ツインスティグマ
休憩時間、扉を開けた先にはソファーに腰掛けて身動ぎ一つしない河合がいた。
こちらには背を向けたその姿。
その視線の先にはテレビがある。
そこに映っていたのは見慣れた子供みたいな無邪気な笑顔。
戸塚だった。
見るからに緊張しているようだけれど、頑張って喋ろうとしている姿が一生懸命だ。
それでもその中に時折見せる笑顔は彼特有の可愛らしいそれで、ああ頑張っているんだな、と純粋にそう思う。
最近朝の番組にソロでレギュラーが決まった戸塚は、その収録の関係で今日の仕事にはいない。
けれど今目の前のブラウン管の向こうには彼の笑顔がある。
今は夕方だから、映っているその番組は録画されたものだろう。
わざわざ持ってきたんだろうか。
戸塚は女性タレントと一緒にロケに出ているようだ。
その回はちょうど昨日放送されたものなのだろう、五関はまだ見ていないものだった。
「ねー五関くん」
見ていたその後ろ姿から声がした。
画面からそちらに顔を向けると、ソファーに預けた顔だけで振り返り、なんだかおかしそうに笑う顔。
でも心なしか目が赤いのは気のせいか。
寝不足なのだろうか。
「初回に比べるとちょっとだけ慣れた気がしない?」
「あー、そうかも。やっぱ慣れだね」
「初回より喋ってるし。喋り頑張るーって言ってたもんね」
そう言ってまた画面の方を見ると、うんうんと何かを納得するように頷く。
五関も同様に画面の方に視線をやりながら声を向ける。
「わざわざ持ってきたの?」
「んー、昨日見る時間なかったからさ」
だから今日仕事場に持ってきたのか。
本人がいない仕事場に。
ただ、言ってしまえばそれは今日が初めてではないのだけれども。
彼がここにいないから、それがここにあるのか。
それがここにあるから、彼がここにいないのか。
考えたとてどうしようもないことで。
どうしようと思ってもどうにもならないことで。
きっと端からどうしようとも思っていない。
それは二人が二人とも。
「トッツーもさ、その内俺みたいになんのかな?」
「は?」
「ほら、お喋り頑張るって言ってたから。俺みたいにいっぱい喋るようになったりして」
「・・・そんなトッツー嫌なんだけど」
「あはっ、確かに。俺みたいにお喋りなトッツーとか、ちょっと違うよね」
依然として身動ぎ一つしない頭。
変わりない柔らかな甘い色の髪。
戸塚にどんな道が開かれようとも、いつだって笑って背中を押して、応援してるからと誰よりも言ってきた。
彼の相方が、塚田が「でも正直寂しいかも」と本音を漏らした時だって、河合は笑ってそれに頷いて、けれど自分は決してそうは言わなかった。
誰の方が寂しいとか、誰の方が寂しくないとか、そんな比較の問題ではない。
けれど事実として寂しくないはずがないのに。
全部呑み込んで受け入れようとしている。
きっとこれからもそうだろう。
こうして彼がいない場所で、遠くの彼を見るのだろう。
自分でつけた傷でこそ彼への想いを確認できるとでも言うかのように。
そしてそれは河合だけではない。
戸塚もそうだ。
五関は楽屋に戻ってくる時に塚田に言われたことを思い返す。
困ったような顔で彼は自分の携帯のディスプレイを見せてきたのだ。
そこにあったのは一通のメール。
メンバー相手でも滅多にメールなど寄越さない戸塚の、絵文字も何もない端的な文章。
『河合、元気にしてる?』
五関はさっき初めて知った。
戸塚は自分達と仕事が別になった日は、必ずこうして塚田にメールを寄越すのだと言う。
文章は毎回ほとんど変わらない。
ただ河合はどうしているかと、たったそれだけの文章。
そして塚田はそれにいつもその日の河合の様子をきちんと返してやるのだと言う。
けれどそれ以上のメールが返ってくることはないらしい。
そんなの河合に直接送ればいいのにね、なんて。
塚田は呆れたように言いながらも、やはり困ったような顔をしていた。
本人には一度も言ったことはないようだ。
なんで言わないの、と五関が思わず言ったら軽く肩を竦められた。
五関くんも河合に一度も言ったことないでしょ、と。
戸塚の映ったその映像を戸塚のいない仕事場に持ってきてじっと見る河合。
河合のいない仕事場から河合の様子を塚田にメールで訊く戸塚。
まるで自分で自分に傷をつけて、足りないものを埋めようとしているようだ。
「トッツー、ちょっと身長伸びたかな」
「ああ・・・そうかも」
「改めてこうやって見るとわかるんだよね」
「そうだね」
「いいなー。俺にも分けて欲しいなー」
「その前に俺に分けて貰うのが筋だろ」
「あははっ!どういう筋だよー」
特徴的な甲高い笑いを上げながらも、河合は目尻を下げて綻んだ笑顔で画面を見ている。
そこでちょうど彼も笑っていた。
河合とは違う、ふわりと柔らかで子供みたいな笑顔。
「そろそろ準備しなよ。塚ちゃんもう出てるんだから」
「あ、はーい。じゃ、続きはまた後でっ」
それらの笑顔が、二つの笑顔が、互いに向けられた時最も綻ぶその二つの笑顔が。
せめてどうかそれだけは、疵にならなければいい。
それはただの詮無い願いだ。
五関の、そして塚田の。
一番大切なそれらを、宝箱の中にしまっておけたらと思うことがたまにあるけれど。
所詮できないのなら、他ならぬ彼ら自身がそれを望まぬのなら、せめてそれだけは。
END
またしても暗いトツフミ。
つーかこいつらつき合ってんのかほんとに、くらいな勢いでなんもないしね・・・(笑)。
イチャイチャのイの字もないうちのトツフミ!
第一弾より更に後退してんじゃないのかっていう。
そもそもネタがすれすれというかむしろギリギリアウトな気もしないではないですが。
うんまぁゴニョゴニョ!
でもトツフミなんだけど、背景にうっすら五河と塚戸が垣間見えるよねコレ・・・(笑)。
まぁなんていうか、トツフミのごっちと塚ちゃんはそれぞれ自分の相方を超大事にしてて凄い心配してて欲しいっていう・・・そういう願望・・・(趣味)。
ごっち&塚ちゃんに終始心配されてるトツフミが萌えなのです。
(2007.5.14)
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