スピカ










「なぁなぁ、今の流れ星!見た?」

そう言って晴れた夜空を指さした。
その目にキラキラと煌めく光を映して。
俺は言われてようやく空を見上げる。
煌めく星々はそこにあるけれど。
生憎とつい今の今まで、俺の視線はその横顔に向けられていた。

「や、見てへんかった」
「もーなんで見てへんの。もったないなぁ」
「オマエの顔なら見とったで」
「・・・そんなんええの。今は星を見るねん」

あ、赤なった。
そのほっぺたをツンと指先でつついてみたら。
ぷるぷるとうっとうしげに頭を振られた。
まだちょっとだけ頬を赤くしたまま、またその瞳は夜空を見上げてしまう。
なんや、そない星に夢中か。
今まで星見るのが好きやなんて一度も聞いたことないで。変なやつ。
ていうか、いきなり星見ようとか言いだしたこと自体が変やったけど。
夜電話かかってきて開口一番が、「たっちょん!一緒に星見ようや!」やもん。
今度は一体どんなロマンチストモードになったんかと思いつつ、近くの河原までやって来て。
もう春先だっていうのに意外と肌寒かったから、俺たちはぴったりと肩をくっつけて座り込んでいた。

まぁ、なんでもええねんけど。
こうしてこの小さな体温を隣に感じられるだけで、何だか満足だったりする。
俺も結構お手軽な男やと思う。

「あ、あれがスピカやー」
「すぴか?」
「うん、あの一番よく見える星」

指さした方をぼんやり見上げると、そこには確かに一際煌めく一等星。

「乙女座の星やねんて」
「よう知っとるなぁ」
「最近なんかの小説で読んだ」
「ふーん。そんで見たくなったん?」
「んー、まぁ、せやね」
「ふーん・・・」

何処か曖昧な返事をしつつ。
その横顔は一心にあの一等星を見上げている。
小説で読んだからって、星が見たくなるやなんて。
今時女の子やってあんまりおらんやろと思う。
時々恥ずかしいくらいに乙女チックな思考をする、
ほんまは俺よりずっと男らしい奴。

「・・・そういや、お前も乙女座やんな」
「わ、すごいやん」
「・・・なにが?」
「よう憶えとったなぁって・・・たっちょんが星座とか・・・」
「他の人のはよう知らんよ」

それに、別に憶えようと思って憶えたわけやないし。
何でかいつの間にか憶えとったていうか。
たぶん好きになるって、そういうことの積み重ねなんやろなーて思う。

「じゃあ、ついでに教えたる」
「ついで?」
「あのスピカってな、ほんまは連星やねんて」
「れんせいて、なんや」
「1つに見えるけど、ほんまは2つの星が
近くでおたがいの周りを回って影響しあっとんねんて」

何でか妙に嬉しそうに、にこにこと。
その瞳を撓ませて星を見上げる横顔。
それに一度瞬きをしてから、同じようにそれを見る。

「・・・あれ、ほんまは2つなんか」
「そうらしいで。すごいよなぁ」

2つで1つの星。
そうして他の何より輝く一等星。
初めて知った。
恋人のちょっとした雑学から得た知識。
確かにすごいかもしれへん、とぼんやり思ってその煌めきを見上げる。

「なんかな、ええなーって思って。そんでたっちょんと見たなってん」
「俺?」
「うん。願掛けみたいなもんかなぁ・・・」


『これからも一緒に歩いていけるように』


2つで1つの星。
そうして何よりも輝くもの。
きっとそれが、このロマンチストの心の琴線に触れたんやろな。
こいつらしいと思う。
時々恥ずかしいくらいの、でも俺の心をくすぐってしかたない。
伝わってくる、そんなあったかいキモチ。

「じゃ、こっち見てや」

その横顔に手を伸ばし、耳にかかった髪を横にかき上げる。
柔らかな髪の感触と、頬の暖かい感触とが同時にてのひらに伝わる。
あの一等星を瞳に宿したみたいにキラキラしたその瞳が、ゆっくりと俺を見た。
そこには自分でも随分と幸せそうだと思える、そんな俺自身が映っている。

「そういう台詞は、ちゃんと俺に言うて」

俺たち二人は互いに互いの傍でずっと、この温もりを与え合う。
もう離れることなんて出来ないくらいの距離で。

「・・・」

一瞬その唇が開きかける。
けれど続く言葉はなかった。
ただその表情がふわりと笑む。
その瞳に映る俺と同じように、随分と幸せそうな顔で。
そっと俺の方に身体を傾けた。
夜風に少し冷えた唇が重なる。
そして、それがやんわり離れると。
今度は代わりに手と手がゆっくり重なった。

「・・・俺、これからも絶対この手、離さへんから」

少しだけ濡れて光る唇は、囁くようにそう呟いて。
まるで子供の約束みたいに指と指が絡まる。
俺はそこに小さく力を込めてそれを強める。

「俺も。やっさんが迷子にならんように、ちゃんと握って離さへん」

お返しみたいにこちらから唇をまた重ねたら。
それが離れた途端、濡れた唇がおかしそうに撓んだ。

「なんやのそれ。俺をいくつやと思ってんの、お前は」

そんなことを言いながら、ぽふっと俺にもたれかかってくる小さな身体。
まるであつらえたみたいに俺の胸にすっぽりと収まる。

「やってちっこいから」
「そんなんわざわざ言わんでええねん。
・・・その分たっちょんがおっきいから、平気や」
「うん。俺はおっきいで」
「バランスとれてるやん」
「うん。ぴったりやな」

あの春の空の一等星がそうして輝くように。
そうでなければ輝けぬように。
お互いがそんな存在であるように。
ずっとこうしていたい。

ぴたりと寄せ合った身体。
その向こうに星が流れた。

「・・・あ、また流れ星や」
「たっちょん、俺の代わりにお祈りしといて」
「うん。しとく」



明日のことなんてわからないけど。
ただ今は、切に望むように君といられたら。
僕はこの手を離しはしないと。

瞬く星たちにそっと誓う。










END






大倉さんお誕生日おめでとう!
というわけで、お祝い倉安です。
二人で星見ちゃったりするうちの倉安さん・・・。
でもこの子たちだからこそできるというかやってほしい感じのムード。
この二人ならどんだけ甘くてもよいと思います。
(2005.5.16)






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