うちのわんこ










ピンでの撮影を終えて控え室に戻って来るや否や、あの小さな身体を探すけど。
いくら見回してもそれは見つけられなかった。

おかしいな。
出番は俺の前だったから、いてもいいはずなのに。
どっか行ったのかな。

俺が未だ衣装のままできょろきょろしているのが気になったのか。
鏡台の前でメイクを落としていた内がこちらを振り向いた。
随分と女の子好きのする綺麗で甘い顔立ちをした内は、けれどその反面自分の顔があまり好きではないらしい。
だからなのか、こうして撮影の後何よりも先にさっさとメイクを落とすのはいつものことだ。
けれどメイクを落としてもなお綺麗なその顔は、随分と無邪気に俺に向けて小首を傾げて見せた。

「おーくらー?どしたん?」
「んー・・・やっさん・・・」
「やっさん?」
「うん、やっさん。どこ行ったか知っとる?」

「やっさん・・・」と繰り返し呟いては依然として辺りを見回す俺に。
内は軽く吹き出すように笑ったかと思うと、うんうんと頷いて見せた。

「大倉ってさ、」
「うん?」
「やっさんのこと、ほんま大好きやんね!」
「うん・・・?」

その明るすぎる言葉の響きとキラキラ輝く笑顔。
思わずぽかんとその顔を凝視してしまう。

「せやからぁ、おーくらはぁー、やっさんとラブラブなんやねって!こと!」
「まぁ・・・ていうか・・・なんでいきなりソレなん?俺、今なんか言うたっけ?」

内の言葉は突拍子がなく、説明が足りないのが特徴だ。
きっと本人の中ではきちんと順序立てられているんだろうけど、いかんせんこっちには判らないことが多い。
不思議なモノを見るように内に視線を送っていると。
内は特に気にした様子もなくにこにこしながら、俺の顔を指さした。

「まず控え室帰ってきてすぐやっさんのこと探すやなんてっ。愛感じるわぁー」
「・・・そうなんかな」
「そうそう!」
「そうなんか・・・」
「そうやろ!」
「うん」
「うん!で、やっさんなんやけど」
「うん?」
「さっき亮ちゃんと一緒に自販機にジュース買いに行ったで!」

さっきと変わらぬ妙に高いテンションで。
キラキラキラ・・・そんな擬音が出そうな笑顔のまま。
俺はまた一瞬ぽかんとしてから、軽く眉根を寄せた。

「・・・なんではよ言わんの」
「ごめんてー。やっておもろくて!」

最初に訊いたやん・・・そう続けた俺の言葉に。
内は至極楽しげにわざとらしく小首を傾げてみせた。
・・・俺にまでかわいこぶらんでもええんやけど。

いや。
ていうかちょっと待って。
今やっさんは自販機にジュース買いに・・・?
誰とやって?

「・・・亮ちゃんと?」
「うんうん。亮ちゃんと。撮影で喉乾いたわー言うて」
「ふぅん・・・」

亮ちゃんとかぁ・・・。

「あれっ。おーくらー?どこ行くんー?」
「やっさんとこ」
「あっそうか。じゃあ俺もう帰るから、やっさんと亮ちゃんによろしくなぁ〜」
「あー、うん」

何か、軽く疲れたわ。
けどそんな感想は一応心の中だけに留めて。
ヒラヒラと手を振る内を置いて控え室を後にした。










その控え室から一番近くにある自販機に行ってみると、内の言った通り。
やっさんと亮ちゃんが自販機の前で、手に缶ジュースを持って談笑していた。
見れば、亮ちゃんの手にある缶は1つなのに、やっさんの手には2つあって。
きっとそれは、自惚れじゃなければ俺のためのもので。
そう思うと自ずと頬が緩むけれど。
でもそんなものはすぐにまた強ばってしまう。
何だかすごく楽しげな二人。
時に声を上げて笑い合う二人。
どうやら俺には気付いていないみたいで。

「・・・やっさん、」

声は自然と口から漏れていた。
ぼそっと、まるで呟くようなそれだったけれど。
やっさんはちゃんと気付いてくれた。
パッとこちらを見たかと思うと、にこっと笑って。

「たっちょん、撮り終わったん?」
「ん。終わった」
「そっか、おつかれー」
「ん」

そう言ってこちらに寄ってきたかと思うと、俺を下から覗き込んでくる。
労ってくれているのか、その手が躊躇なく俺の頭に伸びてきて。

なでなで。

まるで犬にしているような仕草だったけれど。
その柔らかな感触がなんとなく気持ちよかったから、そのままじっとしていた。
気持ちよくて、まるで甘えるような声が出る。

「つかれたー」

自分でもちょっときしょいかも、と思ったけど。
やっさんはますます優しく笑って頭を撫でてくれる。

「結構時間かかってたもんな」
「ん・・・なかなかオーケー出ぇへんかってん」
「たっちょん、エンジンかかるのに時間かかるからなぁ」
「そうかな」
「そうやでー。エンジンかかればほんまかっこええもん」
「そうかな・・・」

にこにこと笑いながらそう言うやっさんの、その手が動く度。
茶の髪がふわふわと眼下で揺れているのに、なんとなくうずうずして。
今度は俺の方からその髪に触れてみる。

ふわ。

「わ、やわ・・・」
「ん?なにー?」

何のことかときょときょとしているやっさんの、髪。
ふわってしてた。
最近染め直して少し伸びた襟足がくるんって軽くカールしてる。
前よりももっと柔らかさの増した髪に触れたら、何か、色々・・・。

「たっちょん?どしたん?」
「なんか、溢れてきそう。ていうか、溢れてくるわー」
「溢れてくる?なにが??」
「んー、なんやろー」

ふわふわ・・・。
あーなんやろもう気持ええんやけどこの子の髪。
見上げてくる顔はかわええし、不思議そうに瞬く瞳もかわええし。
ていうかもう、俺と同じ男で、しかも年上とは思えんちっちゃい身体がまずかわええ。小動物っぽい。


「・・・・・・そこでお前、愛しさが溢れてくる、なんてさっぶいこと言ったらどつくぞ、コラ」


・・・ん?
なんか今すごくドスの利いた無粋な声が。

「あ、亮ちゃん」
「・・・お前、まさか俺の存在忘れとったとか言わんやろな?」

軽く目を細めて俺をじろりと睨む。
すぐ睨むよな、亮ちゃんは。
ていうかすぐ怒るよな。

「別に忘れてへんよ」
「ふぅん?まぁ、よう人の見とる前でそんないちゃこら出来るよな、お前ら・・・」

呆れたような顔をする亮ちゃんに、今度はやっさんがハッとしたような顔でそちらを見る。

「べ、別にいちゃこらなんてしてへんよっ。何言うてんのっ」
「へぇ?でもなんや顔赤いけどー?やっさーん?」
「亮っ!からかうなやぁっ!」

にやにやといやらしい笑みを浮かべる亮ちゃんと、唇を尖らせるやっさん。
この二人は仲がいい。同い年だし。
そんなの知ってるけど。
俺が二人と出逢った時からそうだし。
知ってるけど。

「俺とたっちょんは別になぁ、」
「・・・・・・」
「っ・・・と、たっちょん?なに?どした?」

亮ちゃんの方を向いて何やら身振り手振りで話す、その小さな身体に両腕を伸ばして。
後ろからぎゅうっと抱き込んだ。
その狭い肩に出来る限りで顔を埋めるようにして。
そうしたら、やっさんははたとしたように言葉を止めて。
あんまりよく見えないけど、たぶん俺の方を心配げに見て。
またさっきみたいに、頭を優しく撫でてくれた。

「たっちょん?・・・たっちょん?疲れたん?どっか痛いとか?」

優しいやっさん。
まず先に俺を見てくれる。
俺を心配してくれる。
俺のことを考えてくれる。
こうして俺が手を伸ばせば。
俺の両腕の中に収まってくれる。
ここにいてくれる。

この小さな小さな身体が。
図体ばかりが大きい俺には絶対に必要で。
何でも出来る、誰からも愛されるこの人が。
不器用な俺には絶対に必要で。

俺はいつからこんな風になったんだろう。
やっさんていう空気がなければ息も出来ないような、そんな存在。

「たっちょん・・・」

ちょっとだけその声が苦しげで。
それが判っても、俺には力が緩められなくて。
愛しい愛しいこの人を。
その髪に触れただけで、愛しさが溢れてしまうようなこの人を。
けれど俺にはまだ、つなぎ止められる程の、抱き留められる程の、そんな力はなくて。
二人きりならまだいい。
けれど他人がそこに入り込んできた時、俺はまだそれ程強くいられなくて。

「しょーた・・・」
「うん?なに?たっちょん」

心細げに、名前なんか呼んでみて。
情けないばかりのそんな俺にも、やっぱりこの人は頭を撫でてくれる。

ごめんな。
こんな奴で。
ごめんな。
まだその手に撫でられることで安心してしまうような、そんな男で。

「・・・ヤス、お前んとこの犬はデカイ割に甘ったれやな」

その呆れとからかい混じりの声に思わず顔を上げようとしたら、その前に。
やっさん、なんだかすごく嬉しそうな声で言ったんだ。

「ん。うちの子、かわええやろ?」

それには亮ちゃんも驚いたらしくて。
一瞬ぽかんとした後大笑いしてた。

・・・俺、やっさんとこの犬かぁ。
まぁ、ええけど。

「その内・・・もっとでっかくなるし」

やっさんをちゃんと支えられるような、でっかい男に。
例えば君が辛くて泣いた時にはその涙ごと抱きしめて、最後には笑顔を与えられるような。
そんな野望を胸に秘め、小さく呟いた。
けれど僅かに聞こえたらしいそれは、やっさんを軽く驚かせたらしい。

「えっ。たっちょんまだ大きくなるつもりなんっ?」
「うん」
「ええー」

俺とやっさんのそんなやりとりに、亮ちゃんは堪えられんとばかりに腹を抱えて笑ってた。










END



倉安はかわいいなぁー。
安受けもこれまた大好物なのです。やっさんはもう無条件にかわいい。
安受けは、横受けにはない可愛らしさが溢れてるよね!
・・・いやそれでも横山さんが大好きなわけですが。横山受けが大好きなわけですが。
安受けだととりあえず倉安が本命でしょうかー。あそこはもうなんかまとめて可愛がりたい。
しかもうちの倉安におけるたっちょんはこれまた情けないというかもうどうしようもない甘ったれですよ。
甘ったれぼん。ぼんくら。ごめんだって可愛いんだもの。
いややるときはやるけどね!夜はドラミングテク全開ですよ!(下品)





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