蝶になれなかった蛹










友情にも独占欲があるんだよ。



「その後どうなの？」
「どうって？」
「だから、例のカノジョ」
「あー・・・・・・別れた」

そう言ってかったるそうに煙草を吹かす横顔を見つめた。
それはもう終わったことだとばかりに、既に捨てたものを顧みるでもない。

長くて節張った指先が緩慢に動くのをぼんやりと眺める。

「なんだ・・・結局ダメだったんだ」
「そういうこと」
「早いって、お前」
「しょうがねーじゃん」
「しょうがなくないよ。ちょっとは頑張れよ」
「無理。だいたい嫌なんだって、束縛されんのさ」

薄い唇が軽く開いたかと思うと、そこから白い煙がふっと吐き出される。
ゆらゆらと空気に溶けるそれがなんだか妙にもの悲しく見えた。

その横顔から軽く視線を外し、同じようにふっと息を吐き出す。
けれどそこには煙などはなくて。
ただなんとなく妙な虚しさみたいなものが代わりにあった。

「横尾のこと、好きだったから束縛してたんじゃん？」
「そりゃそうだろうけど」
「それがダメ？」
「ていうか、程度ってもんがあるだろ。携帯のメールまで見られたんじゃたまんねーよ」
「ああー・・・そこまでいっちゃってたか」
「いっちゃってたの」
「それは確かにちょっときついかもね」
「ほんとだよ。マジ勘弁」

不機嫌気な呟き。
確かに思い返せば、随分可愛らしくて横尾好みの胸の大きい子だったけれど、少しわがままそうな感じはした。
仕事帰りに横尾を待っていた彼女に偶然会った時のことを思い出しては、ぼんやりとそんなことを思う。

「河合くんのメールばっかり、だって。超うぜーだろ？」
「え？なに？・・・あ、メール見られた時？」
「そう」
「あらら・・・。ひょっとして、俺ヤキモチ妬かれちゃった感じ？」
「他の女とかならともかく、ダチにまでとかありえねー。もうそれでブチっときた」
「ちょ、俺きっかけかよ！それこそ勘弁しろよーお前ー」
「だってむかついたんだもん」
「可愛く言ってもダメー」
「なんだよ、お前どっちの味方なんだよっ」

軽く不満気に言ったかと思うと、長い腕が肩にガッと急に廻ってきて、慣れた煙の匂いが一気に鼻をつく。
こんな感覚とか、そんな匂いとか。
きっと彼女はそれらを自分だけのものにしておきたかったんだろう。
好きだから。大好きだから。自分だけを見て欲しいから。自分だけに触れて欲しいから。
それを脅かすような要素は排除したいのだ。
・・・女の嗅覚はさすが侮れない。
骨張った長い腕の中でそんなことをぼんやりと思ってから、間近にあるその顔を見上げるようにして小さく笑んだ。

「次はさ、もうちょっとちゃんとした子にしなよ」
「ちゃんとしたって、どんなだよ」
「もうちょっと大人しい感じとか？」
「大人しい、なぁ・・・。とりあえず、束縛しないでくれれば、いいんだけど。あと胸は大きめがいいな」
「もうわかったよこの巨乳好き」
「でもとりあえず、暫くはいいや」
「そう？じゃあ、これからどっか行く？」

その腕の中で当然のように言えば、その八重歯を惜しげもなく晒して浮かべられる笑顔。
眩しい、可愛い、大好き。
その笑顔と同時、伸びてくる大きな手が無造作に頭を撫でてくるのも、本当に好き。

「そうこなくっちゃなー。やっぱ彼女とかより友達がいいよ。つか、お前がいいわ」
「あはっ、任せろー。悪いけどそんじょそこらの女には負けないよ？俺は」
「ほんとほんと。郁人サイコー愛してる！」
「おれもおれもー」

彼女には愛してるなんて、一言も言ったことはないだろうに。
そんなことを心の中だけで呟いて、自分からもその広い肩に手を廻す。
触れた指先に力がこもるのが判る。
けれどそんなことは気付かれない。

「おっしゃ、そんじゃバイクバリバリいっちゃうかー」
「イエーバリバリいこーぜバリバリー」

廻した手に感じる温かさに思い知る。
彼女の気持ちが痛い程にわかる。
自分だけのものにしておきたかったその気持ち。


だって友情にも独占欲があるんだよ。
恋になりそこねた、惨めな友情にも。










END






今までのわたふみにはない痛さでお送りしてみました。まるでいつもの五河のようだわ！（…）
しかも更に珍しく渉←フミトなわたふみ。
ていうかやっぱ片思いならフミトが一番萌えるのよね！わとさん受けっこの片思い大好きなのよね！
むしろ本命のかわいこちゃんは薄幸萌えです。かわいそうなフミト萌え（最低だ）。
フミトはねー、顔で笑って心で泣くって感じがえらい似合うと思うわけで・・・すんませ！
なんも考えてなさそうなキャハハな裏で超思い詰めてそうなね・・・。
という妄想がついにわたふみにまで及んでしまった結果です。
そしてわたふみと言えばやはりキーワードは「友情」であります。友情と恋の狭間萌え。
（２００７．３．１５）






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