ONLY DISLIKE










郁人の本当に好きな人って、誰なんだろう。

ほら、郁人ってさ、人懐っこいし明るいし単純ぽいし、よく色んな人にベタベタしてるじゃん?
見ててもメンバー大好きって感じだし、うちらキスマイとも仲いいし。
かく言うオレも最近すっげー仲良くなったの。
キスマイ入る前までは割と憧れの先輩って感じだったのになぁ。
ほら、郁人ってダンス上手いからお手本にしてた時期とかあったんだよね。系統が似てるっていうか。
まぁ今となっては年上の友達って感じなんだけど。
郁人って良い意味で先輩って感じしないっていうかさ、話しやすいんだよ。
なんか、いくらバカやっても一緒にノってくれるっていうか。
それにああ見えてすげー仲間思いなとこもあって優しいし、絶対裏切らないって思える信頼感みたいなのもあって、だから郁人の周りっていつも人がたくさんいるのかなーって思うんだ。

とにかく、郁人っていろんな人と仲良しだからさ。
逆に、じゃあほんとに好きな人って誰なのかな?って、ちょっと気になってるんだよね。
つまりライクじゃなくてラブってこと!
オレが睨んだところだと、絶対近くにいると思うんだよね。
うーん、すげー気になる!
あ、別にオレそういう意味で郁人のこと好きなわけじゃないよ?
ただ、いるなら色々聞かせてもらおうと思ってるだけ。
だって俺ら友達じゃん?
後学のためにも、年上の友達から色々聞きたいな〜なんて思ったりするわけ。

そんなこんなで!
オレ、最近よく郁人のこと観察してんの。
正確には、郁人と郁人の周りをね。
そんなオレが今のとこ目星をつけてるのは三人。
オレ的には絶対この中の誰かだと思うんだよな〜。
ただそこからが決め手に欠けるっていうか、その三人共とほんとに仲いーんだもん。
でも絶対発見してみせるぜ!
え?最初から本人に訊けばいいだろって?
ばっかだな〜。そこを当てるのが面白いんじゃん。
当てて郁人の驚いた顔見るのが面白いんじゃん!
てなわけで目下探偵気分で燃えてる二階堂高嗣です!オレはやるぜ!

・・・おっ、そんなところにちょうど郁人はっけーん!!
しかも容疑者その1と一緒です!



「ふーじがやー。今日ご飯食って帰ろうぜー」

郁人は振り返り様の太輔の肩に伸び上がるように手を伸ばして廻すと、そっちに顔を寄せて笑ってる。
出たー、郁人の十八番その1、肩組み!
太輔なんて結構身長差あんのによくやるなー。
しかも必要以上に近いのな。

「おー、いいよー。どこいくどこいく?」

太輔は最初びっくりした顔をしてから、自分からも郁人の肩に手を廻して顔を寄せてる。
なんか結構見た目デコボココンビではあるんだけど、なんか似てる感じするんだよね、この二人。
たぶん精神年齢が一緒なんだな。二人ともガキっぽいもん!絶対オレのがオトナだねー。

後ろからこっそり二人を観察してるオレにも気付かないガキな二人は、顔を寄せ合った無駄に近い距離でこしょこしょ話してる。

「つーかさー、俺ね、行きたいとこあんの」
「行きたいとこ?」
「あのさ、最近ちょっと高いドーナツ屋さんできたじゃん?」
「あー、なんかニュースでやってた。すげー並ぶらしいけど」
「そうそう。でもマジおいしいらしいから!」
「一人じゃキツいから二人で並ぼうってこと?」
「たいちゃんわかってんじゃん!」
「いやーお前が行動派で助かったわー。自分から言わないで済んだもん」
「え?・・・あっ、もしかしてお前も行きたかった系?」
「だって超うまそうじゃんアレ」
「なんだよー早く言えよー」
「帰りに言おうと思ってたんですー」
「しまったぜー」
「俺の勝ちなー」
「なんだよそれー」

あーやばいな。
この二人マジでバカだな。
会話がガキすぎだよな。くっだらねー。
仲良しって感じでいいとは思うけどね。

ほんと、郁人と太輔ってテンポとかテンションの合う友達って感じなんだなーと思う。
ツルむには一番居心地のいい相手っていうか。
特に無駄に考えなくてもいい、なんか学校の友達とか、そんな感じなのかも。
一番悩まず楽につき合える相手だよなーきっと。

太輔が有力候補?なんて思いながら腕組みをしていたら、いつの間にか郁人が一人になっていた。
さっさと廊下の向こうに行ってしまうその姿を慌ててこそこそ追いかける。
そうしたら、容疑者その2を発見!



「あっ!よっこっおーーー!!」

郁人は視界の向こうに入った長身めがけて凄まじい勢いでダッシュをかける。
そんでその勢いのままおもいきり後ろから両腕を廻して抱きついた。

「うおわっ!」

出たーーー!!
郁人必殺、後ろ抱きつきー!
主に太輔か渉限定必殺技!そして効果としては渉の方がより上!以上二階堂考察!
まぁ単純に背が高いからやりやすいんだろうけどね。
郁人はよくこうやって凄い勢いで、半ばタックル状態で後ろから抱きついていく。
でもそれは誰にでもってわけじゃなくて、しかも何も身長が高ければいいってわけでもなくて、それが許される、許してくれる相手だからなわけで。

「・・・お前なー、マジびびるだろ」

思いきり抱きつかれた渉は呆れたみたいな口調でそんなことを言いながら、顔だけで振り返って顔を確認するみたいに見下ろしてる。
でも引き剥がすようなことは決してしない。
むしろ廻された腕に自分の大きな手を添えてあげたりしてて、むしろ相当な密着具合。
ちょー暑苦しいなーあの二人!

「よこおーあのさー」
「んだよ」
「バイク乗りたい」
「2ケツさせろってこと?」
「そうそう。今無性にドライブしたいの、俺」
「いいけど、そんならお前ちゃんとヘルメットしろよ?」
「えー。でもアレするとむれるからヤダ」
「やだじゃねーよ。そんで捕まんの俺だから」
「そこはお前、見つかったら頑張って逃げろよ。ヤンキーの努めとして」
「お前いい加減人をヤンキー扱いすんの止めろ。つーか逃げたらもっとやべーっつの」
「なんか青春っぽくてよくない?盗んだバイクで走り出す〜♪みたいな!」
「誰が盗んだんだよ誰が!アレは俺の血と汗と涙の結晶で買ったバイクなの!」

ていうかあんたらいつまで抱き合ってんの?
なんかさー、渉って郁人には微妙に甘いんだよね。
口調とか態度は割とぞんざいなんだけどさー。
なんだかんだと言うこと聞いてあげてんだもん。
甘いよ渉ー俺にはもっと厳しいくせにさー。
そもそも郁人が渉にはワガママ多い気がすんだよね。
ちょっと甘えてるっていうか。
しかも渉が言うこと聞いてくれんのわかってて無茶振りしてる感じもするしー。
渉とのやりとり見てると、もしかして郁人って意外とバカなだけじゃないのかも、なんて思う時もあったりするね。
まぁほぼバカだとは思うんだけどー。

なんていうか、渉と郁人は親友同士で頼り頼られる関係っていうか、ぴったりはまってるなーと思う。
凹凸が噛み合う感じ?
くだらないこと言い合っててても、なんか深いとこで繋がってる感じするっていうか。
こういうのは長続きするんだろうなーって感じする。
たとえば何度ケンカしてもちゃんと元に戻れるみたいな。

渉も相当イイ線いってるよなぁ・・・なんて思ってたら渉とも別れた郁人が更に廊下の向こうに行ってしまう。
曲がり角を曲がったところで姿を見失って、ヤバイと思ってダッシュで追いかけてオレも角を曲がる。
そして慌ててまた角を戻って顔だけこっそり出した。
容疑者その3きたー!



「五関くんっ!」

もうね、声が違うよ声が。
名前とか出さなくても相手わかっちゃうくらい違うの。

「・・・なに?」

でもそんな声なんてお構いなし、ていうかむしろその声だからこその態度くらいな平然とした返し。
すっ飛んできた相方に視線だけで応えたその姿。
さすがは関東ジュニア界の重鎮!ごっちー!
両腕組んだそのクールな表情がダンディだねーさすが!
でもって郁人の嬉しそうな顔ったらないよ!

「ねえねえ、あのさ!」
「なに」
「カラオケ行こーよー」
「・・・またリサイタル?」
「うわーなにその嫌そうな顔!」
「お前、つい三日前行ったじゃん」
「今日は違うんだって!」
「だったらなに」
「今日はごっちリサイタル見たーい!」
「は?・・・なに?」
「だからー、五関さんちの晃一さんのリサイタルがね、おれ、見たいです」
「えー、やだよ」
「なんで!」
「なんで俺がお前にリサイタル・・・」
「だって見たいんだもん」
「理由になってないよ」
「五関くんのラブバラードが聞きたいの・・・!」
「よりにもよってラブバラードなんだ・・・」
「だめ?」
「だめ」
「おれっ、モノマネの新ネタやるから!」
「お前またネタ仕入れたの?」
「嵐の新曲!」
「また嵐かよ」
「だからごっちリサイタル!」
「繰り返すけどリサイタルはない。・・・普通に歌うなら別にいいけど」
「12月の花ね!」
「うわー、ないなー・・・。ていうかさ、俺タキツバで言ったらテイスト的には翼くんなんだけど」
「それは重々承知の上で!翼くんテイストな12月の花が聴きたいの・・・!」
「なにそれ」
「やってくれたら俺、タッキーテイストでゲッダンするから!」
「いや意味わかんない、それ」

郁人がもし万が一女の子だったらさ、絶対ごっちに恋してると思うんだよね。
そのくらい、郁人ってごっちに対して無駄にキラキラしてるから。瞳が。百万ボルトだよ。
なんかどれだけそっけない態度とられてもめげないっていうか、一途っていうか、むしろそんなごっちにますますラブっていうか。そんな勢い。
でもごっちはごっちで、なんだかんだそういう郁人で楽しんでる節もあるんだよなー。ていうか絶対そう。
だってごっちって好きじゃないとか興味ない人間にはいっそすがすがしいくらいスルーだからさ。
なんだかんだこれだけ構ってんのって郁人が一番なんだよね。
むしろ二人してこんなやりとりを日常として楽しんでるって気も最近するし・・・・・・これぞリアルSMってヤツなの?
さすがシンメは奥が深いなー。

この二人見てると、やっぱストンと落ち着くっていうか。
お互いがオンリーワンって感じするっていうか。
すごい特別感あるんだよね。
こう、他の奴が入り込めない何かを感じる、みたいな!

やーっぱ最後はごっちかー・・・なんて思っていたのも束の間。
ごっちと別れた郁人は更に廊下の向こうへと歩き出す。
オレもこそこそとその後をついていく。
でもちょっと歩いたところで、郁人の足が急にピタリと止まったんだ。



「・・・?」

オレは思わず首を傾げた。
止まったはいいけど、郁人はさっきまでみたいに走っていったりすっ飛んでいったりしない。
ただ足を止めたままじっとしている。
そのまま廊下の向こうを見ている。

誰だろうと思って角度を変えて郁人の向こうを頑張って見てみたら、わかった。

「あっちゃー・・・」

思わず小声で呟いてた。
向こうから歩いてきたのは郁人と同じくらいの背丈の童顔。
うちのグループの最年長。

「・・・」

向こうから宏光が歩いてくるけど、それでも郁人は立ち止まって黙ったままだ。
宏光だって当然郁人に気付いてるみたいで、ちょっと眉を寄せて、それでも黙ったままなんでもないみたいに歩いてくる。

うわー、気まずい・・・。
なんか、郁人と宏光って、あんま仲良くないみたいなんだよね。
太輔とか渉とかごっちに言わせると、別に仲が悪いわけじゃないらしいんだけどさ、でも絶対仲悪いんだってオレは思うね。
だってさー、あの人懐こい郁人が、宏光にだけはろくに近づかないし、滅多なことがなければ話しかけないし、触りもしないんだよ?
宏光は宏光で、口を開けば郁人のこと「うざい」って言うしさ。
まぁいるよね、絶対無理ヤツって一人か二人くらいは。

そんなことをしみじみ思ってたら、どうやら宏光は郁人の少し手前にあった部屋に用があったみたいで。
郁人とすれ違うこともなく、その目の前の扉に手をかけた。
すぐそこに郁人がいるのに目も合わせなければ話しかけもしない。
郁人もやっぱり立ち止まったままで何も言わない。
ただ郁人は、宏光の方をじっと見てた。
郁人って目鼻立ちがきついっていうか、何せあのキラキラしたおっきい目だからさ、真顔で黙って見つめられるとちょっと怖いくらいなんだよなー。
普段はバカみたいに大口開けて笑ってるから全然そんな感じしないんだけど。

もしかしたら宏光もあんまりな眼光の鋭さが気になったのかも。
開けた扉に入る前に、チラッと郁人の方を見た。

「お前、どんな顔して見てんの?」

宏光の台詞の意味がよくわからなかった。
バカにしたみたいな、そのくせちょっと苛立ったみたいな。
よくわからなかったから、それに対する郁人の反応で理解しようと思ったんだけど。

「・・・お前には、関係ない」

郁人には珍しいくらいそっけない台詞。
でもなんだか少し強ばった声。
やっぱり、よくわからなかった。

きっと宏光もわからなかったんだろう。
じっと郁人の方を睨むように見てた。
でも郁人が何も言わないから、そのくせじっと見てるだけだから。

「あっそ」

結局よくわからないまま、宏光はその扉の向こうに行ってしまった。

「・・・」

残されたのは郁人だけ。
ただ立ち尽くして・・・少し俯いてる?
言葉はそれ以上何もない。
代わりに深い溜息が廊下に消えた。
その場の空気を妙に切なく震わせるような、そんなため息だった。
細い後ろ姿が妙に頼りなく見えるような、そんなため息でもあった。


あんな郁人初めて見た。
だって郁人は他の誰にもあんな態度はとらない。
太輔にも、渉にも、ごっちにも・・・オレにだって。
誰にだって人懐こくて明るくて、わかりやすい好意を向けてくる。

あんな郁人は初めて見た。
あんな郁人は宏光にだけだ。
宏光だけに見せる郁人だ。

人懐こい郁人が、まるで固くて棘のついた殻を突きつけるような唯一の相手。
たくさんの好意を周りに向ける郁人が、それを向けない唯一の相手。

河合郁人の、唯一の相手。



ねぇ、郁人?
郁人のほんとに好きな人って、誰?










END






まーさーかーのー北河!(笑)
ちょっと新しい試みって感じで、カプすら明かさずやってみました。
なんかネタ自体は結構前からモヤモヤあってね、あんまわかってない第三者視点で複雑極まりない北河事情を書きたかったというかね。
まだまだおこちゃまなニカちゃんにはあの複雑な関係はよくわからんわけです。
単純に仲悪く見える(笑)。
ガヤフミに見せかけてわたふみに見せかけて五河に見せかけて、実は北河!みたいな。ありえねー。
単純に見えるフミトがはまってしまった複雑すぎる恋なのです。

いやしかし二階堂視点楽しかったー。
私どんだけニカちゃんをバカだと思ってるんだろう。
でも実際キスエビ1バカだと思ってます(ひでえ)。
あの子はガヤフミとかと違って自覚がないっていうか、むしろオレかっこいい!って思ってるから余計酷いんだ(笑)。
(2007.8.12)






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