たとえば君なら










「時に横山くん」
「なんやねん」
「オンエア見ましたよね」
「オンエア?」
「裏ジャニ」
「あー、一応な」

さりげなく始まった会話に至極適当に返しつつ。
錦戸のその妙に真剣な表情を見て、横山は軽く訝しんだ。

「なら見ましたよね」
「せやから見たって」
「大倉の奴」
「は?おおくら?」
「あとヤスの奴も」
「やす?」
「いちゃこいとったやないですか」
「・・・あー。そうかも」
「そうですよ」
「んで?何が言いたいんおまえは」

横山は自分の出た番組のオンエアチェックは欠かさない。
そういう意味で、見たというのは本当のことだし。
その中で、今回パパラッチから逃げる途中、大倉が安田を逃がすために囮になったことも当然知っている。
そんな大倉のために安田が頑張っていたこともまた当然知っている。
あの二人が恋人同士であることもやはり当然知っている横山としては、可愛いもんやな、とそんな感想を抱いていたものだったのだが。
錦戸の受け取り方は若干違ったらしい。

「横山くんやったらどうしますか」
「は?」
「せやから、アレが横山くんと俺やったらて話」
「・・・なんでそういう話になんのかいまいちわからん」
「わからんでもええです」
「わからんから答えられへん」
「答えてや」
「・・・なんやねんな、おまえはぁ」

酷くめんどくさそうな横山を後目に、錦戸の表情は真剣だった。
錦戸が何故そんなにも真剣に訊いてくるのか横山には判らない。
そんなファンの子が見たら目をハートにしそうな表情で。
されどその内容は番組での大倉と安田が云々という代物で。
真剣だからこそちゃんと答えてやらないといけないとは思うものの、さっぱり読めない会話ではそんな気も削がれてくる。
すっかり飽き気味な横山に、けれどそれでも錦戸は根気よく話を続けた。

「俺が大倉で、横山くんがヤスで、」
「俺あんなチンパやないで」
「ええねん物のたとえやねん。・・・俺が、横山くんを逃がすために捕まって」
「ほうほう」
「・・・どうですか?」
「・・・どうって。どう答えれば満足なん、おまえ」
「言うてみてもわらんと反応できひん」
「そんなん言われても困るわ」

本当に何を言いたいのか。
横山は、この意外と物事を深く複雑に考えては気にする生真面目な恋人の脳内構造がとても気になった。
けれどそんなことは考えたところで判らないので、とりあえず代わりに今言われたことを考えてはみる。
みるけれど・・・。

「俺、ヤスみたいに途中でトイレ行ったりせぇへんもん。ちゃんとゴールしたし」

と、一応答えてみたものの、何となくずれている感は否めなかった。
事実錦戸は軽くため息をついてあからさまに「失敗した」という表情をした。
お前が答えろ言うから答えてやったのに、と横山は唇を尖らせ眉根を寄せる。
けれど錦戸はその唇が何か言う前に、じっと顔を見て言った。

「俺ね、思ったんすよ」
「なにぃ」
「ヤスはね、結構ちゃんとやりきる男やから。
・・・まぁあのロケはアレやったけど。でもきっと、大倉との約束を守ってやりきれる男やと思う」
「んーまぁ・・・根性はあるしな。基本的に出来る子やし。・・・チンパやけど」

チンパチンパ言わんといてくださいよ!と言って拗ねたような顔をする小柄な後輩の顔が脳裏に浮かんでは、横山は思わず小さく笑う。
が、目の前の錦戸の、同じように小さく笑いつつも何処か穏やかな表情に思わず釘付けになってしまう。

「思ったんすよ。・・・横山くんは、きっとあかんのやろなって」
「はぁ?なんやそれ。それはおまえ、俺は根性ないて言いたいんか」
「そうは言うてないですけど」
「せやったらなんやねんな」
「・・・あんたなら、どうする?」
「せやから何が、」

けれど横山は一旦そこで言葉を切る。
自分でも何故だかはよく判らなかったけれど。
一瞬軽く視線を落とし、映像で見たあの二人の光景をもう一度思い出してみる。
きっと自分なら、思うだろう。

自分のために犠牲になった相手をのために一人で何処かを目指す。
約束という、証なのか鎖なのか、本当は一体どちらなのか判らないものを胸に。
そこに残った想いだけで縛り付けられて結局置いて行かれるのは・・・自分なのだ。

「・・・まぁ、アレやな、」
「はい?」
「まずおまえをしばき倒すな。お前のこと捕まえた奴らより先にしばく。誰より先にしばく」
「・・・なんで俺」
「だいたいが、おまえは何をあっさり捕まっとんねんて話やろ」
「いやあんたのためやんか」
「知るか。おれそんなん知らんもん。頼んでへんし」
「・・・まぁな」
「せやからそんなあっさり捕まってまうような奴との約束とか、俺が守る通りないもん」
「そうかもしれへん」
「せやで。自己犠牲なんてキショイだけやねん」
「せやな」
「・・・そんでおまえは、なにをニヤニヤしとんねん」

何だかつらつらと余計なことまで喋ってしまったような気がする。
そんなことを思ってちらりと見た先の表情は、どうにも緩んでいて。
さっき折角男前だったそれが物の見事に崩れ去っていた。
けれど錦戸はそれを気にした様子もなく。
ますます嬉しそうに緩んだ顔で笑う。

「嬉しかったから」
「・・・なんで」
「なんでも」
「わけわからん」
「わからんでもええです」
「・・・おまえ、ほんまにわからん」
「ええから。・・・せやから俺もね、大倉と同じようなことはせんでおきますわ」
「はぁ?」
「折角頑張ったのにしばかれたら堪らんし」
「なんやねんな」
「せやから俺の場合は、」

緩めた顔を、一気に引き締めて。
薄く唇の端を上げて真っ直ぐに前を見るその表情は。
ファンの子でも他の誰でもなく。
横山裕に、ただその一人だけに向けられたもの。


「あんたと一緒に、強行突破や」


錦戸の言うことはやっぱりよく判らない。
けれど横山には少しだけ判ったことがあった。


『何故、自分は錦戸なのか』


少しだけ、判った気がした。










END






うーん突発。短いですなぁ。話自体も突発。
何より、まだ例の裏ジャニで引っ張んのか倉安書いただけじゃ飽き足りんのか!っていう、ね・・・。
でもあんな萌えシチュエーション、亮横でだって考えてみたいじゃない!という頭悪いところから出てきました。
きっと横山さんは、そういう約束とか守らないんじゃないかと。語弊ありそうですが。
でも約束とか嫌いだと思うあの子。約束って言葉も嫌い、みたいな。・・・それがいいな(夢か)。
(2005.3.19)






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