愛なきこの時代にキミをこんなに愛する










夜が怖い。
闇が怖い。

孤独が怖い。


あそこにはもう二度と帰りたくない。





夜はキライ。
そう呟いたら、俺の下で途切れ途切れに喘ぐ真っ白い身体が身動いで、薄赤く染まった顔をこちらにことんと向けられた。

「なん、やっ・・て・・・」
「せやから、おばけ、出るやん」
「ん・・・ッ、なにが、出るか、んなも・・・・ッ、ァ・・」

しがみつくみたいに、そのゆったりしたラインの肩に手を廻す。
滑らかな肌が汗ばんで手に吸い付くようで、何度も撫でた。
擦れるような音を立てるあそこはもうさっきからずっとそんな状態だから、痛みとかはないだろうけども。
それでもやっぱり異物感はあるらしく、俺が何か動く度に時折こうして声を漏らすから未だこのまま。
その上擦って濡れた高い声が好きで堪らないから。
だからずっとその暖かいナカにいたい。

でもこいつからしてみればいい加減繋がりっぱなしというのが引っかかるらしく、俺が動く度に吐息混じりで抗議する。
いや、抗議なんてもんでもない。
ちょっと呆れが入った程度の、睦言みたいなもん。
この時の瞳がまたいい。
自然と潤んだ切れ長のそれが綺麗で、なんだか宝石みたいで、好きやといつも思う。

「まだ、やんの・・・」
「それはどっちでもええけど」
「も、くるしい・・・抜けよ・・・」
「それはイヤや」
「なにがいややねん・・・」

煙った声はよくよく聞けば小さく震えてる。
もういい加減限界なんだろう。
俺が触れる度に身体は小さく反応するけど、もうそこには力なんか入っていなかった。

めちゃくちゃやりたい放題やって、文句なんか聞かないで、言ってしまえば一方的な性交。
正直酷いと思わなくもないけど、許してくれる白い腕が嬉しくて愛しくて、いつも止められない。
この柔らかな身体はいつだってそう。
俺が、熱も欲も身勝手も怯えも恐れも、そのなんもかんもを全て注ぎ込んだとしても抱きしめてくれるから。

「やって、こうしてたいねん」

きゅ、としがみつくみたいに腕を回したら、力ない腕がやんわりと廻された。
こんな細い自分の腕は好きじゃない。嫌いだ。
言ってしまえばちっぽけなこの身体全部が。
けれどお前がこうして抱き返してくれるならこれでもいい。

「・・・こう、って。いつまで?」
「夜が明けるまで」

俺を脅かし、孤独を誘う夜が明けるまで。
それまではこの白い身体を離したくない。

するとやんわりと笑ったような気配と共に、頬に触れた柔らかな感触。

「こわがりやな・・・すばる」
「せやから。おばけ出るやん」
「まだ言うか。出ぇへんわ・・・ッん?」

呆れたみたいな言葉を紡ぐ、その薄く開いた唇に噛みつくように口づける。
さっきキスしすぎたそれは普段以上の赤さと言いようのない熱を湛えていて、触れると一瞬震えてから俺を受け入れる。
少しして離れるとますます紅潮してぼんやりした顔が俺に向かって小首を傾げる。

「はぁ・・・。もー、おまえは、あれやん・・・」
「なん?」
「こわがりの子供や。がきんちょ」
「おないに言われたないわアホ」
「おばけは、しゃあない」
「しゃあないことない。こわい」
「ほんま出たらこわいけどな。確かに」
「こわい」

嫌なんだ。
夜は嫌。
闇は嫌。
独りは、嫌だ。

「・・・こわいけど、なぁ、すばる」

俺をじっと覗き込む白い顔。
俺の熱に犯されてぼんやりと紅潮したそれが、やけに柔らかく微笑んだ。
お前の方がよっぽどがきんちょや。
そんな、無垢な笑み。

俺の頭をぎゅう、とその白い腕が抱いた。
笑みは見えなくなってしまったけれど、代わりに、やっぱり熱に犯されてとろけたみたいな声が言葉を形作って。
頭の中にやわやわと響く。

『もし出ても、俺がおっぱらったるから』

その真っ白くて熱い腕の中で、ぎゅっと目を閉じる。
そしてその柔らかく酷く熱いナカで、どくんと何かが鼓動を刻む。

もう戻りたくない。
あそこにはもう二度と戻りたくない。

しがみついた身体は頷くように抱きしめてくれた。

「俺がおったらなー、おばけなんてそもそも出ぇへんねんでー・・・」

もうきっと本当は喋ることも辛いんだろう。
震えて霞む声で、それでも俺のために紡がれる言葉達は、まるで子供をあやす子守唄のようだ。

好きや。
好きや。
好きや・・・。

壊れたオルゴールみたいにそう繰り返してはきつくしがみつき、抱きしめる。
それに返されるのは柔らかな腕と子守唄。

「ヨコ、・・・」
「んー・・・?」
「どこにも、行くな」
「・・・おまえもな?」
「いくな・・・」
「おまえがおるなら、いかん・・・」
「もうひとりはいやや」
「せやな、・・・せやな・・・」
「ひとりはこわい・・・」
「・・・おん、こわいな」

あの場所は怖い。
ここはもう怖い場所じゃない。

あそこは独りだったから。
ここにはお前がいるから。

「俺もひとりは、こわいわ」

呟くように言うヨコの白い顔は、どこか遠くを見ているみたいで、それもまた嫌で。
ぐっとこちらを向かせたらまた笑われた。

「こわがり」
「・・・オマエもそうや言うたやん」
「こわいなら、こわくないように、なんかするか?」
「もういやや言うたくせに」
「もー、なんやようわからんくなってきた。・・・ここまできたら、もうなんでもええわ」

この場所は暖かい。
この場所は怖くない。
お前を好きになったから。
お前がいてくれるから。

『もうな、ぐっちゃぐちゃになろ、すばる』

子守唄を歌うみたいな調子で、どこか母親めいた綺麗で清らかな笑み。
でもそう言って俺の手を引いてナカを締め付ける様はとても淫猥で。
今この場所にいられる自分ならば、それは自分なのに、なんだかとても愛しく思える。
そしてそれ以上に、この場所に連れてきてくれたこいつが、愛しい。

愛なんて。
愛なんて。
そう呪うように繰り返していた、独りで。
あの場所ではただ独りだった。
あの場所はつまりは孤独そのものだった。
もうあそこには戻りたくない。
お前が連れてきてくれたここからは、もう二度と戻りたくない。

ぐっと身体を引き寄せて覗き込んだ顔。
ぼんやりと俺を映す淡い色の瞳。
ずっとそこにいさせて。

「なぁ」
「ん」
「オマエのためにおっても、ええ?」

俺という存在を。
その意義を。
もう、孤独だと、そう自分を蔑まぬための意味を。

その白い顔。
瞳がそっと閉じられて。
俺の目の前でまるで祈るように言葉を紡ぐ。

「・・・夜が明けても、ここにおるなら」

その閉じた瞼に口づけた。
震えたそれは雫に煙り、再びゆっくり開いていっては俺の居場所を空けてくれる。

もう二度とあそこには帰りたくない。
ここにいたい。
お前の傍にいたい。
この先のことなんてわからない、いつしか何かに引き裂かれてしまうかもしれないとしても。

どうかこの熱よ醒めないで。
俺たち二人を溶かしてずっと一緒にいさせて。

愛を呪ったあの場所で出逢えたから今ここにいられる。
どうかお願い、もう二度と帰さないで。
もう離せない。
離したくない。
かつて呪っただけのその力で今度は守るから。
守り続けるから。


「どんなんなっても、ずっとここにおる」


吐き出された白い息はまるで霧のように霞んで消えて。
夜は流れてやがて朝になって。

それでも変わらぬ愛の形を確かに見つけた。










END






「愛なき」は本当に凄まじく昴横だと思うのです。
というか凄まじくすばるだと(笑)。
すばよこは二人とも孤独を知っているから、二人とも酷くそれを恐れて、そんな二人が出逢ったからこそ見つけた愛の形みたいなね。
そんな感じで。イメージでお願いしますよ!(逃)
(2006.1.7)






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