見下ろす者と見上げる者
「あんたらが侮ってた若造共に足下掬われる気分はいかがっすか?」
錦戸が唇の端を上げてニヤリと笑う。
彼特有のそれは彫りの深い顔立ちによく似合う。
昔の天使のような愛らしい面影など微塵も見あたらないそれに、けれど村上はそれでもいつもと変わりなく愛らしく八重歯を見せて笑ってみせた。
「亮ちゃんはせっかちさんやねぇ。ちゃんと経過追ってる?今の時点では俺らのがまだ上よ?」
まるで子供に言い聞かせるような優しげで穏やかな口調に、錦戸の表情が忌々しげに歪む。
まさに曲者呼ぶに相応しい余裕綽々な態度がいい加減気にくわない。
けれどそうして小さく舌打ちした錦戸をまるで宥めるように、その肩にぽんと手を置いては長身の上にある小さな顔をことんと傾げてみせたのは大倉だ。
「でもあれですよね、村上くんたち、最初は5割越えてましたよね?」
口調こそ少し舌足らずながら、それが目の前に提示する事実には確かにある種の自信が見え隠れしていた。
その長身は決して威圧的ではないというのに何処か圧倒される何かがある。
「それがもう37%ですよね?俺らは34%で。・・・もう3%しか差がないんですよ。すごいですよね」
さして凄くもなさそうにのんびりと呟かれたそれ。
けれども村上はそれにふうっと大きく息を吐き出したかと思うと、後ろをちらっと振り返る。
そこにいるのは先程から一人黙って煙草を吹かしていた渋谷だ。
村上の視線を感じると、その手にあった煙草をその場に投げ捨て、靴の裏で揉み消してはゆっくりと前に出てくる。
「・・・ほんで?オマエらなんや、オレらに勝てるとでも思ってんのか?」
さして低くはないが、抑え込まれた声音には言いようのない凄みがあった。
そして何よりもその大きく切れ上がった瞳が放つ鋭い眼光。
まるでそれに縫いつけられたように、錦戸と大倉は身動ぎ一つせず小さく唾を飲み込む。
けれどそれに負けじとばかりに錦戸は一際声を張って睨み返した。
「勝ちますよ。今度ばかりは」
真っ直ぐな声に返されるのは、随分と明るく、だからこそ底の見えない笑い声。
「面白いな〜。やってごらん?俺らの10年にほんまに勝てる言うんならな?」
くすくすとおかしそうなそれの後をゆっくりと追うのは、穏やかで低めの静かな声。
「俺らはあんたらとは違うんです。・・・あんたらが上からじゃ見えへんかったもんも、俺らは下から見てきてんねん」
そしてその場の全てを壊すように、まるで鮮烈な何かにも似て通った声。
「アイツは昔から、そして今もこれからも、オレらのもんや。オマエらはせいぜい指加えて見てろ」
それぞれまるで違う四対の瞳に映るものはただ一つだ。
長い長い夜を経て、夜明けの白を手にするのは村上と渋谷か、はたまた錦戸と大倉か。
戦いはまだ終わらない。
END
メモからの再録SS。
裏アンケートで兄さんズvs若人ズの戦いが熾烈過ぎて面白かったので書いた代物。
基本的にうちのサイトにおける権力構図は兄さんズが上にいるんで(笑)。うちのサイトは基本縦社会です。
だから若人ズ頑張れ!みたいな。
でも当初こそ兄さんズ圧勝かと思ってたらどんどん追い上げてくる若人コンビに戦慄。
こりゃあひょっとしたらひょっとするかもね!という感じでほんと面白かったー。
意味わからんが楽しかった。兄さんズvs若人ズ。
(2006.2.5)
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