キミとボクの日










さっきから廊下にしゃがみ込んでは溜息をつく千賀を、宮田と玉森は両側から覗き込むようにして口々に声をかける。

「千賀ーそんな落ち込むなよー」
「そうだよ。大丈夫だって。どうせニカだし」
「そうは言ってもさぁ・・・」

今日仕事に来て早々テンションが低かったが、仕事が終わって楽屋を出ると、それは更に深い溜息に変わって今に至る。
そうしていち早く出て行ってしまった千賀を気にした宮田と玉森が、気にかけた様子で追いかけてきたのだ。
ちなみに年上組と二階堂は未だ楽屋にいる。
正確には、今日16歳の誕生日を迎えた二階堂が年上組からお祝い攻勢に遭って捕まっている、と言った方が正しいのだが。

「あー・・・やっぱ、無理矢理なんか買ってくればよかったな・・・」

気落ちした様子で溜息混じりで呟く千賀を見て、宮田と玉森は互いに顔を見合わせる。
そして二人揃って密かに手にしていた小さなプレゼントの包みをいそいそと鞄の奥にしまった。
ただでさえ楽屋内の年上組が用意したプレゼントの数々に目を輝かせては、あの無邪気な笑顔を出血大サービスする二階堂の様子に打ちのめされているというのに。
その上自分達まできっちりプレゼントを用意していました、なんて。
当然と言えば当然なのだけれども、こうも見事に落ち込んだ様子を見せられては、さすがに今は渡しづらい。
正直、宮田と玉森としては予想外だったのだ。
日頃から二階堂ばかり見ている千賀が、まさか誕生日プレゼントを用意していないだなんて。

「千賀のことだから、誰より気合い入れてくるかと思ったけどね」

玉森は廊下の壁にもたれかかると自身もまた小さく溜息をついて、俯きがちに黙り込む千賀を見下ろすように眺める。
それを軽く窘めるように視線をやってから、宮田は千賀と視線を合わせるようにしゃがむと、少し眉を下げて宥めるように千賀のふわふわした茶の髪を撫でてやった。

「いっぱい悩んで決まんなかった?」
「・・・・・・うん」
「じゃあそう伝えればいいって。そしたら二階堂も喜ぶよ」
「うん・・・」

宮田に頭を撫でられながら、千賀は膝を抱えてそこに顔を押しつける。
その優しい手の感触が余計に自身を情けなく感じさせて、千賀は妙に悔しかった。

大好きな大好きな二階堂。
誰よりも誰よりも沢山お祝いしてあげたかった。
だから悩んで悩んで、いったい何をあげたら喜んでくれるだろうと、結局昨日も眠ることすらできず考えた。
けれど考えれば考える程何も思い浮かばなくて。
日頃上手く伝えられないから、こんな時くらいは自分の気持ちをいっぱい込めた何かをプレゼントしたかったのに。
こんなに大好きなのに。
こんなんじゃ、この気持ちは欠片も伝えられない。
自分以外に向けられる、あの嬉しそうで無邪気な笑顔が胸に痛いばかりで。
結局自分の力じゃそんな風に笑わせてはあげられないのかな、なんて。
千賀は大きすぎる想いが空回りして、無性に悲しくなってしまった。


「あいつは千賀ならなんでも喜ぶと思うんだけどなー・・・・・・ねぇ、みやっち?」

壁にもたれかかったままで、玉森はさりげなく呟く。
それを向けられた宮田はと言うと、何故かきょどった様子で玉森と千賀を交互に見て、少し困ったように笑う。

「えっ?あー、あー・・・まぁ、そうだなぁ・・・」

そんな二人の会話は当然聞こえてはいるのだけれども。
今の千賀はどうにもこうにも気持ちが落ちきってしまっていて、言葉は耳から耳へとスルーされてしまっていた。
それが半ば判っているからか、玉森は更に平然と言う。
壁にもたれかかっているせいで楽屋内の様子がなんとなく判るのだ。

「そろそろ来るね。やんちゃ王子が」
「ようやくかぁ・・・」
「マジ勘弁してほしいよ、いい加減俺ら巻き込まれすぎだし」
「まぁまぁ、玉もこれでプレゼント渡せるんだし」
「みやっちもね」

プレゼント。
他の言葉はほぼスルーされていたというのに、それだけが妙に鮮明に頭の奥に入ってきて。
千賀はそう言えばと思い出したように顔を上げて、無意識に上着のポケットの中に手を入れると小さな包みを一つ取り出した。

そしてちょうどその時、宮田がしゃがんでいた背後の扉が勢いよく開いた。

「千賀っ!せんがーっ!」
「いてっ!!」

大きな音を立てて結構な力で開いた扉は、その前にいた宮田に必然的に強か当たった。
唐突な衝撃を背中に受けて、宮田は半分涙目で後ろを振り返る。
そこにはドアノブに手をかけて仁王立ちで二階堂が不思議そうに立っていた。

「あ、みやっち!当たった?ごめんなー。ていうかそんなとこで何してんの?」
「いや、何っていうか、や、特に何も・・・」
「そう?・・・っていうかそれより、千賀っ!」
「それよりって・・・ひどいよニカ・・・」
「どんまいみやっち」

そんな宮田と玉森などお構いなしで、二階堂は千賀にの方に向き直る。
唐突なその呼びかけに先程の溜息もなんとやら、千賀は何事かと大きな目を瞬かせて立ち上がる。

「な、なに?どしたの?」
「なんで先行っちゃうんだよ」

そう言ってつまらなそうな顔で、二階堂はじっと窺うように千賀の顔を見つめる。
その両手には来る時の荷物以外にも、明らかにプレゼントと思しき荷物が増えていて、それを認めると千賀はまた小さく眉を下げた。

「・・・だって、北山くん達にお祝いしてもらってたから」
「そんでお前はさっさと帰っちゃうの?冷たくない?」
「でも、俺はほら・・・ちょっと今日は・・・」
「え?なに?なんか用事あんの?」
「用事っていうかー・・・」

自然とまた俯きがちになる千賀の顔を、拗ねたような顔が覗き込んでくる。
けれど千賀は頑なに顔を上げようとはしない。

まさかプレゼントを用意できなかったなんて言えない。
いかにも二階堂が好きそうなものをきちんと用意してきた年上組にヤキモチを妬いたなんて言えない。
それで年上組に祝われて嬉しそうに笑う二階堂を見ていられなかったなんて言えない。

でも、どれだけ自分が二階堂のことを好きか。
それだけはどうしても言いたい。伝えたい。

「・・・千賀、千賀っ、せーんがっ」

何度も呼ばれて、つい、いつものくせで小さく視線だけを向けてみた。
千賀はそうやって自分の名を呼ぶ二階堂の声に弱いのだ。
ああこれが惚れた弱みってヤツなのかな?
千賀がどうしようもない気持ちでそう思っていたら、その向けた視線の先で、二階堂は笑っていた。
少しだけ尖った歯を見せて笑う独特の、明るく幼く無邪気な笑顔。

「今日さ、俺誕生日なんだよ?一緒に帰ろーぜ」

千賀は握りしめていた手を、更に強くぎゅっと握った。
掌の中にあった包みの中身が熱で溶けんばかりに強く。


ああ、神様。
僕はこいつが好きすぎます。
だからお願い。
今すぐでなくていいから。
いつかこいつを、僕に下さい。
でも、できれば早く・・・・・・そうだな、次の僕の誕生日にでも。


「・・・二階堂、これ、あげるよ」
「ん?・・・アメ?」
「それ、好きでしょ」
「あ、レモン味じゃん!うん、好き好き。ありがとなー千賀」

特にそれを不思議に思うでもなく、千賀の掌の中で少しだけ溶けかけたレモンキャンディを受け取ると、二階堂はさっさと包みを開けて口の中に放り込んだ。
それを見て千賀はようやく笑った。

今の精一杯の気持ち。
いずれ全部伝えるから、今はそれだけで。

「二階堂、誕生日おめでとう」

ニコリと笑ってそう言ったら、二階堂は少しだけ照れ混じりで大きく頷いた。

「あーようやく言ってくれたよ。ありがと」
「ね、二階堂、帰りにちょっと買い物していこうよ。なんかプレゼント買ってやるから」
「マジで?やった!よっしゃ、じゃあ帰ろ帰ろー」






そうして連れ立って帰ってしまった二人をぼんやり見送って、宮田と玉森は小さく息を吐き出した。

「あーあ・・・俺ら結局渡しそびれたし・・・」
「うーん・・・明日、かなぁ・・・」
「結局千賀かー」
「まぁ、なんだかんだとニカが、ね・・・」

呟き合う二人。
しかし背後から唐突に誰かの手が二人の肩へとガッと廻った。
反射的に派手に戦く二人の間からにゅっと顔を出したのは、グループ最年長の童顔。

「ふーらーれーたー・・・」
「・・・北山くん、唐突に止めてくださいよ。マジびびるし」
「ど、どうしたの北山くん」

二人が恐る恐る振り返れば、そこには北山以外にも、藤ヶ谷と横尾と飯田の姿もあった。
三人の顔にはどこか苦笑が布かれている。
その表情は恐らくこの目の前で項垂れる最年長が主な要因なのだろうけれども。
北山はそんな三人などお構いなしで、つまらなそうに眉根を寄せて宮田と玉森にグチグチと零すのだった。

「今日はさー?折角お兄ちゃんがなんか奢ってやるって言ってんのにさー?マジつれねーんだって二階堂!」

まるで酔っぱらいがクダを巻く勢いのそれに、さすがに背後の三人からも宥めるように声がかかる。

「もー止めなって北山ー。今日はしょうがないじゃん、ねっ」
「うぜーなー。若いのは若いのだけでやらせてやれよ」
「本人が千賀がいいって言うんだからしょうがないよね」

しかしそんな言葉にも、北山はギッと睨め付けるような視線をそちらに一度やっただけで、再び宮田と玉森に向き直る。

「なにが、今日は千賀の日っ、だよ。今日はお前の誕生日だろー!あ〜二階堂〜」

二階堂はあの性質上年上組から可愛がられているけれども、中でも北山は特にそうだった。
だからこの反応もまぁ判らなくはないのだけれども。
しかしそれよりも、宮田と玉森はその台詞に反応した。


『今日は千賀の日』


自分の誕生日が、イコール千賀の日。

どうせなら千賀にも聞かせてやりたかったと思う。
依然として北山にクダを巻かれつつ、宮田と玉森は互いに顔を見合わせて笑った。

あのまだまだ幼い二人が、一歩ずつ一歩ずつ進んでいけますように。











END






ニカちゃん16歳のお誕生日おめでとう記念の初千ニカです。
色々迷ったけど千ニカにしてみました。
ていうかニセモノ感が物凄いんだけど・・・(ブルブル)。
でも結構楽しかったな!青い感じがたまらんよね千ニカ・・・!
とりあえずうちの千ちゃんは二階堂大好きで、口下手なのでその分頭の中で色々二階堂への告白を繰り返してる感じです(どうなのそれ)。
だって少クラの千ニカお手紙交換において、千賀が女の子がグッとくる仕草を練習しているという事実をニカちゃんから暴露されたのを見て以来、そうとしか思えなくなったんだもの!
千賀はたぶん日々二階堂妄想を欠かさないと思います。がんばれ千ちゃん!
一歩間違うと妄想の域ですが、そこはそこ、青春の一言で片が付くから!
・・・まぁこの話の何がアレって最年長ですけどね。
(2006.8.13)






BACK