Song for Two










「あっいるじゃん!」

扉から楽屋の中にひょこんと顔を覗かせると、ソファーに脚を組んでどっかりと腰掛ける米村がいた。
その両腕にはアコースティックギターが抱えられている。
何か弾こうとしていたんだろうか。

興味津々と言った様子で近寄ってくる河合を見て、米村は表情一つ変えずに小さく頷くだけですぐ手元のギターに視線を戻した。

「あー、お前か」
「おれおれ。あれ、でも他のメンバーは?」

室内を見回しても他には誰もいない。
通りで静かなわけだ。
一見近寄りがたそうな雰囲気を持つQuestion?だが、皆意外とお喋りだし集まるとなかなかにうるさい。
だからこそ、河合は扉の前まで来てもまるで話し声のしない楽屋を前に、もしかして誰もいないのだろうかと半信半疑で扉を開けたのだ。

隣にすとんと腰掛けては不思議そうな顔をする河合を後目に、米村は指先で弦の張りを調節している。

「なんか、メシ行った」
「ふーん。お前は行かないの?」
「なんか置いてかれた」
「えっマジで?」
「マジっぽい」

平然と言ってはネジを微妙な具合で巻いているその変わらぬ表情を見て、河合はぽかんと口を開けては首を傾げ、おずおずと顔を覗き込む。

「米村さぁ?」
「んー?」
「もしかしていじめられてんの?」
「は?」
「メンバーに」
「・・・ああ、そうかも」
「えっうそ」
「何せ置いてかれたし」
「確かにおもいっきり置いてかれてるけど・・・」
「俺の扱いなんてそんなもんだよ」
「マジかー」

とは言え、まさか本気であるはずもないことはさすがの河合にも判っている。
Question?とは今まであまり交流がなかったからメンバーのことはよく知らないけれど、傍目から見ていても仲は良さ気だし、中でも米村がいつも中心にいるのは知っていた。
そしてこの一見強面のボーカルが、こう見えて意外と真顔でボケるタイプであることを河合は最近ようやく知ったのだった。

「えー、じゃあアクンは?」
「アクン?」
「うん、アクン。アクンて米村にめっちゃ懐いてんじゃん?アクンは一緒に行こうーって言わなかったの?」
「あー・・・言われたけど無視った」

あっさり言い放たれた言葉には、河合も一瞬目をパチパチと瞬かせてからワンテンポ遅れて突っ込んだ。

「ちょ、無視かよ!」
「だってあいつしつこいもん」

けれどその物言いで思い出す。
暇さえあれば米村にまとわりついては嬉しそうにしているアクンと、そんなアクンを容赦なくどつき廻しながら、結局は一緒にバカをやっている米村の姿。

「・・・それってさ、どっちかって言うとお前のがアクンいじめてるよな」
「いや、いじめじゃない」
「そうなの?」
「これはしつけ」
「え、なにその不穏な単語」
「しつけは日本古来から伝わる由緒正しき伝統だぞ河合。別に不穏じゃない」
「いやでもお前がアクンにする必要性ってあんまないんじゃ」
「あいつまだ事務所入ったばっかで、色々なってないから」
「なんかむしろ犬っぽいよね、扱いとしては」
「だとしたら駄犬だな」
「ひでー」
「だっていくら言っても憶えねーし」
「でもさ、バカな子程可愛いって言うじゃん?」

なんだかおかしそうにそう言われて、米村は思わず手を止めさりげなく隣を見た。
そう言えばこいつは一体何をしにきたんだろう、と今更な疑問が頭を過ぎる。
確かにこの前のジュニアコンで一緒に歌って以来、少し会話は増えたとは思うが、それでも個人的に遊んだこともなければ未だメールアドレスの交換だってしてはいないのに。
そんなことをぼんやりと思いながらも、米村はそれとは違う問いを向けた。

「お前もさ、そうだろ?」
「へ?俺?俺がなに?」
「お前もそういうこと言われるタイプだろ、って」
「そういうことって・・・バカな子程可愛い?」
「そうそう」
「や、ないない。それはない。言われたことない」
「あ、そう?」
「ないよー。バカとはしょっちゅう言われるけどさ。ていうか毎日言われてるけどさ」
「ふーん・・・」

でもたぶん、本人の知らないところで言われてはいるだろう、と米村は思った。
いや、言われているというよりか思われていると言うべきか。
そして、そう思っている人間がいると仮定した上で、その人間がそれを口にはしないのは、恐らくそこに根付くものが少しばかり特殊な感情だからなんだろう。
それはいつもにぎやかな河合を取り巻く環境を見て、常々米村が思っていたことだ。

「・・・で、結局お前なんの用だったの?」

いつも沢山の人間に囲まれていて、沢山の好意の中にいて、本人もそれと同じかそれ以上の好意を返している。
そんな人懐こくて人好きな印象のある奴。
けれど今までの根本的な土俵の違いやキャリアの違いもあってか、交流なんてこの先もないだろうと思っていた。
それが些細な共演をきっかけに今のような状況になるのだから、判らないものだ。

けれど当然のように向けられたそんな問いに、河合ははたとした様子で目を見開く。
何やら若干目が泳いでいるようにも見受けられて、米村は不思議そうな顔をした。

「あ、いや、別になんもないんだけど・・・特には」
「暇つぶしってこと?」
「まぁまぁ、いいじゃん。・・・あ、そうだ、なんか弾いてよ!」
「なんかってなに」
「えーと、そうだなぁ、俺らの曲とか!」
「A.B.C.の?」
「ねーえとーんがーったきーみーのゆうーつにー♪」
「なんか歌いだしたぞ」

そうは言いつつ、米村は小さく考えるような仕草を見せながら片手でギターの腹を押さえ、もう片手で弦を爪弾く。
そこから流れてくるコードは確かに今河合が歌っているもののそれだ。

「・・・あっ、すげ、ほんとに弾いてんじゃん」
「どうもークエスチョンではギターとボーカルを担当してまーす米村でーす」

コードをゆるりと爪弾きながら棒読みでそんなことを言うのに、河合は思わず吹き出すようにして笑った。

「あー失礼失礼。本職の人だもんなー。・・・すごーいなー」

けれどそうして折角米村が乗ってきて流れるように弦を爪弾いても、河合はそれ以上歌うでもなく、膝に両肘をついた体勢でそれをじっと眺めるだけだ。
その表情はやんわりと薄く笑んでは妙に嬉しそうで、米村は弦を爪弾きながらその表情をチラリと見る。
そういう笑い方もできるのか、となんだか新鮮だった。
でもそう言えば、こんな風に二人きりになるのは初めてだ。


「河合」
「んー?」
「あのさ、アクロバットして」
「・・・はぁ?」
「だめ?」
「や、ていうかなんでいきなりアクロバット?」
「逆リクエスト的な感じで」
「え、米村が弾いてくれたお礼ってこと?」
「お礼というか俺からのリクエスト」
「あ、そう・・・。まぁ、いいけど・・・。ここでできるかなぁ、ちょっと狭いんだよなー・・・」

逆リクエストとは言え、既に手にしていたギターで何か弾いてくれと言うのと、この狭い楽屋のソファーに腰掛けた状態でアクロバットをしてくれというのでは、だいぶ不自然さが違う。
でも確かに弾いてもらったし、と河合は怪訝そうな顔をしつつも立ち上がり、辺りで空いているスペースを探した。

「あそこならいけるかな・・・。んー、アクロバットって、バク転でいいんだよな?それ以外はさすがにちょっとここじゃ無理だよ?」
「うん、それでいいよ」
「はいはーい、そんじゃリクエストにお応えして・・・」
「・・・あ」
「あ?」
「やっぱいいや」
「なんだよ!」
「リクエストやめた」
「せっかくやる気になったのにっ」
「河合、こっち」
「はい?」
「ここ座ってよ」
「はいはい?」

促されたのはさっきと同じ場所。
米村の隣だ。
こいつ実はちょっと不思議なところがあるよな、と河合は更に米村に対する理解を深めつつ、言われるがままに再びその隣に腰掛けた。

「・・・なに?」
「リクエスト変更」
「変更?」
「一緒に歌おう」
「え・・・歌うの?」
「うん。こないだ楽しかったなーって、思い出した」
「こないだって・・・あ、ジュニアコン?」
「そう」
「・・・うん、確かに、楽しかったね」

河合は繰り返すようにそう言うと、ほわっと笑って頷いた。
今までステージ上で一緒になることは多々あれど、絡むようなことはほとんどなかったから、あの時一緒に歌ったのは本当に印象的だったのだ。
二人で肩を並べて力いっぱい歌ったあの時のことが、河合にとっては思い出す度嬉しいことで、だからこそ米村がさりげなくそう言ってくれたことがますます嬉しかった。

それこそ、いつもの場所から飛び出して自分から会いに来るくらいには。


「なー、また一緒にやりたいな?」
「やれるよ。たぶん」
「そうかな?」
「うん。俺もやりたいから」
「・・・うん、そうだね」

そうして楽屋からは、アコースティックギターの音色と二人の歌声が暫し響いた。










END






ついに書いてもーた。
米村が最近ますます好きでねー可愛いよ米村可愛いよ!とか言いつつアク米の前に米河に行く辺り、相変わらずフミト狂いっぷりも尋常じゃない二条わとですこんばんは。
いやね、やっぱあの運動会での米河ダブルボーカルは私の中でもはや伝説なわけですよ。
あれほんと思い出すだに萌えるよ。むしろ泣けるよ(キモイ)。
米河っていうか米←河っぽい感じもありますが。
フミトは基本的に好きになった相手には健気に一途にアタックするタイプだと思っています。でも最後の詰めができない子。
ていうか米村むずい!あの子意外と掴みどころ難しい!
見た目と違って意外と喋るんだけどめちゃくちゃお喋りさんてわけでもなく、かと言ってツンデレでもなくクールってわけでもなく、若干不思議入ってるところもあり、やんちゃなとこもあり、実はかなりボケでもあり、かっこよかったり可愛かったり涙もろかったり子供大好きだったり、なんかもう色々すごいのよ(何)。
というわけでカプ臭が限りなく薄いもんができあがりました。むしろユリ。
(2007.1.6)






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