僕らのベイビー?
「だからさぁ、誤解だって言ってるのに!」
「うっせーんだよこのバカ!この尻軽!」
「なんだとこのやろー!お前に言われたくないよ!」
「俺はお前と違ってオンリーワンだっつの!」
「俺だってオンリーワンだよ!」
「どーだかな!」
「・・・お前らマジでうるさいんだけど」
収録スタジオからの控え室への帰り道。
五関はうっかりこの二人と一緒になったことを後悔していた。
北山と藤ヶ谷はさっきからずっとこの調子なのだ。
そもそもが発端は、ゲスト出演した先輩が藤ヶ谷憧れの人だったことに起因する。
進行役から「藤ヶ谷が憧れてるんですよ」と振られた先輩が笑顔で話しかけてくれたことに藤ヶ谷はいたく感動し、頬を赤らめて終始はにかんでいた。
しかしそれがとことん面白くないのがその恋人である北山だった。
そしてその後の展開は推して知るべしというもので。
五関はうるさいカップルの間の喧々囂々に挟まれてうんざりしていた。
早く控え室行って着替えたい、そんなことを当然のように思う。
けれど今日A.B.C.とキスマイは控え室が一緒なのだ。
つまり、控え室に行ってもこの状態から解放されることはないとも言えるわけで。
「だってさ、こいつひどいと思わない!?ねぇ五関くんもそう思うでしょ?」
「どう考えてもこいつが悪いだろ!?五関くんならわかるよね?」
「あーーー・・・・・・うるさい俺に話しかけるな」
五関はもはや我慢の限界とばかりに両手で耳を塞ぐと、早足に控え室へと急いだ。
せめて他のメンバーも早く後から来てくれればと、そんなことを願いながら。
控え室に着いたのは五関が一番だった。
その後を追うように、北山と藤ヶ谷が相変わらず互いに言いたい放題言いながらやってくる。
依然として両手で耳を塞いだままこれでもかと顔を顰めながら、五関は控え室の扉を蹴り飛ばすように開ける。
五関にしては随分と行儀の悪いやり方だが、今は両手が塞がっているのだからしょうがない、と本人は当然のように理由付ける。
今は行儀よりも自分の精神衛生の方が大事なのだ。
しかし一番乗りだったはずの部屋には、何故か先客がいた。
2グループ分だから割合大きめの部屋にあるソファーの上には、見知らぬ小さな子供がひざを抱えていたのだ。
その子は五関が蹴り飛ばして開けた扉の音に驚いたようで、目を見開いてこちらを見ていた。
「え・・・?」
五関は思わず入り口で立ち止まり、その子を凝視した。
その子もまた五関をじっと凝視する。
見たところまだ5歳かそこらだろう。
サラサラした黒髪に色の白い肌。
少し切れ上がった特徴的な切れ長の目。
なんだか少し下がりめの眉に、薄い唇。
最近入ったばかりのジュニアだろうか?
いや、ジュニアにしてもいくらなんでも幼すぎる。
今のところの最年少は森本慎太郎辺りがせいぜいのはずだ。
そんなことを咄嗟に思いながら五関がその子をじっと見ると、やはりその子も五関をじっと見る。
むしろその子の方がより熱心にじっと五関を見ている。
もしかして俺のこと知ってるのかな?
そんな風に思ってしまうくらい、その視線は確かに五関を認識している気がしたのだ。
そうして二人何故か見つめあうこと更に数秒。
そこに北山と藤ヶ谷がやってきた。
依然として言い合いは続行中だ。
「もー北山ってなんでそんな根性捻じ曲がってんの?」
「うるせーお前なんか信用なんねーんだよ」
「あーむかつくー!・・・って、五関くん?どしたの?」
「お前のがむかつくっつーの!・・・なに突っ立ってんの五関くん」
二人は揃って不思議そうにしながら、入り口で依然として立ち尽くしたままの五関の向こうを覗いてみる。
するとそこには、やはり小さな子供がいて。
「あれ、この子誰?」
「新しいジュニア?」
第一声は五関の感想とさほど変わらない。
けれど次に二人同時に発せられた言葉には、五関は思わず振り返らずにはいられなかった。
「「なーんか、五関くんに似てる」」
思いがけず見事にかぶった言葉に、言った当の本人たちははたとして互いを見やる。
けれど先ほどのケンカはなんとやら、互いに指を差し合っては頷き合うのだった。
「だよね?似てるよね!?全体的に!」
「似てる!まんまチビごっちじゃん?」
「・・・そう?」
けれど言われた当の本人にはよくわからない。
軽く眉を寄せながら再びそちらを見ると、「チビごっち」と呼ばれたその子供は依然として五関をじっと熱心に見つめていた。
そろそろその視線が痛くなってきてはいたが、元来子供好きな五関なので、もしも迷子なのだとしたらお母さんを捜してやらなければ、とそう思い直してその子に近づいていく。
「・・・君、どこの子?お母さんはどうしたの?」
常からは信じられないくらいに優しい調子でそう言って、五関はその子の前まで来るとしゃがみこんで目線の高さを合わせてやる。
するとその子はパッと顔を輝かせて笑った。
笑うと目が細くなって人懐こい表情になる。
あ、可愛いな。
素直にそう思った五関は子供好きの本領を発揮して、思わず手を伸ばして頭を撫でてやる。
その子はさらに喜んだ様子で五関に飛びついてきた。
「っわ、なに、どしたー?」
唐突なことに面食らったが、やはり子供好きな五関は素直に抱き返してやって頭を撫でてやる。
しかし次にはとんでもない台詞が飛び出して、文字通り固まった。
「ぱぱー!」
可愛らしい高めの声で、まだまだあどけない呼び方で。
しかしそれらを素直に可愛いと思う前に、五関は思わず身体を離してその顔を凝視していた。
「な、なに・・・?」
そうか、お母さんじゃなくてお父さんと一緒に来たのか。
お父さんに会いたくなっちゃったんだな。
そんな風に結論付けようとしたけれど、その子はまた満面の笑みで五関をまっすぐに見つめ、迷いなく言ってのけた。
「ぱぱ!ぱぱ!!」
五関をじっと見て、あろうことかそのちっちゃな白い指まで指して。
その子は五関に向けて言ったのだ。
ぱぱ、と。
さすがに呆然としている五関を前にやはり呆然としていた二人は、けれど先に我に返った。
そしてさっきの言い合いと同量かそれ以上の音量を響かせた。
それはもう、廊下の向こうにまで聞こえる程に。
「ご、五関くんの隠し子ーーー!!??」
「五関くんいつのまにー!!すげええええ!!」
お前らふざけんな本気で静かにしろよいい加減黙らすぞ。
五関には珍しい、そんなガラの悪い言葉が口を突いて出ようとする。
けれど興奮した二人はすっ飛んでくるや否や、五関の腕の中の少年に興味津々で、そんなことを言う隙もなかった。
「近くで見るとさらに似てるよ〜!かわいい!」
「うわー、ちっさ・・・本気でまんまチビごっちじゃん・・・。そっか、パパ似か〜」
子供って、いいよね。
何やら二人揃って若干のほのぼのムードすら醸し出す勢いなのが更に鬱陶しい。
どうにかこの意味のわからない事態に収集をつけなければ。
五関は額を軽く押さえながらそんなことを思って、未だ腕の中でじっと自分を見ている少年に努めて優しく尋ねる。
「あのさ、俺は君のパパじゃないよ?」
「ぱぱ・・・」
「うーん、俺に似てるのかも、しれないけど。俺はパパじゃないんだ」
「いやどう見たって五関くんの子供だって。ちゃんと認めてやれって」
「うるさい北山黙らないと後で酷いよ」
「こわっ」
「うん北山ちょっと黙ってた方がいいかも。五関くん怒らせたらやばい」
「そ、そうだな・・・」
北山と藤ヶ谷はこそこそとそう言い合うと、一歩引いて二人を見守る。
確かに二人がそれだけ言うくらいなのだから、多少なりとも似ているのかもしれない。
けれどそれでも自分の子供だなどと、当然そんなことはありえないのだ。
そう思いながら尋ねるけれど、その子はまたじっと五関の顔を見つめては可愛らしいばかりの笑顔で言った。
「ぱぱだもん!」
五関は若干の眩暈がした。
そんな罪のない純真な笑顔で真っ直ぐに言い放たれると、それを否定する自分の方が間違っている気がしてくる。
しかしそうは言ってもやはりありえないのだ。物理的にどう考えても。
「ぱぱー!」
ぎゅう。
小さな身体がしがみついてくるのはとてもとても可愛らしい。
子供好きな五関にとってみれば嬉しさこそあれ、嫌なことなど何もない。
むしろこんな可愛い子供ならば自分から抱きしめたい。
けれども、この事態はさすがにありえない。
どうしよう・・・と、さすがの五関も途方にくれていると。
事態は更なる悪化を見せた。
「ぎゃーーーーーー!!!」
まさに悲鳴と言わんばかりの大音量が、背後から響き渡った。
それこそ、さっきの北山と藤ヶ谷二人分の声を一人で出しているくらいの勢いだ。
そしてその声は聞き慣れたそれでもあって、言ってしまえばこの展開においては最悪の人間の登場でもあって、五関は今度こそ額を押さえて項垂れた。
「五関くんの、隠し子・・・ッ!!?」
北山と藤ヶ谷が同時にそちらを見れば、横尾と連れ立って帰ってきたらしい河合が入り口で立ち尽くし、大きな目を更に見開いて固まっていた。
横尾はその隣でやはり驚いているようだが、河合の大音量の甲高い悲鳴を直で聞いてしまったからか、眉根を寄せて片耳を指で塞いでいる。
「ごせきくん、うそでしょ・・・?」
うるっ。
見開いた目をおもいきり潤ませて、河合はわなわなと震える。
しかし五関の腕の中にいる少年はその事実を肯定しているようにしか見えない程に、そのくらい五関に似すぎている。
そう、相方で恋人なのだから誰よりもわかるのだ。
そのサラサラした黒髪も白い肌も切れ上がった切れ長の目も下がった眉も綺麗な手も、パーツが似すぎている。
そして全体を見れば、もはやそれはまんま五関晃一のミニチュアでしかないのだ。
それは可愛い。とても可愛い。
大好きな人のそのまま小さい姿など、可愛いに決まっている。
けれどだからこそ辛い。
「ごせきくん、うそって言って・・・!」
「嘘だよ。そんなわけないだろ・・・」
「うそつくなよ!」
「嘘って言ってって、今言ったじゃんお前・・・」
「だってそんな似てるんだもん!どう考えたって・・・ッ!」
ああ、めんどくさい。
五関は若干ぐったりしながらも、その子を放り出すわけにもいかず、抱えたまま河合の方に向き直る。
けれどそれは逆効果でしかなく、ちっちゃい五関をいつもの五関が抱えたようにしか見えないその様は、河合の脳裏には「親子」の二文字しか浮かばなくなる。
「う、う、う・・・っ!」
河合は顔を真っ赤にしてわなわなと震えると、隣にいた横尾に思わずしがみついた。
「よこおおおお!!浮気されたあああああ!!!」
「ちょっ、か、かわいっ、落ち着けおまっ・・・」
「どうせ俺は子供なんて産んであげられませんよーー!!ちっくしょーー!!」
「あ、あー、あー、うん、よしよし・・・」
「うえええええええ・・・」
それはさすがの横尾もうろたえる程の有様だったけれども、ギュッとしがみついては本気で泣き始める河合を突き放せるはずもなく、横尾は仕方なさそうに頭を優しく撫でてやる。
大袈裟すぎるしうるさすぎるし何より声が大きすぎる、けれども。
確かにこの現状が事実ならば、泣くくらいじゃ済まないくらいショックだろう。
横尾はまさか本気でその子が五関の隠し子だと思ったわけではないが、確かに似すぎていると言えばそうでもあって、多少なりともの疑惑とほんの少しの非難をこめて五関を見た。
その視線に敏感に気づいた五関は深くため息をつく。
なんで身に覚えのないことでそんなに責められなきゃいけないんだ、と思う。
ありえるわけがないのに。
なんで河合は信じないのか。
そう思って思わず腕の中の少年を見ると、また目が合ってニコリと笑われた。
そんなに似てるかな、とぼんやり思っていると、その少年は不意に五関の腕を抜け出した。
「ちょ、どこ行く・・・」
五関が思わず追いかけようとするのを後目に、その子はぽてぽてと軽やかに走っていく。
その行く先は、横尾と河合。
横尾の胸にしがみついている河合のもとだった。
少年は河合の前まで来ると、河合をじっと見上げる。
その気配を感じてか、河合がそろりと顔を上げておずおずとそちらを見ると、その子はまた笑った。
五関に向けるのと同じように笑った。
そしてやはり無邪気に言った。
「まま!」
今度こそ部屋中の全てが固まった。
河合の涙は一瞬にして引っ込んでしまって、目を真ん丸くして少年を見下ろしている。
その子は河合が自分をじっと見ていることがこれまた嬉しかったのか、また熱心にじっと見つめては、更に嬉しそうに言った。
「まま!ままー!!」
五関はもはや目の前のことを違う世界の出来事のように見ていて、何か言う気にもなれない。
そして当の河合は、依然として目を見開いて少年を見つめたままに、しがみついていた横尾に向けてぽつんと呟いた。
「・・・おれ、知らない内に産んでたかな?」
「もうそういうことにしとけよ・・・」
疲れたような横尾の返しに、五関の深いため息がかぶった。
END
ギャグです。単なるギャグです。冗談です。
チビごっちとウザいままフミトと子供好きぱぱごっちが書きたかっただけです(色々ひどい)。
むしろ書きたいのは続き部分だったんだけどさすがに自重。
(2007.8.12)
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