太陽には内緒










「あっちー」

カンカン照りの太陽からせめて隠れるように、屋上の入り口の陰になった部分に腰を下ろして河合は汗を拭った。
ボタンを三つ開けてネクタイを限界まで緩めたシャツの胸元を指先で摘んで広げ、せめてと持ち込んだうちわで風を送る。
汗で湿った肌が風に触れて少しだけ涼しい。

「あー、プール行きてー・・・」

熱で朦朧としながらうちわを緩慢に煽り、だらけた調子で呟く。
その隣では、すっかり温くなってしまって汗をかいたペットボトルに口をつける藤ヶ谷がいた。
河合が何気なくそちらを見ると、ちょうど藤ヶ谷の褐色の喉が上下するのが見えた。
その喉もうっすらと汗ばんでいたけれど、なんだかそのラインが妙に綺麗に感じた。
褐色の肌は夏にはよく似合う。

「ふじがやー」
「んー?」
「俺にもちょーだい」
「ん、ほい」
「さんきゅ」

受け取ったペットボトルに口をつけると、それは思う以上に温くなってはいたけれど、それでも乾いた喉には十分心地よかった。
身体が水分を貪欲に求めていたらしく、既に半分以下だったそれはあっという間に飲み干されてしまう。
最後の一滴を唇で受け、滑り落ちようとするそれを舌先でぺろりと舐めた。
しかしさすがにそこで隣から高めのぼやくような声に咎められる。

「おーい、こらー、なに全部飲んでんだよー」
「だって喉渇いてたんだもん」
「半分払えよ」
「おれ今お金ない」
「お前はいっつもないじゃん」
「あー、お金ってなんでいつの間にかなくなってんだろなー」

しみじみとため息をつきながらうちわを扇ぐ河合を前に、藤ヶ谷はさりげなく自分の手に戻された空のペットボトルという名のゴミを見てから、改めて河合を見る。

「じゃ、お金ないなら身体で払って」
「は?なに、俺の身体狙い?」
「バカ、扇げってことだよ」

そんなふざけた様子で、両手で胸を隠すような仕草を見せる河合に吹き出すように笑ってから、藤ヶ谷はその褐色の手で河合の手を掴む。
うちわを持ったその手を自らこちらに動かすようにして扇がせると、河合もまた楽しげに笑い、自らも手に力を込めて藤ヶ谷に風を送ってやる。
藤ヶ谷のメッシュの入った前髪がそよそよと風に揺れた。

「きもちいー?」
「んー、さいこーっす河合さーん」

送られるその風に目を細めてはにかむように笑う藤ヶ谷をじっと見て、河合はそろりと身体を寄せる。
扇ぐ手はそのままに、すぐ間近でうっすらと唇を開いて悪戯っぽく呟く。

「たいぴー、俺も気持ちよくして?」

わざとらしいふざけた調子でべろんと舌を出してみせる。
藤ヶ谷は一瞬きょとんと幼げに目を瞬かせてから、声を上げて笑った。
扇ぐその手を再び掴んで自分から顔を寄せると、河合の小柄な手の甲を何気なく舌先で撫でるように舐めた。

「郁人、えっろーい」
「えろくないもーん。太輔のがえろいもーん」

カラン、と小さな音を立ててペットボトルが転がる。
その向こうで二人の影が重なった。
じりじりと照りつける日差しから隠れるように、ひそやかな息遣いが漏れる。
まるで互いの水分を貪欲に求めるように、重なった唇は何度も啄ばむように触れては離れ、また触れては離れる。
脳天までやられるような暑さの中、汗ばんだ薄い胸元に褐色の手のひらが吸い付く。
その手がまた熱くてどうしようもなくて、河合は唇をしどけなく開いては堪らない様子でぴたりと身を寄せる。

「ふ、じがやぁ・・・」
「ほら、やっぱお前のがえろいって」

肩口に寄せた頭の上から、そんなクスクスと笑う軽い調子の声が聞こえる。
それにこくんと唾を飲み込んでうっすら目を細めると、河合はそのまま顔だけを上げてすぐそこにある藤ヶ谷の顎先に唇で触れた。

「ふじがや、次、さぼろ?」
「んー・・・いいけど、そこ、鍵かけとかないと」
「んふ、実はもうかけてあるー」
「お前なー、確信犯すぎ。やっぱえろすぎ」
「太輔お昼ご飯に食べようと思ってかけといた」

楽しげにきゃらきゃらと笑ってそんなことをのたまう、そのつやつやした唇に応えるようにチュッと軽く触れると、藤ヶ谷はその長い腕でキャラメル色の頭を抱きこんだ。
そしてそのまま顔を覗き込むようにして鼻の頭と頭をちょこんとくっつけた。

「郁人、えろい子は食べられる方なんだよ?」
「じゃあやっぱ太輔食べなきゃ」
「言ってろー」

ひそやかな笑い声が日陰に漏れる。
再び重なる影。
緩慢に身じろぐ二人を受け止める扉の向こう側に、忙しなく二人の名を呼ぶ声がする。
それをどこか遠くに聞きながらも、触れる手は止まらない。

「・・・河合、なんか呼んでるよ」
「いま、むり・・・」
「郁人せんぱい、だって・・・」
「もー、いいって・・・あいつは後でかまってやるから・・・」
「ふみとせんぱい、えっろーい・・・」










END






ガヤフミガヤフミ!
やばいわー、なんかあの百識によって完全に私の中の意識改革が行われてしまいました。
もはやガヤフミに本気です。
やっぱあの二人はガチだなー、と。
殊ベタつきっぷりで言えば他の追随を許さないよ!
というわけで、ガヤフミは基本ナチュラルにイチャイチャベタベタなちょっぴり百合気味カップルでいきたい感じです。
シリアスになるとまたちょっと変わると思うけどね。
太輔のここぞってとこで意外と冷静で情に振り回されない感じが出ると思うけどね。
ここら辺語りだすと長くなりそうなのでそれはまたいずれ。
・・・って、そんな語りが発生すること自体もはや本気だよ(笑)。
どうでもいいけど、最後の郁人先輩呼んでるのは冠ちゃんですよ!だって百識団だから!冠ちゃんはガヤフミ両方に懐いてるといいと思う。
(2007.10.14)






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