After2.我が最愛の友に捧ぐ
「ヨコ、今度のオフに釣り行こうや。シーバス」
「おーええで。最近ぜんぜん行けてへんし」
「よし。ほんなら朝5時にいつものとこな」
「んー。でも朝が辛いなぁ・・・毎度のことやけど」
「オレはぜんぜん平気やけどな」
「おまえは朝強いやん。テンションは低いけど」
「あんなもん気合や気合」
収録後の控え室。
安っぽいソファーの上で横山とすばるは久方のオフの予定を立てていた。
人によっては意外と言うが、この二人はこれで結構一緒に遊ぶことが多い。
特に共通の趣味である釣りに関してはオフ日を丸々一日潰して早朝から出掛けていくのだから、それを翌日に聞いた年下のメンバー達などは毎回驚く。
よくその二人で朝から晩まで間が保ちますね、という意味で。
確かにグループなどでいる時はこの二人はあまり喋らない。
大抵が各々他のメンバーと話しているし、二人が話すにしろほぼ確実にその間には村上がいる。
けれど別に話さないからといって仲が悪いわけではないし、気が向いた時に喋るからそれでいいとお互い思っていた。
確かに昔は気まずい時期もあったけれど今ではお互い至って普通の友達同士だ。
ただ、誰よりもずっと二人を見てきた村上などに言わせると、それは本人達の見解とは少し違う。
横山もすばるも普段周りから、特に年下のメンバー達から散々「自由すぎる」と言われるように、一般とは違う思考形態と行動様式を持っているのは周知の事実だ。
そしてそのせいもあってかつては互いに反発し合う面もあったが、今となればそれは互いにしか判らないもので繋がっている、互いにしか理解出来ない特殊な領域を持っている同志とも言えた。
・・・もちろん、そんなことを自覚する程互いの関係を深く考えるような二人ではないのだけれども。
「んー、今度のオフ日、オフ日・・・・・・あっ」
「ん?なに?どしたん?」
先程からソファーにだらりと座って携帯ゲームに夢中だった横山は、だからすばるの提案にも深く考えずに頷いて話していたらしい。
遅れること時間にして数分、今すばるが言った今度のオフ日が実際には何日であるのかという根本的な事実にようやく思い至ると、はたとした様子でがばりと起きあがった。
すばるもまた自分のブーツの紐を結んでいた体勢からつられるように身体を起こす。
「あー、あー・・・あー・・・」
「なんやねんな。さっぱりわからん」
ひたすらにしまったと言った体で唸る横山を胡乱気に見やる。
その大きな瞳をちらりと見返すと、横山は少しだけ視線を逸らしがちにさりげなく言った。
「・・・なぁ、すばるー?」
「あ?」
「今度の釣りやねんけどな?」
「ああ・・・」
ピコピコピコ・・・・・・ヒュルルルン。
手元の携帯ゲームは操作主が今思考の方にかまけて手を留守にしていたせいか、ゲームオーバーになってしまったようだ。
その電子音に一瞬気を取られたすばるに、横山は小声でぽつりと言った。
「・・・あいつも連れていかん?」
「・・・アイツて誰や」
「・・・あいつはほら、あいつやて」
「誰やねん、せやから」
「・・・せやから、あいつ、ゴリラみたいなあれや」
「ゴリラを連れてくんか」
「・・・や、ゴリラていうか、ちゃうけど似たようなもんていうか」
「原始人ならわかるけどな」
「・・・たぶんそれやわ」
「原始人を釣りに連れてくんか」
「・・・や、なんとなくていうか、な、うん」
「ヨコ」
「・・・なんや」
「先約があるならそう言えや」
「・・・・・・」
途端に無言で両手を合わせられた。
すばるは呆れたように息を吐き出す。
「別にええてそんなん。また別の日にしよ。・・・むしろ何をいまさら気にしてんねん、オマエは」
「まぁ、せやねんけどな・・・」
何だか妙にばつ悪そうに髪をがしがしとかく様を眺めながらすばるはソファーの背もたれに身体を預ける。
おおかた先に村上と約束していたのを忘れていたんだろう。
けれど今それを思い出したのなら、そうだったと言えばいいだけの話ではないのか。
そんな申し訳なさそうに、わざわざ先約などなかったかのように、村上も一緒に連れていこうだなんて。
約束の反故なんて別にこれが初めてではないし、それは自分とてそうだし、何も当日急に駄目になったというわけでもなし。
今更自分に一体何の遠慮をしているのかと、すばるは怪訝そうにその白い顔を見上げる。
「だいたいな、アイツが釣りなんて行くと思うか?あのサッカーバカが」
「まぁ、そやな・・・」
「身体動かせへんのがウズウズするわ〜とか言うて1時間も待ってられへん動物やぞアイツは」
「まぁ、なぁ・・・」
村上にしてみれば、釣りなんて何が楽しくて一日中釣り糸を垂らしてじっとしていなければならないのか、ということになる。
ただ彼は大人だったので、とても楽しそうに次の釣りについて話している横山とすばるを見たらそんなことは正直には言わなかったのだけれども。
そこら辺は付き合いの長さなのか口にはされずとも感じ取っていた二人は、結論としてあのサッカーバカには釣りなんていう心穏やかになる趣味は無理なのだ、と合意したのだった。
だからこそすばるには今更横山がそんなことを言う理由が判らなかった。
「それ以前にアイツかて行かんやろ。絶対断るて」
「んー・・・や、誘えば来るとは思うけど、な・・・」
「・・・そうか?」
「んー・・・」
「・・・ああ、そうか。おまえが誘えば来るか」
「え?」
「ん?なに、オマエが言うたんやろ。誘えば来るて」
「あ、ああ・・・おん・・・」
あっさりと肯定したすばるが不思議だったのか、横山は切れ長の瞳をぱちぱちと瞬かせている。
しかし次いであっさりと放たれた言葉に思わずぎくりとした。
「そういや今ラブラブさんやもんな。そら失礼」
「・・・・・・や、」
「そうやったそうやった。そらオレが悪かったわ。久々のオフなんてな、そら予定入ってるわな」
「・・・・・・すばる、」
「あーアカンアカン。こんなんに気づけへんからオレ未だに独り身やねんなーアカンわぁ」
矢継ぎ早なすばるの言葉に横山は何とも反応が返せず口をぱくぱくさせるだけだ。
すばるはそれがおかしくてこっそり笑ってしまった。
まさかこんなことで横山をからかえるようになる日が来るとは思わなかった。
横山と村上は昔から仲は良かったけれど、その割にはオフ日に一緒に出掛けるということがほとんどなかった。
むしろすばるが双方と遊ぶことの方が余程多かったから。
こんな展開は意外となかったことだ。
だからこそ今の現状が漸く・・・であるということにすばるは思い至って、ついからかってやりたくもなった。
村上と横山があれからどうなったかというのは直接聞いたわけではなかったけれど、明らかに二人の間の空気が変わったから気付いていた。
というか、村上が自分で思う以上に判りやすいのでメンバーは誰しも気付いていた。
それはあの村上だからあからさまに仕事に支障を来す程ではもちろんないが、正直年下のメンバーの教育上良くないから自粛しろと言おうかとすばるが思う程には、という程度ではあって。
特に錦戸に関しては詳しいことこそ知らないが、そんな二人を見ているのは正直きついのではないかと少し心配にもなった。
ただそう思って珍しく自分から声をかけようとしたすばるに、錦戸は先手を打つように「ご心配なく。もう俺やってそこまで子供やないっすよ」と不敵に笑ってみせたのだった。
それを額面通りに受け取ったわけでもないが、少なくとも自分の中で既に整理が出来ているというのならばもう口を出すことでもないのだろうと思うことにした。
そして結局のところ、そんな今までと同じようでいて意外と今までにないそんな村上の様子を見ていると、いつも誰より周りのことを考えているこそその意味を考えれば、まぁいいか、とも思う。
親友の長年の恋が実ったのだ、そのくらいは許してやってもいいだろう。
そして年下のメンバー達がどう思っているかは知らないが、殊すばるはなんだかんだと今の現状が嬉しかった。
「・・・ま、ええんとちゃう」
「・・・なに」
ふふん、と何だか偉そうに笑いながら横山を見上げるすばるの顔は至極楽しそうだった。
「ラブラブで」
「・・・ラブラブとか言うなや。きっしょい」
「せやけどそのきっしょいのはオマエらやぞ」
「せやからちゃうて。そんなんとちゃうし」
「いまさら照れんでもええて。ええやん。せやからなんでオレにわざわざ気ぃつかうんかわからん。別にそんなんええからうっとうしいことすんなよ」
確かに村上と違って横山は筋金入りの照れ屋でシャイだから、この状況にも早々堂々としてはいられないのだろうけれども。
だからと言って何も自分に気を遣うことはないのではないか。
というか、こんな下手な気の遣われ方をしても微妙過ぎる。
「だいたいなー、アイツ釣りに連れてって、そんでオマエらにいちゃつかれたらオレどないすりゃええねん」
「あほか!んなことせぇへんわ」
「アホか!アイツはするわ!」
「・・・おまえに限っては、せぇへんて、あいつは」
突然、妙に大人びた口調でそう言われてすばるはむっと眉根を寄せるしかない。
なんだかそれではまるで自分が子供みたいではないか。
「・・・なんやそれ」
「や、せやから、・・・すばる?」
「なに」
「・・・あいつな、気にしてんねん」
「なにを」
「おまえに気にさせてもーたて、気にしてんねん」
「・・・・・・なんでやねん」
「俺はようしらん。あいつとなんかあった?」
「・・・・・・別に」
「・・・そか。まぁ、詳しくは俺も聞いてへんけど。ぽろっとな、言うてたから」
横山はそれ以上は言わなかったし、特に訊こうともしなかった。
薄々は気付いているのだろうけれども。
こういう時に思う。
横山はやはり根本的な部分では大人だ。
普段は傍若無人に振る舞っているけれど、人の心の動きに敏感だし、思いやりがある。
それに小さく俯いてすばるは口を噤む。
今横山が言った、村上が気にしていることとはたぶんあの時のことだろう。
村上と横山の間にあるものをすばるが気付いて、村上を責めるように胸ぐらを掴んだあの時のこと。
自分が気付けなかったことが悔しくて、泣いたって助けを求めたっていいはずの場面ですら笑ってみせた村上が悔しくて、どうにも出来ない現状が悔しくて。
・・・けれどそれはもうとっくに昇華されたものだと思っていた。
村上はずっと長いこと苦しんできた時を経て求めていた白い手を掴んだ。
もうそれは離されることはないだろう。
それなのに、今更まだそんなことを気にしているだなんて。
何も出来なかったことを勝手に悔やんでいるだけの自分を、今更気にしているだなんて。
そして横山もまた然りだ。
いい加減人のことを考えすぎなのだ、この器用なくせに不器用な親友達は。
だから長いこと二人して苦しんできたというのに。
すばるは絞り出すように呟くしか出来なかった。
「・・・アホか、オマエら」
「なんやいきなり」
「いきなりやないわ。・・・バカップルはバカップルらしく周りなんか気にせんといちゃついときゃええねん」
「せやからバカップルちゃうわ!きっしょいこと言うなや」
「うっとうしいねんいちゃこらしよってオマエらなんぞバカップル越えてもうただのバカや!」
「関西人にバカて言うなやおまえ!うわーもうありえん鳥肌立った」
「どれ見せてみろほれほれっ」
若干気まずいような複雑な空気を無理矢理払拭するかのように。
すばるは唐突に横山をソファーに押し倒してその上にぴょんと載っかると両手で押さえつけにかかった。
「っちょ、おいすばるっ。なにすんねんこらのっかってくんなっ」
「うわーすべすべお肌ーなんやコレ可愛がってもらっとる証拠か?んー?」
「あほ!スケベオヤジみたいなこと言うてんなよ!ちゅーかめくんな!シャツを!」
「どうせどっかにキスマークとかついてんのとちゃうか?ん?どこや?どこやー?キスマークさーん?」
「あーほー!んなもんあるかー!」
「ないわけないやろヤってんねやろがおいコラ。ええから見せろ」
「ええからめくんなってほんましばくぞ!」
正直、いい歳した成人男子二人のやりとりには見えない。
けれどそれはある男からすれば白猫と黒猫の可愛いじゃれあいにしか見えないのだ。
そしてそんな、第三者からすればフィルターがかかりすぎな目を持つ世界で唯一の男が、グッドタイミングでその場に現れた。
「お待たせ〜・・・・・・・・・・・あらら?」
村上は扉を開けたところで一瞬固まったように立ち止まった。
けれどすぐさま開けっ放しはよくないとばかりにきちんと扉を閉めた。
そんな村上に、横山とすばるの視線は一点集中する。
そして二人は自分達の今の体勢はさすがにまずかっただろうかと思い、お互い離れようとした、けれども。
それよりも前に、村上はニコリとまるで擬音が出そうな勢いで満面の笑みを浮かべ、とろけるような調子で言った。
「かわええなぁ・・・。ええ目の保養になるわぁ」
やー俺幸せ。ええもん見た。
素でそんなことを呟く男に、横山とすばるは互いに顔を見合わせてむくりと起きあがる。
「・・・なんやこいつ」
「・・・なぁ、なんやコイツ。頭おかしいで」
「むしろ変態やで。ゴリラよりひどいわ」
「ヘンタイさんや。原始人にも失礼やわ」
「むしろ全人類に失礼やでこいつは」
「土下座して謝るべきやな」
「だいたい最近鍛えとるんだかなんやしらんけど、二の腕強調しすぎやねんきっしょいねん」
「せや。なんで毎日タンクトップやねん、コイツどこ調子こいてんねんうっといねん」
「その内全部脱ぐんとちゃうか変態やから」
「うーわ想像しただけできしょい」
「ええ加減ワイセツ物なんとかかんとかで捕まえたほうがええでこいつ」
「もういっそ死んだらええねん」
「ちゅーかなんで俺らそんなやつの話とかしてんねんあほや」
「ほんまやなんでこないなヤツの話とかせなあかんねんうっとうしい」
横山とすばるの気が最高潮に合うのはこういう時だ。
何故ならば殊村上に関する見解だけは120%の一致を見ているから。
放っておけば延々と続きそうな二人のやりとりに、けれど村上は依然として満面の笑みを浮かべつつ幸せそうな調子で言った。
「なんや二人して俺の話しとったん?やー、ほんならもっと急いで帰ってくればよかったわー」
年下のメンバー達が村上を尊敬するのはこういう時だ。
本当にタフな上にポジティブ過ぎる、と。
「あほや。あほやこいつ」
「都合ええとこばっか聞いてんなよ」
しかしそんな悪態も村上にとってはまさに子猫がミャアミャアと鳴いているのにも等しい。
しかも二匹揃って、ソファーに座ったまま自分を見上げて、だなんて。
それを可愛いと思いこそすれ、怒る気になどなろうはずもない。
「はいはいはい、俺も混ぜて混ぜて。はいはい、ちょお悪いけど寄ってな」
「ちょ、なんやおまえなんで入ってくんねん!」
「せまいやんけー!」
ぎゃあぎゃあと喚く二人を少しだけ両端に寄せて、村上は平然とした顔で二人の間に座る。
なんでわざわざ間に入ってくるのか判らない。
この男の思考回路が判らない。
けれど当の村上にとってみれば至極単純な話だった。
自分の可愛い二人がじゃれているのを見るのはとても楽しいけれど、そんな二人を侍らせるのはもっと楽しいのだ。
「はいはい、ほんで何?俺がどうかした?」
「おまえは根本的にどうかしとるわ」
「ほんまにいっかい病院行って手術してこい」
「なんでですの。やって気になるやん」
「気にするとこがちゃうねん」
「オマエは自分の頭のおかしさを気にしろむしろ」
「んー・・・ほんならええねんけどな」
そんな村上の口調は至って普段通りのものだったけれども。
その台詞がどちらかと言うとすばるの方に向けられていることに二人とも気付いた。
・・・せやからオマエは気にするとこがおかしいねん。
むしろオマエこそ大丈夫か。
すばるは呆れたように内心そう思いながら、少しだけ村上から距離を置いて座り直す。
「べつに。ラブラブさんらのことやから、ヨコにキスマークのひとつやふたつついてんのとちゃうかと思っただけや」
「あはは、なんやそれ。そんな話してたん?」
「ちゃうちゃう。ちゃうわ。あほ抜かせ」
村上は楽しそうに笑いながら横山の方を見て。
横山は呆れたようにしながらもやはり笑って村上を見て。
すばるもまたそんな二人を眺めながら、アホやなほんま、とそう言って笑ったけれど。
何故だかふっと小さく俯いた。
「・・・すばる?」
それに目敏く気付いたのは村上だ。
いや、横山も気付いた。
けれどすばるは俯いたまま。
「すばる・・・?」
村上はそうっとすばるの狭い肩に片腕を回すと、やんわりと自分の懐に抱き寄せた。
抵抗されるかと思ったけれどその小さな身体はされるがままで。
村上の懐の中に収まってしまうすばるを、横山もまたそっと窺うように村上の隣から覗き込んだ。
すばるは何か悲しかったわけではない。
辛かったわけでもない。
苦しくもない。
もう悔しくもない。
ただ、嬉しかっただけだ。
幸せそうな二人が。
大事な二人の、その掛け値無しに幸せそうな姿が。
嬉しくてしょうがなかっただけだ。
「すばる・・・」
村上は抱き寄せた手でポンポンと宥めるようにすばるの肩を叩く。
横山はそっと伸ばした白い手であやすようにすばるの頭を撫でる。
その手と手からだって、今の二人が幸せであることがめいっぱい伝わってくるのだ。
胸がいっぱいだった。
自分は何も出来なかったけれど。
それでも、幸せになってくれたことを、今ようやく実感できて。
すばるの薄い唇から言葉は自然とこぼれ落ちた。
「ヒナ、ヨコ、・・・よかったな」
小さな子供みたいに稚い呟き。
村上はちらっと一瞬横山を見て、それから廻した腕にぎゅっと力を込めた。
自分達のことで図らずも心を痛めさせてしまった親友。
あの時自分の胸ぐらを掴んだその小さな手が痛々しく震えていたことを知っている。
そしてその後きっと何も出来なかった自分を責めたであろうことも判っている。
この小柄な親友がその傍目に反して繊細で優しいこと、ちゃんと知っていたから。
ずっと気になっていた。
自分は、自分達は確かに今幸せだと思えるけれど、その過程で傷つけてしまった人間がいることを忘れてはならないのだ。
幸せになる過程で傷つけてしまった大事な人間と自分達はきちんと向き合わなければならない。
錦戸には横山が向き合った。
ならばすばるには自分が向き合わなければならない、そう村上はずっと考えていた。
だからこそ、その言葉が聞けたことが嬉しかった。
「ありがとなぁ、すばる。お前にそう言うてもらえることが、俺らには一番嬉しいわ」
「・・・オレはなんもしてへん」
「してへんことないよ。お前は、俺らのことずっと見ててくれたやん」
見て、それでも何も出来なかった。
何もしなかったのは、何かしたら二人が共に壊れてしまうことを知っていたから。
そんな心優しく同時に強い親友の肩は、実はこんなにも小さいのだ。
村上はその肩を強く抱きしめる。
「・・・アホやアホやと思ってたわ。オマエら二人して」
「せやな。アホやったな俺らは」
「でも、もう、ええわ。ほんなら、ええわ・・・」
「おん。もう大丈夫やで。・・・ありがとな」
そう言って強く肩を抱く村上の手が温かくて嫌になる。
恐らくは表情だけで笑って自分の頭を撫でてくる横山の手が柔らかくて嫌になる。
どこまでも優しい二人の手が嫌になる。
だからこれからはもっともっと、こっちが嫌になるほど、幸せになれ。
すばるは熱くなる目頭を抑えもせずに笑った。
END
アフター第二弾ですっ。
今回は書きたかったもう一個、すば兄のお話です。
ヒナヨコ+すばるのお話をどうしても書きたかったのです。
この三人の絆の強さが好きで堪らないのです。
ああもう三馬鹿好き!・・・という感じのお話です(笑)。
そして、この連載もこれで本当に全部完結です。
重ねてお付き合いありがとうございました。
(2005.9.9)
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