僕は本当いっしょうけんめい愛されてるね










「ほんなら俺帰りまーす」
「おう、おつかれー」
「亮ちゃんもばいばーい」
「おん、じゃあな」

身支度を終えた大倉が楽屋を出て行って、図らずも錦戸と二人きりになった。
けど俺は明日締切の連載が煮詰まっていて携帯とにらめっこ中。
たぶん向こうにいるだろう錦戸が何をしているんだかはよく判らないが、何やらごそごそと物音がする。
もうすることもないだろうし帰り支度をしているんだろう。
あー俺もはよ書いて帰りたいーでもここでやらな絶対締切ブッチしてまう。おこられる。
そう思って一文字一文字、自分の頭の中をひっくり返して何かネタが落ちてこないかと思いながらプラスチックのボタンを緩慢に打つ。

俺の意識はひたすら携帯のディスプレイに注がれる。
けれどそうしたらいきなり隣にストンと誰かが座った。
誰かていうか、まぁ、こいつしかおらんのやけど。

「・・・なに?」

ちら、と視線だけをそちらにやる。
そうしたらその黒い眼がひたすらに俺を見つめていた。
じっと、じっと、何かを期待するような、そんな熱っぽい。
元々眼力のある瞳をしているからそれは言葉なんかよりも余程雄弁にその内心を伝えてくる。

「なにぃ・・・」

だからそれだけでこいつが何を期待しているのかうっすら判ってしまった。
つい昨日までずっと向こうのグループやら舞台やらの都合で東京に行っていたせいで、会うのは久々だという前提もあったから、余計に。
こいつの期待していることなんて想像つく。
言うだろうことも。したいだろうことも。
だけど自分でそれを汲んでやって振ってやるのもめんどくさいし、恥ずかしいから向こう待ち。
それに俺は早い所連載を書かないといけないのだから。
それ以上何を言うでもするでもなく、再びディスプレイに視線を戻す。
そうしたら隣で明らかにムッとした空気を感じた。

「・・・きみくん」
「んー・・・?」

別に無視しとるわけやないねんから。
自分の思い通りにならんからってそないすぐ機嫌悪くすなよ。
相変わらず短気さんや。
そういうとこ昔から変わらんなぁ。

「んー・・・と、」

少し文章が進んで思わず意識がディスプレイの方に傾いていく。
そうしたら突然空いていた左手をぎゅっと掴まれた。
細い指、未だ大きいとは言えない手。
けれど必死なくらい強い力の込められた手。

「・・・なん?」

その手の熱さには正直ドキリとしたけれど。
どうせこいつには気付かれやしないだろうから大丈夫。
また視線だけをそちらに向けたら、きゅっと眉根を寄せて俺の手を握りしめる錦戸の必死な顔があった。

「きみくん、あんな」
「おん」
「俺な、昨日まで東京やったやんか」
「ほん」
「せやからな、最近全然会えてへんかったやんか」
「ほんほん」
「でも今日かてずっと仕事で、みんなおったし」
「せやなぁ。今日もうるさかったなぁ」
「そやねん。うるさいねん。・・・隙ないねん!」

おお。
早くも限界値か?
おまえは相変わらず我慢ができひん子やな。

「すき?」
「あんたに絡む隙がないねん!」
「そうか?」
「そうや!」
「そうでもないやろ。俺絡んだやん」
「そら仕事やん!俺を落とし込んだだけやん!」
「やって仕事中やもん。俺のお仕事やもん、それ」
「せやけど!ねぇ!きみくん!」
「なんやの・・・」

ああ、そうだ。そうだ。
今日の仕事中のアレを書こう。アレならネタになる。
ええと・・・。

「・・・ちょお何してんねん!俺が話してんねんからこっち見ろや!」
「ちょ、もう、邪魔せんといて。俺お仕事中やねん」
「今は俺だけ見ろ!」

おおー・・・。
一瞬ちょっとヒロイン気分になりました。
やってこいつ今すごいことさらっと言うたで?

「・・・おまえ、ようそんな歯の浮くようなセリフを」
「ちゃうわ!やってあんたが変なことばっかしとるから!」
「変なことて。せやからお仕事やて」
「もうええやんそんなん後にしてや」
「やって今やらんと俺絶対まにあわんもん」
「そんなんあんたがさっさとやっとかんから」
「そうやそうやどうせ俺は計画性皆無やねん。・・・せやから今やんの」

もーほっといて。
・・・なんか最後の一言はちょっとまずかったなぁと思ったけども、俺かて結構ピンチやねん。
今度遅れたらほんまに怒られてまうねん。
せやからちょっとくらい我慢せぇよ。
だけど我慢の効かないこいつはやっぱりそんなん無理で。
ぎゅー、て手を握ったまんまで。
いい加減俺の手まで熱くなってきてて。

「きみくん、きみくんっ」
「なんやー」
「手ぇ繋ぎましょ!」
「・・・はぁ?」

うーん・・・。
今度はちょっと彼氏気分になりました。
でもそんなん言ってるのは別に可愛い女の子でもなんでもなくて。
ちらっと見ればやっぱりそれは錦戸亮以外のなんでもなくて。
そんな必死な顔でそんなこと。

「手、繋ぎましょう」
「なんで・・・?」
「久々にあんたに会えたから。まずは手ぇ繋ぎたい」
「・・・・・・」

まずは、か。
ほんで、その後はキスして、抱きしめ合って、帰ったらエッチなんかな。
お約束過ぎるで錦戸亮。
そんなマニュアル男に育てた憶えはないねんけどな。
こいつ意外とベタなん好きよな。

「手、なぁ・・・」

既に握ってるやん、おまえ。
そういう意味やないことはわかってるけど。
彫りの深い顔から降ろした視線の先にある、自分の生白い手を握りしめる浅黒い手。
その熱さは心地良い。
その真っ直ぐさが好き。
そういうおまえやから、ええ。
・・・でもそんなんバカ正直に言われて頷く俺やと思うなよ。

「・・・あほか。さぶいからやめー」
「あっ、んっ、ちょ、・・・・・・なんやねん!」

携帯を置いて、その手で錦戸のほっぺをぶにっと引っ張ってやった。
突然のことに驚いて力の緩んだその手をふいっと解く。
そしたらこれまた瞬間沸騰て感じで顔を赤くして怒り出す。
おまえのその労力に感心するわ。

「別にこないなとこでそんなんせんでもええやんけ」
「なんでなんですか」
「なんでて」
「別にもうメンバーもおらんでしょ。二人きりやん」
「おらんくてもやや」
「なんでややねん!」
「男同士でさぶいもん」
「恋人同士で手ぇ繋ぐんのどこがさぶいねん!」
「・・・ちょお、おまえ、なぁ」

今日は一段と食い下がってくるな。
いつもなら俺がめんどくさがったりするとそこそこで引き下がるのに。
俺が機嫌悪くすんのが嫌やから。
最後にエッチさせてくれんくなるんが嫌やから。
俺のご機嫌伺いよるねん。
俺でいっぱいやねん。
どんだけ俺のこと好きやねん、亮ちゃん。
可愛いやつ。
せやけど今日は全然引き下がらん。
可愛くないなー。

「ちょっとは我慢できひんの?」
「あんだけしたのにまだせなあかんのか」
「あんだけて」
「俺がどんだけ我慢したと思ってんねん」
「東京?」
「ええ加減あんたで抜くんも飽きてんねんで!」
「・・・おまえはさいあくやな」
「俺かて最悪やったわ!」
「・・・せやからって手とかええやん、べつに」
「ようない!・・・きみくん、手。手っ」

なんかお菓子を欲しがる子供みたいに手を伸ばしてくる。
・・・やっぱ可愛いかもしれへん。
あの天下の錦戸亮がこない手ぇ繋ぐことに必死になってるなんてな。
俺くらいなんかな。
もう、どないしよな。

「えー・・・もう、亮ちゃん怖いわぁ」
「どこがどう怖いんですか!手ぇ繋がせて言うてるだけやのに」
「んー・・・」
「・・・・・・そない嫌やったら、」

あんまり俺が渋ってみせるから、錦戸は口をへの字にひん曲げて、手を引っ込めた。
お、諦めたんか。
でもそれをちょっとつまらんとか思ってしまう俺は、ほんま捻くれとるなと自分に呆れる。
でも急にずいっと迫ってきた彫りの深い顔にはそれ以上に呆れた。

「やったらキス」
「・・・凄まじいランクアップやんけ」
「手ぇ繋ぐんが嫌ならキス」
「これで手ぇ繋ぐん嫌やのにキスはええとか言うたら俺がおかしいやん、それ」
「あんたがおかしいのなんて今更ですよ。キス。キス!するで!」
「意気込むなよちょっともう顔近いしおまえ顔濃いし」
「俺の顔好きやて言うたやん。男前やて言うたやん!」
「そら言うたけど近いし・・・」

そない近づけられると色々困るからやめて。
身体を引こうにも椅子座ってるし。
椅子が重いから後ろにも下がれへんし。
ちょっとこれいややわ俺奪われてまうやんか。
とか思ってたらこいつはこいつでキリッと眉をつり上げて、右手を俺の顎に軽く添えたりなんかして、勝手にムード作り始めるし。

「侯隆・・・」
「ちょ、まてよおまえちょっ、本名呼ぶな男前モード作んな!」
「んぐっ、ちょ、なんでー!」

思いっきり顔を押し返してやったら途端に男前モードが解除されてしまった情けない声。
でもそういう方がおまえっぽくてええわ。
変に作るからいややねんこいつ。
かっこええけど、確かに。
せやからいや。

「いやや」
「なにが嫌やねんせやから!」
「そういうん、いや」
「そっ・・・な、・・・・・・」

あ。
あかん。
言い過ぎた。
ちゅーかまちがえた。

「なんで、・・・いややとか。俺は、おれ・・・・・・」

うあー。
めっちゃしょんぼりしとる。
でもちゃうねんぞ。
おまえ勘違いすなよ。

そういう変に気合い入れて、かっこつけて作って、なんかめっちゃ俺のこと好きって感じ思いっきり出して、俺がそういうんあかんて知ってるくせに気付いてへんくて、俺の逃げ道無意識に塞ごうとするんがちょっといや。
・・・ていうのがおもいっきり省略されてもた。
そんだけやねんほんま。

でも、そんだけでも。
こいつには大事なんやろなぁ。

「あんたが好きなだけやねん。あかんのか・・・」

そっとため息をついた。
それを呆れられたと勘違いしたのか、彫りの深い顔が歪んで眉根がぎゅっと寄る。
これが昔の亮ちゃんやったらきっともう泣いてるなぁ。
もう今ならそんなことはないだろうけれども。

「俺が嫌なんか。あんたは俺が嫌なんか。俺はあんたが好きやのに」

こんなにも愛を真っ直ぐにぶつける奴だっただろうか。
照れ屋で恥ずかしがり屋さんやったのに。
なんでそんなんなってもーたん?
・・・俺のせい?

「俺は向こう行ってる間もずっとずっとあんたのことばっか考えてた」

俺なんぞ好きになるから。
どれだけ押しても、押せば押す程引いてまうようなどうしようもない俺なんぞを好きになるから。
おまえはそうやって苦労すんの。
ほんまはそんなん恥ずかしいくせに。
そこまでせぇへんとあかんくらいの奴を好きになるから。

「あんたがなんと言おうと、あんたやないとあかん」

それでもこんな奴がええんか、おまえ。

好きになればなる程怖くなる、なんて。
少女漫画か。
錦戸のこと言えへんわ自分。
ほんまどうしようもないアホやと思うわ。
おまえ見てるとな。

真実程怖いものはないから、嘘ばっかで塗り固めてたのに。
おまえ見てるとバカバカしくなってくる。
嘘なんて損するだけで、なんもおもろいことないな。

「・・・・・・うそやけど」

だから、なんとなく。
ぽつんと呟く。
寄っていた眉根が解かれてきょとんとした表情が返ってきた。

「うそ・・・?」
「うそやねん」
「なにが嘘?」
「全部うそ」
「なに?」
「いややない」
「・・・うそ」
「せやからうそやねん」
「どっからどこまでが!」
「ぜんぶ」

全部、嘘。
俺がおまえのこと好きなん以外は、全部。

「・・・手、繋ぐで」
「ええよ」
「キス、するで」
「おん」
「抱きしめたい」
「おー、さらにランクアップやな」

ちょっとだけ窺いがちな声が面白くて、思わず笑ったら。
手が再び触れてきて、指と指が絡んで、同時にその顔が迫ってきて、キスされて。
その生暖かい感触に思わず目を細めて繋がれた手に力がこもったら。
その拍子に逆の腕までもがぎゅっと俺の身体に廻ってきて。
耳元で囁かれた。
ひどく余裕のない、熱っぽい声。

「・・・エッチもしたい」

おまえはほんまに俺のこと好きやな。
ふっと笑って頷いたら。
笑んだ気配と共に幸せそうな両腕が強く抱き竦めてきた。


「あんた、・・・そない焦らして、ほんまはめっちゃ俺のこと好きやろ」


あほ。
おまえには負けるわ。









END






ラブ亮横。
そして乙女攻め錦戸。・・・乙女攻めというか単なるアホの子のような気も(シーン)。
最初はこのお題は違うカプで書こうとしていたんですが、「亮横にしなよ面白いから」と言われてあっさり亮横にしてみたらほんとに面白かった(笑)。
いやー最近の錦戸のウザ彼女っぷりを見るになかなかハマってますよコレ。
ラビューラビューほんとに亮横に聞こえてくる!すごいわ!
とりあえずコレは亮横だと思って歌詞を見ると本気で面白いので是非見ていただきたい。
(ラビューラビューの歌詞→ttp://www.utamap.com/showkasi.php?surl=A00794)
そんな錦戸どうよ・・・・・・(笑)。
(2006.3.3)






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