フタリノセカイ










「あんなとこでさ、いったいなに話してるわけ?」

横尾はふと疑問に思い、ついそんなことを訊いた。
それを傍で私服に着替えながら聞いていた塚田は、内心「あーあ」と思う。
しかしそんな塚田の内心など露程も知らない横尾は、なおも眉根を寄せて首を傾げる。

劇中でも目玉の一つと言っても過言ではない、その華麗なフライング。
ぴったりと息の合ったそれは何度見ても圧巻で、横尾はそれを見る度「こいつらすげーな」としみじみ思うのだ。
互いの手首をしっかりと握り締め、互いだけを見つめて宙を舞うその姿は、強く揺るがぬ信頼関係をこれでもかと見せつける。
その瞬間の宙は二人だけのものだとすら思える。

だが、そうして純粋に凄いと思う反面、時折首を傾げたくなるのも事実で。

「正直信じらんねーんだけど。フライングしながら喋るとか」

最初に見た時は思わず目を剥いたものだった。
命綱一本と、あとは互いだけが頼りのあんな危険極まりない空間で、二人はあろうことか互いに笑い合い、あまつさえ言葉を交わしている時すらあるのだ。
いくらもう何年もやってきたお得意の技であろうと、それは横尾からすれば信じがたい光景で。

「なにその余裕。お前らなんなの」

思わずそんな風に疑問をぶつけてみると、けれど目の前の二人は互いに顔を見合わせて不思議そうな顔をしたものだった。

「なにってー・・・・・・なんだろ?」
「いや別に・・・特になにってこともないだろ」

当の二人は横尾が向ける疑問を特に疑問とも思っていないようだ。
それこそフライングの時同様に息をぴったり合わせて頷き合う。
まるでそんな疑問を持つ自分がおかしいくらいの調子で返されて、横尾はムッと眉根を寄せると二人を交互に見る。

「いやお前らおかしいって。フライング中なんてさ、もっとこう、緊張感持ってやるもんじゃねーの?」
「あ、お前、俺らに緊張感ないって言いたいの?しっつれーだなー」
「お前に言われなくても、そこら辺はきっちりやってるから」
「ちげーって!だから、こう、よくお喋りなんかできんなっつー話で・・・だから、だいたいなに話してんだよ」

別に説教をするようなつもりはない。
確かに実際のところ話していようが話していまいが、その技のキレにはなんら影響はないわけで。
しかしだからこそ余計に疑問にも思うのだ。
あんな空間で、いったい何を話しているのか。

それに河合と五関は再び顔を見合わせ合い、思い返すように首を捻る。

「あー、なんだろ、楽しいねーとか、なんとか・・・そういうの?」
「んー、そうだな・・・今日のお客さんはリアクションがいいね、とか?」
「あーあるね。あとー、あのライトの感じいいよね、とかー・・・」
「そうそう。お前の跳ねてる癖っ毛も照らされてて面白い、とか」
「あったあった、余計なお世話!そういう五関くんこそ、こないだ寝ぼけてぶつけた痣めっちゃ目立ってるよ、とかね」
「やっぱお前そろそろ髪鬱陶しいから切った方がいいんじゃない、とか」
「五関くんちゃんと食べないとダメだよまた痩せてきちゃってるから、とか」
「お前ビリーやってるとか嘘なんじゃないのその二の腕、とか」
「五関くんはビリーとか絶対やるなよ俺へこむから、とか」
「下着赤とかどんな意思表示だよ恥ずかしいよお前、とか」
「自分だってこないだ赤だったじゃんやる気満々だったじゃん、とか」
「別に俺は割といつだってやる気はあるけど、とか」
「でもあの日はほんとにやる気で、いつもよりずっと・・・・・・・・・あー、まぁ、なんでもないけど!」
「・・・バーカ」

つらつらと言い合っていたかと思うと、河合は途端に口を噤んで頭を振る。
五関はそれに軽く吹き出すように笑う。
そして肝心の横尾は、まるで呆気にとられたようにぽかんと口を開けていた。

「え・・・?なに、・・・え?」

横尾は思っていたのだ。
フライングというものは、華麗で迫力がある反面、とても集中力と緊張感を伴う危険なものなのだと。
だからいつだってその瞬間は神経を研ぎ澄まし、余計な雑念など一切消し去って臨んでいるのだと。
しかし目の前の二人は、そんな中でそんな会話を交わしているのだと言う。

それを傍で聞いていた塚田は、着替え終わって荷物を持つと横尾に軽く哀れんだような視線を送った。
そして軽くお説教とばかりに、河合と五関を交互に見てため息をつく。

「・・・別にいいけどさ、二人とももうちょっと静かにやってよ。俺とトッツーの気が散るから」
「あ、は〜い、すいませーん」
「善処しまーす」
「もうっ」

あまり反省の色が見られない二人に愛想を尽かしたとばかりに、塚田はそのまま出て行ってしまう。
横尾のフォローをしてやろうかとも思ったが、もう面倒なので止めた。

そんなやりとりを前に、横尾はようやく我に返る。
しかしやはり信じられない思いでいっぱいだった。

この二人にとっては、あの空間さえもが睦言を囁き合う場らしい。










END






ドリボフライング中、ごっちとフミトはなんと信じがたいことに、笑い合ってはお喋りまでしてたりするんですよ。
あいつらほんと・・・なんなの・・・あのカップルなんなの・・・と騒然でした。
いくらなんでもあんまりすぎる。五河にとってはフライングという危険極まりない場面でさえ空中デートの勢いですよ。
あらゆる意味で二人の世界。
もーね、くるくるくるくる回りながらアハハと笑い合う二人が可愛すぎて死ぬかと思った。バカすぎる。バカップルすぎる。
あの二人いい加減ありえなさすぎる。ばかー!だいすき!(泣)
そろそろ塚ちゃん辺りからお説教お願いします。
(2007.10.14)






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