」
「しょうがないじゃん・・・・・・ん、」

塞ぐようにもう一度口づける。
その唇は既に熟れたように赤くなって、熱を持って、吐息だけで灼けそうな程だ。
唇だけでは飽きたらずその指先でなぞるように触れてから、囁くように言ってやる。

「・・・じゃあ、このまま動いて」
「う、ん・・・わかった」

河合にとってみれば、耳に直接注ぎ込まれた蜜みたいな言葉。
それに自然と頷くとおずおずと身を起こす。

そうしてもう一度河合が動き出そうとした、その時だった。

「・・・・・・えっ?」

五関が突然驚いたように声を上げた。

「ど、どしたの・・・?」

その様子に驚いて、河合もまた目をパチパチと瞬かせる。
けれど五関は河合の言葉など聞こえていないかのように、何かに耳を澄ませてそれを聞き取ろうとする。
それから一瞬置いてはたとすると、思い切り舌打ちして深く深く息を吐き出した。

「え?え?」
「・・・やばい、帰ってきた」
「えっ?」
「姉ちゃん・・・」
「ねえちゃん・・・・・・・うそっ!?」

一瞬遅れてその言葉の意味を理解する。
姉ちゃん、というのは言わずもがな、今日は彼氏とデートだった五関の姉だ。
河合も随分と可愛がってもらっているし、来る度にお菓子をくれる綺麗なお姉さん、という印象だった。

「どどどどどーすんのっ!?」
「うあー・・・めんどくせー・・・」
「めんどくさがってる場合じゃないよ!え、ええっ、えと、もう、えー!?」

今さっきのそれなりに艶っぽい湿った空気もなんとやら。
途端にいつも通りの騒がしさを発揮する河合に、五関は重ねて溜息をつく。

「まずいなぁ・・・。絶対顔出しに来るよなー・・・」
「えー!無理じゃん!無理だって!お、俺隠れる・・・っ」
「や、どうせもう気付かれてる。お前の靴玄関で見つけてるだろうし」
「えー!!」

さすがにこのありえない体勢を姉に見られるのは、いくらなんでも勘弁願いたい。
五関は眉根を深く寄せて、あと遅くて一分後には襲い来る姉の脅威からどうやって自分と・・・そしてこの恋人を守るべきか、高速で脳を回転させる。

さっき五関が気付いたのは門扉が開く音だ。
そして次いで開いた扉の閉まる時の音の乱暴さ。
それで相手を特定したわけだが。
恐らく河合が来ていることはとっくに気付かれている。
遊びに来ているのに河合に会わせられないとなったら、その理由も探られるだろう。
そこら辺はもはや避けられない。
問題は、あの姉に実際河合を会わせないようにすることが可能か否かだ。

「ご、ごせきくん?」

河合は紅潮した顔を情けなくしょんぼりさせて五関を窺っている。
方法はどうあれ、自分のためにここまでしてくれた相手をそんな恥ずかしい目には遭わせられない。
そこら辺は五関もさすがに男として矜持がある。

「・・・ま、なんとかするけど」

至極軽い調子そう言って、安心させるように軽く口づける。
河合はあまり判っていない様子で目を瞬かせながらも、とりあえずこくんと頷く。

そうしていよいよ扉の向こうで階段を上ってくるような足音が聞こえてきた。











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前編ってなに?(まずそれだ)
だめだめ、わとさんエロ書くと無駄に長くなってしまうわ・・・。
そして一気に書き上げる気力がなかったわ。
もうこれで終わろうかとも思ったけど、肝心の一番書きたいとこまで行ってないので引っ張りました。
ていうか猫耳という異常さに既に感覚が麻痺してきている自分がこわい。
まぁ前編で書きたかったところはひたすらに、隠れサドのごっち、これに尽きます。いやあんま思った程書けてないけどね。
ほんとはもっと、もっとこうさぁ、五関さんはさぁ・・・!(うるさい)
いやしかしほんと、ごっちったらあんな常識人なのにさー、実は密かにアレだといいよねー・・・!(キラキラ)
実際のとこ、こんな時だけサドで、しかも独占欲強いとか、ね!萌え。
独占欲強いっていうかもう素で割と無自覚に河合郁人を自分のものだと思っているとよいです。
まぁ実際そうなんだけどあんた!ていう。
そしてあんだけバリバリに誘っておいて実際のとこいざとなるとダメダメにゃんこなフミトとかね。もう全体的に夢の結晶体すぎるね。
・・・まるで自分の性癖を晒すが如く恥ずかしいよな・・・。
(2006.6.27)






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