望むなら特別な日々 後編










プレゼントというものはいくつになっても嬉しいもので。
リボンを解いて包みを開けて、中身を見た時の嬉しさは子供の頃から今だって変わらない。

解かれた赤いリボンは今ギシリと軋むベッドに無造作に放られていた。
光沢のある黒いドレスの裾が白いシーツに揺らめく。
それを掌で押し上げるようにして捲り上げると、そこには白い太股がそっと覗いて、同時に柔らかな弾力を伝えてくる。
村上はそれを何度も何度も、まるであやすように確かめるように撫でる。
そのむず痒いような、同時にそこから徐々に徐々に身体の奥へと伝えられていく震えみたいなものに横山は小さく息を吐き出す。

「・・・ちょお、くすぐったい」
「ん?やー、ええなて思って」
「なにがや」
「おいしそうな脚やなって」
「発言がおっさんやな、おまえほんまに」
「まぁねぇ。今日はもうええかなぁて」
「ええて、なにが」
「好きなようにやろう思うて」

黒と白のコントラストを楽しみながらひとしきりその脚を撫でると、その膝裏に手をかけてゆっくりと左脚を持ち上げる。
その拍子に大きく開かされた股の間に黒い裾が脚から滑り落ちて、まるで波打つようにゆらりとシーツの上を泳ぐ。
村上は上半身だけを起こして膝立ちの状態で、持ち上げたその左脚のふくらはぎの辺りを掴んで自分の方に引き寄せる。
自然と持ち上げられた左脚はそのまま村上の方に伸ばされて、切れ上がったスリット部分から惜しげもなく伸びた素足はまるで誰かに見せつけるかのようでもあった。
生憎と、それを鑑賞すると同時に触れることができるのはただ一人だったのだけれども。

「なんやプレゼントやと思うと、いつもとちゃう感じするな」
「そか?」
「おん。すっごく大事にしてやりたくなる」
「あほ、日頃からもっと大事にしろよ」
「これでもかとしてるやん」

自分の方に持ち上げたその白い左脚、そのふくらはぎを掴んでいた手をゆるりと移動させて今度は足の踵部分を掴み、まるで靴を履かせようとするみたいな状態で更に持ち上げる。
さすがに横になった状態でそこまで脚を持ち上げられると少し苦しいのか、横山はきゅと眉根を寄せて村上を見上げる。

「ちょ、あし、つる」
「ヨコって爪の形もええよね」
「おま、マニアやな〜。爪の形て」
「そう?爪の形くらいなら普通やろー」
「マニアの普通は普通やあらへん」
「まぁ俺はヨコマニアやけどな」
「せやからさぶいねん」
「なぁ、なに、ペディキュア?ヤス?」

踵を掌で包むようにして持ち上げた状態で眺める。
その親指と薬指にだけ塗られた赤い・・・どちらかというと赤に近い派手なピンク。
そんなものを持っているとしたらあのオシャレにうるさい小柄な後輩しか考えられない。

「そ。ヤスに塗ってもろてんけど。俺そんなん初めてやわ」
「結構似合うてるで」
「そうか?自分じゃようわからん」
「ええアクセントになってる」

うっすら笑ってそう言うと、村上はおもむろにその足に唇を寄せ、ピンクに塗られた爪にくちづける。
伏し目がちなその様がなんだか妙に恭しくて、横山は思わずこくんと唾を飲み込む。

「ちょ、ひな」
「んー・・・?」
「ちょお・・・っな、に・・・」

そのまま今度は足の指にぺろりと舌を這わされる。
生暖かくざらついた感触にぴくんと震えながら白い手が咄嗟にシーツを掴む。
それをちらりと見下ろしながら、村上はさも楽しげにその足の甲に何度も舌を這わせていく。

「ん、・・・」
「なぁ、きれいなもん、ちゃうぞ、足って・・・」
「・・・ん、ん、・・・でもヨコ、お風呂入ったやろ?」
「あー・・・ようわかったな」
「やって石けんのええ匂いするもん」

そう言ってにこりと笑う村上に少しばつ悪そうに目を逸らす。
なんだか用意周到というか、ああだこうだ言ってたくせに結局は・・・という感じがとても嫌だ。
確かに、予想していなかったわけではないし、むしろこうなるだろうということ思っていたからこそなのだが。
そしてその予想は確かに役立ったと言えるのだが。

「お風呂入って待っててくれるって、ええね」
「それ・・・すばるにな、・・・」
「ん?」
「おまえもあんまあいつのこと言えへんぞ、て言われたわ」
「ん?そうなん?どういう意味?」
「・・・めっちゃ、期待してるみたいや、て」

吐息混じりでそう呟いて、その右腕を伸ばしてくる。
村上はその持ち上げていた左脚をゆっくり降ろすと、代わりにその腕をとって再び上から覆い被さるようにしながら首に廻させてやる。
ゆるりと間近で見下ろした白い顔はうっすらと赤みを帯びてきて、村上が自然と指先で触れてみると、その柔らかな唇からちろりと覗いた赤い舌がぺろ、と幼げに舐めてきた。
ささやかで些細な感触だというのに、それは視覚から伝わる効果なのか、それとも幼げな仕草でしていることがその実ひどく淫靡だからか、村上の奥底に燻る火種をチリリと煽る。

「・・・ヨコ?」
「ん・・・」
「なんや、今日はそういう気分なん?」
「そういう気分て、なに」
「そういう、したい気分?」
「・・・ちゃうで」
「あれ、ちゃうかった?」

村上はそう言って小首を傾げながら、依然としてそのまま指を舐めさせてやっている。
舌先で緩く舐めては、また時折僅かに口に含んでみて。
まるで子猫が戯れるような仕草を見せながら、横山は一瞬じっと見上げて、それからふっと目を伏せて。
口に含んだそのしっかりした指に小さく歯を立てた。

「そういう、・・・されたい気分」

噛まれた拍子にちくんと伝わった微かな痛みは甘く胸を疼かせる。
含まれていた指をスッと離すと、村上はそのままその濡れた唇にゆっくりと、深く唇を合わせた。

「ん・・っ」
「ふ、・・・ん」
「・・・っう、ん・・はぁ・・・」

舌と舌が口内で絡まっていったん離れると、横山は吐息を交えてぱちぱちと目を瞬かせる。
それを眺めながら、無防備に投げ出されていた脚を再び掌で撫で上げ、今度は確かな先を感じさせるように触れていく。
触れていく最中何度も啄むようにくちづけると、横山の白い肌はじわじわと熱を湛えるようにして染まっていく。
その熱を逃がすみたいに一度緩くふるりと頭を振るから、その拍子に流れた金色の髪を指先に絡めるようにしながら、そのまま暖かな頬を包み込むように触れる。

「そんなん言うて。知らんで?」
「なんや・・・」
「されたい、とか言うたら。あかんよ」
「なんでや・・・」

脚を撫で上げていた方の手をするりとそのまま移動させ、黒い裾の奥で未だひっそりと息を潜めた下肢の中心に無遠慮に触れる。
さっきまでとは違う、その直接的な感覚、言わば不躾な程に奥から快感を掴んで引きずり出すようなそれに、横山はひゅっと息を飲んで咄嗟に目を見開く。

「っ、」
「やめてて言うても、止めたらんよ?」

触れた指の腹が、ゆっくり形を変えさせるみたいにやわやわと刺激してくる。
沸き上がっていく快感を、細く吐き出した息から逃がすみたいにして、白い腕が村上の肩をぎゅっと掴む。
芽吹きだした言いようもないぬるま湯のような気持ちよさ、けれどもやがて身を焦がす程の熱さを湛えるであろうそれに、語尾を濡らして震わせて。
横山はその柔らかな唇を村上のそれに押し当てた。

「・・・いわんわ、ぼけ」









挿れた瞬間、まるで儚い尾を引いて漏れる高めの声が好きだ、と村上はいつも思う。
自分の指で引っかき回されて解されて融かされた中に、更に熱を受け入れて。
普段の気の強さや素っ気ない言葉なんてそこでかき消えてしまう程に、どこか媚びたような、甘い声。
そして人形のように整った、その実本来なら感情を映しにくい白い顔が熱に浮かされたように染まって目を潤ませる様が、たとえようもなく好きだ、と村上はいつもいつも思う。

「ぁ・・・はぁ・・ッ」

右脚を持ち上げ、自分の肩に引っかけて、左手でシルク地の滑らかな感触とやはり滑らかな太股の感触を撫でては同時に感じる。
挿れた衝撃で少し苦しそうに浅く息をする様をじっと上から鑑賞するように見下ろすと、視線がぼんやりと上がって、少しだけ不満げに目を瞬かせる。

「なん、や・・・」
「ん?見とった」
「見んなよ・・・へんたい」
「何がやねん。そら見るに決まっとるやろー。挿れといて見ぃひんとか逆にありえんでしょ」
「・・・そういう目で、見んな」
「そういう目?」
「余裕、かましてんなよ、こら・・・」

更に不満げに伸びてきた手はあまり力も入っていなかったけれど、特に抵抗もせずそのままにさせてやると、緩く襟首を掴まれ引き寄せられる。
その拍子に繋がった部分が擦れるのが堪らないと思いつつ、村上はそのままキスできそうな距離で、脚を撫でていた手を離して横山の顔の横に置いた。
そしてこれでもかと甘やかすように優しく囁いてやる。

「どした?侯隆は何が不満?」

けれどそれには逆にますます不満そうに、熱を持ったままの唇を尖らせて、そこには拗ねたような表情が浮かぶ。

「見んなよ」
「それは無理やって、せやから」
「・・・集中しろよ」
「してるって」
「してへんやんけ・・・」
「してるよ。・・・っほら、なぁ?」
「・・・ッん、・・あほ、ちゃうわ・・っ」

顔を近づけたままの状態で肩に引っかけた右脚を少し折るようにして、角度を深くして腰を揺すってやる。
すると既に熱を湛えて快楽を知ったその奥は引き込むように蠢いて柔らかく包み込んでくる。
けれどそんな身体の素直な反応とは逆に、横山は違う違うと頭を振って潤んだ目で拗ねたように睨み上げてくる。
村上はそれにまたやんわりと笑うと、薄金茶の髪をさらりと指でいじり、その様を眺める。

「何がちゃうのん?」

その甘やかした調子はいつも以上だ。
そして見つめてくる瞳の優しい色もいつも以上。
けれどもだからこそ横山は自分だけが乱されていくこの状況がもどかしかった。

「なにを、すました顔してんねん・・・むかつく、このあほ・・・っ」
「そんなことないよ。めっちゃ気持ちええもん」
「ちゃ、・・・せやから、そういうん・・・ちゃうって、・・ッは、」
「んー?せやから何が不満なん?よくないん?前もちゃんと触ったるよ?」

小さく笑って奥をゆっくりと抉るように揺すりながら、覆い被さった体勢でそろりと手を下ろして、裾が捲り上げられたことで露わになっている下肢の中心にも指を絡めてやる。
そこからは既に白濁が滴っているから、それらを塗り込めるようにして小さな刺激を断続的に与える。
それはまるでさざ波のような快楽を、やがて大きな一つの波となるようにして横山を震えさせるけれども、それでもなお横山は気に入らないとばかりに顔を赤くしたままその白い手で村上の肩を何度も叩く。
既にあまり力が入っていないのでそれは痛くもかゆくもないし、村上にとってはむしろ可愛らしいくらいの仕草だ。
肩を叩かれながらも思わず手を伸ばしてやんわりと髪を撫でる。
同時に横山の奥を熱の塊でかき乱しているとは思えない程穏やかな仕草。

「ん・・・ッん、そういうん、やや・・・」
「何が嫌やの?」
「俺は、見せもんとちゃうねんぞ・・・」

いつもみたいに長い前戯で融かされて、甘ったるくて意地悪な言葉で攻められて、その熱でかき乱されて。
けれどそれは横山も口ではどう言った所で結局は望むことだし、所詮身体は正直というか、感じてしまうのだけれども。
ただ今日に限って言えば、何故か妙に見られている気がして横山はそれが妙にいたたまれなかった。
セックスをしているというよりか、まるで村上のすること一つ一つに反応して乱れる自分を鑑賞されているようで。

「・・・なぁんや、それか」

吐息混じりの拗ねた言葉に、村上はそれすらもまた楽しそうに笑って、小さく息を吐いたかと思うと唐突に強く腰を突き上げた。

「ッア・・・、はぁ・・・っ」

横山は咄嗟にその衝撃に背を反り返らせて、まるで耐えるようにぎゅっと目を瞑る。
投げ出した白い脚が小刻みに震えるけれど、それを見越したように村上の指先が確かめるように辿ってくるから更に震えてしまう。
荒くなる息と紅潮する頬を持てあましてゆっくりと瞼を開けると、それすらもじっと見つめられていて。

「せやからねぇ、さっき言うたやん。今日は好きにやるって」
「やや・・・も、ちゃんとやれよ・・・」
「やってるやん。・・・なに?酷くされたいてこと?」
「ちゃう・・・」
「ふふ、してもええねんけどなぁ。まぁ、それはまた今度ってことでね」
「あほやこいつ・・・」
「ええやん、今日は我慢せぇよ」
「なにをや・・・」

不満げに尖る赤い唇に一度触れるだけでくちづける。
村上は内心判ってへんなぁ、と苦笑しながら、その唇から、未だ脱がされてもいないぴったりとしたシルク地が覆う胸元、そして震える腰辺り、黒いシルク地の裾と先程吐き出された白濁とがまみれ、白い脚に絡みつくそこまでも辿るように指を滑らせていきながらも、その染まった白い顔を見下ろして囁く。

「見たいねんて」
「せやからなにを、」
「俺でめちゃくちゃになるお前が」

まるで予期せぬ言葉だったのか、言葉もなくただ息を飲むその様に、まだまだ純やなぁと村上はそれすら愛しく思う。

「・・・なぁ?全部見せてや」

横山がそれにうっすら唇を開いて何か言おうとする、その前に。
ぐいっと腰を掴んで引き寄せると深く強く腰を進め、何か探すように奥を抉る。

「ま・・・っひな、・・・ッン、ァ・・は、」

一際強い反応を返した一点。
村上は楽しそうに笑うと、今度はそこを狙ったように腰を進める。

「あー・・・あった、あった」
「あか、あかん・・・ッて、ぁ・あ・・・っ」

さっきとは比べものにならない刺激と快感に、横山は声を止められなくなってゆるゆると頭を振る。
それでも散らせぬ、まるで絶対的な何かに身体を、そしてそれ以外のものまでも支配される。
身体の奥で暴れる熱に攫われるように浮かされたその表情が、とろけたように甘やかで。

「ふぁ・・・ッは、・・あ・・・ひなぁ・・・」

攫われるのが怖いのか、嬉しいのか、どうなのか。
少なくともその当人である村上に縋るように手を伸ばしてくる様に、村上はその手をとって抱きしめてやりながらうっそりと笑む。

「そんな綺麗なかっこして、ねぇ?ほんでもそんなんなってまうお前がな、たまらんの」
「なん、・・なんでそんなん、言う・・・っ」
「いや?でも似合うてるよ?綺麗やもん。・・・もう、ぐっちゃぐちゃやけどね」

お互いの吐き出した熱で。
辱めるように優しく囁いてやると、横山は染まった顔を更に赤くして睨むような視線を向けてくるけれど、それがまた濡れているのだからもうどうしようもない。
そのくせぎゅっと奥が締め付けられたのなんて、どう説明をつけるつもりなのか。
村上は本当に楽しくてしょうがない。愛しくてしょうがない。
普段なら確実に怒るような物言いにすらそんな風に感じるようにしてしまったのは、自分であるのだし。

「綺麗よ、ヨコは。そういう風に、めちゃくちゃになってもな?」
「もー・・・言うなっ・・・」
「でも嬉しいやろ?」
「うるさい・・・も、見んなって・・・」
「見せろ言うたやろ。見たいねんから」
「やや・・・もう、おかしいねん・・・」
「ん?」
「へんやねん・・・」
「何が?」
「おれ、が・・・」
「ふふ、ええよ。そんでええの。ヨコはそんでも綺麗よ」
「うるさ・・・」

視線に耐えられなくなったのか、ついに力の入らない腕で顔を覆い隠してしまう。
自分の容姿に多少なりともの自信と、そしてそれ以上のコンプレックスを抱くこの美しい恋人。
そんな格好をしてまで、させてまで、こんなことをするのは酷く倒錯的だろうけれども。
だからこそ、そうでなければ見られない姿というものが確かにある。
村上はそれが見たいのだ。
まさかこんな風にそのチャンスが降って沸くとは思わなかったけれども。
本当に、誕生日とは、プレゼントとはいいものだと村上はまた笑った。

「そんなに見られんの嫌なん?しゃあないなぁ・・・」
「なにが、しゃあないねん・・・・・っ?や、・・な・・・っ?」

村上は何を思ったか、唐突に自身を引き抜いてしまう。
それに咄嗟に息を詰めて急な喪失感に震える身体に手をかける。

「ひな・・・?」
「見られんの嫌や言うから」
「な、ん・・・っ?」

既にどこもかしこも性感帯みたいに敏感になった身体は、肩に触れただけでぴくんと震える。
そんな状態で、村上はその身体をゆっくりと俯せにしてしまう。
自然と白いシーツに顔を押しつけるような形になって、横山はちらりと顔だけで後ろを振り返った。

「なんやねん・・・これ・・・」
「後ろからにしよかな、て」
「うしろ、・・・きらいや」
「わがままやなー。見られたない言うくせに後ろは嫌って」
「いやや」
「でも今日は聞いたらんよ。・・・それもさっき言うたよな?」
「・・・・・・でもいやや」

けれど既にそんな蚊の鳴くような声で。
わがまま。
でもそれは本当に本当にささやかなわがまま。
本当はわがままでもなんでもない。
だから可愛らしい。

未だ乱された息も収まらず、身体の震えさえ収まらず。
奪われた熱を恋しがるようにシーツの海で喘ぎ、身を捩る。
すると既に白に汚された黒いドレスの裾が脚に絡みつきながら更に捲れ上がり、さっきまでは未だ乱されてもいなかった上半身、その背中のファスナーが小さく緩む。
開いた肩口から覗く素肌すら既に染まっている様をまた眺め、村上はそっとそこに触れながら、同時に上から唇を寄せて吸い上げる。

「っ・・・」

白い肌に刻まれる赤。
俯せにされているせいでしがみつくこともできず、仕方なしにシーツをぎゅっと掴んで息を漏らす。
その震える背中に指を滑らせて、村上はゆっくりとゆっくりと、ファスナーを下に降ろしていく。

「あ、・・・脱ぐ?」

ちらりと顔だけで振り返り、身を起こそうとする。
村上はそれを逆の手で肩口から押さえつけながら、今度は耳朶に唇を寄せてくちづけ、同時に小さく囁く。

「ええの、脱がすんは俺の役目」

ファスナーを降ろしていくにつれ、露わになっていく真っ白く染み一つ無い背中。
それを辿るようにして唇で触れていきながら、時折舌先で舐める。
不意に混ざる濡れた生暖かい感触すらも今の乱された横山の身体には刺激となって、自然と片膝を立てて身体はずり上がるように身動いでしまう。
それを上から押さえつけながら、村上は黒いシルク地を白い肌から剥ぎ取っていく。

「折角着てくれたのにもったないけど・・・まぁ、しゃあないよな」
「俺は、はよ脱ぎたかったもん・・・」

そうは言いつつ、やはり脱がされることによって外気に晒されるのが肌寒いのか、小さく震える肩をさするように撫でる。

「けどこんだけずっと着てたら結構馴染んだんとちゃうの?」
「動きづらい」
「まぁ、そらなぁ」
「しかもスースーすんねん・・・下・・・」
「あはは、そらそうやろー。下なんてもうなんも穿いてへんのとおんなじやもんね。チャイナドレスてそういうもんやねん」
「・・・おまえは改めてへんたいやな」
「なんですの。ほんまに改まって」
「・・・もう満足したん、ほんで」
「ん?」
「脱がすって・・・そういうことやろ?」

脱がされた黒いドレスはもう白く汚れてぐしゃぐしゃで。
それをちらりと横目で見やってはいたたまれなさそうに眉根を寄せる横山の腰を、後ろから引き寄せるように抱き起こす。

「ん、・・・っなにぃ、こんどは・・・」
「ん?だっこ」
「・・・だっこて」
「はい、ここね」
「なにこれ・・・」

両腕を廻して抱えるようにして後ろから身体を抱き込む。
さっきまで黒い生地に覆われていた素肌もやはりそこは薄く染まっていて、それはさしずめ皮を剥いた果実のようだとも思う。
目の前に晒された真っ白い背中に唇で悪戯に痕を残していきながら、村上は身体を抱えたままで不意にその脚を横に開かせる。
その意図に気付いた横山は、脚を開かされたことによってひんやりとした外気に触れた下肢の中心に再び熱を感じて、身体を震わせる。

「・・・っちょ、この体勢でやるん?」
「せやから後ろからね、て言うたやん」
「満足したんちゃうの」
「あのねぇ、服ってのは最終的には脱がすためにあんの」
「どうなんそれ・・・。ちゅーか、おまえマニアやから着たまんまとかがええんかと思った・・・」
「やーでも言う程そないマニアちゃうよ。・・・お前のああいうのが見れりゃ、そんで、ええの。あとは用済みや」

そう言って横山の腰を掴み、少しだけずらしたかと思うと、それ以外には何の前触れもなく。
村上は未だ奥に熱の余韻を残したそこに、自らの熱を再び突き立てる。

「はぁ、・・・ンッ・・」

途端に濡れた声が上がり、背中が反り返る。
後ろからだと判る、綺麗に反り返った背中のライン。
さっき痕を残した白い首筋に薄金茶の髪がさらりと流れた。
断続的に、緩く、きつく、弱く、強く、追い立てるみたいに突き上げる。
するとその度鳴く声の色もトーンもまた変わって、腰を掴んだ村上の手に震える白いそれがきゅっと重ねられる。

「ヨコは背中も綺麗やなぁ」
「・・・も、見んなって、言うた・・・ァッ・・ん」
「ええやん、諦めや」

自分が見たいのだからしょうがない。
それは言わずとも横山本人が判っているだろうに、本当に照れ屋で口は素直じゃない。
突き上げる度に震えて快楽の波に攫われる身体はこんなに素直だというのに。

「も・・・っひな・・・ひな、ぁ・・・」
「ん・・・?そろそろ限界?」
「よう、わからん、・・・ッんく、なって、きた・・ぁ・・・」

村上に支えられていなければ既に自身の身体すら支えられず、膨れ上がる熱を湛えた下肢の中心からはぽたりぽたりと雫が滴り落ちるばかりで。
横山は赤く染まった目元からついには生理的な雫を一粒零しては縋り付くように、自分の腰に廻された村上の手をきゅっと握りしめる。
そこに僅かな力が込められると同時、奥が一際強く締め付けられ、村上もその身体を抱きしめながらうっすら顔を歪める。

「んっ、んー・・・もーちょい、焦らしたかったんやけどなぁ・・・」
「・・・おま、さらっと・・・っはぁ、・・・怖いこと、いうな・・・」
「やってもう、ずっとずっとしてたいもん」
「むりいうな・・・もたんわ・・・」
「そんでずっとずっと、見てたい」
「・・・・・ひな」

横山は今にも崩れ落ちそうな程に震える身体で、何とか顔だけ振り返る。
赤く染まった白い頬をして横山が見た先で、村上はじっと真っ直ぐに横山を見つめて、見つめて、見つめて・・・最後に笑った。

・・・そんなに俺のこと好きか。
横山は思わず内心そう思った。
それは言ってしまえば自分もだから、言えるはずもなかったけれど。

「お前が全部俺でいっぱいで、どうしようもなくなって、・・・そういうの、見てたいなぁって、な」
「・・・あほ」

赤い顔で少しだけ呆れたように言って、横山は握りしめた村上の手をゆるゆると持ち上げ、唇を寄せるとそうっとくちづけた。

「今日だけやないやんか。・・・今日は特別やけど、今日だけが特別なわけやないわ」

欲張りなくせして。
したければいつだってすればいい。

「・・・ほんなら、毎日特別ならええなぁ」

お前が望むならそれもいい。

横山は内心だけでそう思いながら、再びその手に抱き寄せられる感覚、そして熱が奥を一際強く深く満たす感覚に息を詰め、ぎゅっと目を閉じる。
同時に自分の熱もそのまま流されるようにして吐き出され、その余韻を身体に残したままにスッと波が引いていく。

そうして浅く息をする最中、耳元で村上の子供みたいな声がした。
その実余裕でもなんでもない熱っぽい声。
それでもやはり子供みたいな、嬉しそうな声。

「なぁ、あとで一緒にお風呂入ろな」
「なんやそれせまいわ・・・」
「ええやーん」
「んー・・・」

お前が望むならそれもいい。










END






いーやー長かったーー。
別にたいしてエロくはないと思うんだけども恥ずかしい。無駄にラブい。そして長い。
書いても書いても終わらんこの感じったら!
とりあえずチャイナね・・・村上があんまりにもアレなチャイナマニアっぷりを見せつけるもんだから一度は書いてみたかったんですが。
ううーん言う程チャイナプレイできなくて残念だわ。もっとあれやこれやと!(笑)
でも正直自分との戦いなので色々負けました。恥ずかしい。
エロはもっと冷静に描写しないとダメなんだろうな〜。ああ無理だ(即)。
ほんとはユウユウがあれこれしてくれたりする展開もあったんですがいい加減終わらんので止めました。フー。
そんでこの村上どうなの。おっさんなのかサドなのか意外と弱いのかなんか微妙な。まぁ全部ですよ。
まぁ誕生日だからいいよね(全てそれですます)。
村上さん24歳おめでとー。これからも嫁さんを世界一愛してあげてください(言われずとも)。
(2006.2.12)






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