だからキライ










「俺、おまえキライやわ」

そう言ったらめちゃめちゃ嫌そうな低いトーンの声が返ってきた。
そのくせ俺を後ろから抱き込む腕は解けない。

「・・・仮にも恋人に言う台詞ちゃいますよね、それ」

耳心地いい声はするりと身体に入り込んできては、いつのまにかどこかへ消えてしまう。
そのくせ、実はいつの間にか密やかに俺の中に息づいている。
そうして蓄積されていくこいつの色んなもの。

「ほんまイヤやねん」
「なにがなんですか」
「なんや、でっかくて」
「そんなん言われても困るし。俺のせいやないし」
「おまえ食い過ぎやねん。せやからそない無駄にでかなんねん」
「無駄ちゃうよ」

言葉尻は肌に直接伝えるみたいに、唇をうなじに押し当てられた。
その少し湿った生暖かい感触はいつになっても慣れない。
じんわり伝わる熱をそのまま逃がすみたいに小さく息を吐き出したら、それを留めるみたいに大きな掌で口を塞がれた。
息はできる程度。
けれども吐き出す吐息はそのまま自分に返ってくる。

「ん、・・・くるしいねん、こら」
「無駄ちゃうよ。なんもかんもね」

長い腕がゆるりと動くと温もりと共に、その広い胸の内に閉じこめられる。
本当に無駄にでかい。
今までこんなことされたことはなかったのに。
抱きしめたことなんて数え切れない程あっても、抱きしめられたことなんて。

「ここに横山くんがおることで、少なくとも意味はあるでしょ」

長い腕と暖かい胸のおかげで身動きが取れない。
この両手も両腕も何もかもが使えない。

「・・・おまえ、ほんまキライやわ」
「ほんまに酷い。横山くんは俺にばっか酷いねんから」
「キライ」
「俺にばっか嫌いとか言うんやから」
「・・・キライやねん」

だって何もできない。
この腕の中にいたら。
何もしなくていいと思ってしまう。
こうしてただ身を任せていればいいと。

「キライ、おおくら」
「俺は好きですよ」

ああ、本当に。
キライだ。
その長い腕が温かい胸が大きな手が。


守るためにしか使ったことのなかった自分を、初めて守ってくれたその全てが。










END






メモからの再録SS。
掛け値無しで裕さんを包んで守ることができるのって大倉だけじゃないかと思うわけです。
同じ抱擁系でもね村上さんはね、なんだかんだと裕さんに受け止めてもらってる部分が根底にあるからね。
言ったら、錦戸にしろ村上にしろすばるにしろ、なんだかんだと守ってるのは裕さんかなーと。
そういう意味で、そんな裕さんを守れるのは大倉かなーなんて思うのです(夢)。
(2006.2.5)






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