TIMELESS










映画の撮影やらレギュラー番組のロケやら、雑誌の撮影やらインタビューやら。
殺人的に忙しい日々の中にぽっかりと空いたオフ日。
意識的にではなかったけれど、久々の休みに身体は思う存分休息を取るべく惰眠を貪っていた。

だからすっかり忘れていた。
幾分、忘れようとしていた節もあったのかもしれない。

けれどそれは惰眠を貪る俺の耳に届いた無機質な着信音によって否が応でも知らされる。
そして電話を取るまでもなく判っていた。
あの人からじゃない。
だって今は確か舞台の稽古時間中。

未だ睡眠を求めるだるい身体をベッドにごろりと転がしながら、手を泳がせて探り当てた携帯を耳に当てる。

「・・・もしもし、」
『やっほ!准ちゃんっ!イノッチだよっ!』

携帯だから、当然ディスプレイに名前は出てるし。
わざわざ名乗らなくてもいいから。
ていうかいつもテンション高いなぁ・・・。
ぼんやりした頭の中だけでそうツッコミながら、いかにも今起きましたという寝ぼけた声で返す。

「おはよぉ・・・」
『おっはよー!・・・って、お前今起きたの?』
「おん・・・。だって久々のオフやねんで?寝だめしとかな・・・」
『でもお前知ってる?寝だめってほとんど効果ないんだよー?毎日決められた時間寝るのが一番いいんだってさー』
「んなの無理に決まっとるやん・・・」
『まぁねぇ〜。特にお前最近忙しいもんな』

そう言う携帯越しからは何だかざわついた空気が伝わってくる。
恐らく今イノッチも仕事中なんだろう。

「・・・仕事中?」
『んー。ほら、「R30」をね』
「ああ・・・太一くん?」
『そうそう。・・・あっ、ちょっと待てよ?』
「は?」
『いいからちょっと待ってろよ?切んなよ?』
「はぁ・・・」

突然何かを思いついたようにそう言ったかと思うと、イノッチの声が途切れる。
俺は段々と覚醒してきた頭を持てあましながらも、言われた通りにその場でぼんやりと待ってみる。
すると今さっきとは打ってかわってシーンとする空間。
それはもちろん俺一人の部屋なんだから、いつもそうといえばそうなんだけども。
急になくなった人の声に、俺は軽く息を吐き出しながらそのままシーツに顔を埋める。
俺の体温を受けたシーツはとても暖かい。
けれどそこに身を預けても、何だかあまり気持がいいとは思えなかった。
そろそろちゃんと起きて何かしようか・・・。

そこまで思ったところで、携帯の向こう側がまた俄にうるさくなった。
今度はイノッチに加えてもう一人。
それは恐らく今番組で共演している太一くん。

『岡田ー?おーい?』
「・・・あ、太一くん?」
『おう。久しぶりだよなー。元気?』
「おん、元気。今日はオフで」
『らしいな〜。まぁお前忙しいもんな。ゆっくり休めよー?あっ、あと、誕生日おめでとうな!』
「あ、・・・」

やっぱり。
何処かでそんなことを思いながらも、勢いよく言ってのけられたそれに小さく頬をゆるめて返そうとするけれど。
それは向こう側の何だか軽く拗ねたような声音に遮られる。

『ちょっと太一くん!何で俺より先に言っちゃうんだよっ!俺が先に言おうと思ったのにっ!俺メンバーよ!?』
『うるさいな、お前が代われって言ったんだろー?順番とかちっちぇこと気にすんなよっ!』
「あの・・・」
『うわ出たっ!太一くんすぐそれだよ〜!・・・あ、岡田っ、先越されちゃったけど、誕生日おめでとー!』
『おめっとさーん!』
「おん、ありがとう」

まるで兄のようなメンバー、そして可愛がってくれる先輩。
仕事中にわざわざ電話をかけてきてくれて、お祝いの言葉をくれる。
それはただ純粋に嬉しくて。同時にくすぐったくて。
さすがに誕生日に一喜一憂する歳でもなくなったとは思うけど、やっぱり親しい人にそう言ってもらえるのはいくつになっても幸せなことだと思う。

そうして二人は互いに先を争うように「おめでとう」と連呼しては、携帯越しに漫才もどきを展開していた。
仲の良い二人だなーなんてぼんやり思いながら、俺は暫しそれに耳を傾ける。
やがて休憩時間が終わったらしく、最後に二人一緒に「おめでとう」と言ってくれて、俺はそれにもう一度「ありがとう」と言って電話を切った。






「んー・・・眠いー・・・」

電話が終わったらちゃんと起きよう。
そんな風に思っていたはずだったのに、口から漏れたのはそんなどうしようもない怠惰な台詞で。
身体は再びごろごろとベッドの上を緩慢に転がった。

眠い。
眠い・・・。
一人、部屋でそう呟き続ける。
でも実際のところ、もう散々寝たから言う程眠くはない。
さっきイノッチが言ったように寝だめなんて実際には出来やしないし、一回に寝れる量なんて決まっているから。
時計をちらりと見ればもう夕方近い。
これだけ寝たんだ、眠いはずもない。
それでも、眠いとそう呟き続けて転がる俺は、一体何がしたいんだか。
いくらオフ日だと言っても、誕生日にこんな状態っていうのは実はちょっと寂しい奴なのかもしれない。

ごろん。
もう一度大きく仰向けに転がって、ぼんやりと天井を見上げる。

「24、かぁ・・・」

俺は今日で24歳になった。
さっきイノッチと太一くんに祝って貰ったように。
そんなに友達が多い方ではないけれど、きっとこの後も色々な人から電話やらメールが届くと思う。
けれど今俺の頭にぼんやりと浮かぶのはその誰でもない。
ただ一人。

「にじゅうよん・・・」

さっきおめでとうと電話越しに言ってくれたイノッチと同じメンバーで。
やはりおめでとうと言ってくれた太一くんと同期で。
うちのグループのリーダーで。
・・・俺の恋人。
きっと今は来年に控えた舞台の稽古中。
ずっとやりたかったやつなんだ、そう嬉しそうに言った年の割には幼い笑顔を思い出しながら呟く。

「ついに、なってもうたなぁ・・・」

ため息混じりで思う。

『さすがに誕生日に一喜一憂する歳でもない』

けれど実際のところ胸の奥は何だかもやもやしている。
それは「24歳」という歳が俺にとっては特別だったから。

24歳、それは坂本くんがV6でデビューした歳だ。

俺と坂本くんは、9つ歳が離れている。
それはデビュー当時は随分騒がれたもので。
事務所内で今までデビューした数々のグループの中でも最も大きい年齢差らしい。
実際、デビュー当時15歳だった俺にとってみれば24歳の坂本くんは遙かに大人で、とにかく見上げるしかない存在だった。
それは言ったら、見上げた首が痛くなるくらい。
一番年下でジュニア経験もない、いきなりこの世界に放り込まれた俺はただ必死に上を見て、せめて置いていかれないようにと追いすがるしかなかった。

とは言え今思えば、彼は決してリーダーに向いているとは言い難かった。
意外と抜けてるし、流されやすいし、何より末っ子気質で甘ったれだったりする。
それで1つ下の博なんかからはしっかりしてよと言われているし、イノッチには威厳を持てと叱咤されているし、剛くんや健くんからはからかわれたりもしている。
けれどそれでも、俺にとってのリーダーは坂本くんだけだ。
俺をここまで導いてくれたのは。
俺の小さかった手を引いて、時に頭を撫で、抱きしめて、涙を拭い。
時に諭し、叱咤し、突き放し、怒鳴りつけもした。
この世界の厳しさと、それでもいつ何時でも忘れてはならない大切なものを教えてくれた。
目標とは決して違うけれど、彼はいつでも俺の心の指標だった。

だからこそ、早く24歳になりたかったんだ。

けれど今さっき自分の口から漏れたのは、「なってしまった」、そんなもので。
それは今日の気分が今ひとつ沈みがちなことの要因なんだろう。

早く彼に追いつきたくて。
せめて彼がデビューした歳になれば何か見えてくるかもしれない。
何か変わるかもしれない。
その気持ちが少しでも判るかもしれない。
でもそんな考えが幼さ故だったことは、皮肉にもその目標だった歳が近づけば近づく程に判ってしまった。

歳があの時の坂本くんと一緒になったからって、何か判ったわけでもなかった。
それはそうだ。
だって俺は坂本くんじゃないんだから。
他人のことなんて、そう簡単に理解できるものじゃない。
それがたとえ恋人であろうとも。
もしも判ったことがあるとすれば、あの時俺が思った程に24歳は大人ってわけじゃないってことくらい。
こんな風にただ家でごろごろと、一人黙り込みながらも内心では来るはずもない電話にもやもやして。
理解したい、追いつきたいと、まるで未だ子供のように思ってる。
大した大人でなんか、あるはずもない。

今更背伸びしようとは思わないけれど。
差がまるで縮まらないことには、当然なのに何だかため息をつきたくなる。
それは仕事のこととかではなくて。
単純に絶対埋まらない年の差であったりとか、未だ変わらない・・・何だかんだと子供扱いしてくるあの人の態度だったりとか。
その程度のもので、普段なら気にする程のことでもない。
けれどだからこそ俺の心の何処かにずっとあり続けるものなんだろう。

「・・・俺、もう24やでー」

また一人呟いてみる。
俺、拗ねてんのかな。
なんか女々しいなぁ。
でもたぶん、夜になれば来てくれるだろうし。
それまで、まだちょっと時間あるし・・・。

「・・・」

そう思って何気なく目を閉じたら、あの人の笑顔が浮かんで。
そのまま俺は再び眠りに落ちた。
さして眠くもなかったのに。

早く会いたかったから。







「・・・ーい。おーい」

ふっと意識が浮上していく。
それは上から降り注ぐ声に、というよりかは。

「おーい。起きろって。岡田ー?」
「んっ・・・」

ぺちぺちと。
人が常々気にしているおでこを軽く叩くその長い指のせいだった。

そのままぼんやりと薄目を開けてみると、思うより近いその顔。
きつめで眼光鋭い目がやんわりと撓み、少しだけ穏やかな感じだった。
それは眠りに落ちる直前に浮かんだそれと似ていて、思わず頬が緩んだ。

「まぁくんや・・・」

自分で思う以上に嬉しそうな声だった。
坂本くんはそれにふっと笑いながら頷き、俺のだいぶ伸びた黒髪を軽く指で梳いた。

「おう。遅くなってごめんな。ちょっと稽古長引いた」
「ん・・・。今何時?」
「あー・・・と、8時半、かな」
「もうそんな時間かぁ・・・」

小さく目を擦りながら欠伸をする。
本当に、寝過ぎた。
さすがにこれだけ一日寝てばかりだったことを思うと、単純に勿体なかったかもしれない。
せめて読みかけのあの文庫本を読めばよかった。
そう思いながらもう一度小さく欠伸をすると、ベッド際に腰掛けた坂本くんは少しだけ呆れたように首を傾げた。

「お前、今日ずっと寝てたわけ?」
「おん。久々のオフやったし」
「そりゃそうだけどさ。でもお前、折角の誕生日なんだから、せめて誰かと遊ぶとかすればいいのに」

「おねぼうさんだなー」なんて笑いながら、そんなことを言う。
一体誰のせいでこんなことになってると思ってんのかな、この人。
・・・勿論、そんなの勝手な言いぐさだって判ってたから言わなかったけど。

「・・・でも起きたらもう昼過ぎとったし。誰とも約束してへんかったし」
「ま、お前最近忙しかったもんな」

そう言いながら頭を撫でてくる手はとても優しい。
それは9年前と変わらないもの。
いっそ親子に近い、兄弟のような仲間・・・そこから恋人へと変化した今でも変わらないもの。
きっとこれからも変わらない。
それはもどかしくもあり、嬉しくもあり。
・・・やっぱり、何だかもどかしい。

「岡田、」
「ん・・・?」

何となく思考の海に沈みそうになっていたら、不意にそっと手を取られた。
何かと思ってされるがままでぼんやりと見上げていると、その長く節張った指が俺の手のひらの下をするりと滑り。
俺の視線の先で、軽く目を伏せた坂本くんの、その薄めの少し荒れた唇が俺の指先に押し当てられるのが見えた。
そしてワンテンポ遅れて伝わってくるその温度。
次いで上げられた目が真っ直ぐに俺を映す。
それら一連の流れに自然と惹きつけられ、ドクンと一度鼓動が鳴った。

「誕生日おめでとう」

坂本くんの声はセクシーだな、と昔から思ってた。
さほど低いわけじゃないんだけど、何となく耳心地が良くて色気がある。
言っても、それは常ならば情けない声音を吐くことが多かったりもするけれど。
それでも俺にとっては、いつだってこの人を大人だと実感させるものの一つだった。

「おん。ありがと」

ぽつりとそう呟いて小さく笑うと、今度は手の甲に口づけられた。
まるで厳かな儀式でもあるかのように。

「・・・相変わらずキザやなー」
「いいだろ。こんな日くらい黙ってキメさせろ」
「えー?でも割といつもキメキメやん。・・・あんまキマってないけど」
「だから言うなってっ」

ちょっとだけむっとしたように俺を見下ろしてくる瞳。
きつい目つきが一段と鋭くなる。
出逢った当初はこれが怖くて仕方なかったけど。
今ならちゃんと判る。
その瞳の奥がとても暖かくて優しいこと。

「ええやん。別にキマってない時でも、まぁくんはかっこええで」
「・・・おだてても何も出ねぇぞ」
「何でおだてなあかんの?自分の誕生日やのに」
「そりゃそうだけどよ・・・」

この人はどうにも照れ屋で、未だに褒められることにあまり慣れないらしい。
それは恋人である俺に対してもそうらしく、ぼそぼそと無愛想気味に何事か呟いている。
それに表情だけで笑い、今度は自分から手を伸ばす。
気付いた坂本くんは少し不思議そうな顔をしながらも、その手を取って指を絡めた。
じんわりと伝わる熱に心まで温かくなる気がして。
何となく、言ってみた。
ほんとは言う気はなかったんだけど。

「あんなぁ」
「うん?」
「俺な、まぁくんがデビューした歳と同じになった」
「ああ・・・そっか。そうだな」
「おん。でもあんまよく判らへんな」
「判らない?」
「まぁくんのその当時の気持とかな。当たり前なのかもしれんけど、判らへんなぁと思った」
「・・・そっか」

淡々と呟いたような言葉だったけれど。
俺が何を言いたいのか、何を考えているのか、その歳をどう捉えてきたのか。
恐らく坂本くんは判っていただろう。
でも、じゃあ、そんな俺をあんたはどう思ったのかな?
思わずじっと見上げると、俺の指に絡められた坂本くんのそれに少しだけ力がこもった。
けれど漏れた言葉はさして当たり障りないもの。

「あの時の俺より、今のお前の方が大人だよ」
「そんなこと・・・」
「俺も大概、ガキだったからな」

そう言って苦笑する様は、でも、十分に大人だ。
確かにあの当時の幼い俺が思うよりはずっと子供だったのかもしれない。
けれどそれでも、当然のように、今現在24歳になった俺よりも今のこの人はずっと大人だ。
俺が今日24歳になったように、この人はその数ヶ月前33歳になったんだから。
単純に、埋まるはずもない歴とした歳の差。
そして変わらない扱い。
それはもどかしくもあり嬉しくもあり・・・やっぱり何処か、もどかしい。

この人は常に俺の先にいる。
勿論、決して背中しか見せてくれないわけじゃない。
手を伸ばしてくれるし、抱きしめてくれるし、笑顔も、時には弱った顔だって見せてくれる。
けれどそれでも、きっと永遠に追いつくことは出来ないんだろう。
今日漠然とそう思った。
あの時のこの人と同じ歳になって、思った。

「まぁくんは・・・ずるいわ」

絡んだ指先に、今度は俺から力を込めて。
何処か縋るような瞳でそう言った。
こんな自分は正直あまり好きじゃないけど。

坂本くんはそれに苦笑しながらも、顔を少しだけ近づけて穏やかに言う。

「なんでだよ」
「ずるい。さっさと歳とって」
「・・・それはなんだ、俺がどんどんおっさんになるって言いたいのか?」
「それもある。もう、老け込みすぎやで」

小さく笑いながらそんなことをからかい混じりで言ってやると、その眉根が軽く寄るのが見えた。

「失礼な奴だな。そりゃお前らが苦労かけるからだろー?」
「なんでやねん。なんで俺らのせいなんや」
「だってお前らいつまで経っても手ぇかかるんだもん」
「そういうまぁくんは、昔より手ぇかかるようになったんやないの?」
「おっ、言うじゃねぇかお前。そんなこと言うのはこの口かー?」
「んんっ・・・。いはいっ・・・」

絡められたのとは逆の手で、頬を摘まれ引っ張られた。
少し非難がましい視線を送りながらその手を掴み、ベッドの上でじたばたと抵抗してみせる。
それに坂本くんは声を上げて笑って。
何とか離させようと俺が手に力を込めるや否や、向こうからその手は離され、俺の顔の脇にスッと置かれた。
同時、俺の上に影を作り、覆い被さるようになるその長身。

「ん・・・まぁくん?」

小声で窺うように呟くと、坂本くんは俺をじっと見下ろしていて。
伏し目がちに顔を傾けたかと思うと、その唇が俺のものに自然と重なった。
それは特に深められることもなく、触れるだけですぐ離れる。
互いの吐息が少し交わる程度のそれ。

「准一、好きだよ」

ぽつりとそう告げられた。
今俺のものに重なった唇が、そう告げた。

「おれ、も・・・」

俺はただそれに辿々しく返すだけ。

好きだと言われることに慣れることなんかない。
何回言われたってそれは何となくくすぐったいし、ドキドキするし、嬉しい。
それはひょっとしたら、まだまだ俺がなんだかんだと「大人」じゃないからなのかもしれないけど。

「おー、りんごほっぺ復活かー?」

坂本くんは微かに熱を持った俺の頬にするりと指を滑らせ、表情だけで笑ってみせた。
その微笑みが何だかちょっと格好良くて。

「・・・おっさん、なんか顔がやらしいで」

思わず可愛げのない台詞が口をついて出た。
けれど坂本くんはそれにますます笑みを深めるだけで。

「可愛いな」

自分が人に言われると照れるし、こう見えて硬派だから普段だってさして言いはしないくせに。
今日に限って平然とそんなことを言ったこの人は。
俺の耳元でその声をそっと響かせては、俺の顎を取り、再び唇を合わせてきた。
するりと忍び込んでくる舌に、深められる口づけ。
頭の奥がぼうっとするような感覚は、寝起きのせいも手伝っていつもよりも深い。
それはきっと、今日という日すらも手伝って。

自然とそっと目を閉じる。
何となく今はその顔を見ていたかったけれど、その手に、その唇に熱くされる身体はそれもままならず。
沢山のことを考えてきた、今だって考えてる、そんなぐるぐる廻る思考回路は軽くショートさせられてしまう。

狡い大人。

頭の片隅でそう毒づきながらも、自らその熱に身を委ねた。
唇が離れた後も俺は何となく目を開けられず、ただ次第に収まっていく呼吸の中でベッドに身体を投げ出していた。
目を閉じたままの俺の髪を坂本くんが撫でる。
その穏やかな声が優しく降ってくる。

「岡田?・・・寝ちゃったか?」
「・・・・・・」

寝るわけがない。
寝られるわけもない。
今日はもう随分沢山寝てしまったし。
何より、こんなに熱くさせられたら、眠れるわけがない。

それは当然判っていながらそんなことをわざわざ訊いてくるこの人は、やっぱり狡いんだ。
俺にこうして目を閉じたままにさせて。
小さく小さく、呟くんだ。

「岡田、」

それはまるで一つの予言のような。

「お前はきっとこれから、俺よりも沢山の人に出逢って、沢山の経験を積むんだろう。だから・・・」

それはまるでささやかな懺悔のような。

「・・・こうやって常に先にいることでしか、俺はお前を自分のものにしておけないんだよ」

俺の腕はまるで生き物のように自ら意志を持ってその首筋に伸び、きゅっと絡んだ。
それに応えるように、鍛えられた両腕が俺の身体を抱き込んだ。
その熱と匂いに包み込まれる。

「だから、な・・・」

判った。
だから謝らないで欲しかった。
だから思わず目を開けた。
すると坂本くんは一旦言葉を切って、何だか苦笑したような、けれど少しだけ嬉しそうでもある・・・そんな複雑な表情をした。
その視線の先の俺は一体どんな顔をしていたんだろうか。

その長い指先がそっと目尻に触れた。
ああ。
泣きそうな顔でもしていたんだろうか。

「だからな・・・岡田」
「ん・・・」
「諦めて、ずっと追いかけて来い」

そう言って笑ったその顔。
24歳の誕生日に見た、その笑顔を。
俺は絶対に忘れないでいようと思った。
その時の口づけの甘さも。
その時の抱きしめてくる両腕の強さも。

ずるいおとな。

きっとこれからも、そんなあんたを追いかけ続ける。
追いかけて恋し続ける。

ずっと。

何年、経っても。










END






ついに書いたー書いちゃったー。ブイです。坂岡です。
ほらやっぱり我らが末っ子ちゃんのお誕生日ということでね!
准たんお誕生日おめでとうー!
・・・しかしどうなんでしょうかコレは。
まだまだ固まりきっていないので何とも言い難いですが、うちの坂岡は微妙な感じがします。微妙な空気というか。
甘甘ってわけでもシビアってわけでもないんですけど。
根底に儚さとか切なさとかが何処か潜んでる感じかなーと思います。夢見すぎ?
まぁ夢見過ぎと言えばまーくんですか。恥ずかしいですね。
でもとりあえず岡田の「まぁくん」呼びが書けただけで幸せです。
あと24歳がちょうどまーくんのデビューした歳っていうのは坂岡的に非常に大きなポイントだと思うわけで!
それが書けてよかったです。・・・あっ、タイノッチは趣味です(笑)。
(2004.11.18)






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