春待ち
それは春を間近に控えつつも、まだまだ肌寒いある日のこと。
仕事がお昼過ぎに終わり、俺とマルは間近に迫ったコンサートで披露する新ネタを考えるべく
喫茶店に寄ろうということになった。
目指すのはいつもの店。
もう何度も二人で行って、いくつものネタが生み出されてきたお決まりの所だった。
その途中にはさほど大きくはないけれど、桜並木がある。
確か去年はもう今頃には花を咲かせ始めていたような気がするんだけど。
視線をやった先の枝は未だ蕾で、色鮮やかな一面の桃色はまだ拝めそうになかった。
「今年は遅いなぁ・・・」
「ん?」
「さくら」
「あー、せやなぁ。今年はちょっと遅れとるらしいから」
「そうなんや。はよ見たいな」
「せやな。そんではよ花見したいな〜。みんなで飲んだり食べたり騒いだりしたいな〜」
その様子を実際に思い浮かべたのか、マルはさも楽しそうに浮かれた様子でそんなことを言う。
確かにグループで毎年恒例のそれだから、俺にだってよく判るし、そう思うけど。
あまりにもストレートに想像をそちらに持っていくものだから、思わず小さく吹き出してしまった。
「お前はすぐそれやんな」
「やって楽しいやんか。俺、みんなと花見やんのがほんま楽しみやねん」
「わかるけどー」
「わかるやろ?」
うんうん、て。
まるで子供みたいな様子で頷くのが何だか微笑ましかった。
それに頬が緩む。
マルを見ていると思わず笑ってしまうんだ。
きっと、マル自身がいつも笑顔だから。
「でも花見言うとお前、すぐハメ外すやんか。アレどうにかしてほんまに」
「あ。あー・・・うーん・・・それはー・・・」
「なに。なんか反論あるんか」
「・・・ないなぁ。その通りやわ」
「・・・もう。少しは反論して。何やのそれ」
何となく振ってみた小言めいた話題にも、特に嫌そうな顔なんかすることもなく。
実際のとこ、マルが嫌そうな顔をすることなんて、あるんかな。
そんなことを思ってしまうくらい、マルは穏やかだ。
確かに空回りはするし、鬱陶しいくらいのリアクションをするし、落ち着かない奴だけど。
「いやなぁ、俺もあかんなぁと思うねんけどな。
どうにも花見しながら酒飲むと気持ようなってしまうねんな」
そうやって穏やかに笑う顔は本当に暖かいものだといつも思う。
人には誰にだってある暗く冷たい部分なんて、マルには欠片もないようにすら思える。
いや、本当はそんなことないんだってことは判ってる。
けれどそれでもいつも笑ってくれるから、俺はその傍にいられることを幸せに思える。
そんなことを内心だけで思いつつ、口は相変わらずの小言。
・・・あ、俺これやから最近大倉とか亮とかに「グチグチうるさい」て言われるんかな。
でもマルなら聞いてくれるって思うから、またついつい言ってしまう。
「あんな、気持よく飲むんはええねんけどな。
そんで面倒見させられんの俺なんやから。村上くんから『相方なんやから面倒見ろやー』って」
「あー、そうなんか。そらすまん」
「ほんま反省して」
「反省しますー」
「そんで反省を生かして」
「生かしますー」
「・・・ほんまかいな」
「ほんまほんま!」
じろり、と。
軽くだけど睨むような仕草を見せると、マルは少しだけ慌てたように大袈裟に頷く。
「いっつもやっさんにはお世話になってますっ」
「・・・まぁ、ええねんけど」
「なー、俺ほんま感謝してんねんで?
やっさんがおらんと、きっとほんまにみんな俺のこと置いて帰ってまうもん〜」
「それはないやろ」
「あるて!みんな俺に冷たいもん」
「アホやなぁ」
「どうせアホやしー」
それやからアホやって言うねん。
だって判ってない。
一体誰がお前を置いて帰るって言うんだか。
俺がいなきゃいないで、誰かしらがちゃんと面倒見てくれるに決まってる。
「ほんましゃあないわ、コイツ。どうしようもない」って、そう言いながら。
そう言って苦笑しながら。
・・・亮と横山くん辺りならついでに蹴りの一発くらい入るかもしれんけど。
結局は誰だってそうする。
だってみんな、マルを必要としているんだから。
他人には気を遣いすぎるくせに、
自分のこととなるとまるで気が回らないお前はどうせ気付かないんだろうけど。
「・・・せやからマルは、ちゃんと俺の隣にこーへんとあかんねんで」
「うんうん。ちゃんと隣行くわ」
「そうでないと俺が面倒見られへんから。・・・ちゃんと来てな」
「うん。判っとるよ」
最近みんなのツッコミ厳しいわ〜、なんて言って。
実は飲み会で自分が引っ張りだこになっていることをお前は気付いているんだろうか。
そんなお前が引っ張られていってしまった後の俺が寂しい思いをしていることとか。
そのくらい気づけボケ、って思うこともあるけど。
「やっぱ、好きな人の隣におるんが一番楽しいもんな」
そう言ってまた笑う。
その顔に俺もつられるように笑ってしまう。
あったかい笑顔。
たとえまだ桜も咲かぬような肌寒い、そんな春待ちの日でも。
お前といればあったかいよ。
「・・・マルってほんま、幸せそうやんな」
「え、なにそれ。それは俺が脳天気てこと?」
「まぁまぁ」
「なんやそれー」
だからそんなお前と一緒にいる俺まで幸せになれるんだ。
君と一緒に春を待って。
そして二人で一面の桜を見にいこう。
今年も来年も、その先もずっと。
だからいつも隣にいて。
END
初丸安ですわ。短いな。
書きたい書きたいとは思っていたものの、ようやくと言った感じで。
この二人はほんと素で仲良しでラブでとりあえず他人のはいる隙間がないですよね。熟年だよ。
でもうちの丸安でいうと、ヤスがありえん勢いでマルちゃんのこと大好きですよ。
口では小言を言いつつね。
しかし丸安だとマルちゃんの方が可愛くなってやっさん可愛くなくなるな(うちだけ)。
な、なんか安丸でも通りそうな勢いな気が・・・。まぁ、究極的にはどっちでもいいけども。どっちも可愛いよ。
とにかくヤスはマルちゃんの面倒を見つつも実は精神的には受け止めて貰ってるといいよ。
基本マルちゃんて誰相手でも受け身な分、みんなのことを何となく受け止めてくれてるといい。
(2005.4.2)
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