あの日、わからなかったこと。










あの人を好きになるのは、いけないこと?

レッスン室の床にごろんと転がってまんじりと考えながら、壁にもたれかかって塚田と何事か話している様子を見つめる。
何を話しているのだろう。
塚田の表情はなんだかひたすらに面白そうに笑んでいるけれども、あっちの表情は生憎とよくわからない。
もう少し寄っていってみようか、と思った矢先に自分の傍にしゃがみ込んでくる人影が見えて、思わずそちらを見上げた。

「河合、疲れたの?」
「んー、そうでもない」
「そう?」
「うん、見てただけー」
「なに見てたの?」
「五関くん」
「・・・五関くん?」
「うん。五関くん見てただけ」
「しょっちゅう見てるよね」
「そうかなぁ」
「そんな感じする」
「そうかも。気付くと見てるかな」
「河合って、五関くんのこと好きだよね」
「うん。好き」

戸塚は何の躊躇いもなくそう頷く顔を見下ろした。
特に含むところを持たせて言ったわけではないから、何か気になったわけでもない。
けれど言葉以上のものを突きつけてくるといつも思う、その真っ直ぐに向けられる一途な眼差し。
瞬きする度に長過ぎる睫が揺れて妙な繊細さを感じさせる。
傍目には繊細なんて言葉とは縁遠そうな子だけど、と思いながらも戸塚はその視線の先を自分も見た。
けれどやはり塚田と何か話していてこちらを見ることはない。
気付いているかいないかは別として。

「・・・好きになったらいけない人って、いるのかな」
「え?」
「すごくすごく好きでも、だめな人って、いるのかな」
「・・・だめってことは、ないんじゃないかなぁ」
「でもね、たぶん言ったら気持ち悪いって思われるから。だったらやっぱだめだと思う」
「好きって、言ったの?」
「ううん」
「じゃあわかんないじゃん」
「わかんないね」
「でしょ」
「でも、いつも傍にいてくれるんだ」
「え?」
「どんな時でも、傍にいてくれるんだー」
「・・・河合の?」
「うん。これからもずっと傍にいてほしいなぁって思う。だからたぶん、好きになったらだめ」
「・・・それ、俺にはよくわかんないな」
「うん、俺にもよくわかんない」
「好きだから傍にいてほしいんじゃないの?」
「・・・よく、わかんないや」

迷子になった子供みたいな頼りない響き。
戸塚はなんだか妙に切ない気持ちになった。
本人が言うように、確かに言いたいことは正直判らない部分が多いけれども。

こちらに気付いてようやく視線を寄越したかと思ったら、呆れたように笑って手招きしてみせるその姿が視界に入る。

「もうちょっとだけ大きくなったら、わかると、いいね」
「・・・トッツー」
「うん?」
「トッツーはわかんなくてもいいから、応援してくれる?」
「うん。何があっても、河合の味方でいる」
「・・・ありがと」










END






「あの日、わかっていたこと。」のフミトバージョン。あんなおさな美少年時代から五関さんに恋をしていたわけですよ・・・!
もはや犯罪。だってもうあのフミトなんてショタのレベルだもの・・・かわゆすぎる・・・。
ごっちサイドより切なめ。というか私がフミトをいかに切ないのが似合う子だと思っているのかという。
(2006.7.30)







BACK