密やかな誓い
「陛下、いい加減観念なさったらどうなのですか」
「何をだ?」
「とぼけるのはお止めください。アントーニオからも言われているでしょう、見合いの件です」
「ああ・・・お前までその話か。いい加減聞き飽きたな」
「私共とて言い飽きました」
「その気はないと何度も言っているはずだが」
「それではこちらとて困ります」
「なぜ」
「貴方がこのアセンズの王だからです」
「・・・王は子孫を残さねばならぬ、と?」
「そうです。それは王たる者の務めです」
「はは、お前程はっきり言ってくる者はさすがにいなかったな」
「そうでしょうね。アントーニオが嘆いておりましたよ」
「十分判ってはいるのだ」
「実行が伴わなければ判っているとは言えません」
「本当に手厳しいな、お前は」
「本来ならば、私如きがこのような口出しをすべきではないのです。けれども、陛下が聞き入れて下さらなければ言わざるを得ません」
「苦労をかけるな」
「何を仰いますか。このようなことは苦労ではありません。・・・陛下のご苦労を思えば、このようなことは」
「いや、私が感じているものは苦労などではない。ただ、王の務めとは時に自分の本当の想いとは相容れぬものだと・・・そう思っただけだ」
「・・・・・・」
「・・・判っているさ。王になった時点で、自分の想う相手と・・・などと、不可能なことはな」
「陛下」
「なんだ?」
「私共は貴方の臣下です。貴方の望みを叶えることも一つの役目です」
「うん・・・?」
「・・・ですから貴方の望む方を王妃の座に据えることも、決して不可能では、ありません」
「そうか・・・そうだな・・・・・・クインス?」
「はい」
「お前らしくもないな。そのような申し訳なさそうな顔など、らしくない。もっといつものように不敵に笑って、不可能すら可能にすると、そう言ってくれ」
「・・・はい、申し訳ございません」
「けれどもお前がそう言ってくれるのならば、言ってみてもいいだろうか?」
「なんでしょうか」
「・・・クインス」
「クローディオ様、・・・陛下、そのように容易く臣下に触れるなど、・・・」
「お前はいつまでも変わらないのだな・・・この白い手も、何もかも・・・」
「陛下・・・」
「・・・・・・やはり、止めておこう。困らせたいわけではない」
「陛下、・・・私はいつでも貴方の幸せと、・・・そして貴方がもたらすこの国の繁栄を、願っております」
「そうだな。・・・ならばお前のその願い、この空いた隣の玉座はそのままに叶えてみせよう」
「王妃は戴かぬと、そう仰るのですか」
「許せ、クインス。子孫ならばマーガレットがいる。マーガレットとアルバニーがきっと良き子をもうけてくれるだろう」
「・・・ならば私めも、一度は捨てたこの命、あとは朽ち果てるまで貴方の御身に捧げると誓いましょう」
この身が許されぬのならば、せめてこの魂は永久に貴方と共に。
END
メモから再録SS。
クロクイはとりあえず悲恋風味がいいわねーという感じでね。
触れられそうで永遠に触れられない、みたいなこう、神聖なね、魂の繋がりみたいなね、そういうのがいいよね!(夢)
これがアンクイとかならガンガンやってしまえばいいと思うけども(余計)。
クインスは基本的にアントーニオとクローディオじゃ両方大事で選べないとしても、決定的に向ける想いが違うと思うので。
そうしてクローディオ陛下は一生独身王だったりするといいと思う。どれだけの縁談が舞い込んでも頑なに結婚しないのです。
(2006.2.5)
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