繋ぐものは愛でなくけれど限りなく愛に似た何か










包帯とは確か傷を覆って治癒させるための物ではなかったか。
横山はぎゅっと眉根を寄せてそんなことを思った。

白い布の柔らかな感触は確かに本来ならば傷を負った部分を治癒するまで覆ってくれる代物だが、今それは単なる戒めでしかなかった。
横山のこれまた白い両手首を後ろ手に縛り、きつく固定して。
身を捩ろうが到底解けぬそれは横山の動きを完全に封じてはただ不安を煽るだけの代物になっていた。
柔らかな布のそれはロープや縄と違ってさしたる痛みこそないが、本来の用途とはかけ離れたそれだからこそ、逆に余計に横山を追い詰める。

「はぁ・・・っ」

横山は大きく息を吐き出すと、ぶるっと身体を震わせた。
それは何も戒められた身体故にだけではなく。
後ろで戒められた腕に申し訳程度で絡みつく白いシャツだけで、後は何も身に纏わぬ状態で無防備な素足を開かされているからだ。
その下肢は今惜しげもなく晒され、その白い太股は既に白濁にまみれて汚され、それでもなお許されず腰の上に跨らされていた。
さっきから何度となく熱の解放を強いられて消耗した下肢は小さく震えているけれども、それでも自分の両膝で自身の身体を支えなければならない。
そうでないと下にある身体に凭れかからねばならないからだ。
それは嫌だった。
もう既に先程まるで凶器のような熱に身を犯されていたけれども、だからこそ。

既に閉じられないであろう艶やかな唇を緩く開いたまま何度も浅く息をして、伏し目がちに睫を震わせて。
唇の端からは抗いきれない快感故に堪えきれずに零れた雫が顎を伝うけれども、柔らかい感触によって戒められた両腕ではそれすらも最早自身ではどうにもできない。
ただその白い美貌を儚く歪ませるだけの様に、それを下からじっと観察するように見上げていた顔は楽しげに笑い、そっと手を伸ばした。

「ヨコ、ええ顔しとるわ」

しっかりとした指先がその赤い唇に触れ、辿るように雫を拭ってやる。
その感触に小さく戦く身体は緩く身を捩るけれども逃げられるはずもない。
今更だと判っている。
判っているけれども後ろ手に縛られた手首をそれでも動かす。
けれどもやはりぴくりとも動かないそれに、横山は内心「このバカ力」と罵った。
単なる薄い布きれでしかないこんなものがその強い力でもって自分を縛り上げた瞬間を思い出しては、また顔を歪める。

「・・・手、痛い?」

村上の手が唇から顎を辿り、そして首筋を流れるように滑ったかと思うと、そのまま胸から腹、更には下肢の方まで撫でるように移動する。
白い身体を濡らして汚すその液体を辿り合わせるようにして。
未だ半分勃ち上がった中心に触れるとびくんと震えるのに気をよくしたように笑い、先端から滲んだ白濁を指の腹で塗り込めるようにして緩い愛撫を施す。
それに薄金茶の髪をさらりと揺らし緩く頭を振って、横山は堪えるようにぎゅっと目を閉じる。

「っ、あ、・・・」
「俺なぁ、お前の身体ほんまに好きやねん」

横山のもので濡れた手で、それは愛しそうに震える太股を撫で回す。
随分と柔らかく白いそれは肌だけとれば男のものとは思えない。

「あんま傷つけたりとかしたないねん。せやからな、それ、ええやろ?」

そう言って人懐こく笑いかける視線の先にあるのは、横山の後ろ手を縛り上げながら少し余って垂れる包帯の裾。
白く布きれはただ柔らかく優しく、横山の柔肌を傷つけることなく痛みもなくその身体を戒める。

「それならお前も痛ないやろ?」

お前痛いのはあかんし。
まるでこの行為を肯定するみたいな優しげな物言い。
けれども横山は微かに雫に煙った瞼を緩く瞬かせると、吐息混じりで途切れ途切れに呟く。

「ほど、け・・・」
「ん?」
「ほどけ、いうてるやろ・・・おまえ、ええかげんに・・・っ」
「あれ。・・・あかんかった?」
「ヒナっ・・・」

弱いながら切羽詰まったようなその声に、村上は小さく考えるような仕草を見せた。
まるで熱を籠もらせたみたいに薄く染まった白い肌が震える様はまるで誘うようでもある。
村上は不意に片手を伸ばして横山の腰を掴むと、そこにぐっと力を込めて無言で一気に身体を引き寄せる。

「ぁ、ま・・・っ」

その意図に気付いたのか、横山は咄嗟にひゅっと息を飲んで引け腰になる。
けれどそれを許さず村上はその身体を自分の元まで堕とすみたいにして、既に十分に融けきったそこに自身の熱を再び宛がう。
強引な力に抗いきれず横山の身体はカクンと崩れ落ちるようにしてそのしっかりとした両腕に抱き留められ、同時に強い衝撃と共に熱で貫かれて灼かれるような感覚に襲われた。

「・・・っあ、・・ん、くっ・・・」
「こんなに気持ちええのに・・・なぁ」
「そういう、問題や、・・・っない、・・・ぁ、ゆらすな・・っ」

自由の利かない両手では抵抗もできなければしがみつくことすらできない。
ただ緩く弱く頭を振って、自分の奥で蠢く大きな熱がもたらす快感を散らそうと横山は必死だった。
そうして戦慄く柔らかな唇をゆっくりと舐め上げながら、村上は掴んだ腰を緩く揺さぶって奥を探るように抉る。

「なんで?こうされんの好きやん」
「ちゃ、・・ふぁ・・・あっ、ん・・・う・・・」
「奥まで来る感じがええねやろ?浅いのより、深くていっぱいで強いんが、な?」
「あ、あ・・−っ・・・」

一際高い嬌声が儚く尾を引いて室内に濡れて響く。
村上が奥へ奥へと伝える強い衝撃と快感に震える身体は、さっき自身をなんとか支えていた力すらも既に奪われて、まるで大きな波に攫われるが如くされるがままだった。
それでも縛り上げられた手首は弱々しく解放を求めて動かされるのだけれども、柔らかな布の感触は無情にもそれを許してはくれない。
自分の元に堕ちたその身体を両腕で掻き抱くようにしながら、村上はその弱々しい手首の動きとそれを阻む白い布をじっと見つめる。
そして笑う。
突き上げればその度高く甘い声を漏らしながら震え、そのくせぎゅうぎゅうと自分を締め付けてくるその中を更にかき乱してやるように揺さぶりながら。

「うわ、きっつ・・・めっちゃええけど・・・」
「っあほ、か、おれのがもっと・・・っ」
「ん?もっと?・・・もっと気持ちええ?」
「ぁ・・・っう、も・・・あ・・・」

反論すらままならない程に強くかき乱されて、更には腰を掴まれたのとは逆の手でぴんと張りつめた胸の尖りを悪戯に摘まれる。
かと思えばやんわりと宥めるように唇を舐められて、あらゆる場所を感じさせてやるとばかりに触れられる。
既に何度目かの交わりで意識はあやふやになりつつあるのに何故か感覚だけは妙に冴えていて、村上と繋がった部分の濡れて擦れる音が否が応でも耳に響いて堪らない。

気持ちいい。
確かに気持ちいい。
それを否定はしない。
自分だって望んでいる。
けれども横山はだからこそもどかしかった。
柔らかく優しい戒めが、もどかして堪らなかった。

「ほどけ、・・・ぅあ、・・・ほどけってっ・・・」
「・・・これ、嫌?」

息も絶え絶えにただ手首を動かしてうわごとのように呟く様に、村上は目を細めてそっと囁く。
それに必死にこくこくと頷いては自分の肩口に顔を埋めてくるのがなんだか可愛らしい。

何も最初はこんなことをするつもりはなかった。
ただ普通に、普通の恋人のように抱き合っていただけなのに。
どうしてこんなことをしてしまったのか。
村上はそれを思い出しながらもゆるゆると、白く柔らかなそれに戒められた手首を撫でる。
その感触がまた優しいからこそ、横山は言いようもなく苦しい気持ちになって声を絞り出す。

「いや、やっ・・・」

それはそうだろう。
嫌だろう。
村上にとて判っている。
そんなことは十分に。
そもそもが横山には普段ネタにして言う程にはマゾっ気なんてものはない。
縛られて、傷つけられて、痛みを憶えて、それで感じる、なんていう性癖はほとんど持っていない。
むしろ大事に大事に甘やかされて優しくされるのを望むタイプだ。
そんなことは十分判っているのにこんなことをしてしまう自分は、もしかしたら少しサドっ気があるのかもしれない。
でも問題はそんなことではないのだ。

「・・・でもなぁ、そうでもせんと、あかんやん」
「ん、・・え・・・?」
「あかんねん、ヨコ」

その小さな呟きに、横山は何とか顔をそちらに向けて訝しげに見つめる。
村上はその拍子に熟れた唇にふっと口づけて、同時に一際強く奥を突き上げた。
急なそれに一気に膨れ上がった横山の熱はそのまま呆気なく、何度目かの熱を滴らせてしまう。

「ん、ぁ・・・あっ」
「まだ出るなぁ?」

小さく笑う村上の腹の上にぱたぱたと白濁が吐き出される。
それに顔を紅潮させながら横山は荒い息すらも押し殺そうと身体を強ばらせるから、余計に身体は震えてしまう。
こんな望みたくもない形でもたらされる快感でもそれはやはり快感には変わりなく、横山を内側から灼くように蝕むのだ。
無駄だと判っていてもそれでもなおゆるゆると抵抗するように動かされる手首は、白い包帯の下でじわじわと熱を持っていく。
そこにそっと掌で触れ、村上は閉じることすらままならないその赤い唇にもう一度口づけた。

「・・・俺も出してええ?」
「も、ふざけんな、なんもいうな、こんなんで、おまえ、・・・っ」
「なぁ、ヨコん中出したい」
「ほどけ・・・」
「ヨコ・・・好きやで?」
「・・・っ、おま、さいてい、やなっ・・・」

最後は泣きそうに震えていた。
無理矢理でもセックスはセックスだし。
縛られていても気持ちいいことは気持ちいいし。
どんな状況だろうと愛の言葉は嬉しいのだ。
横山はどうしようもない気持ちになるけれど。
自分の中にある熱が確かに自分で昂ぶっているのを感じているから、それが本物だと判っているから、最後なんて結局同じなのだ。

「・・・おれも、」

すき。

震える柔らかな唇が象り、吐息混じりで漏らした二文字。
村上は一瞬唇の端を上げて、いつもの可愛らしいという形容は当てはまらない、そんな笑みを浮かべた。

「かわええなぁ、ヨコ・・・っ」
「ぁ、あ・・んっ・・・」

そうして横山の融けた奥へと吐き出された熱は身勝手なくせに何処か優しく身体を満たす。
手首は未だ柔らかく優しく縛り上げられたまま。
その優しいくせに実は一切の抵抗を許さぬ戒めは、まるで村上自身のようだと横山は朦朧とした意識の中で思う。

「はぁ、はぁ・・・」

荒く息をする横山の身体をそのまま掻き抱いて、村上はうっそりと呟く。
何処か熱の籠もったその声。

「お前はどうやったら俺のもんになるんかな・・・」

横山は咄嗟にその表情を覗き込もうと、なんとか顔をそちらに向けた。
そこには少しだけぼんやりと顔を赤くした、それでもなお穏やかな表情がある。
冗談で言うにはあまりな台詞をそんな平然と。

「なに、言うてんねん・・・おまえ・・・」

今更何を、と。
横山はそう続けたかったのに続けられなかった。
村上がそれを本気で言っていると感じたから。
けれどだからこそ余計に信じられなかった。

誰のものだのなんだのと、その実くだらない言い回しなのかもしれないけれど。
言ってしまえば、自分は既に村上のもので。
それを村上は正しく理解していたのではなかったか。
だからこそこんな行為は成り立つのではないのか。

何とも言えないもどかしい感覚に何度目かで戒められた手首を動かすけれど、力の入らない状態ではますます無理だった。
ただそこは長い時間のせいで熱を持ち、僅かに痛み始めていた。

「俺、欲張りなんかな?」

そんなことを言って小首を傾げて笑う様はなんだか愛らしい。
けれどもだからこそ不釣り合いな台詞で、横山はぎゅっと眉根を寄せると潤んだ瞳で睨め付けるようにその顔を見つめた。

「おまえ、なに言うてんの・・・?」
「ん?何が?」
「なに、なに・・・?おまえ、なんなん・・・」
「なんやろねぇ」

さっきまで弱っていた切れ長の瞳が潤みながらもうっすらと力を取り戻すかのように煌めく様に目を細め、村上は戦慄く唇にゆるゆると指先で触れる。
どこもかしこも容易く触れるだけの場所までとうに来ているのに、何故かまだ届かない気がしてこんなことをしてしまう。

「俺な、お前の身体好きやねん、ほんまに」

唇に触れた手がさっきと同じように、再び白い身体を辿るように触れていく。
未だ余韻で敏感な身体は触れられる度に震え、その様がまた愛しくて村上はゆるりと腰を抱いて引き寄せる。

「せやから傷とかつけたないねん。・・・綺麗なまんまで」
「はぁ・・・ヒナ、おまえ、おかしい・・・」
「ああ、おかしいかもなぁ。綺麗なまんま、・・・まんま、縛っときたい」

傷つけたくない。
大事にしたい。
綺麗な綺麗な白いその肌に傷一つつけずに大事にしたい。
そのくらい愛しいから、愛しすぎるから。

何人たりとも入り込める隙もないくらい、自分だけのものにしておきたい。

柔らかく優しい束縛は、まるで村上自身で。
それはつまり果て無き独占欲だ。

「ずっとな、縛っときたいわ」

横山の躊躇いや戸惑いすらも何もかも全て。
それすらも愛しいと思える全てを。
この腕の中で大事に大事に守っていく、そのために。

けれど実際にはそんなことは無理で。
だからこそ村上はたまにふと思ってしまうのだ。

「全部俺のもんになったらええのに」

傷つけずに綺麗なまま自分に縛り付けておきたい。
自分だけのものにしておきたい。
けれど村上は気付いていないのかもしれない。
気付いた上でそれでもしてしまうのかもしれない。
そんなことをそんな風に言って優しく縛り付けるそれこそが、横山を傷つけること。
その白い両手が戒められたままぴくんと動く。

「おまえ、・・・おれは、どうすりゃええねん、そんなん・・・」
「せやね。どうもできんよな、そんなん」
「・・・これ、ほどけ」

抑え込んだ声は迸るような何かすらも同時に抑え込んでいるようで。
すっかり萎えたように大人しくなってしまったその下肢の中心をちらっと見やって、落ち着いてきた息の様子を見て、村上はふっと笑うとこくんと頷いた。
小さく表情に影を落として。

「ん、せやな・・・」

自分の方に白い身体を凭れかからせながら、両手をその戒められた手首に回す。
きつく縛った包帯の結び目を器用に指で解きはじめた。
その感触を感じながら、横山は肩に顔を埋め、けれどふと思い立ったように顔を上げてはそこにある耳朶を小さく噛んでやった。

「っん、ちょお噛まんといて。またその気になるやん」
「ふざけんな絶倫。これ以上やったら死ぬ・・・」
「やったらむやみに煽らんといて。・・・今解いたるから」
「・・・一発なぐらせろ」

そう言って今度は肩に歯を立てられた。
せやから煽らんといてって言うてるのに・・・村上は表情だけで苦笑しながら、小さく頷く。

「・・・ん、あんま痛くせんでな」
「あほか。痛くせんかったら意味ないやろが」
「怖いなー・・・」

別に衝動的なものでも、おかしくなったわけでもない。
我を失っていたわけでもない。
それはただ村上の中にゆったりと鎮座する目を逸らせない確かな感情だ。
いっそ狂ってしまっていたのならばよかったのに。
生憎と村上の強固な理性はそれを許さず、ただじりじりと身の内から強すぎる欲をたまに覗かせるだけ。
我ながらどうしようもないと思いながら村上がようやく結び目を解くと、その白く柔らかな戒めの下から現れた白い手首は真っ赤になってしまっていた。
恐らく何度も解こうとしたからだろう。
確かに白い布自体に傷つける要素はなかったが、それに抗おうとした横山の行動でそれは傷つけられたのだ。
本来ならば傷を覆い癒すための代物のその下で傷いたもの。
なんとも皮肉なものだ。
思わず村上がハッとしてその手首に触れようとすると、その前にそれはふらふらと宙を泳ぎ、村上の首筋にするりと収まるように絡んだ。

「・・・・・・・よこ?」

反射的に抱き留めるようにして身体に手を廻す。
横山は耳元で大きく息を吐き出しながら熱っぽく呟いた。

「はぁ・・・いてぇ・・・」
「・・・大丈夫か?・・・よこ?」

くったりと、けれどそれでも自分にしっかりとしがみつくように凭れかかる身体。
なんとなく背中をそうっと撫でてみると、少しだけ安心したように身動いで、横山はぽつりと呟いた。

「なに・・・もう、あんましゃべらせんな・・・。ほんまは結構痛いねんぞ・・・」
「どこ?どこ痛い?」
「どこもかしこも・・・」

お前がそんなことをするから。
そんなことを言ってそんなことをするから。
本当は痛かった。

村上は少しだけ身体を離すとそっとその白い手をとって手首をさすってやる。
傷つけないように、そのためにその柔らかな優しい感触で縛り上げたのだけれども。
結局それはままならなかった。
布自体はどれだけ優しくても、横山本人が抵抗したからだ。
解いて欲しいと抗ったから。
その過程で白いその手首は熱を持って赤く傷ついた。
それを見て村上はふっとため息をついて、そこに小さく唇を寄せた。
自分のしたことながら、せめて少しでも癒すように。
触れた唇に感じた確かな熱に村上は自然と呟いていた。

「なぁ、殴らんでええの?」
「なぐられたいんかおまえ。サドのくせに」
「や、お前が殴らせろ言うたんやんか」

横山の腕が再び村上の首に絡み、強く廻される。
しがみつくように、同時に抱きしめるように。
潤んだ瞳をぎゅっと閉じて。
そこに雫を滲ませて。

「・・・後でええわ、もう」
「後で・・・?」
「今は、もう、ええ・・・」

その声が微睡んだような、濡れたような、安堵したような、けれど微かに泣きそうな。
そんな頼りなさを感じて村上はその肩と背中をさすりながら抱き返した。

「・・・・・・ごめんなぁ」

何を謝ったのか自分でもよく判らなかった。
案の定抱きしめた白い身体が身動いで、片手で肩を叩かれる。

「あやまんな。今あやまんな。・・・後でなぐれんくなるやろ」
「ん・・・せやな。後でな」

横山にも判っている。
今の村上の謝罪が、傷つけるつもりなしに傷つけてしまったこと、横山が結局自分を許したからこそのものであること。
自らの行動、台詞に対するものではない。
だからきっと、村上はまたするだろう。

とうに自分のものになっている横山にそれでも飽くなき独占欲を抱く村上は気付いていない。
もしかしたら知らないのかもしれない。
もしかしたら知った上でそれでも・・・なのかもしれない。
想い合うということは双方向の代物で、時に綺麗ではないし傷つくこともあって当然で。
そうやって身動き一つとれぬ程に縛り付けてしまったら、相手からの愛だって受け取れないというのに。

「・・・ヨコ」
「ん・・・?」
「包帯は、あんまようなかったなぁ」
「・・・・・・せやな」

そんな風に再び人懐こく笑って口づけられて。
横山は思う。

どんなに優しく柔らかなものだって人を傷つけることは十分にできるのだ。
そこに熱を湛え、赤く腫らし、やがては血を流す程に。
その笑顔すらも実は凶器になる。
村上がどこまでも縛り付けたいとそう思っている以上。

「さすがに眠なってきたな。ヨコ抱っこして寝よかな」

冗談交じりでそんなことを言う村上は、愛することばかりで愛されることを半ば拒絶している。

「もうええわ、・・・はよ寝ろ」

彼は知らないだろう。
それこそが何より横山を傷つけていること。
既に心は血を流す程に傷つけられていること。

けれど横山はもうそれでもよかった。

「寝ろ・・・」

本当は僅かにもつけたくないと村上が思っているその傷こそがたぶん、本当に自分と村上を片時も離さず繋ぐものなのだと判ったから。










END






痛っ!
ナニコレめっちゃ痛ー。
久しぶりに裏もん書いたかと思ったこれですよ。あーあ。
実は一応44444ヒット(信五番)を踏んだ身内のじゃばっこに捧げるために書き始めたやつだったりしたんですが、途中から精神世界に突入してしまったのでそういう意味では不発です。
いや話としては書きたかったんだけども。
でもリクは雛横エロでサド村上だったのでリクに全然沿ってません。サドっぷり全然足りないよ!じゃばごめ!
まぁそこら辺はいずれリベンジってことで。ほんとエロ難しいわー。
とりあえず半ば壊れ気味な村上さんでしたよと。壊れてるわけではないが。
雛横の裏側。
(2006.1.13)






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