泣かないで










あの人が泣いているのを初めて見た日のこと。
俺はきっとずっと忘れない。

「よこやまくん・・・?」
「・・・おう」
「あの、・・・どっか、痛いんですか?」
「・・・なんや亮、頭撫でてくれんのか?」
「・・・やって、泣いてる」
「痛くて泣いてるわけやないで」
「でも、泣いてる・・・」
「優しいなぁ、亮は」
「・・・ふつうです」
「普通か。でも俺の頭撫でてくれたのなんて、お前で二人目やで。
・・・あ、おかん入れたら三人めか」
「ふぅん・・・」
「亮の手はちっちゃいなぁ」
「これからおっきなんねん」
「せやな。これからやんなぁ・・・」
「・・・よこやまくん」
「亮の手は、優しいなぁ・・・」
「泣かんでください」
「そない優しくされたら、好きになってまうわ・・・」
「・・・・・・」


うそや。うそつき。


なんて嘘つきな人。
もしもそれが本当だったなら、俺はいくらでも優しくしたのに。
いくらでも優しくしてあげられたのに。
あんたが望むだけの全てを捧げたのに。


嘘つき。


あの頃の幼い俺だって知っていた。
あの人の頭を撫でた二人目が、あの人を初めて泣かせた人。
それでもあの人が離れられない人。










END






メモからの再録SS。
幼い亮ちゃんの辛い恋のはじまりですよ(酷いな)。
そして例のあの人は当然あの人ですよ。
「この手で、キミを攫う」の設定な感じ。
(2006.2.5)






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