娘婿と二人の舅
グループ恒例の飲み会の席。
店内でも一番奥まったそこには、何やら上機嫌できゃらきゃらと笑いながらビールを煽る横山と
その隣でこれまた上機嫌でその相手をしている錦戸がいた。
横山は既に随分と飲んだようで、白い顔をほんのり赤くしては空になったグラスを掲げてみせた。
「にしきどー」
「はいはい、なんすか?」
「もっとービールー」
「はいはい、どうぞ」
「んー」
錦戸が素早く瓶ビールをグラスに注ぐのを見て、横山はほわんと嬉しそうに笑う。
一口飲んでは錦戸にふにゃりと笑いかける。
まるでグラスがなんだか愛しい物のように両手で抱えては、ずっとにこにこしている。
常にはない程無防備で気の緩んだ横山に、錦戸は内心とても胸ときめかせていた。
「にしきどーもっと」
「はいはい。これでええですか?」
「・・・ん、ん・・・んまぁい」
また笑った。
錦戸はまたときめいた。
アイドルという職業上少し問題があるように思われるが、
横山は元々意識してはもちろんのこと、無意識でも笑うということが実は少し苦手な人間だった。
だからこそその笑顔は貴重だった。しかもこんな無防備な代物は。
錦戸はそれに内心全力で萌える。
とにかく、すなおに、かわええ。最高!
酒好きな横山にはとりあえず酒を与えつつ相手をしてやれば
こうして上機嫌で、かつ普段にはない素直な可愛らしさを見せてくれることを
恋人である錦戸はよく熟知していた。
そしてその機会が巡ってきた時の錦戸は普段の硬派ぶりも何のその、
周りの目もまるで気にせずこの年上の恋人を愛でるのに全力を投じる。
「横山くん横山くん」
「んぁ?」
「ツマミもまた来ましたよ?」
「あーんー食うー」
さっき注文しておいた軟骨の唐揚げの登場。
待ってましたとばかりに錦戸はそれを手早く自分の方に寄せると
端で一つ摘んで横山の口元まで持っていく。
これまた普段の錦戸ならば照れてしまって絶対にやらないような行動だ。
横山は一瞬ぽかんとした顔を錦戸に向ける。
けれどすぐさま目の前に現れた軟骨の唐揚げに鼻を寄せてくんくんと匂いをかぎ
そのおいしそうな匂いにほわーんと笑ったかと思うとそのまま口を開けた。
ぽってりした無防備な唇がしどけなく開いた様が堪らない。
「あーん」
酔っている横山には幼児退行の気が見られるというのがグループ内での共通見解だ。
まるで何も出来ない幼児のように口を開けて待っている様は雛鳥か何かのようでもあった。
そして今現在親鳥のポジションに位置する錦戸は、その様にまた内心萌えていた。
あかん、育てたい・・・。
自分より3つも年上の男を捕まえての発言とは思えないが、錦戸はいたって本気であった。
もしも横山が酔っている時だけでなくいつもこのような状態であったなら
それは本当に現実の物となってもおかしくなかった。
速攻で家に連れ帰って光源氏計画発動の算段は出来ている。
ただ、普段の横山は決してこうではない。
もしも錦戸がそんなことを口にしようものなら罵詈雑言を浴びせかけ、
容赦なくしばき倒すのは目に見えている。
けれどそんな横山裕が基本であるからこそ、この状態がまた堪らない・・・
というのが実際の錦戸の心境であるのでそれはそれで良いらしかった。
「・・・にしきどー?まだぁ?」
「あ、すんません。・・・はい」
悶々していて肝心のエサをやりそびれていた錦戸は
はたと我に返ってからその口元に軟骨の唐揚げを運んでやった。
それをおいしそうにもぐもぐと咀嚼する様にデレデレと頬を緩める錦戸の元に
今回最大の萌えアイテムが到着した。
「カルアミルクお待たせしましたー」
元気な店員の声と共に運ばれてきた乳白色のカクテル。
錦戸はそれもまた素早く手元に引き寄せると
ついてきたマドラーでそれを何回か混ぜてからさりげなく横山の前に置く。
「はい、どうぞ」
「ん?これなにぃ?」
きょとんと不思議そうな顔をして。
横山は薄赤くなった顔を近づけてまじまじとそのグラスを見る。
それに錦戸はにっこりと笑いかけつつ、更にそれをつつと進めてみせた。
「カルアミルクっすよ」
「かるあみるく?」
「ほら、横山くん大好きでしょ?」
「そやっけ・・・」
「ほらミスチル」
「みすちる・・・」
「桜井さん」
「さくらいさん」
「あったでしょ?カルアミルク」
錦戸が言っているのは横山が大好きなバンドの、大好きな曲。
デートでもしょっちゅう車内で流れるそれは、錦戸も既に憶えてしまっていた。
横山は今目の前にある乳白色のカクテルの名前と
自分の大好きな曲の名前とが一緒であることにようやく思い至り、舌足らずにそれを連呼する。
「あー。あー。あるー。かるあみるく、ええ曲やねんでー」
「ね」
「おれ、あれ大好きやねん。ええわぁ・・・」
「ね。せやから、どうぞ」
「んー」
その曲と今の現状は、実はあまり関係がない。
単なる錦戸のこじつけに過ぎない。
けれどその甘い曲を思い出してますますいい気分になったのか。
横山は勧められるままにその乳白色の液体が入ったグラスに手を伸ばす。
既に強か酔っている横山の手はおぼつかない。
ふらふらと定まらない手元でなんとかグラスを持つ。
ようやく手には持てたけれど、それを口元に運んで飲むとなるとまた大変そうだ。
恐らく途中でこぼしてしまうことは目に見えている。
けれど錦戸は特に手を貸すこともなくそれを見ていた。
しかもニヤニヤとひどく崩れ去った顔で。
「あ、なんやー甘いにおいするわー」
「うまいっすよー」
「のむでー」
「飲んでくださーい」
けれどふらふらとした手元はやはり危なっかしい。
恐らくはこぼしてしまう。
そしてこぼしてしまえば、その手や服や、
下手をすれば口元にだってかかってしまうかもしれない。
あの乳白色の液体が・・・。
錦戸は第三者が見たら顔を顰めかねないくらい緩んだ表情でそれを見守る。
けれどそれに堪りかねたように、そのにやける背中に蹴りが入った。
しかも軽く踵落としで。
「おいコラ変態」
「っ、たぁっ!!・・・ちょ、なんやねん!」
唐突な衝撃に地べたに転がりつつ錦戸が振り返ると
そこには呆れたような顔で腕組みをして錦戸を見下ろすすばるの姿があった。
なんやちっちゃいおっさんやないか・・・。
実は錦戸も酔っているのかもしれない。
しかも酔った横山に。
普段なら敬意を払うべき先輩にも内心素で呟きつつ
錦戸は若干不機嫌な様子ですばるを見上げた。
「ちょっと、なんすか。痛いんすけど」
「痛くしたったんや。おまえ、この酔っぱらいに何させるつもりや」
「何って。酒勧めとっただけやないですか」
「魂胆が見え見えやねん、この性少年が!」
「えーなんのことっすか。俺ようわかりませんわ」
酔った横山に酔うと気が大きくなるらしい。
普段なら言い負かされること9割な先輩相手に、錦戸は平然と言ってのける。
すばるはそれに面白くなさそうに眉根を寄せ
自分の隣にいた村上の襟首を引っ張って呼び寄せる。
「しらばっくれんな。なぁヒナ!」
「んんっ?あー、なに?」
「おいヒナ、おまえこいつの教育どないなっとんねん。なんやこのエロガキは」
「やー、生憎と亮の教育係はヨコやったからな。しゃあないな」
「しゃあないことあるか。こいつその教育係にフラチなことしでかそうとしとんねんで」
すばるは別に錦戸と同じような目で横山を見ているわけではなかった。
が、目の前でそんなものを展開されては堪らないと思っていたし。
何より酔った横山は、普段は微塵も沸かないすばるの父性みたいなものを刺激するようだった。
「こんな奴にヨコをやれるかドアホが!俺が根性入れ直したろか!」
すばるは一気にテンションを引き上げてまくし立てる。
テンションの上がり下がりでその場の力を大きく左右されるすばるは
そんな自分を自覚しているからこそ、自らスイッチを入れた。
そしてテンションの上がったすばるが強力なことを知っている錦戸は
至極嫌そうに目を細める。
そうして戦いは勃発したのだった。
「なんやねん、あんたこの人のおとんか」
「似たようなもんや。お前にゃやらん」
「関係あらへんやろ」
「あるわ。目の前で友達が変態の毒牙にかかりそうやったら助けるんが男や」
「変態変態言わんでくださいよ。どこがやねん」
「カルアミルクなんぞ頼んどいて今更なに抜かす」
「どこが悪いねん。言うてみてくださいよ。はっきりと!」
「疑似ガンシャさせようたってそうはいかんで!」
「うわっほんまに言いよったこの人!あんたの方がよっぽど変態や!」
「うっさいわ!そんなAVみたいなこと侯隆にはさせへん!」
「あーもーうっさいのはどっちやねん!俺の邪魔せんといてくださいよ!」
「本性出したなお前!このエロガキ!」
「なんやねんそっちはエロいおっさんやろ!ジブンかてAVばっか見よって!」
「AV見て何が悪いねん!侯隆で抜いとるお前に言われたないわ!」
「侯隆で抜いて何が悪いねん!恋人なんやから当たり前やろ!」
「俺は認めてへんわ!」
「なんであんたに認めてもらわなあかんねん!」
バチバチバチ。
火花を散らすグループ内のメインボーカル二人を後目に件の横山はというと、
何とか両手でグラスを支えつつ、幸せそうにカルアミルクをちびりちびりと飲んでいた。
その横にはいつのまにかちゃっかりと村上の姿があった。
「ヨコーうまいか?」
「んー。んまい」
「よしよし、危ないから気ぃつけて飲めよ?」
「んー。・・・なぁなぁ」
「うん?」
「にしきどとすばる、なにしてんの?」
「ああ。・・・どっちがエロいか競ってんねん」
「なんやそれー。あほやなぁ」
「ほんまアホやんなぁ?まぁアホは放っといて、飲み?」
「んー」
こうした村上の注意があって、
横山は一滴もこぼすことなくカルアミルクを飲み終えることが出来たのだった。
依然として言い争う二人がそれを知ったのはあと3分後のこと。
すばるは村上の肩に手を回し、ようやった!と大喜びして。
村上は満足そうににこりと笑いつつそれに頷いて。
錦戸はがっくりと肩を落とし、再戦を誓って決意するのだった。
次やる時は、おとん気取りの二人に注意せな・・・。
終わる。
なにこれ。品がない上にくだらなくてすいません。
にっきどさんを変態にしたかっただけ。
そしてひなすばを横山さんのおとんにしたかっただけ。
やーでも亮すばの二人がエロガキなのが大層萌えるわとさんなのです(難儀な)。
亮VS(ひな)すば。亮ちゃん勝てるわけがない。
あ、ちなみにほんとの「カルアミルク」はミスチルじゃなくてバンクバンドの曲ですよね確か。
(2005.4.29)
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