九つも年下の男に・・・ましてやまだ少年と言って差し支えない歳の子供に劣情を抱くことは、果たして恋と言えるのか。
十年前、俺の答えはノーだった。
『おれなぁ?まぁくんのこと、大好きやねん』
俺をじっと見上げては、あどけなく柔らかな頬を緩め、染めて。
そう言ってにこりと笑った。
無垢で純粋で未だ何者にも染められていない、まるで未踏の新雪のような岡田。
そこに他でもない自分が足を踏み入れて、溶かし、自分の色に染め上げてしまいたいと思うことは。
決して恋なんかじゃない。
確かに手に入れることは容易いと思う。
右も左も判らないこの世界で頼ることの出来る人間など限られていたから。
その小さな手を引く人間は、俺しかいなかったから。
だからこそ向けられるその純粋な好意。
俺の抱くものとはまるで違う。
それはとても微笑ましく、胸に暖かく、同時にどうしようもなく苦しいこととも言えて。
まだ自分の胸辺りまでしかないその頭を撫でるこの手が。
ともすればその身体を抱き込んで、未だ誰も触れていないその肌を暴いてしまいそうになる。
けれどその度俺はぐっとそれを押し込めて、自分に言い聞かせる。
これは、恋なんかじゃない。
ただ俺の一方的な欲望に過ぎない。
だから言わない。
だから何もしない。
嫌われたくなかった。
ずっと傍にいたかった。
何者からも守ってやりたかった。
・・・自分自身の欲望から、すらも。
だから。
これは、恋なんかじゃない。
そう自分に言い聞かせて。
俺は10年もの間、ただあいつの手を引いて歩いてきた。
段々と心身共に成長していくあいつの姿を振り返りながら。
次第に俺の手なんか必要としなくなっていくのを見ながら。
そんなあいつの変化を誰よりも近くで感じながら。
けれどそれでも。
俺の気持ちは10年前から何一つ変わってはいなかった。
10年の恋
「はよーっす」
「あ、おはよう」
控え室に入ると、そこにはまだ一人しかいなかった。
時間も早いし当然かもしれない。
栗色の髪をふわりと揺らしながらこちらを振り返る、柔らかな微笑み。
長野もついさっき来たようで、荷物を脇に退けながらお茶のペットボトルを開けているところだった。
「お前だけ?」
「うん。そうみたいだね」
荷物を降ろし、上着を脱ぎながら確認のように問いかける。
特にこちらに視線をやることもなく、長野は鏡台の前に座ってペットボトルに口を付けた。
ソファーにどかっと腰を下ろして小さく息を吐き出す。
軽く目を伏せれば途端に頭を支配しそうになる眠気。
それに緩く頭を振り、目を数度瞬かせると小さく欠伸をする。
最近仕事が忙しくて寝不足気味だった。
グループとしての仕事の他に舞台の稽古も始まっていたから。
何処かぼんやりとする頭を持てあましながら、今日のスケジュールに頭を巡らせる。
今日はこれから夜までずっと、グループとしてのレギュラー番組の録りと雑誌の取材だ。
なかなかの過密スケジュールではあるが、割と久々のグループ仕事だという事実が俺にとっては僅かな救いではあった。
10年も共に嬉しいことも苦しいことも経験してきた気の置けない仲間達。
それは俺にとってはかけがえのない存在であり、安心できる存在だった。
小生意気で口の減らない奴ばかりだが、いかに最年長とは言えあまり頼り甲斐があるとは言えない俺がリーダーをやっていられるのも、あいつらあってのことだと思う。
・・・まぁ、こんなことを言うと調子に乗るかからかわれるから、言わないけども。
そんなことを思いながら、同時に細かなスケジュールを頭に入れつつ。
再びわき上がってくる眠気そのままに、また小さく欠伸をした。
すると小さく笑んだような気配がして、思わずそちらに顔だけで向いた。
「・・・あ?」
「ううん。リーダーはおねむだねぇと思って」
「あー・・・。最近あんま寝れてないからな」
「そっか。舞台稽古始まったんだっけ?」
「うん。今回のは結構きつそうだわ」
苦笑混じりでそう返せば、長野は何だか楽しそうにくすくす笑って小首を傾げてくる。
その柔らかな笑みは人の心を和ませるに十分な代物で。
俺も長年救われてきた。
まるで俺の右腕のような、何でも話せる親友のような、同時に時に厳しく叱ってくれる母親のような。そんな存在。
「諸先輩方にみっちり絞られてる?」
「ああ、ああ。それはもう、ぎっちぎちになー」
「いいね。その調子でどんどん絞られて、もっと頼れるリーダーになってよ」
「・・・言うね、お前」
「だってほんとだもん。もう33なんだから、しっかりしてね?」
にこり。
ファンの子が半狂乱になる程の綺麗な微笑み。
・・・別に忘れていたわけじゃないけども。
癒される程のそれは、同時に容赦ない毒をも含んでいるんだ。
右腕で親友で母親。
だからあらゆる意味で、こいつには敵わない気がする。
「・・・はいはい。頑張りますよ」
そうして俺はやはり苦笑混じりで言ってから。
軽くソファーに沈み込むようにして息を吐き出す。
とりあえず、他のメンバーが来ないことにはどうしようもない。
持ってきた舞台の台本にもう一度目を通そうかと思って鞄から取り出していると。
脇に置いてあった雑誌を手に取った長野が、ふと思い立ったように再び俺を見た。
「あ、ねぇ」
「んー?」
「今日は岡田も来れるんだよね?」
「あー・・・ああ。来る・・・はず」
「はずってなに。どっちなの」
「・・・来るよ。マネージャーからはそう聞いてる」
「ふーん・・・そっか。じゃあほんと久々に全員揃うね」
「ああ」
何だか少し嬉しそうに微笑む長野。
全員で仕事が出来ることが楽しみなようだった。
最近だいぶ忙しくて寝不足だったけど。
忙しさで言えば、今メンバーで一番忙しいのは間違いなく岡田だった。
グループの仕事の他に主演映画の撮影があったからだ。
しかも撮影も山場を迎えていたため、それはどうやら殺人的なスケジュールだったようで。
レギュラー番組の録りも岡田抜きでやることすらあった。
同じグループだと言うのに何日も顔を合わせないことも度々だった。
ちゃんと飯は食ってるのか。
ちゃんと寝てるのか。
体調管理は大丈夫なのか。
気になることは沢山あって、その度電話なりメールなりして訊こうかとも思ったけれど。
その度伸ばした手を、俺はすぐにはたとして引っ込めていた。
いくら何でも過保護過ぎる。
自分が最年長のリーダーで、相手が9歳下の末っ子だとしても。
いかにグループ内で末っ子といえどもあいつももう24歳で、十分に大人として認められるべき歳だ。
それに最近ではだいぶ身体も成長してきて、依然として細いものの綺麗に締まってきた。
何より、顔つきが変わった。
昔はとにかく俺の後をちょこちょことくっついてきた、りんごほっぺの末っ子だったけど。
今やそれは強く美しい黒曜石の瞳と整った透けるような美貌で、見る者を魅了して止まない存在になった。
俺の手など必要としない程に。
それは最早あらゆる意味で、俺に手を伸ばすことを躊躇わせる程に。
「・・・おーい」
「・・・あ?」
はたとする。
見れば、長野が俺の前で顔を覗き込むようにして手をかざしていた。
「なに遠い目してんの?大丈夫?」
「・・・別に何でもねぇよ」
「何でもないのに遠い目するの?・・・歳?」
「うっせぇな。お前はどうしてそういちいち口が減らねぇんだ」
「坂本くんて意外と判りやすいから」
さらりと言ってのけられたその言葉に。
思わずちらりと視線をやる。
「・・・なんだそれ」
「別に?」
やはりさらりと返されるから。
何だか妙に居心地悪い気分で視線を逸らして脚を組む。
「別に。ただ、岡田も大きくなったなーと思ってただけだよ」
あまり当たり障りなく言ったつもりだったけど。
言ってみてから、それは別の意味であんまりな台詞だったとすぐに気付いた。
けれど言ってから気付いても時既に遅し。
長野は吹き出すのを押さえるように口を覆い、さも面白いものを見たと言った様子で俺を指さした。
「やだ坂本くん、お父さんみたい・・・」
「・・・俺も自分でそう思った。だからそれ以上言うな」
「うわー。判ってたけど、なんかほんと、坂本くんて岡田のお父さんしてるよね」
「そりゃお前・・・あいつがまだガキの時から面倒見てきたし。まぁそれを言ったら剛と健もだけどよ」
何だか自分のおっさんぶりを自ら露呈してしまったようで何だかばつが悪い。
そう思いながら言った言葉だったけど。
長野から返ってきたのは至極簡潔な言葉だった。
「ううん。岡田だけ」
「・・・は?」
「だから、坂本くんがお父さんしてるのって、岡田にだけだよ」
「どういうこと?」
「剛と健には違うってこと。だいたい、剛と健はアレでしっかりしてるし、何よりちゃっかりしてるから。
別に坂本くんなんかにお父さんしてもらわなくても全然平気だしね」
「あー・・・そうですか・・・」
坂本くんなんか、って。
ほんとこいつ、優しい顔して口悪ぃよ。傷つくだろ。
ため息混じりで諦めたように呟く俺に。
けれど長野はふっと笑顔を消して俺を見た。
「・・・お父さんしてたいのは。お父さんしてなきゃいけないのは。岡田にだけだもんね」
「え・・・?」
その意味深な言葉。
思わずハッと顔を上げた俺に、けれど長野は構うこともなく。
さっさと鏡台の前に腰掛けてしまい、雑誌に視線を落としている。
「おい、長野?」
怪訝に思って身体を起こし、声をかけるけれど。
それは見事平然と無視される。
一体なんなんだよ。
そう思いながら、何となくもやもやした気分でまたソファーに沈む。
すると、扉向こうから何だかにぎやかな二つの声が聞こえてきた。
いや、正確にはにぎやかなのは一人で。
もう一つはそれに付き合うように返しているだけのようだった。
いつでもにぎやかで声のでかい、まるで太陽のように明るい男。
それと件の末っ子だろう。
ふっと視線をやった先の扉が勢いよく開き、同時に声はより大きくなる。
「だーからさ、これからはお前も露出の時代だって!・・・っと、おはよーっす」
井ノ原は後ろを着いてくる岡田を振り返りながら笑っていて。
部屋の中に入ると同時、こちらを見ては小さく手を上げる。
「おー。おはよ」
「おはよー」
俺と長野がそう返すと、井ノ原の後ろから岡田が入ってきた。
少し久々に見る顔。
岡田は大きな瞳を撓ませてやんわりと笑う。
「おはよぉ」
それに長野がやはり微笑みながら「おはよう」と返すのを後目に。
俺はそれを言うよりも前に立ち上がり、歩み寄った。
「あ、坂本くん・・・?」
不思議そうに俺を見上げては小首を傾げる岡田。
俺はそれを暫し無言で見下ろしてから、軽く眉根を寄せる。
「大丈夫か?」
「え?」
「目の下、ちょっと隈できてる」
「え、うそ。わ、やば・・・メイクで隠せるかな・・・」
「寝不足か?」
「んー・・・。ほら、撮影ももう終盤やったし。確かにあんま寝られへんかったけど、もうそれももうすぐ終わりやから」
心配げに覗き込む俺に、岡田は軽く頭を振り。
安心させるように笑っては小さく頷く。
けれどそれに俺はほうっと息を吐く。
「・・・ちょっと痩せたな」
そう言って自然と頬に触れる。
するとやっぱり。
確実に肉が落ちた。
ただでさえ細いというのに。
「あ・・・ちょっと、坂本く・・」
「あーっ!なにそれっ!」
「・・・あ?」
少し戸惑ったような岡田の小さな声。
けれどそれに思い切り被さるようにして響くのは、岡田の後ろにいた井ノ原のでかい声。
それに俺ははたとしてそちらを見る。
「ストップストーップ!リーダーセクハラ禁止!」
「ああ?んだとお前、俺のどこがセクハラしてるって?」
「それだよそれっ!若い子のお肌に触るなんてセクハラ親父のやることだよ!」
「うっせぇな。誰がだよ」
「あんただ、あんた」
「お前と一緒にすんな」
相変わらずいちゃもん甚だしい。
だいたい、それはお前だろ。
いつも岡田岡田准ちゃん准ちゃんて、鼻の下伸ばしやがって。
それどころか暇さえあれば抱きつくわ身体に触るわ。
端から見たら、お前の方がよっぽどセクハラ親父だっての。
けれどそう言ってやると、井ノ原はふふんと鼻を鳴らしてさも得意げに言ってみせた。
「俺のはオープンだからいいのよ」
「なんだよそれ」
「だって坂本くんのはすげーむっつりって感じするもん」
「お前、いい加減殴られたいか?」
「ぜってーそうだー。坂本くんむっつりだろー!」
「黙れエロ原」
「あっ図星だ。図星なんだ!」
どうしようもないような言い合い。
そんな俺と井ノ原の間で、暫くは黙っていた岡田だったけど。
いい加減嫌になったのか、ぼそりと呟くとさっさと長野の方に避難する。
「二人ともうるさい。寝てへんのやからちょっと静かにして」
その言葉に俺と井ノ原は同時にぐっと口を噤む。
岡田も言うようになったよな・・・。
こいつは元々あまり饒舌ではないし、最近ではすっかりクールキャラという位置づけになっていたから、口数は少なめだったりするんだけど。
その分ぼそりと呟かれる言葉は結構効く。
そんな俺と井ノ原を見て、長野はくすくすと笑いながら岡田を自分の元に手招きする。
「あーあ、怒られちゃったー。情けないなぁ。ほら岡田、こっちおいで」
「んー」
優しく微笑まれ、手招きされて。
岡田は素直にこくんと頷くとそちらに歩み寄る。
その肩をぽんぽんと叩いてやりながら、長野は岡田の顔を覗き込む。
「撮影お疲れ様。身体大丈夫?」
「ん。ちょっと眠いだけやから」
「そっか。あんまり無理しないでいいよ?」
「うん」
長野は、こくんと頷く岡田を軽く抱きしめるようにして背中を叩いてやっている。
まるで母と子の光景。
それは微笑ましいもので。
じっと見ていると、横で井ノ原がだらしなく口を開けて羨ましそうに呟いた。
「あー・・・長野くんいいなぁ」
「なにが」
「俺もお疲れ准ちゃんを優しく抱擁したいよー」
「だから、お前がやるとセクハラなんだよ」
「なにさ。坂本くんだってそうでしょ」
じろりと互いに視線をやる。
そんな俺たちに、長野は岡田を抱きしめたまま呆れ混じりで一つ訂正するように言った。
岡田は特に身じろぎすることもなく。
俺からはその細い背中しか見えない。
「井ノ原、ちょっと違うよそれ」
「へ?なにが?」
「坂本くんのは、お父さんだから」
「は?お父さん?」
「うん。だってさっきさぁ、とおーい目をして『岡田も大きくなったよなー』とか言ってたんだよ?」
くすくすと笑ながらそう言う長野。
一瞬、その腕の中の岡田がぴくんと身体を揺らしたのが判った。
しかし井ノ原はそれに気付かなかったのか、ぽかんと口を開けては俺を凝視する。
「うっわ・・・。それは・・・何て言うか、お父さん・・・」
「お前ほんといい加減黙れ。長野も余計なこと言うなよ」
「あははー。ごーめんねー」
「ったく・・・」
そこでまた小さくため息をつく。
すると岡田が身じろぎして長野から身体を離すのが見えた。
ゆっくりと振り返ると、岡田は俯きがちに俺の方に歩み寄ってきた。
何かと思いそれを見ていると、依然として俯いたままで俺の前に立ち止まって。
「・・・岡田?」
「坂本くん」
「うん・・・?」
ゆるりと上がった顔は、何だかやっぱり疲れて見えて。
俺の名を呼ぶその声は、何だか少し幼げで。
岡田は暫し俺を凝視してからふっと笑った。
それは綺麗に。
長野とは違う、硝子細工のように脆い美しさでもって。
「ほんとはね、昨日クランクアップした」
「え?」
「撮影。ちょっと早まってん」
「あ、そうなのか。なんだ早く言えよ。よかったなー」
「うん。がんばった」
「そっかそっか。お疲れ様」
俺は本当に嬉しくて。
そしてそれを俺に報告してくれたことが嬉しくて。
ただ労うように、無意識に。
スッと手を伸ばしてその頭を撫でた。
瞳同様綺麗で艶やかなその黒髪。
数度、柔らかな感触を手のひらに感じながら。
「あ、お父さんだ・・・」
けれど井ノ原のその呟くような言葉にハッとした。
そして慌てて手を離す。
岡田はまた暫し俺を凝視してから、伏し目がちに微笑んだ。
やはり美しく・・・けれど同時に何かを諦めたかのようにも見えるそれ。
「・・・お父さん、か」
ぽつりと呟かれたその言葉。
もうとうに声変わりも終え、同じ年少組ながら年上の剛や健よりも少し低めで色気さえ漂うその声音。
「まぁくんは、昔から変わらへんね」
その呼び方に少なからず、内心ドキリとする。
まだまだ岡田が幼い時に、俺の後ばかりをくっついてきていた頃に使っていた幼い呼び方。
それが「坂本くん」に変わったのはいつからだっただろう。
最早ほとんど使わなくなったそれは、子供を脱した証?
けれど今、その大人びた声でそう俺を呼ぶのはどうしてだ?
思わず口をついて出そうになるのを押さえ、俺はただ岡田を凝視する。
俺の視線の先で岡田はやはり伏し目がちに唇の端だけを上げ、何かを小さく小さく呟いて。
それを聞き返そうとする俺を後目に、ふっと顔を上げたかと思うと。
不意ににこっと笑った。
けれどすぐさま俯いた。
「坂本くんがおとんやったら、苦労しそうやわ」
何だか声の調子だけはおかしそうにそう言ったかと思うと。
岡田はふいっと背を背けて控え室を出て行ってしまう。
俺はそれを視線で追うのが精一杯で。
その扉が開いて閉まると同時、内心混乱しながら呟くことしか出来なかった。
「岡田・・・?」
けれどそんな俺の声を聞いて。
やはり俺と同様に岡田の出て行った方をじっと見ていた井ノ原がこちらを向いた。
元々細い目が更に細められているのが判る。
そしてその普段は明るい声が随分と低く響いて・・・。
「あんたはほんと、昔から変わんねぇよな。・・・昔から無神経なまんまだ」
「・・・なんだと?」
微かに侮蔑すら籠もっているその声に、俺は思わずぎろりと睨め付けるような視線をやって対抗するように低く返した。
けれど井ノ原はそれに軽く目を伏せると、小さく呟いた。
「あんたがそんなんだからさぁ・・・いつまで、経っても・・・」
「井ノ原・・・?」
「・・・ちょっと岡田探してくる。すぐ戻るよ」
そう言って井ノ原も出て行ってしまう。
やはり俺はその様を見つめることしか出来なかった。
「・・・坂本くんて、ほんとバカだよね」
そして今度は背後から、呆れかえったような声。
さっきから一体何なんだ。
昔から変わらないだの、無神経だの、バカだの。
俺が一体何をしたっていうんだよ。
「なんだよ、どいつもこいつも代わる代わる・・・」
「それだけあんたがバカなことやってるからだよ」
軽く拗ねたように呟く俺の言葉をかき消すかの如く。
長野の落ち着いた声音は容赦なく向けられた。
それに顔を上げてじっとそちらを見れば、深いため息と共に吐き出される言葉。
「・・・完全に無意識なわけじゃないよね?意識しないようにしてるだけなんでしょ?」
「だから何が・・・」
「そうやって岡田に対して保護者ぶろうとするの」
「・・・どういう意味だよ」
「そのまんまだけど」
長野の言葉は決してきついものではない。
けれどその分、やんわりと静かに俺の心に直に響いて。
否が応でも俺に真実を突きつけようとする。
「自分の気持ちに気付いてないわけじゃないでしょ?判らないわけでもないでしょ?」
「・・・」
「押し殺そうと、してるだけでしょ?」
「・・・・・・」
確かに長野の言うように。
判らないわけじゃ当然ない。
俺が岡田に対して過保護に、それこそ長野が言ったようにまるで父親みたいに接しているのは。
全ては裏にある感情を押し殺すためだ。
「・・・だからなんだ?」
「なに、今度は開き直り?」
「別に。俺は事実を言ってるまでだよ」
「・・・どうして?」
「どうしてって、何が?」
今度は逆に俺の方が落ち着いたように、そして長野の方が若干苛立ったように呟く。
・・・実際には、俺も落ち着いてなんかいなかったけど。
「岡田のこと好きなくせに。ずっと好きなくせに。・・・どうして?」
「・・・ああ、好きだよ」
「だから、だったらなんで・・・」
「好きだよ。・・・だから、言わない。何もしない。父親だと言われるなら、それでもいい」
何処か他人事のように淡々と呟く俺に、長野は眉根を寄せる。
「・・・おかしいよそれ」
「俺にはおかしくない」
「おかしいよっ」
「うるさい」
「坂本くんっ」
「なんだよ・・・」
若干疲れたように呟く俺に、長野は大きく息を吐き出すと一歩俺に歩み寄って顔を覗き込んできた。
様々な表情が浮かぶその顔。
苛立ち、呆れ、そして・・・心配。
「あんたは、一体何を躊躇うんだよ」
「・・・」
「何が躊躇わせるんだよ。・・・ねぇ、10年もの間一体何を考えてきたの?」
ただじっと見つめられて。
けれどそれだけで。
口を噤むことも、視線を逸らすことも出来た。
でも自然と俺の口は開いていた。
・・・存外に、もう限界だったのかもしれない。
「・・・あいつを、守ること」
「え・・・?」
「あいつをどうしたら自分の欲望から守れるか」
「なにを・・・」
「あいつを汚さずに傍にいられるか」
「坂本くん・・・」
「だってこれは、恋なんかじゃねぇもん」
ふっと自嘲気味に笑ってみせた。
長野は無言で俺を見つめる。
けれど一度開いた俺の口はとどまることもなく。
ただ堰を切ったように様々な感情が溢れ出していく。
気持ちを押し殺した十年の歳月が反動をつけて流れ出るのが判る。
「俺さぁ、初めて出逢った頃からだったんだよ」
「なにが・・・?」
「あいつのこと抱きたいって思ったの」
「・・・」
「9つも下の男にだぞ?まだ14歳の子供に、だ。
別にそっちの趣味はなかったはずなのになぁ・・・。俺って変態かもって、ちょっとへこんだりしたよ」
「・・・・・・」
「でも実際には変態どころじゃ済まなくてさ。どうしようもねぇんだわ。好きで、好きでさ。大事でさ・・・」
長野はただ黙って耳を傾けている。
俺は聞いてほしかったんだろうか、誰かに。
この気持ちを、この気持ちを押し殺すことの苦しさを。
十年という歳月を持ってしても変わらなかった、変えることのできなかった、この想い。
ああ、岡田や井ノ原の言う通り。
俺は十年前から何一つ変わってはいない。
「大事だ・・・大事なんだ。だから汚したくなかったんだ」
「・・・どうして汚れるとか、そういう風に考えるの?」
ようやく口を開いた長野の言葉は少しだけ非難めいていた。
けれど俺は特に気にすることもなくふっと笑った。
「長野。あいつ、十年前は14歳だったんだよ」
「それがなに」
「俺が芸能界のこととかほとんど教えたし、あいつは俺にばかり頼ってきた」
「だからなんだって・・・」
「まぁくん大好き、ってさ。可愛い声で可愛い笑顔で、純粋にそう言ってくる子供を手に入れることなんて簡単だったんだよ」
「・・・・・・」
「・・・でもそれは、恋か?」
言葉と共に我知らず漏れるのは、自嘲気味な笑み。
純粋に向けられる幼い好意を利用して手に入れて、自分の欲望を満たそうとするような、それは。
恋なんかじゃない。
恋と認めてはいけない。
何より大事なあいつを守るために。
「俺は臆病なんだろうよ。怖いんだよ。・・・一度手に入れたら、もう二度と離せなくなる」
そう呟いた言葉が空気に溶けて、消えて。
暫しの沈黙が流れる。
けれどそれを破るようにして、長野は再び口を開くと強い調子で言った。
「坂本くんの気持ちは判った。・・・でも、あんたはやっぱりバカだよ」
じっとその顔を見つめる。
なんでだよ。
なんでお前が、そんな泣きそうな顔するんだ。
「十年もそんなことばっかり考えてきたんだ?バカすぎるよ・・・」
「ああ、そうかもなぁ・・・」
「気付いてないわけじゃないくせに」
「なにが?」
「岡田の気持ち」
「・・・・・・」
再び俺が押し黙る。
それに長野は俺の腕をぎゅっと掴んだかと思うと、顔を覗き込みながら続ける。
「ねぇ、確かにあんたの気持ちは変わってないかもしれない。でも岡田は違うよ?岡田はもう14歳の子供じゃないよ?」
「長野・・・」
「もう十分大人だよ。自分で全部のことを考えられる歳だよ。自分の気持ちだって判る歳だよ」
「・・・」
「その気持ちが幼い好意だけだと思ったら大間違いなんだからね」
岡田の気持ち。
幼いその手が、その顔立ちが、その身体つきが。
年月と共に成長していく様を、誰より近くで見てきた。
俺たちに追いつこうと必死で時に躓きながらも、次第に泣くことも少なくなって、自分の足だけで立てるようになって。
精力的に仕事をして、ソロ活動も増えた。
そしてそれをいつも嬉しそうに俺に報告しにきた。
その時の笑顔だけは未だに幼いそれだったけれど。
整い繊細に微笑むその顔と、すらりと伸びた白く美しい四肢と。
それらは確かに大人のそれで。
俺に向けられる何処か潤んだような黒曜石の瞳は、確かに恋の・・・。
「岡田はあんたに認めてほしいんだよ・・・」
「ああ」
「自分を、自分の気持ちを。・・・俺が言うまでもないよね?」
「判ってる」
「判ってるなら・・・」
「・・・でも、それでも、俺は自分の気持ちを恋とは認められない」
「まだそんなこと言うの?」
しょうがないだろ。
もう十年も抱えてきたんだから。
今更すぐに変えろってのが無理な話だ。
「大事すぎんだよ・・・」
天を仰ぐように、ため息こぼすように。
そう言ったら、長野は唐突にぐいっと俺の胸ぐらを掴んできて。
何かとそちらを見る俺に至近距離で言った。
「じゃあ言ってあげる。あんたのそれは、恋だ」
「長野・・・」
「大事で、だからこそ汚したくなくて、守りたくて、認められなくて、目を背けて、十年も抱え続けて、悩み続けて・・・」
その淡い色の瞳が、また泣きそうに歪んだ。
「・・・そんなにも一人のことを想い続けて。それが恋以外の何だって言うの?」
「それは、」
「ねぇ、そろそろ助けてあげなよ、あんたの恋心をさ。・・・助けてあげてよ、岡田を」
無言でじっと凝視する。
長野は俺から手を離し、小さく息を吐き出す。
「岡田だってもう限界だと思うよ。受け止められるのはあんたしかいないでしょ?」
そうして思い出すのは伏し目がちに微笑んだあの表情。
すっかり大人びた中にも何処か幼さを滲ませた声で、「まぁくん」と俺を呼んだあの表情。
けれど。
ああ、そうだ。昔からだ。
眩しい程に笑ってみせて、すぐに俯いたその後は。
あいつ、大抵が我慢してる時で。
その後必ず一人で泣くんだった。
そしてそれに気付き、探しに行って。
宥めるように頭を撫でて抱きしめてやるのが俺だった・・・。
「このまま井ノ原に取られても知らないよ?」
その言葉に視線だけで返す。
井ノ原・・・あいつが岡田のことを好きなのは前から知っていた。
いつもおちゃらけたような態度で、けれど本当は一途に岡田を想っていることも。
岡田の相談事なんかを聞いてやっていることも知っていた。
知っていたけれど・・・。
それを改めて言われると、どうしようもなく胸が騒ぐ自分がここにいることは、今知った。
「これが『お父さん』・・・なら、悪い虫がついたって怒るのかな。じゃあ、これが同じように岡田に恋する男なら、どうするんだろうね?」
「それは・・・」
「恋敵が手を出すのを黙って見てる?」
「・・・」
「それこそ、もう二度とあんたの手には入らないよ?」
「・・・そんなこと、」
畳みかけるように紡がれるその言葉に、低く返す。
それはこだわりも戸惑いも躊躇いも何もかもかなぐり捨てた男のそれ。
「そんなこと、許せるか」
許せるわけがない。
大事で大事で、ずっと守ってきた。
好きで好きで、愛しているからこそ。
何一つとして想いを告げることなく。
ただ気持ちを押し殺して傍にいるように努めた。
それは汚したくなかったから。
そして同時に、誰にも渡したくなかったから。
「・・・あいつは俺のだ」
一度口にしてしまえば何のことはない。
恋じゃない。恋なんかじゃない、と。
そう言い聞かせ続け、逃げ続けてきた。
そしてそれでも逃げられなかった。
それでも欲しかった。
俺は一人の情けない、恋する男以外の何者でもなかった。
大きく息を吐き出して、目の前の長野を見ると。
何だかおかしそうに笑って俺を見ていた。
今更と言えば今更ながら。
全てさらけ出してしまった今となっては、妙にばつが悪い。
「なんだよ・・・」
「んー、ほんと、十年って長いなーと思って」
「あー・・・そうだな・・・。でも悪い十年では、なかったよ」
「・・・そんなの、知ってるよ」
なんだかそう妙に柔らかく笑う長野に。
俺はつられるように表情だけで笑い、すぐさま身体を翻して扉の方に向かいながらひらひらと手を振ってみせた。
「・・・お前はずっと見てくれてたもんな。ありがとな」
そうして扉を開けた時、後ろで長野がふっと息を吐き出したのが判った。
俺はそれに敢えて何も言わずに控え室を後にした。
だからその後呟かれた言葉なんて、当然聞こえなかった。
「・・・・・・俺にとっても、悪い十年じゃ、なかった・・・かな」
スタジオの廊下を足早に歩く。
人気の少なそうなところを重点的に探しながら。
もうすぐ収録も始まるから早くしなくてはいけない。
もしかしたらもう井ノ原が見つけているかもしれないけど。
だとしたら、なおのこと急がなくてはならない。
暫しうろうろと歩き回った末。
スタジオの端に位置する、人気がなく灯りも少ない非常階段を見つけた。
何となく予感がして、静かにそちらに歩みを進めると。
微かに声が聞こえてきた。
井ノ原と岡田だ。
けれどそれは小さくて、何を言っているのかよく聞こえなかった。
俺は一度小さく深呼吸して、階段の踊り場に足を踏み入れた。
「やっと見つけた・・・」
小さく呟いた先。
そこには階段に座り込んでいる岡田と、それを覗き込むようにしてしゃがんでいる井ノ原の姿があった。
「坂本くん・・・」
岡田はぽつりと呟くと一瞬だけ俺を見て・・・けれどもすぐさま顔を俯かせてしまう。
そしてその代わりというように、井ノ原が立ち上がって胡乱気に俺を見た。
「なんだ、来たんだ」
「そりゃ来るさ。もうすぐ収録だって始まる」
井ノ原の前に腕を差し出し、平然と腕時計を指で示してみせれば。
その眉根がぴくりと寄ったのが見えた。
「・・・そうだよね。お父さんは末っ子を迎えに来たんだよね」
そのあからさまに嫌みっぽい言葉に、俺は俯いたままの岡田にちらりと視線をやってからすぐ戻した。
「いいや」
「は?」
「別にお父さんしにきたわけじゃない」
「じゃあ何だって・・・」
怪訝そうなその表情。
その井ノ原の脇をすり抜け、階段に足をかける。
何事かと目を見張りながら俺を振り返った井ノ原の視線の先で。
俺は先ほどの井ノ原と同じように、階段に座って俯く岡田の元にしゃがみこんだ。
「ちょっと坂本く・・」
井ノ原のその声も無視して。
俺はしゃがみこんだ体勢で、俯いた岡田の横顔をじっと見つめた。
子供らしい丸みがほとんど取れてシャープになってきた顔立ち。
白く整ったそれは何処か芸術品のようでさえある。
幼さが抜け、まるでさなぎが蝶に脱皮したような・・・。
今更知ったわけじゃない。
もうずっとずっと前から気づいてた。
だって、誰よりも近くで見てきたんだから。
そんなことは、今更だ。
けれど今更ながらに認めてしまった恋心。
それはこの美しい横顔に胸の鼓動を高鳴らせ。
今目に飛び込んでくるこの白い頬に触れたくて。
「っ、坂本くん・・・?」
触れてみればそれは、思わず指先が震える程に滑らかで。
今度はもっと強く感じてみたくて。
強く澄んだ瞳が自分を映して揺れるのに、小さく笑ってみせて。
躊躇いなく、両腕を伸ばした。
「わっ・・・!ちょ、ちょっと坂本くんっ!なにすんねや!ちょっとっ・・・」
「あーあー、暴れんなよ。落ちるから」
「ええから下ろせっ!」
「やだね。早く行かないと収録に遅刻する」
「判ったから!自分で行くから!下ろしてっ・・・」
「いーやーだ」
階段に座り込んでいたその身体。
その両脇に手を差し入れて、立ち上がると同時に抱き上げた。
肩口に抱き上げた身体は昔と比べると随分重くなっていて。
以前に比べるとちょっときつかったりもしたんだけど。
今はそんなことを言っている場合でもなかったから、何とか踏ん張ってそのまま歩き出す。
肩口では、さっきまでは言葉少なだった岡田がにわかに騒いでは俺の背中を叩いてくる。
そんな光景を、井ノ原は暫しぽかんと口を開けて見ていたが。
「ん、もう、なんやねんっ・・・・・・いのっちっ」
「っあ、岡田・・っ!ちょっとおっさん!なにしてんだよ!」
岡田が助けを求めるようにその名を呼ぶと、ようやく我に返ったのか。
井ノ原は俺の進路を阻むようにして前に立ち塞がってきた。
「いきなり来てなんだよ」
「なにって・・・」
「どういうつもりなの、ソレは」
岡田を肩口に抱き上げている様を指してそう言う井ノ原に、俺はちらっと視線をやってからぼそりと呟いた。
「・・・とりあえず、 お前に取られないようしようと思って」
それに岡田がぴくっと身体を揺らして抵抗を止める。
井ノ原はじっと俺の顔を見つめて胡乱気に言った。
「なにそれ。可愛い末っ子に悪い虫がつかないようにしようってこと?」
「ていうより・・・」
岡田の身体を改めて抱えなおした俺は、さっさと非常階段を出て廊下を歩き出す。
「恋敵に渡さないように、かな」
瞬間、後ろで井ノ原がぐっと言葉に詰まり。
肩口では岡田がますます身体を揺らすのが判った。
けれど俺はそれに構わず、さっさと控え室に向かって歩いていく。
「おい、お前も早く来いよ」
特に振り返らずに言った台詞に、背後からは軽くふてくされたような声が聞こえた。
「・・・わーかったよ!ったくさぁ・・・なんだよ・・・最初っからそう言やいいんだよ・・・」
ぶつぶつと呟きながら後を着いてくる井ノ原を、俺の肩口から窺うようにしていた岡田だったけれど。
ずんずんと進んでいく俺の顔をちらりと見て。
身体を少し起こして手を伸ばしたかと思うと、不意に頬を摘んで引っ張ってきた。
「っ、て・・・。なんだよ?」
思わずそちらを見ると、岡田は拗ねたような、怒ったような・・・でもどこか微かに嬉しそうな。
至極微妙な表情で俺の肩にしがみついていた。
「なにしてんねん」
「なにって、なに」
「なんでそんないきなりなん?」
「なんでって?」
「せやからっ・・・。今まで、なんて、ずっと無視してきたくせに・・・今更、こんな・・・」
「別に無視してたつもりはないけど」
「してたやん!」
「してないって」
「してたっ!」
「っ、だから、痛ぇって岡田・・・」
更に強く頬を引っ張られて、思わず軽く弱った声を向ける。
それに少しだけ溜飲が下がったのか、岡田は手を離して再び俺の肩口に身体を預ける。
「だいたいなんやねんこの体勢・・・」
「あー、だっこ?」
「判っとるわ。・・・あんたらしくない」
「そうか?」
「そうや」
「そうかなぁ」
「・・・それとも、それもお父さんの役目のひとつなん?」
ちらりとそちらを見ると、強い視線とかち合った。
美しく澄んだ黒曜石。
大きなそれにまるで呑まれてしまうのではないかと錯覚する。
けれどそれは妙に心地よくて。
そしてやはり思った通り。
微かに瞳が潤んで目元が赤くなっているのを確認して。
妙に愛しさは溢れる。
だから思わず片手を頭に持っていって、軽く撫でた。
「ちげぇよ」
「・・・その割には、やっぱすごい子供扱いな感じがすんねんけど」
「気のせい気のせい」
「気のせいじゃ・・・」
「・・・こうしとかないと、何するかわかんねぇからな」
「え・・・?」
頭を撫でる手をそのまま頬に滑らせた。
白く滑らかなそれにまた指先が震えそうになる。
「俺がさ、お前に何するかわかんねぇもん。だからこうするの」
なでなでと。
笑いながら頬と、そしてまた頭を撫でた。
岡田は暫し呆然としたようにそれを受けて。
それから白い頬を微かに染めたかと思うと、肩口に顔を埋めてしまう。
「・・・それ、どういう意味でとればええの?」
「それは・・・そうだなぁ。あとで教えてやるよ」
「あ、あとでって、いつ・・・っ」
何だか不満げにべしっと肩を叩かれた。
それにまた笑いながら頭を撫でて、軽く耳元で呟いた。
「あとであとで。・・・仕事終わったら、俺んちでな」
「・・・・・・」
「ん?どした?」
ぎゅっと俺の服をつかんだ岡田は。
ほうっと息を吐き出しながら、ぽつりと呟いた。
「・・・まぁくん、なんかエロいわ」
「なんだ。今更気づいたのか」
「・・・ううん。十年前から割と気づいとったけど」
依然として何か言いたげにしながらも大人しくしている岡田の頭をもう一度撫でてやってから。
表情だけで軽く笑ってみせながら、控え室の扉を開けた。
END
なんか今更に発掘されたブイ小説をサルベージしてみましたよ。
しかもこれ紛れもなくブイ処女作でした。しょっぱなから何書いてんだと。
坂岡めっちゃ好きだったなー。いや今でも大好きだが。
ほんとは最初ブイサイト作ろうと思ってたくらいだったのに、そこでスコーンとあの白い子に落ちてしまったのでブイサイトは幻と消えてしまったわけですね。
とりあえず坂岡は父と娘的な禁断臭が常に漂ってるといいです。
そのくせどっか綺麗で儚い感じのね。薄幸カプ(出た)。
(2006.2.5)
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