アイツって絶対アレやで、ベタベタなこと好きやで。
おまえこの前の俺らのラジオ聴いたか?
アイツのあの昔のさっぶい発言の数々!
平気で漫画のヒーローみたいなことしよんねん。
どのツラ下げてやっとんねんっちゅう話やんな。
もうアレやな、あわよくばモテモテっちゅうのが丸見えでほんまキモイよな。
ほんまおまえも一回アイツの話聞いてみ?うっといから。
もー絶対判るわ。絶対判る。
アイツのしそうなことなんて軽く想像つくわ。
アレやできっと。
アイツなぁ。

もしもそこに、自分じゃ何もできへん子犬が転がっとったら。
絶対拾って帰んねん。

別にそれが悪いとは言わへんけどな。
アイツちょお偽善者気味やからな。
その後もずっと面倒見続けたりすんねん。
そんでそれを草葉の陰からヒロインの女の子が見てんねん。
ほんま漫画の登場人物かっちゅーねん。
しかも少女漫画のヒーロー。

・・・なに?俺の思考の方がよっぽど少女漫画?
アホふざけんな。
俺はアイツの行動を客観的に言うてるだけやで。
絶対そうやって!
アイツなぁ。

目の前におる可哀相な奴を、放っておけへんねん。
そんで、拾ったらもう二度と捨てられへんの。










この手で、キミを攫う










「横山くん、帰りましょ」

撮影終わりの楽屋。
着替えもそこそこにぐだぐだとソファーに寝そべっては漫画を読んでいる横山くんに近づいて。
上から見下ろすようにそれだけ言った。
返ってきた言葉は予想通り素っ頓狂な代物。

「は?なんで」
「なんでて。もうやることないでしょ」
「なんやおまえ。俺が暇人て言いたいんか」
「んなこと言うてないし。・・・帰んのか帰らんのか、どっちなんです」
「うわこわっ!おまえすぐ睨むなや!このヤクザ!
いややわぁ〜、俺の可愛い亮ちゃんは一体どこへ行ってしもたんや・・・」

この人との会話は、とりあえず疲れる。
というか進まない。

「ええから。どないすんねん」
「何かおごれよ」
「は?」
「何か。おごるんなら一緒に帰ったる」
「・・・後輩からたかるんすか」
「なんや、一緒に帰りたないんか。この横山裕サマと」
「・・・マクドでええですか」
「モスがええ」
「わかった。じゃ、行きますよ」
「うーい」

何とかかんとか話をつけた。
けれどすっかり帰り支度を終えてすぐにでも出られる俺と違って、この人はまだくつろいたそのままの格好。
それでも相変わらず急ぐでもなく。
帰り支度のつもりなのか、そこら辺に散らかしてある漫画をかばんに適当に放り込む、その白すぎる腕。
さして細いというわけではないけれど、妙に柔らかそうで・・・実際柔らかく、丸みを帯びたそのライン。
腕だけ見ていれば女とすら錯覚できる。
・・・正直、こんな女がいたら自分は決して近寄らないだろうけども。

そんなことをぼんやりと考えつつ、その緩慢な、進んでいるんだかいないんだか判らない帰り支度を待つ。
「この漫画傑作やで!」なんて言いながら、あんまり大事には扱ってはいないようで。
その傑作本たちは、がさがさと容赦なく音を立てては次々とかばんの中に放り込まれていくようだった。
ふと視線を周囲に巡らせる。
部屋にはまだメンバーがいて、みんなまだ帰る気はないのか各々好き勝手なことをしている。
マルと内、大倉とヤス。
そして、村上くんとすばるくん。

村上くんは何やらいつも愛読しているサッカー雑誌を見ているようで。
そんな村上くんの後ろからまるでへばりつくように、すばるくんが身を乗り出してそれを覗き込んでいる。
傍目から見たら、男同士でベタベタうっとい、そう思われるかも知れないけど。
この二人はいつもそうだから、少なくともうちのグループで今さらそれを気にするような奴はいない。

すばるくんがいたずらっこのように笑い、村上くんの首に両腕を廻して後ろから体重をかける。
村上くんはそれに苦笑しつつも、その小柄な身体をしっかりと支えるようにしながら軽く手を伸ばしその頭を撫でてやる。

本当に仲のいい二人。
俺が出逢った時から。
俺が「三人」と出逢った時から。

気付けば、がさがさと漫画をかばんにつっこむ音がしなくなっていた。
だからと言って気にするような奴はいない。
気付くのは俺だけ。
その手を止めて、ぼんやりと二人を見ているんだろう。
そんなことに気付くのは、俺だけ。
・・・俺だけで十分だ。
そんなことを思いながらゆっくりと視線をそちらに戻せば、けれど予想外に視線がかち合う。
俺が何かを言おうとする前に、そのぽってりとした赤すぎる唇がゆるりと開いた。

「おら、モス行くで。モス」
「あ、はい」

俺はそれだけ言うので精一杯で。
その白い腕が何事もなかったかのように、漫画の詰まったかばんを手にするのを目線で追いながら。
もう一度村上くんとすばるくんの方を見た。
すると俺たちが帰るのに気付いたのか、村上くんがこちらを見た。
正確には、横山くんを。

「お、ヨコ、帰るんか?」
「おー。可愛い後輩がおごってくれるー言うてるから」
「なんやまたかいな。お前たまには先輩としておごったったりせぇよ」
「気持ち的にはいつも俺がおごっとるで」
「なんや気持ち的て」

そんないつもと変わりない会話を交わしながら。
扉を半分開けて待っている俺の元へ、横山くんが荷物を持ってゆるりと歩いてくる。
何処か伏し目がちな瞼が白い肌に影を落としていた。
そんな横山くんの後ろ姿に未だ注がれる、村上くんの視線。
依然としてすばるくんを背中に張りつけたまま。

「ヨコー」
「んー?」

横山くんはそちらを振り向くことなく。
俺の方に向かって歩いてくる。

「今日、傘忘れたんやろ?ちゃんと亮に入れて貰うんやで?」
「あったりまえやろー。可愛い後輩と相合い傘して帰るわ」
「そうかそうか。気ぃつけてな?今夜は冷えこむみたいやから、暖かくして寝るんやで?」
「へーへー。おまえは俺のおかんか」

そんな減らず口を叩きながら、他のメンバーに声をかけながら。
横山くんはそのまま、ようやく俺の前までやってきた。

「おっしゃ。行くかー」
「・・・はい」

そう言って半分開けておいた扉に自分から手をかけた。
じゃあまた明日なー、と。
そう背後からかかる村上くんの声に手だけで応えて。
そして笑ってみせた。
実は整ったその美貌を引きたたせるようなそれ。
この角度からじゃ俺にしか見えないそれ。

内心吐き気がした。

笑うのなんて苦手なくせに。
雑誌でさえロクに笑えんくせに。
あの人のためなら笑えんのか。
あの人は所詮見てもおらんのに。










スタジオの外に出れば、朝来た時よりも強くなっている雨。
けれどそれは激しいと言うよりかは、しとしとと静かなもので。
暗い空から地上に重くのしかかるようなそれが鬱陶しくて仕方ない。
緩慢な仕草で傘を開く俺の横で、横山くんは顔を顰めながら両手で自分の身体を抱きしめるように肩をさすっていた。
さっき村上くんが言ったように傘もなく、更にはこの真冬には見た目にも寒そうな薄着。
普段から猫背な背中が更に小さく丸まっていた。
けれど普段から閉じることを知らない赤い唇は相変わらずで。

「さっぶー!死ぬ!死ぬ!なんっでこんな寒いんじゃ!」
「真冬なんやから当たり前やん。ていうかなんでそんな薄着なんすか。アホちゃいますか」
「朝はそうでもなかったんや」
「でも昼過ぎから冷え込むし雨も降る言うてたでしょ」
「誰が。俺聞いてへんで」
「誰がて。天気予報に決まっとるやん」
「んなもん見てる余裕、朝あるわけない」

ふふん、と。鼻息荒く。
何を自信にそんなはっきり言えるのか。
でもこの無駄に偉そうな台詞もこの人の言ってることだと思えば、これ以上反論しようって言う気もなくなる。

特に返す言葉もなく。
軽くため息混じりで、開いた傘を差し出す。
ため息は俺の前に白くもやを作ってはすぐ消えた。
消えた先にある横山くんの顔は、もっと白かった。

「なんや錦戸、俺に傘貸してくれんの?」

おかしそうに唇の端を上げてみせるその顔。

「貸すっていうか・・・。一緒に入ってくんですよ。傘一本しかないんやからしょうがない」

俺はただぶっきらぼうに返した。

「うわ、ほんまに相合い傘?男二人で相合い傘!キッツイわぁ〜」
「・・・嫌なら一人で濡れて帰ればええやん」
「おまえが一緒に帰ろーて言うたんやろー?」
「じゃあなんですか。俺に濡れていけって?」
「冗談やって!んな怒んなや〜」

『いつまで経っても怒りんぼうやな〜亮ちゃんは』

あからさまな子供扱い。
昔から変わらないそれ。
むかつくと言えばむかつくし。
諦めてると言えば諦めてるし。
けれど。
この人の中で俺の存在が未だ完全にその『亮ちゃん』のままであるかと言えば、そうではないことも一応判っているつもりだから。

「我慢、してもらえます?」
「ん?相合い傘?」
「そう」
「せやからさっきのは冗談やって。相合い傘大歓迎やで〜俺は」
「じゃ、」

差し出した傘を更にそちらにやって、横山くんの身体が入ったことを確認してから空いているスペースに自分も入る。
とは言え、モノは何の変哲もないコンビニで売っているような市販の傘。
大の男二人がちゃんと入れるわけもなく。
俺の肩は半分くらい完全に濡れる形になっていた。
構わず歩き出すと、横山くんは慌てて着いて来つつ、少し身を屈めながら俺の濡れている方の肩を覗き込んでくる。

「にしきどー、なんや、そっち側濡れてるみたいに見えるんやけどなー」
「濡れてますよそりゃ。判ってますよ」
「もうちょっとこっち来ても大丈夫やで?」
「別にええです。男二人そんなくっついてても、うっといやろ」

それに、どうせ俺が寄れば今度は逆にそっちの肩が濡れることになるんだろうから。
俺らの間にある距離っていうのは、つまりそういうものだ。
けど俺のそんな気持なんて全然気付いていないのか。
横で横山くんの小さく笑ったような気配がする。

「おまえ、オットコマエやな〜」
「なんすかそれ」
「んー?言葉通り。ほんま男前になったなぁって」
「そうすかね」
「そうやで」
「ふぅん」
「かっこええー。錦戸くんかっこええー」
「はいはい。はよ行くで」
「んー」





モスへ向かう道すがら。
しとしと降り続ける雨の音をBGMにしながら歩く。
特に会話はない。

ちらりと盗み見るようにその横顔に視線をやると、その白い頬が寒さで更に白くなっているような気がした。
実際にはそんなことはないのかもしれないけれど。
吐き出される息も、俺のそれよりももっともっと白い気がして。
切れ長の瞳とか、長い睫とか、キラキラした薄金茶の髪とか。
黙っていれば人形のように綺麗な顔とか。
景色と一体化したようなその光景が、まるで作られたもののようにそこにあった。

雨だとか。寒さだとか。
何故だかこの人にはよく似合う気がする。
一度口を開けばああだから、実際にはまるで違うんだろうけど。
こうして黙っていると、この人は妙に孤独を感じさせる。



『あいつ、ああ見えて人一倍寂しがりやから』


俺にそう言ったのはあの人だった。
それはまだあの人たちに出逢って半年にも満たないくらいの頃で。
正直俺には、あのお喋りでうるさい印象からは想像つかなかったから。
ただ、はい、と素直に頷いた記憶しかない。
けれど今となればその言葉を思い出す度、言いようのない苛立ちを覚える自分がいる。

そして同時に思い出す。
俺がこの人に想いを告げた時、返された言葉。
好きだと言った俺に、「俺は違う」でも「俺もそうだ」でもなく。
まるで俺のことなんて後回しにでもしたように、自分勝手につらつらと並べ立てられた言葉。

『アイツってなぁ・・・あ、村上な?アイツって絶対アレやで・・・』

正直唖然としたのをよく憶えている。
これはもしや遠回しに断られているのか?なんて一瞬思ったけれど。
後に続いた台詞に、俺はなんて返したらいいのか判らなかった。
けれど言ってみればそれは、ある意味振られるよりもタチが悪かったのかも知れない。

「・・・ねぇ、横山くん」
「んー?」

ぴたりと足を止める。
するとつられるように横山くんも足を止める。
かち合う視線。

「あんたは、俺とあの人どっちがええの?」

我ながらストレートな台詞が口をついて出た。
けれど言わずにはいられなかった。
だってあの告白の時には言えなかったから。
あまりにもあんたが平然と言うから。
そのくせ、今でもあの二人をあんな目で見るから。

横山くんはちょっとだけびっくりしたような顔で。
けれどすぐにちょっとだけ俯きがちになって。
影になって少し見えにくくなった表情は、何だかばつ悪そうで少し拗ねているようでもある。

「横山くん?」
「・・・なんで、」
「なに?」
「なんでそないなこと訊くねん・・・」
「聞きたいから」
「訊くことちゃうやろ・・・」
「そうかもしれへんけど。訊かんと判らん」
「・・・・・・」
「横山くん」

いつの間にかそちらに身を乗り出していた。
でも距離は変わっていない。
今度は横山くんの肩が僅かに濡れているから。
その身体を再び傘の中に引き入れようとして、ふと、その右手がきゅっと握られていることに気付いた。
白い手が更に色を失っている。
引き寄せる代わりに、その手を解くように上から握る。

「錦戸・・・」

呟かれる、僅かに掠れたような声は無視して。
固く結ばれた指を解きながら、自分のものを絡める。
冷えすぎたそれを感じるだけで、なんだか胸の奥を掴まれたような感覚に陥った。

「判っとるけど。あんたが、俺を選んでくれたこと」
「・・・判っとんなら訊くなや」
「でも訊きたくもなるやろ」

握った手に力を込めた。
すると微かに身動ぐ身体。
ぴくっと震える睫。

「そんな怯えんでもええやん。へこむし」
「べ、別に怯えてへんわっ」

そうやって虚勢を張るのも最早性格だって。
それも判っているけど。

「あんな目であの人のこと見られたら、きつい」

また身動ぐ身体。

「あんな恋しそうな目で、見られたら・・・」

微かに震える唇を緩慢に開いて。
けれど何か言葉を発するでもなく。
ただじっと俺を見つめて。
その身体をじわりじわりと濡らしていくばかり。



『アイツなぁ。
目の前におる可哀相な奴を、放っておけへんねん。
そんで、拾ったらもう二度と捨てられへんの』



じゃあ、あの人が、その、子犬を、拾った、日?

その日もこんな風に雨だったんだろうか。
きゃんきゃんとうるさいくせに、寂しがりな子犬を。
一人ただ孤独に雨に濡れる子犬を。
暖かいその両腕で、優しく拾い上げたあの人。

「・・・じゃあ、質問変えるわ」

俺はあの人が憎くてしょうがない。

「あの人のこと・・・村上くんのこと、好き?」
「・・・」
「好き?」

何度開いてはまた閉じて。
そのぽってりとした赤い唇は何か彷徨うように動く。
そして、

「すき・・・やった」

少しだけ舌足らずな言葉は何処か幼い。

「過去形て、とってええの?」

自分で訊いておきながら。
それを全て肯定することなんて出来やしない。
あんな恋しげな視線を見せつけられたら・・・。

「亮」

俺は一体、どんな顔をしていたんだろうか。
少しだけ心配げに覗き込んでくるその顔。
でもそっちだって苦しそうだ。

「亮、あんな、」
「うん」
「俺な、その、お前が・・・俺にその、好きやって、言うてくれた時にもその・・・言うたと思うけど、」
「横山くんが子犬やって話?」
「・・・ちょお違うけどな」
「要約するとそういうことでしょ」
「まぁそうなんかな・・・・・・いや、やっぱちゃうやろっ」
「・・・んで?」
「あ、んと、そんでな、・・・・・・」
「横山くん?」

今度は俺がその顔を窺う。
するときゅっと握り返される手。
さっきより少しだけ暖かくなったそれ。

「正直なトコ・・・言うわ・・・」
「・・・ん」
「俺、お前のこと・・・」
「・・・俺のこと?」
「・・・す、き、やと・・・思う・・・」
「思う?たぶんてこと?」
「・・・たぶん。でも、たぶん、絶対・・・」
「どっちやねん」
「っ、もーええやろっ!揚げ足とんなっ!」

なんでそこでキレんねん。
しかも耳そんな真っ赤にして。
一瞬呆れそうになる。
けど、代わりに握った手を解いて、その濡れた肩に廻した。
瞬間的に息を飲むその冷えた身体を抱き寄せる。
傘なんてもうほとんど役には立っていなかった。

「・・・好き、って、」
「な、に・・・亮・・・?」
「好きって、こういうこと?」
「りょ・・・、」

抱き寄せた先。
白い吐息を交えて触れるだけで口づけた。
まるで互いの温もりを伝え合うだけの。
拙い口づけ。
それをもう一度。
更にもう一度。
繰り返す。

「りょう・・・」
「なぁ・・・侯隆。こういうことでええの?」
「ん、そ・・・ん・・・」

横山くんが何か言おうとするのを塞ぐようにまた、何度も何度も。
触れるだけで口づけた。

「りょ・・・、俺は、な、」

口づけの合間に吐き出される、吐息混じりの囁くような言葉。
冷たい世界の中で、僅かにそこだけが熱を持つ。

「俺は・・・俺にとって、あいつは特別で、」
「ん・・・」
「それはきっと、一生変わらへんと思うし、」
「・・・」
「あいつは、俺の世界を作ったやつやから、」
「・・・」
「やから・・・」
「・・・・・・」
「・・・亮、苦しい」
「・・・知らん」

抱き寄せる力が痛いほどになっていた。
けれど離せない。

折角必死の思いでその手を引いて連れ去ってきたのに。
あの人の世界から連れ去ってきたのに。
一度離したら、この人はまた戻っていってしまいそうで。


『あいつ、ああ見えて人一倍寂しがりやから』


憎くてしょうがない。

何言うてんねん。
あんたのせいやろ。
この人に世界を与えて、あんたなしではおれへんようにさせたんはあんたやろ。

残酷だ。
あの人は優しくて、残酷だ。
この人が望めばいつだってその手を惜しみなく差し出すくせに。
一番大事なものはこの人にあげなかった。
他の人間にあげてしまった。
そのくせ、今でも誰よりもこの人に優しいんだ。

もういいだろ。
もうこの人を解放してくれても。
何もあんただけじゃないんだ。
この人のことが大事で、大事で、たまらないのは。
いいや。
あんたよりも、ずっと、ずっと・・・。

「横山くん・・・きみたか・・・。俺、あんたのこと好きや・・・好き・・・」
「ん、亮・・・」

しとしとと。
雨が静かに降り注ぐ。
俺と横山くんを濡らす。
既に傘は放ってしまった。
どうせなら二人一緒に濡らしてくれ。

容赦なく濡れていく身体を、つなぎ止めるようにと抱きしめる。
きつく力を込めれば、その度吐息が耳元に漏れて熱を持つ。

「・・・お前、は、でも、」

呟かれた言葉と共に、あまり力の入っていない両腕が俺の背に遠慮がちに廻る。
軽くこちらにもたれかかってくるようなそれ。

「お前は・・・あいつとは、違うな」
「どういう意味?」
「そのまんま。あいつとは随分違うわ。・・・こんなに違うなんて、知らんかった」
「・・・がっかりした?」

ただじっと見つめたら。
伏し目がちに俯いていたその顔がゆっくりと上がっていく。
濡れた髪をぺったりと額に貼り付けたまま、ゆるりと頭を振った。
そこには、にへら、と擬音が出そうな笑み。

「単にびっくりした」
「・・・なに?」
「せやから、びっくりしたんやって」
「なにが」
「お前がちっこい頃から知っとるから、だいたい判っとるつもりやったんやけど。
知らんことも沢山あるんやなぁって。なんや・・・とにかくびっくりした」
「ようわからん・・・」
「うん。自分でもようわからん」
「あかんやんか」
「あかんなぁ」

でも、そう言ってへらりと笑う顔は。
さっきみたいな、あの人に背を向けて浮かべた、妙に綺麗な作り物めいたものじゃなく。
ふと再び握ってみた、その妙に柔らかく白い手は。
確かに今ここにあった。
その温もりは本物だ。

だから。
その世界が決して消せないものだと言うのなら。
それでも俺のことしか見えないように。

この手でどこまでも、どこまでも、あんたを連れ去ってみせる。










END





エイト処女作かつ初亮横にしてこんなん書いてる自分は大概救えないなと実感です(全く)。
にっきどさん切なーい!でも男前は切ないのが似合います。
とりあえず亮横のにっきどさんは、横山さんのこと好きすぎて大変なのがいいと思います。
好きすぎておかしくなっちゃえばいいと思います(ひどい)。
そして村上さんは横山さんの昔の飼い主。いやお父さんか?(どっちでもいいよ)





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