Style of Dearest
ゆっくりとした足取りでステージ前方に歩いてくる四人。
ぴたりとした黒のパンツ、そして軽く羽織っただけの黒のシャツを身に纏い、横一列に並んで真っ直ぐに前を見据える。
その場で足を止めると、一呼吸を置いてからシャツの前を留めていたボタンを指先でゆっくりと外していく。
黒い布がするりと肌を滑り、そこから現れる素肌。
今までのキャリアに裏打ちされた、その鍛えられた身体はその場で見ていた者達の視線を釘付けにする。
そうしてこれから華麗に宙を舞う四人の姿を目に焼き付けようと、数多の視線が彼らに注がれる・・・けれども。
「・・・つーかでもさ、相変わらず河合だけめちゃくちゃ細いな」
真剣なリハーサルが行われる中、そんな容赦ない、ある種空気の読めない発言を放ったのは、それをステージの端で見ていたキスマイ最年長。
言い換えれば、最近某ブートキャンプ効果でめっきり贅肉を絞り、筋肉をつけた男だった。
もちろんそれは単なる呟き程度のものではあったのだけれども、あの強く鋭い瞳で真剣に前を見据えていた河合の華奢な肩はピクリと反応する。
それを周囲で見ていたキスマイのメンバーなどは「あーあ言っちゃった」という顔をしたけれども、特に否定はしない。
何故ならもはや言うまでもない程にそれは事実だからだ。
しかし事実だからと言ってそれを躊躇なく伝えていいかというとそんなことはないわけで、むしろ真実は時として残酷なものだ。
フライングのリハーサルが終了し、宙から降りてきてハーネスを外すや否や、河合は脱ぎ捨てられていた黒いシャツを着るでもなく拾い上げただけで、未だステージ端に溜まっていたキスマイの元に向かう。
そしてあぐらをかいていた北山を見下ろして、恨みがましい調子で呟いたのだった。
「・・・裏切り者」
「は?」
なんのことだと北山は眉根を寄せて見上げてくる。
それに河合は常よりも上がった眉を更にキッと吊り上げて、思い切り指差してみせる。
「この裏切り者っ!一緒にビリーやったのに!一緒に頑張ろうなって言ったくせに!なんでお前だけそんなんなってんの!?むかつく!マジ北山むかつく!」
その唐突な剣幕に北山は一瞬気圧されたけれども、すぐさま我に返ると勢いよく立ち上がる。
「ちょ、おい、なにその言いがかり!?知らねーよ!お前に効果が出なかっただけじゃん!」
「ちょーっと自分に筋肉ついたからってなにそんな偉そうなの!?ていうかこないだの収録とかなんだよあれ!脱ぎすぎ!北山のくせに脱ぎすぎ!俺の十八番とんな!」
「いいじゃねーかちょっとくらい!俺だって見せたいの!せっかくイイ感じになってんだからっ」
つらつらと連ねられる河合の言葉にさすがに面食らいつつも、北山も負けじと言い返す。
ちなみに「こないだの収録」とは、キスマイが新曲を披露した際に、北山が普段の河合顔負けな勢いで激しくはだけながら踊ったことを指していた。
それを見ていた時こそ、「あーやるじゃん北山仲間じゃん」くらいのことしか思っていなかった河合だが、今となってみれば、あれは身体が出来上がってきたことによる自信なのかと思うと内心羨ましくてならない。
確かにあれだけ贅肉が絞れてしっかりした身体つきになったら、はだけるのも楽しいだろうなとは思う。
まぁ正直河合にとってみれば、はだけるのはいつだって楽しいのだけれども、それにしたってという思いは確かにある。
そのノースリーブの衣装から覗く逞しいばかりの二の腕が、今の河合には輝いて見えるのだ。
「ちょっと前まではぷよぷよしてたくせにさー・・・」
ギリギリと唇を噛むようにして目の前の二の腕をじっと見れば、北山は逆に勝ち誇らんばかりの得意気な顔をする。
しかも今さっき喚いていたのもなんのその、その柔和な顔に意地悪気な余裕の笑みすら浮かべている。
そうしてノースリーブの袖を更に肩口まで捲り上げて見せ付けるようにしながら、逆の手でこれみよがしに河合の細い二の腕を掴んだ。
「あ〜そういう河合ちゃんはほんといつまで経ってもほっそいな〜。ほら、もう手とか廻っちゃうんじゃね?」
「廻るかっ。つーか掴むなよっ!」
まさか手など廻るわけがない。
北山の手など、河合程ではないがたいして大きいわけでもない。
しかしそんなたいして大きくもない北山の手がもう少しで廻ってしまいそうなのも事実で、つまり手の大きな人間なら恐らく実際廻ってしまうのだろう。
それが容易に想像できて、河合は軽い屈辱に顔をうっすら赤くして力任せに北山の手を振り払う。
「おい、お前らその辺にしとけよ。北山、お前河合をからかいすぎ。河合もそんな相手すんな」
見かねた横尾が二人の間に割って入り、向かい合った二人の腕をそれぞれ掴んで距離を置かせるように引き離す。
しかしそこで北山は何やら半笑いを浮かべた。
そして河合は更に顔を赤くして唇を尖らせると俯いた。
横尾は二人を不思議そうな顔で交互に見る。
「は?なんだよ」
「横尾さん、横尾さん、それ墓穴」
「なんだよそれ・・・・・・あっ、や、かわいっ・・・」
言われたことにようやく気付くと、横尾は咄嗟に慌てて手を離したが、時既に遅し。
今河合の腕を掴んでいるそれなりに大きな横尾の手は、今さっき北山が言い放った言葉を実際肯定してしまったのだった。
しかもそれは、細身な上に全体的なパーツも小作りな河合にとっては二重の意味を持つ。
河合はもはや軽く拗ね交じりでしょぼくれた表情をさせて横尾を見る。
「・・・よこおー」
「な、なに?」
「俺はさ、北山とかどーでもいいけどさ、とりあえずお前だけは信じてたんだよ・・・?」
「あ、ああ、うん・・・」
「どうでもいいって失礼だろ!」とムッと眉根を寄せる北山を後目に、河合はじっと横尾を見上げる。
それに何かと目を瞬かせている横尾の、その顔からふと視線を落とした河合は、目の前にあるその二の腕を見る。
北山同様ノースリーブの衣装から覗くそれ。
長身だが全体的に細身な横尾も、河合同様基本的に贅肉やら筋肉やら、とりあえず肉というものとは縁遠かったのだけれども。
・ ・・そのはずだったのだけれども。
「なのに、お前まで・・・ずるいしっ」
河合は突然横尾の二の腕をその小さな手でペチンと叩いた。
「はっ?なんだよ?」
「ずるい・・・」
「だから、なにがだよ」
「なんでお前までちょっと筋肉とかつけちゃってんの・・・」
河合はそう不満気に唇を尖らせながら、横尾の二の腕を叩いたり摘んだりと忙しない。
今でも細いことに変わりはないが、それは確かに以前と比べると筋肉がついて引き締まっているのだ。
そして河合と違って長身で体型的には骨っぽくて男らしいラインをしているので、少し肉がついただけでも割と見栄えがいいというのもある。
北山と横尾と河合と、いつの間にやら某ブートキャンプ参加メンバーの集い状態になっているこの場において、河合は改めて自分の体質を呪わざるを得なかった。
「ああ〜あ・・・やっぱ俺ってだめなんだなー・・・」
ついには深いため息混じりでそう呟いた。
いくら細いと言っても河合もやはりA.B.C.のメンバーで、アクロバットもフライングも他のメンバーと変わらず行えてはいるし、むしろ塚田に次ぐ程度の力量はある。
しかしそれでもやはり、四人で並んで、しかもこうして上半身を晒してしまうと如実に身体つきに差が出てしまうのだ。
もはや追いつこうという気すら起きない程の、本物の筋肉質の塚田。
肉は肉でも贅肉だと日々ダイエットに励む一方、脱いでみればこれが意外と身体つき自体はいつの間にやら目を見張る程に男らしくなっていた戸塚。
グループ内では河合同様細身ではあるのだけれども、元の骨格がしっかりしているのか、その小柄な身体の割に肩から胸にかけては逞しい五関。
メンバーだからわかる。
正直な話、その差は年を追うごとに開きは大きくなっているのだ。
「一番年下なのになんで?」とは本気で思うのだが、実際経験を積む度に見るも目覚しくいい身体になっていく年上の仲間達を見ていると、半ば諦めも入ってくるというものだ。
だから普段はもはや何も言わないが、こうして第三者から改めて指摘されるとやはり考えてしまうというもので。
「ていうか俺・・・一応リーダーなのになぁ・・・」
そういえば最近そんなことになったんだっけ、と北山と横尾は思い出すようにその呟きを聞く。
例のA.B.C.溺愛も酷い某先輩提案により、ジャンケンなどという原始的な方法で今更に決まったとは言え、基本的に誰一人として特に意識はしていなかった。
確かに実際ステージ上でグループを引っ張っているのは河合だろうが、それとてリーダーを決める前から自然とそういう流れになっていたグループだけに今更という気もする。
そんな今更な名目上の役割に自分の体質を結びつけてへこみ始める辺り、意外と人目を気にする上に、考え込むと一気にドツボにはまる河合らしいと、北山も横尾もしみじみ思う。
割とナルシストで基本前向きな反面、まるでそれと比例するようにコンプレックスもやたらと多い、実は色々なものを気にしがちなA.B.C.の末っ子。
それを前にしてしまえば、二人とも・・・それは北山だって、何もいじめたいわけではない。
ここらで一つ慰めてやるべきかと北山と横尾が顔を見合わせると、ちょうどそのタイミングで向こうから河合を呼ぶ声がかかった。
それは当人の性質上の問題だろう、さして大きくもない声。
けれど河合は途端に反応して勢いよく振り返る。
見れば声の主が呆れたように両腕を組んでいてこちらを見ていて、その両側で無邪気に笑う二人が揃って手招きしている。
「あっ今いく!え?もっかいフライング?はいはーいっ」
しょぼくれていた様もなんとやら、途端に笑顔で走り寄っていく様はまるで犬のようだ。
その細身の後姿にはいっそ振れる尻尾すら見える気がする。
「・・・あっ、二人ともまた今度ビリーなー」
一度振り返ってそう言ったその顔を見て、二人は適当に手を振って返した。
誰にでも懐く子猫は、けれど結局自分の家にしか帰らない子犬なのだ。
END
ドリボのフライングでエビちゃんは上半身裸になるんですけど。
ほんっっと、フミトだけ異常に細くてもはやいたたまれなくなるよアレ。華奢すぎる!
塚ちゃんはもちろんとして、トツも脱いだらものすごいし、ごっち先生もえらいことになってるというのに、あの子一人だけすんごい華奢だし細いし薄いしもう。
本気で年々体格差すごくなっててドキドキです。身長はかわんないのに。体格が!
ふみみってとにかく華奢っていうか、その上幼児体型なんだよね。未成熟な危うさが漂ってる。あの子16歳か17歳くらいで成長止まってんじゃないかな。マジ妖精。
しかもビリー組内ですらあの差・・・。渉でさえ筋肉ついたのにっていう・・・。
ハァハァ華奢で幼児体型のフミト萌え!・・・とか言うともはやショタな気配すら自分に感じて恐ろしいぜ河合郁人。あんな子どうにかしたらもはや児童ポルノ法案ひっかかりそう。
ていう犯罪萌えはともかく、この話はむしろこの後のエビお兄ちゃんズの方がメインだったはずなんですけどね!(あれ)
気が向いたら書く。
(2007.10.14)
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